31 / 33
31 約束。
しおりを挟む花火が終わった途端、夜の暗さを余計に実感させられて寂しさが募った。
砂浜から屋敷まで、さっき来た道をそのまま戻るだけなのに、気持ちの重みが全然違った。行きはあんなにはしゃいだ心で歩いたのに、帰りはみんな無口だった。
屋敷に着く少し前、フィーが急に泣き出して、私をぎゅっと抱きしめた。
「ニナ、明日帰っちゃうんだよね。明日はヒューがニナを送るから、アークとわたしは今日までなの。ニナ、最初あんなに冷たくしちゃったのに、助けてくれて本当にありがとう。また会えるよね?」
「……うん。フィー、色々ありがとう」
大粒の涙をぼろぼろ流しても、しゃくりあげても、美女は美しいままで見惚れてしまった。
横に居るヒューも、目から涙が溢れそうになりながらキラキラさせていた。
私はつられて泣きそうになるのをグっと堪えて、アークとお礼を言いあいながら硬く握手を交わした。
毎日新しいことが溢れるほどにたくさんあった夏の出張が終わる。
七日目。今日も早めに起きて仕度をし、使ったものを順に荷物に詰めていった。
朝食の時間より少し前にヒューが部屋に来てくれて、一緒に仕事前の南のご当主に挨拶へ行った。
南の次期ご当主がうちの兄さんたちと同級生だと思うと、兄たちは本当に早くに当主を継いだんだと実感する。そして今度帰ったら両親にも会いに行かなきゃなぁと思った。
部屋に戻ると、ヒューが朝食を運んでくれた。
ここへ来る前に宿泊していたホテルの朝食より断然豪華なこのごはんも、食べるのが最後だと思うと名残惜しくて、しっかり全部平らげた。
「あ。ヒューに渡したいものがあって」
朝ごはんが終わると、私は荷物の中から小型の通信機を出してヒューの手のひらにのせた。
「これって……?」
「最近、北で開発を進めている持ち歩きタイプの小型の通信機。魔力を流して個体番号を入れると、同じ通信機とその番号をもつ人とだけ通信ができるの。まだ一般的には流通していないから、隠れて使って欲しいんだけど……」
「ええええええ! なんかすごいね! 北はこういうものを開発してるんだ……!」
「うん。冬は雪が深くてほとんど外に出られなくなる地域だからね。コツコツこういうことをやってる」
「これがあれば、家にいなくても話せるの?」
「そう。私が中央の家へ帰るのが今日の夜になって、明日商会に新しい通信機を取りに行くとして、明日かな。明日のお昼以降に一回私から繋ぐね。ここに魔力をもう流してあるんだけど、なくなったらフィーの魔力を入れて貰うといいかと。魔石を購入しても使えるけど、魔石は高いからね……」
「え、こんな貴重な物を……、いいの?」
「うん。もし本当に中央へ来るなら、これで連絡をくれてもいいし、もしうまく使えなかったり、手紙や固定通信なら私が働いているカルモ商会に連絡を貰えれば私に繋いでくれるはずだから」
「わかった。うん、ありがとう」
ヒューは手の中の通信機を暫く眺めてから、紅茶を一口飲んで言った。
「昨日、アークとフィーに中央へ行くって言ったよ。仕事の引継ぎと、アークにフィーの【吸収】を全部伝授したら、中央へ行くから。暮らせるかどうか一週間ほど滞在してみて確認したい」
「うん、わかった。もし何かがあって来られなくなったら、その通信機は北の本家宛てに送ってくれても大丈夫だから。重たく感じずにいてもらえると嬉しいよ」
「ありがとう、ニナ」
ヒューはかけがえのない約束ができたことに喜ぶかのように私に微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
『農業スキルはいらない』と追放されたが、魔境の開拓ライフが勝手に世界配信されていた件。聖女や竜が集まり、元仲間は完全に詰みました
たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ。魔王討伐に『農業』スキルなんて役に立たないからな」
幼馴染の勇者からそう告げられ、俺、アレンはパーティを追放された。
あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。
しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。
俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる!
「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」
俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。
その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。
「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」
「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」
『コメント:なんだこの配信……神か?』
『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』
これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる