魔力がなかったので能力を磨いてみたら、新しい幸せに巡りあえそうです!

泳ぐ。

文字の大きさ
25 / 33

25 始まり?

しおりを挟む
 
 フィーが部屋を飛び出していって、ヒューと私を部屋に残したまま扉はパタンと閉まった。
 そっか、フィーとアークはそうなのか。そっか。あ。

「あ、ヒューは? 婚約者はいるの?」
「いないよ。ボーグ家は姉さんとアークが継ぐし。ニナは?」
「私もいないよ。うちは兄も姉も全員恋愛結婚」
「そっか」

 ヒューは椅子に座り直して足を組み、少し遠くを見た。
 形良く組まれた足も、細い首筋もとても綺麗だった。そのまま暫く沈黙が流れたけど、何も言わないままヒューの次の言葉を待った。


「ねぇ、ニナ」

 暫くして、ヒューが私を呼んだ。

「なあに?」

 ヒューが急に腰を浮かせて、私の方にゆっくりと右手を差し出すから。
 まるで吸い寄せられるように左手を伸ばしたら、ふわりと手が繋がれて。
 繋がれた手をふわりと二人で持ちあげて、テーブルを避けて、ソファを避けて、ゆっくりと窓際まで歩いた。

「ごめん、俺、顔ぐちゃぐちゃだよね、恥ずかしいな」

 窓の外を見上げながら、右手で自分の顔半分を覆ったヒューが言った。

 外はもう暗くて、急に訪れた静けさに海の音が遠くに響いていた。
 繋がれた手が温かいはずなのに、ひんやりとして気持ちが良いような気がした。

「そんなことないよ、大丈夫。ねぇ、全部思い出したの……?」
「うん、きっと。白い靄みたいなのがかかっていたところがハッキリした感じ。あの日、ニナに言われたね、魔力がないからってそれで泣いているだけじゃなくて、魔力がなくても自分に何ができるか一つ一つやってみて探してごらんって」

「うん。当時、私が兄さんにそう言われていたからね。兄さんの魔力を分けて貰う対価が、自分のできることで兄さんたちに協力することだったから。商会を手伝ったり、会議に出たりしていたのはそれだよ」

「そうなんだね。俺があの海で火の魔力を暴走させちゃった時、ニナが水で包み込んで助けてくれて。その時に見えたニナの魔力が本当に綺麗だと思ったの。とても整っていて。それに憧れてずっと憧れて、俺にもできないかなって思って姉さんと毎日研究したんだ」
「そっか……」

「会いに来てくれてありがとね、ニナ」
「うん」
「九年前は俺を、そして昨日は姉さんを助けてくれてありがとね、ニナ」
「うん」

 急に窓の外を見ていたはずのヒューが、私の頬を両手で覆うから。
 私たちは向き合って。ヒューの顔がとてもよく見えた。濡れた赤い瞳がとても綺麗だった。

「あのね、ニナ」
「うん」

「ねぇ、いつ帰っちゃうの? もうすぐ……?」
「あ、今日のリスケ次第だけど、元々は明後日には帰る予定だった」
「そうなんだ。もうすぐなんだね」
「うん」

「あのさ、ねぇ、俺も連れていってくれない? 北でも中央でもいいよ、ニナのところに行きたい」
「え……?」

「今まで、放出と吸収のことは誰に言えなかったから、言えないままただ必死に研究してたの。それを役立てたいんだ。この九年間、日記もつけてたし研究結果も書き残してある。きっとあなたの役に立つよ。だから連れてってよ」
「…………」

「ずっとね、人に触れると感情が流れ込んできて辛かったから、働く前は姉さん以外の人と極力触れ合わないようにしてきたの。例えばずっとその時のまま外に出る機会がなかったとしても、研究結果だけは残るでしょ? これからの誰かの役に立つかもしれない。そう思ってずっと書いておいたし、毎日色々なことを試してみたの。働き出してからもほぼ変わらず続けてたよ」

 そういえば、初めてヒューと話した時に「俺たち研究仲間になれない?」と聞かれて心が躍ったことは鮮明に覚えている。あの時は明確に返事をしなかった。

 でも、それって。


 返事もせずに考えこんでいたら、急に長い腕が巻き付いてきて、ふわりと抱き締められた。
 温かさが伝わってきて心臓が跳ねた。
 ヒューの広い胸の中は、海みたいな香りがした。

「ねぇ、もう離れていたくないよ」

 私の背中に回された腕、ギュって力を込められたから。
 ヒューの心臓の音に密着するようで、それはとても大きく響いた。

 ふとヒューを大きな子どもみたいだな……と思って、九年前の泣き顔を思い出した。
 あの時も今も、子どもみたいなのに一生懸命さが伝わってきて。それをあの時も今もとても可愛いと思ってる。そう気付いたから、私もヒューの背中に手を回してギュってした。

 この一生懸命な人が、少しでも幸せな気持ちになってくれたらいいな。ただそう思って。

 そうしたら、腕の熱でそれが伝わってしまったのか、一瞬だけ離れた胸元を残念に思ってすぐ、唇が塞がれた。それは今までで一番長いキスだった。


 なんだかこんな夜がずっと続くような錯覚でいっぱいになりそうだった。
 唇が離れて、もう一度抱き締められて、髪をゆっくり撫でられて目を閉じたら。

「キスを嫌がらなかったのも、キスに応えてくれたのも、背中に腕を回してくれたのも、なかったことにはさせないからね……!!」

 子どもみたいな言い草のセリフが聞こえてきて、でも必死な感じに縋り付く腕がまた可愛くて。

 これは本格的に困ったなと私は思いながら、笑ってヒューの頬を両手でつねって「はいはい」って言ったら。「ちゃんと聞いてよ」って拗ねた口を前ににゅっと出したから。
 うんと背伸びをして、その唇にキスをした。

 だって、こんな始まりもアリなのかもしれない、そう思ったから。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...