おっさん、黒の全身タイツで異世界に生きる。

しょぼん

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二章(前編)

第十話「冒険者の酒場」

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「そうですね、その場合は精霊石と呼ばれるもの……。

 これを見てください。
 この先端についているものです」



 金髪ローブくんは、手に持った指揮棒のようなもの。
 それの持ち手の部分を、俺の目の前に近づけた。

「この石には、精霊エレメンタルが宿っています。
 周囲に、精霊がいない場合は、この石に宿る精霊に命令して魔術を行使するんですよ」


 握る部分には深い緑色をした石が、はめ込まれている。
 彼は説明を終えると、その棒と石を握り込み、指揮者が伯を刻むように空中を切った。



 ドヤ顔がなにげにムカつく。

「ねぇ、どうでもいいけど、早く中に入ってよ――」
 後ろを見ると不機嫌な声を発し、莉奈さんが眉間にシワをよせていた……。



 俺たちは、食事をとるため酒場の前まで来ている。

 莉奈さんを食事に誘った後、酒場への道中。
 金髪ローブくんの魔術講義に耳を傾けているうちに、店の前に着き、入口で立ち止まってしまっていたのだ。



 中からはよくは知らないがジャズっぽいピアノの音とともに、喧噪がよく聞こえてくる。
 夜になり、皆できあがっているのか、どうやら店の中はよく繁盛しているらしい。


「う、すみません――」

 俺は莉奈さんに謝ると、金髪ローブくんに目配せをして、入るよう促した。

 扉が開き、店内から漏れ出していた音がよりクリアに聞こえる。
 聞こえてくる音楽が、よりいっそう大きくなっていた。



 ――バ チィィッ

 突然、派手な音と共に青い光が走る。
 中から早足で出てきた男と、金髪ローブくんの肩がぶつかったのだ。


「――ッ!」

 男は一瞬振り返るが、すぐに向き直り早足で店を後にした。


「なにあの態度?
 しかも、随分、痛そうな静電気……」


 莉奈さんが驚いた顔で、金髪ローブくんを見る。
 静電気の痛みを想像したのか、自らの体を抱きしめ震えていた。



「――ウィリアム、まてよッ!!」

 続けて少し太った男が、中から出てくる。


「くそっ、行っちまったか……」

 その少し太った男は、男にしては長髪の髪の毛をかき揚げ、ハゲに限りなく近い、広いおでこを見せながら文句をブツブツ言い、店の中へ戻ろうとした。


「あれっ?
 エドマンドさんじゃないですか?」

 金髪ローブくんが、中に戻ろうとする小太り男に話しかけた。


 小太り男は金髪ローブくんの顔を見ると、知り合いだと気付いたのかニヤリと格好つけた笑みを浮かべる。
 その脂ぎった顔は激しくキモく、なんだか妙に親近感を感じる長髪デブだった。
 


「おおぉ、ユアンか――
 ん、そいつらは??」
 
 男は俺たちを値踏みするように見た。


 だが、それも数秒のことで、ブルッと体を震わすと。

「ま、寒いし。中に入って話しようぜ――」
 そう言って、握りしめた、丸々とした手の親指を立て、店内を指し示したのだった。




§




「ウィリアムの分隊が全滅したのは知ってるか?」


 金髪ローブくんに、エドマンドと呼ばれていた小太り長髪男はそういった。


「……すみません、知らなかったです。
 もう、教授の依頼は受けられない。とダケしか聞いてませんでしたから……。

 ――って、もしかして!
 さっきの人ってウィリアムさんですか!?」


 カウンターで、お金と引き換えに料理と飲み物を受けとる。そして金髪ローブくんは返事を返した。


 俺たち全員、それらの食事を受け取ると、店内の空いている席へと移動する。


 先を歩く小太り男は片手にビール、もう片方に食事の乗った皿という状況だが、器用に人の間を縫い、カウンターから少し離れた空いている席につくと、先ほどの続きを話し始めた。


「ウィリアムさんって、あんなに痩せてましたか?
 なにか、死神にでも憑かれたような顔でしたよ」


 金髪ローブくんが心配げに問いかける。
 顔ははっきりとは見てないが、確かに体つきがやせていたのが俺にもわかった。


「やつの分隊が全滅してからずっと、ああだ……。
 まあ、ウィリアムが生き残ってるから全滅とは言わないかもしれないが、やつ以外全員、迷宮ダンジョンで死んじまったみたいだからな」

 そう言って、自然な感じで小太り男は金髪ローブくんの皿に乗った芋のフライをつまみ口へと運ぶ。
 あまりに自然な動作で金髪ローブくんは、それを死守することができなかった。


「え、彼ら六階まで進める実力でしたよね?

 しかもエドマンドさんと同じ――
 確か、神炎旅団と同じぐらいの規模をもつ……鋼鉄の橋の古参メンバーで……」


 金髪ローブくんは芋のフライは取られたが、自分の皿の魚のフライを死守しながら話しをする。


「――ッちっ。

 実力あったって、死ぬときゃ死ぬさ。
 まあ、もっとも、全滅したときは七階だったらしいけどな」

 小太り男は、そう言うと自分の手に持ったビールをあおった。


「あいつ、女いただろ、同じパーティに。
 この仕事から足洗って、そいつと結婚するために、まとまった金が欲しかっただよ。

 だから、無理したらしいんだよな――
 無茶した挙げ句、相手は死んじまってりゃ世話ねぇよ……」


「そ、そうですか……」


 金髪ローブくんは、暗い顔になり言葉を濁す。

 まあな。
 つい最近、自分のパーティでも似たようなことがあったんだ。
 こんな話を聞くと、否が応にもそのことを思い出し暗くなってしまう。


「まあ、それからのあいつは、クリブ・ストリート赤線地域なんかで女漁って、変な連中と連んだり一人で迷宮に潜ったりし始めたんだよ。
 あぶねぇだろ? 見てらんなくてな。

 さっきも、そのことについて問いつめたら……。
 逃げやがったよ。


 あの迷宮に一人で潜るとか……。
 戦闘だけならまだしも、俺なら、そんなことしてたら気でも狂いそうになるな――」




「うわっ、まっずっ!! これ変な味するし!!
 ――っもう! なんなのよっ!」


 莉奈さんが、ビールを呑んで文句を言っている。
 ってか、高校生がビールって。
 まあ、異世界だからいいのか。

 自分の皿にあるパイの切れ端を、フォークに突き刺し口に押し込む。


「甘くないし……」
 情けない顔で、こっち見てきた。

 そりゃ、まあ、フィッシュパイだからな。
 これはこれで旨いと思うのだが……。

 もしやこの娘、甘いお菓子かなにかだと思ってたのか。



「その女は……どこの言葉だ?
 ユアン、そいつら誰なんだよ。
 この前のヤツらじゃねえな」


 小太り男は、俺と莉奈さんを交互に見る。 

 莉奈さんは、いまだにこの世界の言葉は話せない。

 まあ、この世界にきて、まだ一ヶ月もたってないうえに、現地人と話したのだってここ二週間ぐらいがほとんどだ。
 俺だって、イノリさんに言語をインストールしてもらわなければ、言葉を覚えるなんて無理だっただろう。



 今の所、それをするための施設は見つかっていない。
 探索している迷宮の基地に、それが見つかることを願うしかなかった。


「……えらくべっぴんだな。

 顔つきは……お前と同じ、北のやつらの感じだが――
 さては同郷か?」



 莉奈さんは、現地の人たちから見ても、幼さはあるが美人だ。
 この世界の一般市民と違い、日にも焼けてないし、そばかすもない、髪やなんかもキレイときている。


 服の着こなしもオシャレで、クラシックなものを今風に着こなしていた。(今風といっても元の世界のことだが)


 実際、この店に入ったときも周囲の目を引き、今もなお、視線を集めていた。




 そんな、だからだろうか。
 隠れるには向かないし、目立ってしまっている。




「――やっと会えた」

 必然的に、こうなってしまうよな。


「さあ、取材させてもらうわよ。
 新進気鋭の冒険者さん――」


 その声の主。
 釣り鐘型のフェルトの帽子をかぶった女は、自身のボブカットを揺らし、俺の後ろに立っていたのだった。




§
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