おっさん、黒の全身タイツで異世界に生きる。

しょぼん

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二章(前編)

第十一話「騒がしい夜」

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「ここで張ってれば、絶対、来ると思ってた……。
 貴方たちには、聞きたいことが山ほどあるの――」


 俺の後ろに立っている彼女は、手帳を取り出し、興奮した表情で詰め寄ってきた。


 首から下げた重そうなカメラの紐が、スーツの上からでも存在感を示す彼女の胸を押し潰し、谷間に集まっている。
 これはπ/パイスラッシュならぬ、πXパイクロスでもない、πYパイイプシロンだ。



 その迫力に思わず後ずさる。


「え、えっと、アナタはたしか……」
 慌てて、記憶から彼女を探し出す。

 確か、デパートの外で話しかけてきた――


 彼女の迫力に動揺した俺。
 目は胸元を彷徨い、鼻の下を伸ばしてしまう。

 その情けない表情を見て、彼女はすぐに興奮状態から我に返ったようだった。
 表情も見る見るうちに、毒気を抜かれた冷静なものに変わっていた。



 ――酒場のBGM。

 先ほどまで早かったテンポは、いつのまにかスピードを落とし、ゆっくりとした音楽に変わっていた。


 客たちの行動にも、音楽は自然に作用しているのか。
 俺の間抜けな表情とそれらがあいまって、詰め寄られた時の剣幕などどこへやら、キレイさっぱり霧散しており、彼女の表情は穏やかなものになっていた。


「色々と聞きたいところだけど……。
 実は今日、別の理由で、ここにきたんだよね……。

 まー、まだみたいだし、いっか。

 でもよかった、前回は途中だったでしょ自己紹介――」


 そう言って、ペロッと舌を出す。
 手帳とペンを片手に持ち、そして上着の内ポケットからサッと名刺を差し出してきた。
 俺はそれを受け取り、軽く目を通す。


 ――フリーライター
 ――シャーロット・ブラウン

「あぁ、私。
 いわゆるトップ屋ってやつ、冒険者専門の。
 私ねイエロートップスゴシップ誌にゴシップ売ってんのよ。

 君も見たことあるでしょ、冒険者なんだからさー」


 イエロートップス? 雑誌かなにかか?
 いまいち理解できない俺。
 その表情をみてか、彼女は人差し指で頬を掻く。


「知らないなら、知らないでいいけど……。
 まあ、あんまり上品な新聞じゃないわね。

 ……でも、あなたって、な~~んか、いい匂いするのよねぇ。特ダネの香りってやつ?

 ウフフ――
 女の勘、記者の勘よ、仲良くしてね――はいっ」


 そう言って、スッと手を差し出してきた。
 これは握手だったよな。

「私のことは、シャロって呼んでね――」

 まごつきながら、女記者さんと握手をする。
 相変わらず、俺は挙動不審だ。



 女性との接触。
 コンビニにて綺麗な女性店員に、釣り銭を高い位置から落とされる日々だった俺。
 握手なんて、手まで覆った全身タイツ越しでもドキドキが止まらない。キモイとかいうな。


「ねえちゃん、来たみたいだぞ――」

 そんな俺たちの様子を眺めていた、金髪ローブくんの知り合い、小太り長髪男。


 やつは、椅子の角で重心をとりながら不機嫌な様子で、シーソーのように体を揺らし座っている。
 続けて親指を立て、店の入口付近をそれで指した。


 明らかに入口はザワついており、ともすれば店内よりも騒がしい。
 しかも、そこからは、男臭い店内とは違って、この場所には不釣り合いな黄色い声が多く混じっていた。



「ねぇ、今日は、お祝いだよねっ。
 また有名になっちゃうじゃん。
 アンリ、すっごーーいっ♡♡♡」


 この集団、さてはリア充だな!
 リア充の臭いがプンプンするぜっ!!


 俺とは最も縁遠い奴ら。
 異世界でも存在するのか、リア充どもめ――

 俺は、小太り男が不機嫌になった理由を瞬時に理解する。
 おっさん。女性の機微には疎いが、もてない男の心はすぐに察することができるのだ。


 ほら見ろ。
 俺を捜してた女子でさえ、そのボブカットと大きな尻を揺らし、その集団に駆け寄っているじゃないか。



 女記者は――その集団の中心。
 金髪のイケメンに大きな声で話しかけていた。


「すみません!! ちょっといいですか、アンリさん!!
 タルタロス、七層を攻略したって本当ですかっ!?」


 やだ――七層攻略って、こいつらすごい。
 その実力は、同じ冒険者でも、五層でもたもたしている冒険者たちとは雲泥の差である。


「すごい――アンリさん。

 七階層攻略って……。
 それが本当なら、彼らがこのブリストル初の偉業なんじゃないかな……。

 ――あっ、彼、アンリさん。
 ウインブルク大学の卒業生で、この街の有名人なんですよ」


 金髪ローブくんは俺に説明してくれる。



「とうとう、八層に到達したみたいだな。

 ――チッ、元貴族様だろ。
 冒険者庶民の領分まで入って金儲けなんて、その下半身並に節操がねぇな。

 大学院でも行って、お勉強でもしてろよ……」

 金髪ローブくん。小太り男の嫉妬を多分に含んだ呪詛を聞き、気まずそうな顔をする。
 学生の彼からしたら、迷宮に潜っている自分も節操がないと言われてるようなもんだからな。



 まっ、そんなのはどうでもいい。

 ただ、気になることがある。
 どの程度の実力なら八層に行けるのだろうか。

 同じ学校だったなら、ある程度は知ってそうなので、金髪ローブくんに聞いてみよう。


「彼って、そんなにすごい魔術師なんですか?」

 俺の質問。


「ええ、僕と時期は違いますが、大学でも主席卒業だったらしいですし――
 なにしろ、オルレアン家に伝わる魔導書、アルマデル奥義書を所持していますからね。

 確か――得意なのは、天使ウリエルの力を借りた魔術ですよ!」


 普段は陰キャラで、親しみのある感じなのだが、魔術の説明をしている時は、活き活きとしてくる。
 そんなキラキラした目で話されると、眩しすぎて気圧されてしまうじゃないか。


「彼は、すべてを焼き尽くす、業火を操ることを得意としていますね。
 それを剣に付与し、焰の剣で戦うのです。

 丁度、コウゾウさんたちが、この街に来た日に、彼らも一角熊を倒したそうですよ。
 おそらくその際、彼の焰の剣が決め手となったハズですね」


 彼は、子供がヒーローのまねをするように、エイッ、ヤーと剣を振る動作をする。


「しかも旧フィリス、王族の血筋なんです。

 亡命の際、魔導書を守る為に、彼がそれを継承しました。

 現在のフィリス革命が起きていなかったら……。
 母国でフィリス貴族として活躍していたと思いますね」


 金髪ローブくんは、金髪王子を憧れの表情で眺めていた。



「しっかし、クレマンが来るなんて珍しいよなっ」

 リア充集団にいる、日に焼けた細マッチョ男(結構な薄着だがこいつは寒くないのだろうか)が言う。
 脇に居る、真っ黒なコートを着たスキンヘッド男の肩に手を回しているから、この人がクレマンなのだろうか。


 女記者から、インタビューを受けていた金髪王子は「失礼」といって、周囲の女性をかき分けて二人の側へいく。

「――ジャン。
 今日は大事な――今後の話がある。

 そのぐらいにするんだ」


 細マッチョの馴れ馴れしさが鬱陶しそうな黒ハゲさんを助けるように割って入る。

 チャラチャラした黒マッチョ男は不服そうな顔だが、仕方がないのだろう。
 黒ハゲさんの肩に回した手を降ろした。


 いかにもDQNそうなイキッた感じなのに金髪王子の言うことを聞いているのな。
 こんなのを調教してるところを見ると、金髪王子は見た目は優しそうなイケメンだが、結構な武闘派なんだろうか。



「ジャン・ダドリー。

 あのナマイキなやつはノーサンバランド公爵の三男だ。
 冒険者なんて、いくら家督がないからって元貴族様がやるもんじゃねぇ。

 家督は今政治家として手腕を振るってる長男が、次男は現在士官学校通って将来は有望な陸軍軍人予定。
 優秀な兄貴達がいるから、あの三男は捻くれちまってるのかもな――
 あのヌルい士官学校すら逃げ出した挙げ句、あれよ。

 でもな、どういうわけか、あの元フィリス貴族の坊ちゃん……。
 そんな貴族のはみ出し者集めて、カンパニーなんぞ作ってるんだよ――

 聞いたことあると思うが神炎旅団ってやつだ。


 あの、くっせぇ香水、プンプンさせたビッチどもも娼婦じゃねぞ。
 あれも一応、神炎旅団の冒険者だ。

 もちろん、この国やよその国から亡命してきた、元貴族のご令嬢だけどな――」



 さっきまで不機嫌だった小太り男が、俺がリア充集団を観察しているのを見て、嬉しそうに説明し始める。

 情報はありがたいが、テーブルの上に身を乗り出し、酒くっさい息を吹きかけてくんのはやめて欲しい。



 目があった。

 イケメン集団にいた黒ハゲさんは目を見開き、こちらを見ている。
 先ほどまで鬱陶しそうにうつむいていた男は、コマが跳んだかのように、いつのまにかこちらを見ていた。

 素早く目をそらしてしまう。
 俺の近くで喋っていた小太りも、ドン引きして俺からはなれる。


 えっ? なに?? なに??
 なんでこっち見てんの?
 話してるの聞こえた??


 目をそらしてるけど、まだコチラをじっと見ているのがわかる。
 黒い穴でも空いたような目が、視界の端にいて、存在感を放っている。

 俺は右手をあげて、右耳を塞いだ。
 そして、小さな声でつぶやく。


「イノリさん。今、大丈夫?」

 今、ヘルメットを持ってきてない。
 それは莉奈さんも同じだ。


 ヘルメットが無いということは、イノリさんと会話するモニタもない状態だ。


 ちなみに立体映像はヘルメットやバイクから投射しているので現在の状況で出て来ることはできない。
 今の俺が、あまり目立たない方法でイノリさんと話すには――


『コウゾウ。
 大丈夫ですよ、骨伝導を使い会話可能です。
 なんでしょうか』

 ビンゴ。
 右手の腕輪のようについている全身タイツのパーツが震え、俺にしか聞こえないぐらいの大きさで声が聞こえる。


「イノリさんって、こっちの状況、把握できてる?」

 スキャンはヘルメットでしてるみたいなので、それのない状態で、彼女がどのくらい把握できるのだろうかわからない。


『コウゾウたちが酒場にいるのは知っていますよ。
 簡易的にですが、周囲の音声、地形、生物、魔力などの状態も随時記録しています』
 
「じゃあさ、この酒場に居る人間をスキャンすることってできる?
 なんかさ、もの凄い怪しい人が居るんですけど……」

『それは……。
 もしかして、その施設の入口付近にいる人物たちですか?』

「そそ、たぶんそれ――」




「ん、クレマン、どうした?
 なにを見て――」

 黒マッチョ、黒ハゲさんの視線に気がついたようだ。
 そりゃそうだよな。
 あんなにガン見してたら誰だって気がつく。

 さっきまで俺に話しかけてきていた小太り男も、知らないフリしてビールを飲んでいた。



「うっわ!! あいつ! すっげーいい女じゃん!
 やっべー! 俺、超好みだわ」


 黒マッチョが、莉奈さんを指差し興奮している。

 莉奈さんは、何を言われているのかわからないハズ。
 でも自分が指差されたことに気がつき、なんとなく内容を感じとったのか、彼女は顔をしかめている。


「なーなーっ、アンリッ!
 そのの後、いつもみたいに、楽しむんだろ。

 あの女も呼ぼうぜッ!!」


 金髪王子は黒ハゲさんと顔を見合わせ、ため息を吐く。
 そしてコチラを向くと、おもいっきり見下した目で俺たちのテーブルにいる人たちを眺める。

「ふーん――第三身分平民ね……。

 まあ、好きにするといいよ――
 クレマン、僕たちは打ち合わせだ、先に部屋へ行こう。

 あ、君たちは、少しこっちでまってて――」


 ゾロゾロと引き連れていた女子たちを制止し、金髪王子は黒ハゲ男と奥の部屋に向けて歩き始める。


 よかった……。
 視線は俺から外れ、黒ハゲさんは金髪王子と奥へ移動していった。

 それを見送るようにイノリさんから通信が入る。


『コウゾウ。
 先ほど言っていた、対象へのスキャンは、ヘルメットが周囲に無い状態では不可能です。

 ただ、簡易的な魔力の流れを確認することは可能でした。
 対象の身体に流れる魔力は典型的、魔術師ソーサラーのものですね。

 魔力の質は、迷宮ダンジョンで発見したタリスマンと同質のものです。
 彼はタルタロスで入手できるタリスマン――それに関係する妖魔の眷属の可能性が高いと考えられます。


 ただ、コウゾウたちが店内に入る時に接触した男からも動揺の反応を検知することができましたので、ブリストルにて迷宮を探索する者たちが、例のタリスマンを取得し、魔術師として活躍――』



「おい、お前――
 名前、なんつーの??」

 黒マッチョは、体を揺すりながら莉奈さんに近づく。
 その姿は、ポケットに手を突っ込んで、黒人ラッパーが人ごみを割って歩いて来るようにふてぶてしい。


「えーっ、ジャンー。
 そんな女ほっときなよー」


 黒マッチョのお仲間。
 ぱーりーぴーぽー達からのお言葉にも止まることなく、彼はズカズカと近寄ってきてた。


 そんな彼の進行方向は俺たちだ。

 ココ酒場にいる人たちの視線が、俺たちに集中する。
 人に注目されることになれてない俺は、突然のことに動揺を隠せず、あたふたとしてしまう。


 思い出すのは体育中のバスケ。

 試合中。偶然、ボールをキャッチしてしまった時と同じ感じだ。
 そのボールを持て余してしまい、動揺してしまう感じ。わかるだろ?


 しかし、現役リア充JKだった莉奈さんは、そんな状況にも慣れたもんで堂々としていた。


「いい思い、させてやるよ。
 ま、嫌だって言ったって連れてくけどな――」

 両腕を大きく広げ、前にいる俺たちを無視し、莉奈さんへと近づく。



 ―― スッ

   ――パッーーーンッッッッ!!



 莉奈さんは、自分の肩に手をまわそうとしている黒マッチョの手を勢いよくはね除けた。


 そしてキッと、キツい目をして男を睨みつける。

「は? 何言ってるかわからないし。
 莉奈、あんたみたいな男、嫌いなんですけど――」


 黒マッチョの手は、ガードを開けられた漫画のボクサーのように勢いよくあがっていた。
 その腕は、傍から見ても痺れているのがわかるほど、ビリビリと震えている。



「――ッて、テメーなにしてくれてんだよ、このアマッ!!」

 黒マッチョは、怒りの形相で莉奈さんに掴みかかる。


    ――パッーーーン!!

   ――パッーーーン!!



 全身タイツを着ている莉奈さんの身体能力は、人間のそれを大きく上回っている。

 黒マッチョは、何をされたのかわからない顔をしていた。
 彼女に両手を弾かれバンザイの格好で硬直している。



「――クッそおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 通常でも日に焼け、野性味を帯びた顔が、さらに獣性を帯び、徐々に暴力的な怒りに染まっていく。


 なぜか酒場のBGMが、テンポの早い、盛り上がる曲に変わっていた。


 おい、これ弾いてるやつ、絶対わざとやてるだろ?
 喧嘩をあおろうとしてやがる。


 店内の角にあるステージを見ると、ピアノを弾いているおっさんが俺を見てウインクしやがった。
 なに、その、「こうなんだろ?」「これが欲しいんだろ?」的なドヤ顔。


「――ジャンさま、店内ではおやめくださいッ!!」
 駆けつけた店員が制止の言葉を浴びせるが、そんなことで黒マッチョの怒りが冷めることがなかった。


「この雌に教えてやるよ……。
 雄の強さってヤツをなッ!!」


 こんな、漫画のDQNが吐くようなセリフ本当に言うヤツいんのな。

 黒マッチョの髪の毛がメキメキと音を立てながら、逆立っているのがわかった。
 怒髪天ってヤツである。


 店内は熱気に満ち、酒に酔った冒険者たちが「やっちまえー!」などの野次を飛ばす。
 小太りも「俺は、べっぴんさんに十万賭けるゼ!」と嬉しそうにわめいている。

 それらの喧騒は、BGMと相まって、さらに店内を加熱させた。



 莉奈さんと黒マッチョ。

 二人の周囲は野次馬たちが取り囲み、さながらファイトクラブのように決闘場ができあがっていた。


 店主だろう、おっさんが、

「や、やめろーーッ!

 俺の店が!! 俺の店が!!
 だ、誰か、止めてくれーーッ!!」

 そう言って叫んでいるが、誰も止めようとはしない。
 いや、むしろ羽交い締めにされてんじゃん。


「雌の分際でッ!!
 俺はなぁ、お前みたいなのを、力でねじ伏せるのがスキなんだヨォッ!!」


 飢えたようにギラギラとした目は莉奈さんを睨んでいる。

 胸のはだけたシャツからは、黒々とした筋肉がその力を主張。
 さらに袖から伸びた筋肉質の腕。

 一見すると莉奈さんに勝ち目がなさそうに見える。



「はぁ?

 だから何いってんのかわかんないって。
 うっざッ! ホントうっざッ!」


 莉奈さんは黒の森シュバルツヴァルトで、散々、妖魔を見ているせいか、ヤツの威圧にも臆することなく睨み返している。


 この娘も随分肝が据わってきたよな。
 こんなの、男の俺でも、元の世界の自分なら確実にチビッてる自信がある。


「莉奈さん、頭は気をつけてくださいよっ!
 ヘルメット着けてないですからね!」

 一応、日本語で注意しておく。


 ヘルメット高性能着用感のせいで、被ってないこと忘れてたらいけない。
 俺の声は聞こえているようで、目線は黒マッチョから外さず頷いた。



 ――ぶぉん!


 黒マッチョは莉奈さんが頷いた刹那、右拳にフックをかけ乱暴に振り回す。

 ボクシング等とは違い洗練されてない打撃だが、それは当てることよりも倒すことを目的とした、全体重を乗せた振り抜くもの。それを強引に莉奈さんの顔目がけてねじ込んだ。


 だが、それが素直に顔に届くことはなく、莉奈さんの片手に遮られる。


「――っ!?」

 黒マッチョは、自身の渾身の力を込めた打撃が、目の前の莉奈さんの細腕に掴まれたことに驚愕の表情を見せた。


 しかし、あのパンチを受け止めた莉奈さんも凄いが、普通、女の子の顔目がけて力一杯拳を振り抜ける黒マッチョにも、心底驚かされる。
 いや、始めっから手加減無しってのは間違ってないと思うが、俺の感覚からは信じられない。DQNこわい。


「くっ、テメェ、ただの雌じゃねぇな――」

 莉奈さんは黒マッチョの言葉が終わるのを待たない。
 片手で自分の倍はある腕を、くるりと捻り上げる。


 そして背後を取ると背中を蹴飛ばした。


 ――ガッ シャーン
 

       ――ぎゃーっ
  ――ぎゃーっ

   ――バキバキバキ……



 吹っ飛ばされた黒マッチョの下敷きにされた野次馬たち。
 彼らの悲鳴が……。


 まあ、散々あおってた連中だ、自業自得だな。


「くそッッッッッッ!!!

 クソッ!!
 糞おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 派手にテーブルや食器の破片をまき散らし、黒マッチョが立ち上がっていた。
 その手には、プロレスラーが簡易テーブルを持つように、比較的形を保っているベンチを持っている。


「死んどけぇッ!!」

 木製の、結構重量のありそうなベンチを振りかぶって、莉奈さんへ叩き付ける。
 彼女は、その迫り来るベンチを両腕でガードした。


   ――バキィィィッ!


 派手な音をたててベンチが砕ける。


 莉奈さんは木片が飛び散るなか、平然と立っていた。

「――ハンッ!
 また、避けずに受けると思ってたゼッ!」


 黒マッチョはベンチを振り抜いた動きから、流れるように莉奈さんの横に立つ。


 そして腰に下げた銃。
 ハンドガンの少し大きなもの――サブマシンガンぐらいだろうか。
 銃身の太っとい銃を片手に持ち、銃口を莉奈さんの頭へ突きつけていた。



 ――危ないッ!!

 俺は咄嗟にワイヤーを射出し、鞭のようにして、黒マッチョの構えた銃身を跳ね上げた。



  ――ドンッッッ

 銃口は天井へ向き穴をあける。


 穴は散弾を喰らったように、複数の円が密集したものだった。


 銃声による振動は酒場の空気にその余韻を残す。
 硝煙のツーンとする刺激臭が鼻孔を刺した。


「――きゃーーーーっ!!」

 周囲に居た、女性の取り巻きは悲鳴をあげパニック状態。
 羽交い締めにされている店主は青い顔をしていた。


 黒マッチョは、再び銃口を莉奈さんに向けようとする。


 莉奈さんは、ヘルメットの無い状態で、初めて戦闘し、その生々しいまでのリアルな熱と臭い、喧騒を浴びて竦んでしまっていた。



「――ッ!」

 これはちょっと干渉させてもらうおう。


 俺はヤツと距離を詰め、銃身を両腕で捕らえ、身体を回転させて捻り取った。


  ――ドンッッッ


     ――パーーン 
 ――ガッシャーン


 危ない――
 引き金を引くと同時に奪い取った銃は、その目標を大きく外し、カウンターに立てられた酒のボトルを割る。
 人に当たってなくてよかった――


 捻り取られる前に、咄嗟に手を離していた黒マッチョ。

 黒マッチョはやはり戦い慣れしているのか、手を離してもそのまま動きを止めることはない。
 すぐさま離した手を引き、拳を繰り出してきていた。


 だが、それが俺に届くことはない。
 俺は足を払い、黒マッチョは弧を描き地面へ。


 彼の場合、普通に叩き付けてもまだ暴れる可能性がある。
 悪いが頭から落とさせてもらい、その衝撃で脳を揺らさせてもらった。

 脳しんとうで白目を剥く、黒マッチョ。

 店内を破壊された店のオーナーは、羽交い締めから開放され、地面に泣きながら崩れ落ちていた。




 もうホント。
 ごめんねとしか言いようがない。




§




〈三人称 視点〉


 その夜の出来事。

 街灯や深夜営業の光が明るいこの街でも、真夜中をしばらく過ぎれば流石に暗くなる。


 この世界の言葉ではないが、草木も眠る丑三つ時という言葉がある。
 その時間ともなれば、それらはさらに顕著なり、その光をひとつ消し、ひとつ消しと、街は徐々に眠りについていった。


 当然、夜の盛り場でもある、ここ、クリブ・ストリート赤線地域と呼ばれる場所でもそれは例外ではなかった。


 クリブ・ストリート赤線地域――
 この街では、地図上で赤線に囲まれた地域をクリブ・ストリート赤線地域と呼び、その中では、違法な風俗営業なども、特例として営業を認められていた。



 そのクリブ・ストリートの一角。
 月明かりも建物にさえぎられ、一段と暗くなった裏路地にて走る者がいた。



 ――はあっ

    ――はあっ



 その呼吸の主。
 ブロンド金髪の女。

 容姿は二十代前半。
 少し幼さを残すハズの年齢だが、この場所に相応しい擦れた格好のせいで、彼女はそれよりも遥かに大人びて見えた。

 いい意味でとれば、色気があるとも言えるのだろうか。


 本来、そのルージュで赤く濡れた口からは、色を含んだ吐息が漏れるはずなのだが、今の様子は、それとは違っていた。


 彼女の息は恐怖を含み、冷たい空気に白く煙る。


「――ッ!」


 衝撃とともに、浜辺に打ち上げられた海豚のように、地面に横たわる女。
 彼女は石畳の隙間にヒールを取られてしまい、転倒してしまっていたのだった。


 靴底とヒールが剥がれ、皮一枚でつながったソレは、バックリと口を開けて揺れている。


 そんな靴では、石畳の上をまともに歩くこともできず、女は這いずりながらも必死にソイツから逃げていた。


 寒さのせいもあるのかもしれない。
 かじかむ手足の感覚は、擦りむいて刺すような痛みを脳に送る。


 女の体は震えていた。


「こ、こないで……」

 だが寒さだけではない、恐怖も多分に含んでいる震え。
 それに邪魔されながらも、必死に声を振り絞る。



 ソイツは、そんな女の様子を見ながら、優越と快楽に顔を染め邪悪な笑みを浮かべていた。

「我が主は言った。
 贄を捧げろと――」


 黒く長いコートの内ポケット。

 隙間から差し込む月明かりに照らされた、鈍く光る大きなダガーをコートから取り出し、男は話を続けた。


「贄は貴様のような、罪に汚れたものがいい。

 我が主は貴様を煉獄へと導き、この世の終わりまでその罪を浄火することだろう」


 先ほどまでダガーを照らしていた月明かりは、女へと近づくソイツの顔をも照らす。


「あ、あんたはさっきの……」
 
 女は男の顔を確認し、驚愕の表情でそう言った。



 ――ニィィィィッ


 ソイツは更に嬉しそうに、口の両端をあげる。
 耳まで裂けたように見える口は、ソイツが人ならざる者だと語っているようだった。


「――ッヒッ!」

 女はソイツから逃げるため、石畳の上を這い、後ずさる。


 パックリとはがれたヒールを男へ投げつけ、大きく息を吸い込み悲鳴をあげようとした。



 ――シュッ

 空気を切り裂く音が、女の耳に届く。



 残念ながら。


 女の耳には、自分がから発せられるハズの声が聞こえることはなかった。



  ――シューーーーーーッ


     ――シュッ



 代わりに、息の漏れる音。



「不思議だろう。
 痛くはないし、血もあまり出ていない。

 喜べ、お前はコレですぐに死ぬことはない――」


 女の両手は、自分の首に。

 その空気の漏れる穴、それを塞ぐため、掻きむしるように動かし足掻いていた。


「恐怖は、贄を味付けるための香辛料。

 この悪夢はまだ続くぞ――


 もっと恐怖に染まれ。
 それでこそお前は、贄として成熟するのだからな」



 暗闇の中でも黒いとわかる妖気が、その男からわきあがってくる。


「我、タナトスの名において、闇の精霊に命令ず。
 闇の鎖にて肉体より離るる魂を縛り、今しばらく魂をとどまらせよ――」


 吹き出す妖気は鎖となって、女の体を縛り付けた。


 それは鎖だが、蛇が獲物を締め付けるようにその身を収縮する。



 まるで蛇の補食。

 生きたまま、体を徐々に飲み込まれる苦しみ。



「これで、お前は死ぬことが無い。
 この鎖が陽光で崩壊するまで、お前の魂はココにとどまるだろう」


 ソイツの持つ


   ――しゅっ
  ――ぶちっ


 ダガーが月光を受け、鈍く光る。
 そのたびに、女の体に切れ目が

    ――ゴッキン
  ――ぶちっ

 丁寧に両手を添え、手足を捻る。
 いとも容易く、

    ――ゴッキン
  ――ぶちっ

 もげる手足。

 嘘のように血が出ない。

 切り口に、闇の鎖が侵入する。
 脈動する鎖は、水を飲み干す喉の

   ――ずぶぶぶっ
  ――ぶちっ


 ゆーっくり。

 ゆーっくり。


 ダガーは女の体に沈み、ピンク色や赤黒い色の内側を、冷たい空気にさらしていく。


 悲鳴をあげることができなくなった体は、麻痺したように弛緩し、力を入れることはできない。
 暴れることもできずに、ただただ、それを観るしか女にはできないのだ。


 もう、逃げ出すことができない。

 そう、もう逃げ出すことができない。


 彼女の手足が胴体と完全に離れてしまっているのだから、逃げることなどできるわけがない。




 女は思う。

 確かに、感じない。
 感じないのだが――


 その他の感覚。
 それらは残っているじゃないか――と。


 鎖が自分の体を這い回る感覚は感じる。

 冷たいダガーの温度を感じる。

 不潔な路地裏のドブの臭いに、肉の臭いが混じった酷い臭いも感じることができた。



 直視できない現実から逃れようと、目を閉じていても、それらの感覚が、それを許さない。



 女の顔は絶望を映し、その精神は、これから訪れるであろう未来に、耐えることができなくなっていた。




 視界の端には、壊れたハイヒールが転がっている。


 皮一枚でつながっていたヒールは、すでにもげていた。
 持ち主である、自分の首を暗示したかに見えるソレ。


 自分の姿がそれに重なった時、女は肉体よりも先に精神が崩壊し狂気の闇へと沈んでいくのだった。




§








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2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

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