おっさん、黒の全身タイツで異世界に生きる。

しょぼん

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一章

「プロローグ」

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 こんなとこで黒の全身タイツを着て、俺は何をやってるんだろうか。
 あまりに日常と乖離かいりした状況に、俺はそう考えてしまう。

 今、俺は黒くてでっかいバイクに股がり、海の水平線先まで伸びる橋の上を疾走していた。


 黒の全身タイツ――
 そう、全身を覆う黒いぴっちりとした全身タイツ。
 よくバラエティ番組とかで見るあれだ。
 俺は今、黒の全身タイツを着てヘルメットを被っている。
 モジモジくんがフルフェイスヘルメットを被った感じだと思って欲しい。非常に恥ずかしい格好だ。
 いやいやいや、決して、俺が変態だからそんな格好してるわけではない。


 な、ないよな?

 まあいい、アリもしない俺の性癖について追求するのはやめて欲しい。
 掘り進んで本当の性癖を見つけたとしてもドン引きすると思うし、誰も見たくもないだろう闇が見え、得するやつは一人もいない。いやマジで。


 そ、それに……。
 変態じゃない証拠ならある。
 俺の後ろには女子高生が乗っているのが見えるハズだ。
 女子高生と綺麗な海にかかる橋の上、カッコ良く二人乗りタンデム。なかなかリア充な感じだ。誰もがうらやむ状況だろ?

 なに? 変態じゃない証拠にならないって?
 無理矢理さらってきたのかもしれないだろって?

 いやいや、決してさらってきたわけじゃあないんだ。
 いや、ないったらない。合意の上だ。

 見てくれ、その女子高生も黒の全身タイツを着てヘルメットを被っている。こんな奇妙な格好してる同士なんだ、そのことから合意だとわかるだろ。
 ただ、俺とその女子高生の違う点は、全身タイツの上に服を着ている所かな。高校の学生服ってやつをね。

 君たちの言いたいことは、だいたいわかるよ。
 恥ずかしいなら、じゃあお前もその女子高生と同じく、なんで上に服を着てないのか――
 ってことでしょ。

 でしょうね。
 俺もそう聞くと思う。

 ぴっちぴちのタイツ姿は、俺の股間の膨らみをなんら隠してはくれない。
 それが、なんか卑猥な感じになってて変態チックなんだとは俺にもわかってる。
 だけどね、止むに止まれぬ事情ってのが大人にはあってさ。それで、この格好ってなわけなんだ。



『コウゾウ、先ほど抜けた壱番フロートから、五台の自動二輪車バイクが追ってきています。
 しかし安心してください。このスピード差、我々がこの橋――陸まで約百キロほどありますが、渡りきるまで追いつかれることはないでしょう』

 被っているヘルメット。
 その内側にあるスピーカーから、その声が聞こえた。


 ……いや、わかるよ。
 色々突っ込みたいんだろ。

 タグ見てきた人。
 これって異世界転移のファンタジーじゃねえの? バイクとか出てるし、ファンタジーじゃないだけどなんなの? とか思ってるんでしょ、どうせ。


 あ、ちょっとまって。
 喧嘩売ってんじゃないです、ごめんなさい。

 まず説明と言い訳をさせて欲しいのだが、今、俺はバイクに乗ってるけど、この世界は俺の元居た日常とは打って変わって、本当にファンタジーな世界なの
 妖魔っていうモンスターも出てきて、それに魔法もある。両方、実際に見たからね。俺。

 「」の部分は、俺はまだファンタジーっぽい迷宮ダンジョンやら、冒険者ギルドとか、行ってないからだ。実感が湧かないってのがある。この世界に来たばっかりだし。

 まあでも、ファンタジーの定義がどんなものかは、正直な所俺は知らない。
 そんなのがキチッとしてないとファンタジーじゃない、文明が進んでいるとNAISEIができないから面白くない、と言われると本当にこまる。
 あ、俺にそんな知識はないから、文明が進んでなくてもそんなことはできないからね。そこを期待してる諸兄には「すまない」と言う他ない。


 そういえば、今、俺に話しかけてくれていたイノリさん。 
 彼女は、地域によって文明レベルが異なると言ってたな。
 たまたまここが、この世界の中でも文明レベルが高い地域だということらしい。ちなみに他国にだが、迷宮ダンジョンはあると聞いている。


 あと言っておくと、少しばかりもと居た世界にある名前やネタも出てくることもあるので、念を押しておくが、この話はフィクションで登場する人物や集団、場所とかは現実と一切関係ない。

 また、作者の知識も不十分なので、学術的な内容や神話とかの名前が出てきても、話を面白くするためのもので真剣に考えたり気にしないで頂きたい。神様の名前とか出てきても似てるなにかだと思って欲しい。

 ……さてメタ的な話が終わった所で、ああ、俺の自己紹介がまだだったな。

 俺の名前は、倉井クライ耕蔵コウゾウ
 もうそろそろ三十五になる、おっさんだ。

 そのおっさんがなぜ、こんな所で全身タイツを着ているのか――
 それは、これから話そうと思う。

 テンプレっぽい話かもしれないが、見捨てたりしないで少しばかり付き合ってくれるとあり難い。

 あれは、そう――
 二日前? いや三日前だったかな?

 まあ、そんなのどっちだっていい。
 そのぐらい前の、異世界転移する際に起こった、ある出来事から話させてもらうとしようか……。
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