おっさん、黒の全身タイツで異世界に生きる。

しょぼん

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二章(前編)

第十八話「莉奈と戦闘」

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〈三人称 視点〉



 メサイヤ歴1993年

 今から六年前のその年。
 王政終焉により、フィリス共和国は誕生した。


 当時、以前からエウロアを悩ませていた冷害が、食料高騰を招き、国内外問わず大陸全土に飢饉を引き起こす。

 国家財政は逼迫ひっぱく
 三部会――三つの身分の者たちによる議会が開かれ、それまで免税されていた貴族第二身分たちへの課税が議論されることとなった。


 しかし、その議会も、貴族第二身分たちの激しい反発により、なにも議決できないまま終わってしまう。

 結果、虐げられてきた民衆第三身分の不満。
 その怒りの銃口は、支配者層、国王や貴族第二身分たちへ向けられていた。


 そんな時事件が起きる。
 銃口が自分たち第二身分に向いているにも関わらず、貴族の傲慢さ故か、民衆第三身分の怒りに拍車をかける出来事が起きたのだ。


 財政再建。
 民衆第三身分の生活改善のため、第三身分から願いを受けて就任していた財務長官がいた。
 しかし、そんな民衆第三身分の希望を背負った彼も、貴族第二身分たちに疎まれ、その官職を解任されることとなったのだ。


 飢饉によりたまった不満。
 財務長官の罷免が引き金となり、暴動という銃弾で支配者層を襲うのは必然的な結果だった。



 最初の暴動はフィリス王国の首都、ニーム市民によるバシュラール要塞への襲撃に始まる。

 政治犯を収容している要塞は同時に武器も保管しており、この事件は貴族第二身分を震撼させるに十分な出来事であった。


 要塞襲撃の成功は暴動の炎に油を注ぎ、フィリス王国全土へと広がっていく。
 そしてついに国民は王に迫り、憲法と新しい議会「立法議会」を成立させることに成功したのだった。


 しかし、話はそこで終わらない。

 議会が力を持つ。
 その事態を憂慮した各国――特に王妃の実家のあるアムスライヒはフィリス王の王権を守るため、フィリス王国へと圧力をかけはじめたのだ。


 そのことに反発した、フィリス革命政府はアムスライヒへと戦線布告し革命戦争が勃発しのだった。


 しかし軍人、貴族第二身分である士官たちはその戦いに協力せず、革命軍は各地で敗れ続けた。

 革命軍は敗戦の責任を、敵国出身の王妃に被せ、民衆を扇動。
 怒れる民衆は、各地から集まった義勇兵を引き連れ、宮殿を襲撃。国王一家は捕らえられたのだった。



 民衆によって作られた議会は、捕らえた王を裁判にかけ処刑し王政を廃止する。
 そして選挙により、さらに新しい議会を作ると共和制を宣言したのだった。


 こうしてフィリス王国の主権は王から国民へと移行し、六年前の1993年、その国はフィリス共和国へと生まれ変わったのである。




 現在 メサイヤ歴1999年


「ついに……。
 ついに僕の悲願……。
 その第一歩を踏み出すことができるんだ……」

 金髪の男は、綺麗な青い瞳を硬くつぶると、同様に奥歯にも力を込め、噛み締めるように呟いた。



 アンリ・フィリップ。
 彼は今、ブリストル中央公園に、黒いコートの男、クレマンと一緒にいた。


 現在、一流の冒険者としてブリストルアングリア王国で活躍している彼なのだが、祖国は、件のフィリス王国だった。


 彼はまだ、祖国がフィリス王国だった頃、オルレアン家に生まれ、十六歳の時にメーレンベルク大公国のウインブルク大学へ留学していた。



 エウロア大陸にて最大の大学であるウインブルク大学で学ぶことは、学歴を必要としない貴族であってもステータスであり、その大学に通う彼は、未来のフィリス王国を担う優秀な貴族第二身分だったのだ。


 しかし、祖国にて革命が始まり、その順風満帆な人生も終わりを告げる。
 それまで貴族第二身分だった者たちは、彼が留学している間に、祖国にて民衆により裁かれ、その地位も失墜していったのだった。



 父である、オルレアン公爵フィリップ二世は、六年前、国王とともに革命裁判により処刑され、断頭台の露と消えていた。



 他国にて、父の逮捕の知らせを聞くと、彼は矢も盾もたまらず祖国へ帰ろうとしたのだが、周囲の人間に止められたのである。


 当時の革命軍は、反革命派の議員を弾圧し、革命裁判により次々と反革命派を処刑していた。
 反革命派勢力の死体の山がフィリス共和国に築かれている状況だったからである。



 そんな中、彼が祖国へ帰ることは死を意味していた。

 じくじたる思いを募らせつつも、祖国へ帰る機会を待ち続けた彼は、六年前、学校を卒業すると理由を告げることなくアングリア王国へと亡命し、冒険者となっていたのだった。





 未だ、祖国では戦火が絶えることがない。

 西のアングリア王国、ガルニア帝国、東のオルハン帝国は、対フィリス革命政府同盟を結成し、各地で戦争が勃発している。
 現在、最大の戦場はオルハン帝国領イスラプールと呼ばれる、三つの大陸が繋がる地であった。


「君にも……
 ここまで付き合わせてしまったね――」
 彼はそう言うと、クレマンの方を見る。

 このクレマンという男。
 その出会いは、六年前のウインブルク滞在時に遡る。


 父の知り合いだと、アンリの元へ尋ねて来たのが始まりだった。


「いや……気にすることはない。
 これは、私の悲願でもあるんだからな……」

 彼はそう言い、目の前の台座へ、林檎に似た黄金の果実を置いた。



 満月が妖しく輝き、中央公園にある、一番大きな池のほとり――
 野外大音楽堂を明るく照らす。



 傾斜のついた扇状の客席。
 その先端に屋根の付いたステージがあり、それは白い石が積み重なって形作られていた。

 月明かりはその白い石をより白く見せ、まるで妖魔の肌のようにステージを妖しく見せる。



 その白い音楽堂には、白い肌に浮かぶ静脈のように幾何学模様が描かれており、さらに幾何学模様の間には、共通言語ではない文字やシンボルが描かれていた。
 台座はそのステージに置かれており、幾何学模様を構成する線が一点に集まる場所へと置かれているのがわかる。



 そして、さらにその外縁、ステージを取り囲むベンチには無数に絡み合う者たちがいた……。


 彼等はこの中央公園に住み着いていたホームレスが大半であり、他には酒場にてアンリたちを取り囲んでいた女たちも見受けられた。

 全員、熱に浮かされた様な目で絡み合い、蛆が腐肉を食い荒らすよう、もぞもぞと蠢いている。
 生臭さと、代謝物、汚物が混ざった獣臭が周囲に満ちていた。



「これで、力を手に入れ、タルタロスの深淵へと近づくことができるだろう。
 そして僕は……祖国を取り戻す……」


 アンリの脳裏は、祖国を踏みにじった汚らわしい第三身分平民のものたちへの憎悪で満ちていた。


 秘術によりタルタロスの力を手に入れ、祖国へ返り咲く。
 その思いが、この妖しくも禍々しい儀式さえ受け入れ、かつ決行させていたのだった。


 秘術――

 それはタルタロスを守護する天使ウリエルの召喚であり、その使役により、タルタロスの深淵にある力を手に入れるというものであった。


 その召喚に必要なものはアルマデル奥義書。
 それに、ウリエルと契約した者。
 それとタルタロス七層にあるという黄金の果実だったのだ。


 クレマンはアンリの父が所属していた秘密結社のメンバーで、以前、アルマデル奥義書をアンリの父と一緒に研究していた一人だった。


 アルマデル奥義書は難解なもので、その記述のすべてが解明されているわけではない。
 当時、アンリの父と見つけた秘術はアンリに継承されてはおらず、その秘術を教えるため、クレマンはフィリス王国の革命の波から逃れウインブルクまでやってきていたのだった。


 そしてアンリは、タルタロスに近いアングリア王国へと亡命し、タルタロスを七層まで攻略して、黄金の果実を手に入れていた。


 月は満月となり時が満ちる。

 魔素の濃度が濃くなる満月は、儀式の時。



 これより召喚の儀が執り行われようとしていた。


「じゃあ、始めようか――」

 アンリはクレマンを見つめる。
 それが合図となり、重く地の底にまで響く、クレマンの詠唱が始まるのだった。




§




〈アッカネン莉奈 視点〉


 アイツの攻撃は痛くはない。
 でも、悔しいことに、私の攻撃も当たらなかった。

 ヤケに焼けた黒い肌が、元の世界で見たダンスグループを彷彿とさせ、暑苦しさと無駄に自信に満ちた顔つきが莉奈の癇に障る。



「――っち、きりがねぇな。
 強化魔法、かかってんじゃねえのかよ。
 あのハゲ、つかえねぇ」


 本当にウザい。

 さっきから頭に浮かぶグループよりは、正直カッコいいかもしれない。
 日には焼けているが、西洋人に近い顔で、アジア人にはまねできない彫りの深さ。
 元の世界のクラスメイトの子が見たら、キャーキャー言うのなんて間違いないだろう。


 でもね、なんでかな。
 莉奈がハーフのせいなのか、濃い顔が嫌いだった。
 日本で育ったせいか、正直外国人に近寄られると怖い。


 外国人だったお父さんは、物心ついた頃にはもういなかったし……。
 お母さんは生粋の日本人で、周りには日本人しかいなかった。
 だから自分のことは置いといて、外国人が来たら、あ、ガイジンさんだとか思っちゃう方だった。



「それにしてもお前、やっぱり強ぇな。
 名前、なんて言うんだよ」


 まあ、見た目は関係無しに、莉奈はこの目が苦手。
 ギラギラした目で見てくるヤツは、なんだか女の子を物としてしか見てない感じがして、正直キモい。



「……」

 イノリちゃんの翻訳で、何言ってるのかわかったけど無視してやった。
 こんな奴に教える名前なんてないし。


「けっ、無視か――
 お高くとまりやがって。

 でもまあ、これじゃ埒があかねぇ、一旦戻るか……」



 人が居ないせいで、周りは静かで少し怖い。

 公園から聞こえてくる、木々が揺れるざわめき。
 それに掻き消されないほどの声量で、キモ男は独り言のように喋ると公園方向に身体をかがめた。



 ――逃げるつもりだ!

 仲間を呼ばれたら、折角の偵察が失敗してしまう。

 そう思った時には、公園の林の中にキモ男は飛び込んでいった。



 ヤバッ。

 莉奈も慌てて林の中に飛び込む。


『ダメです!
 リナ、戻って!』


 イノリちゃんの声が聞こえるけどもう遅い。
 莉奈はジャンプして空中にいた。


 さっきの戦いでキモ男相手に余裕があったからか、少し気が大きくなってたのかもしれない。
 ワイヤーを出せば戻れたが、そのまま重力に任せて公園へ飛び込んでいってしまっていた。



 ――ぐいっ


 木と木の間。
 結構な太さの木。


 そこを抜けようとしたら身体が何かに引っかかり引っ張られた。
 途端に何かが身体に絡み付き、手足の自由が奪われる。


 っもう、邪魔!
 こんなの引きちぎってやるしッ!

 身体に巻き付いたものを力任せに――
 くっ――思ったより頑丈。



「ぎゃははははははッ! いやっーーっハッ!
 かかりやがったよ、なーんか動きが素人臭かったから、かかるかなーって思ったけどビンゴだったな」


 そう爆笑しながら、目の前の暗闇。
 そこからにじみ出るようにキモ男が出てくる。


「あのさぁ、逃げる敵、追っかけるときは十分気をつけろって。
 昔からあるだろ、追っかけたら周囲を敵に囲まれてましたって話――
 まあ、今回は伏兵がいたわけじゃねぇけどな」


 そう言いながらキモ男は一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる。



「――ッ!」

 この網っぽいのが全然切れない。
 力一杯、引っぱり暴れるが、ますます身体に網が食い込んでいくのがわかった。


 一本一本が、戦闘スーツの上に着ている服に引っかかっていて、暴れるたびに布が裂けていく。

 せっかく気に入ってた服装なのに……。
 悔しさが溢れてくる。


「無理無理無理だって。
 D&M社製の一流ドワーフ職人がつくった魔獣捕獲用ネット、グレイプニルだ。

 この街の、一等高い娼婦千人とヤッったって釣りがくる位くっそ高いだけあって、一角熊でも、実態をもたない死霊でさえも、そっから逃げるこたぁできねぇ。

 まあ、普通にお前に使っても、力つえぇから、俺の方が引っ張られちまう。
 なぁんで、そこらのぶっとい木に引っ掛けといたんだが……。
 クッククッ、大丈夫そうじゃん」


 キモ男の声が、耳に嫌な感触で滑り込んでくる。
 ワイヤーには針のようなトゲトゲがついていて、それがもがけばもがくほど食い込んでくる。

 蜘蛛の網に、獲物が引っかかったような感じで、莉奈は大きな木と木から張られた網に吊るされていた。



 なんにも考えずに、追っかけるんじゃなかった……。


「よっと」



 ――ドンッ

 鈍い音と一緒に、お腹に衝撃が伝わる。
 網に手足を絡めとられた莉奈のお腹に、キモ男のパンチが当たったのがわかった。


「きゃっ!」

 痛くはないが、いきなりのことでビックリする。



「やっべー、かてーな。
 オーク、ぶん殴るよりも硬てぇ気がするぜ」



 ――ドンッ

   ――ドンッ



「――ッ!」

 何度もパンチをお腹に当てられる。

 こいつ……。
 痛くはないけど、繰り返される暴力に怖くなってくる。

 動けない女の子を平気で殴るなんて……。


 怖さと悔しさの入り交じった涙で目がにじんできた。



『リナ、大丈夫です。
 この程度の者にACHILLESの装甲をどうこうすることはできません。
 あと五分ほどでコウゾウが到着しますので我慢してくださいね』


 イノリちゃんの声が聞こえる。


「イノリちゃん……」

 その柔らかで、かわいい声に励まされる。
 でも怖さは和らぐけど、同時にもう一つの感情、悔しさが膨れあがってきた。





 結局、莉奈は、おじさんたちの足手まといなのかと。





「くそっ!
 おぉーっらッ!!」


 ――ドガンッ

   ――バギイィッッ


 キモ男は、いつの間にか両手で抱えた大きな丸太を振りかぶり、ヘルメットをかぶった莉奈の頭に打ち付けた。



 あまりの衝撃に、ワイヤーの絡まった木々がきしみ、更に網が食い込んできた。
 圧迫感が身体を締め付ける。



「これでも無理か……テメー、なにもんだ?
 でも、その変な兜以外、硬そうな感じじゃねぇよな。
 その服に、何か強力な付与でもかかってんのかぁ?」


 キモ男が莉奈の身体に手を伸ばしてきた。


「いやっ!」

 キモ男の顔は、昔、絵本で見た赤ずきんちゃんに出て来た狼の顔のようにいやらしい表情を浮かべている。
 裂けた服装を乱暴に掴むと、一気に大きく引き裂いた。



「きゃあああぁぁぁぁっ!」


 私は思わず悲鳴をあげ、身をよじる。



「おぅおぅ、派手に暴れて……。
 そそんねぇ。

 いい身体してんじゃん。
 しっかし、付与ついてんのは、この服じゃねぇみたいだな……この中の黒いやつか?」



 悔しい。
 悔しい。
 悔しい。


 こんな奴にいいようにされてる自分が情けなかった。

 あれだけ、おじさんに食い下がって、先に様子を見に来たのにこんな目にあって……。
 挙げ句、おじさんに助けられたりしたら……。




 情けなくて悔しくて……。

 おもいっきり、網を引っ張る。
 相変わらず、木は軋むが、折れるほどではなかった。



 手から自分のワイヤーを飛ばす。
 木に絡めて身体を近づけようと引っ張るが、やっぱり網がちぎれる様子はなかった。



 ――おじさんやイノリちゃんに助けられた時から。

 ――悠斗や美優と離れた時から。




 莉奈がみんなを助けるって決めていた。


 いじめられたあの日にテレビで見た、魔法少女はどんなピンチでもくぐり抜けてきた。
 彼女たちはその力で皆を助けてきた。




「負けるかぁっ!」


 ――魔力装填数 5/6

 莉奈はエネルギーボルトを発射した。



「おわっ!
 あぶねぇッ!!
 まだそんなの、もってやがったか」


 キモ男は、はじけるようにバックステップして、エネルギーボルトを避ける。
 そして、またニヤリと笑った。



「無駄だ。
 まあ、くるとわかったら、そんなのあたらねぇよ……。

 しかし、その黒いやつ、すげぇな。
 縄でるし、魔法も使えるのか?

 でも、普通の魔術と違うように見えるな。
 どっちかってーと、結晶石使った銃。
 ――こんな感じの」


 腰から下げていたものを手にとる。
 大きな拳銃のような形のものを、片手で持ち上げ――



 ――ドンッ

   ――ドンッ


 キモ男の手に持った拳銃から、莉奈が撃った魔法に似た光の弾が飛んでくる。

 網のせいで、莉奈は避けることもできずに、そのまま光の弾を受けてしまった。



 本当に少しだけど、衝撃が強くなったように感じる。

「普段は使わねぇが、魔法じゃないと攻撃が効き難いやつもいるもんでね……。

 ああ、因みにこれもD&M社の魔銃だ。
 一発撃つたびに、オークサイズの結晶石使うから、あんま使いたくねーんだよねぇ」

 キモ男が偉そうなドヤ顔で言っている。


「このッ! このッ! このッ!」

 
 ――魔力装填数 4/6

 ――魔力装填数 3/6

 ――魔力装填数 2/6

 ――魔力装填数 1/6

 ――魔力装填数 0/6


 私は魔法を立て続けに飛ばした。

 右へ左へ、カーブをかけ、ブーメランのように様々な軌道で撃つ。

 この魔法は、目標を決めればある程度軌道を動かすことができたハズ――



「無駄っていってるだろーがよっ!
 どこ狙ってんだよッ!」

 ウザい。
 それでもキモ男には当たらない。

 魔法は周囲の木に当たり、それを削るだけ。



 ――ドンッ

   ――ドンッ


 ――ドンッ

   ――ドンッ


 キモ男も立て続けに、拳銃を撃ってきた。
 莉奈の身体に衝撃が走る。

 こっちは身体に絡まってる網で身動きが取れない。
 キモ男の弾を避けることはできなかった。



 悔しい。
 悔しい。
 悔しい。


 もっと、もっと威力のある攻撃だ。
 力が欲しい。


 もっと、みんなを守れる強さが。

 おじさんやイノリちゃんを助けることができる強さが。





「わーあああああぁぁぁぁッッ!!!」

 莉奈は雄叫びをあげる。
 悔しさを、もどかしさを発散させるように。



 頭に浮かぶのは、あのオークのボスと戦っているときの彩ちゃん雌オーク



 あの、彼女の爆発するような、湧き上がる力が欲しい。




 ――ポーーンッ

『リナ、アナタの魂とACHILLESが共鳴し、アシスト機能[モンク1]が追加されました――』



 イノリちゃんの声が聞こえる。

 着ているスーツから伝わる感覚が、なんとなくだけど、それの使い方を教えてくれる。

 スーツを巡る魔力が、身体の中で循環し力を産んでいるのがわかった。




「はあぁぁぁぁっ!!!!」

 おもいっきり息を吸い込み、それを吐き出した。
 そして同時に、おもいっきり網を引っ張る。



「無駄だっていってんだろ、させるかぁ!」


 キモ男は手に持った拳銃から、さらに弾を撃ってきた。




「――ッ再装填!」莉奈は叫ぶ。

 ――魔力装填数 6/6

 魔力を補充して、さっきと同じように、こちらも魔法を打ち返す。

 ――魔力装填数 5/6

 ――魔力装填数 4/6

 ――魔力装填数 3/6

 ――魔力装填数 2/6

 ――魔力装填数 1/6

 ――魔力装填数 0/6




 全部、避けきったキモ男は、多少息切れしてるのか、口から湯気を吐きながら気持ちの悪くニヤリとわらった。



「何処狙ってんだよ、変なとこ飛ばしやがって……

 だから言っただろ、無駄だってな。
 テメーは大人しく、俺のモンになっときゃーいいんだよ」



 正直キモい。

 この女を自分の所有物のように思ってる所が、本当にキモかった。
 莉奈の周りによってくる男子たちを思い出す。



「――再装填!」

 ――魔力装填数 6/6
 魔力を練り上げ、再度力を込めネットを引っ張った。


「どーせ動けねーんだ、その黒いの、ゆっくりと脱がしてやるから覚悟しと……って――
 おいおいおいおいおい!!」



 ――ミシミシ


  ――ミシミシミシィッッ


   ――バキッ
 ――バキバキバキバキッ




「ハアああああぁぁぁぁッ!!!!」

 湧いてくる力で、おもいっきり引っ張ると、木が折れ大きな音をたてて倒れる。



「何が無駄?

 さっきからアンタ、調子に乗ってるみたいだけど……。
 ビーム当ててないのだってわざとだから――」



 そう言って、莉奈は折れた木を人差し指で差す。
 
 イノリちゃんが翻訳してくれた言葉が聞こえたのだろう。
 キモ男が折れた木を見ると、その顔が情けなく歪む。



 莉奈の魔法は、このキモ男に当てるつもりもあったけど、本当の目的は、私を拘束しているこの木を削るためだった。

 キモ男もやっとそのことに気がついたみたい――


 まあ、今更、気がついても遅いけどね。
 それに[モンク1]の力もあったから……魔法だけでも木を折るのは無理だったと思う。



「くそっ!!
 これで、勝ったって思うなよっ!」


 威勢のいいセリフを吐きながら、キモ男が逃げようとする。ほんとさいてーだ。




「まだグレイプニルも絡まってるし、速さなら俺は負けねぇ!
 ひとまず勝負は引き分けだ、あばよっ!!!
 ――くっ」



 捨て台詞の途中で、盛大にキモ男が地面にひっくり返る。



「あ、言っとくけど、木に絡ませるために出した、莉奈のこのワイヤー。
 自由に動かすことできるから――

 最初に飛ばしたときから、こっそりとアンタに近づけてたんだよね……。
 逃がすわけないじゃん――」



 そう言って、ワイヤーをこっちへとたぐり寄せる。
 キモ男は逃げようとするが、力勝負なら莉奈は負けない。


 首輪をつけられた犬のように抵抗するキモ男を、ずるずると引きずりながら、頭の中で破かれた服の落とし前をどうつけさせようかと、私は考えていた。




§
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9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

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