おっさん、黒の全身タイツで異世界に生きる。

しょぼん

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一章

第十四話「情報交換」

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 衛兵につれられやってきたのは、豪華な装飾の応接室だった。

 部屋中央には、これまた豪華なソファとテーブルが。
 壁に並んだ本棚には、分厚く手の込んだ装飾の本がぎっしりと並んでいる。

 もちろん、ここに来る道中も、高い天井、広い通路、豪華な装飾と同じようなものだった。

 この豪華さは、金持ちなんてレベルじゃない。
 相当、歴史と身分があるはずだ。
 俺が降りてきたのは、どっかの王宮なのか?


「人と話す時ぐらい、そのヘルメット取りなって。
 ちょっと不気味すぎ――」

 おおぅ。
 ギャルに常識を注意された。

 フルフェイスヘルメットに全身タイツ。
 確かに、この格好は不気味だ。

 全身タイツは身体にぴったりフィットしているので、あんなところやこんなところがひじょーに生々しい。
 俺の股間はビックマグナム(自称)で、もっこりと膨らんでいるしな。


 チラチラ、見られている気がするぜ。

 フッフッフ。
 ギャルの顔が少し赤い。
 へー、以外とウブいじゃん。

『怒ってるから、顔が赤いんだと思いますよ――』

 その突っ込みは余計です。イノリさん。

 なにも言ってないのに、考えてることを当てられた。
 くやしい。


「だ・か・ら、さっさと取りなさいよっ!
 莉奈らは、こんなことになってイライラしてんのっ!」

 怒られた。

 俺は渋々、ヘルメットを脱ぐことに――
 むむむ。これって、まあまあ、めんどくさいな。
 ガチャガチャと色々弄る。

 ヘルメットを脱ぐのに、もたもたとしてしまう。
 やだ、早くしないと、また怒られちゃう。

 
「まあまあ、この人も、この状況に戸惑ってるんだろうし、莉奈も落ちつきなよ」

 イケメン君、ナイスフォロー。
 これ以上、ギャルに怒られなくてすむ。
 因みに断っておくが、べつに怒られたくてモタモタしてるわけではない。

 俺はやっとのことヘルメットを脱ぎ、彼らと生でご対面した。

 この場に居るのはイケメン君グループの三人だけだった。
 チンピラ三人組とか他にも何人か居たハズだよな、あの運転手も居ないし。

 
「あの時は大変でしたね。
 俺は七星聖光シチセイセイコウ高校二年、神崎悠斗カンザキユウトです。
 よろしくおねがいします」

 あの時とは、この世界に飛ばされる前の変な空間のことだろうか。
 俺は、差し出された手と握手する。

 しかし、七星聖光高校か……。
 俺の行ってた高校だ。苦い思い出しかない。


「アッカネン莉奈リナ

「は?」

「だから、アッカネン莉奈っ!!
 フィンランド人とのハーフッ!」

 な、なるほど。するとその金髪は地毛か。
 素行悪くて染めてるのかと思った。すまんな。
 でも、ギャルって評価は覆らないけどねっ。


 でも、アッカネン莉奈ってどっちが名前だかわかんねーな。紛らわしい。



藤城フジシロ美優ミユ

 うっわ、コイツ態度わりー。
 こっち向いてすらいない。

 ブサメンは、見るのも嫌なんですねぇ。

 まあ、大人だから俺はそんなことおくびにも出さない。
 気がつかれないように女子をヲチしながら、さりげなくチンチンをチョイチョイと触る、大人の余裕。

「み、みんな、自己紹介ありがとう。
 俺は倉井耕蔵クライコウゾウ、見ての通りお、おっしゃ……おっさんです」

 なんか、若者に自己紹介って恥ずかしい。

 大人のたしなみ。
 場を和まそうと自虐をぶちこんでみたが、こちとら年期の入ったニート。
 コミュ障スキルが発動し、噛んでしまったのはご愛嬌。


「……」

「……」

「……あ、あの……」


『っはぁ~~~いっ!!
 マジdeマジック☆エロイムエッサイム!
 魔導少女イノリだよ~~んっ!』

 キラキラとしたエフェクトの後、立体映像のイノリさんが現れる。
 キラキラとステッキを振り回して現れたイノリさんは、いきなり自己紹介をぶちこんできた。


「イ、イノリちゃんだ……」
 ギャルがポツリとつぶやく。

 その顔は驚き、呆けていた。

 同じく室内にいる皆、呆けている。
 ギャルとは違う感じで。

 その中でイノリさん。
 一人だけ元気にエフェクトの星を振りまいて、広い室内を飛び回っていた。




§




 ――俺が空から降りてきた理由を説明する。
 彼等は俺の話が聞きたくて、衛兵たちに「会いたい」と頼み込んだらしい。

 どれだけ話せばいいのかはわからないが、体験したことを簡単にはしょって説明する。
 俺だってわからないことは多い。
 俺の説明を聞きイケメン君は、今度は自分の番と話し始めた。


 俺が扉に入った後。
 あの時、俺が入った扉は勝手に閉まってしまったらしい。

 イケメン君は俺を助けようとしたが、思ったより閉まるのが早すぎ、すぐに完全に閉じてしまい、さらにはその扉が消えてしまったらしい。


 そしてその後、二つ残っている扉を調べる。

 消えてしまった扉に通じているかと思い、イケメン君ご一行は俺を助けるため真ん中にあった扉を下りた。

 チンピラ三人組はイケメン君たちが下りると、ついてきたらしく、その後、同じ学校の女子たちも三人ほど下りてきた。
 そのメンバーが階段に入った時点で扉が閉まり、他の人たちとは分断される。


 そのまま階段を降りると、段々と階段は白く綺麗なものに変わり、真っ白で眩しい光に包まれた部屋に出る。
 そこでは神と名乗る声が聞こえ、加護を授けるから「召喚先の人たちを助けろ」と言われたらしい。


 そして召喚されたのがここ、ガルニア帝国だったという訳だ。

 フリーデリケという姫様が主導して召喚の儀式を行ったらしく。色々と事情を説明され、翌日、勇者聖別式が執り行われ、今に至る。



 ふーん、大冒険だったんだね。
 俺とは大違い。
 ところで、その、聞かされた色々な事情とやらが聞きたいんだよ君。

 しかし、俺ってかなり不幸じゃんね。
 気味の悪い階段だったし、召喚されて早々、妖魔とバトらされるし。

 ずりー。
 イノリさんと会えたのはよかったけど、それがなければ確実に死んでました。

 まあ、文句をぶつける先もないのだから、考えても詮無きことだ。だがしかし、少しぐらい子供のようにいじけてみたくなる。おっさんだけど。


「俺たち、まだこの世界のこと、何も教えられていません。
 一方的に呼び出しておいて、帰る方法もないらしいです。
 「一生この世界で暮らすことになる」とも言われました……」

 イケメン君の表情は暗い。
 そりゃ、夢も希望もある学生がこんなとこつれてこられて、いい迷惑だろう。
 納得なんてできないし帰りたいはずだ。
 こんな顔をするのはわかる。


 でもだ。

「あー、君たち。
 意識して日本語、使うことってできますか?」

「えっ、意識してって――
 さっきから喋ってるじゃないですか?」

「俺が言いたいのは、加護を使わずにって意味だけど――
 もしかして君たち、この世界の人たちって、みんな日本語喋ってると思ってました?」


 頭の上に、ハテナを浮かべてやがる。

 高校生なんてこんなもんか。

 いやいや。こーいう話スキだったら、わかるよな。
 もしかして、こいつらリア充だから異世界転生ものとか読んだことないのか?

 他方、ギャルちゃんは何か気がついたような顔をした。
 見た目のわりに頭はキレるのか。

 ギャルちゃんの評価を少し上げることにする。

「まず説明すると、ここの人たちは日本語を使っていません。なので俺には、彼らが何を言ってるかわからないんです」

 そう言って、こっそりイケメン君だけに見えるよう、出入り口付近に立っている衛兵を指差した。


「このまま、普通の顔して俺の話聞いて。
 驚いたり喋ったりもしないでくださいね――

 えっとね。君たちの日本語は、自動でコチラの世界の言葉に翻訳されています。
 さっき、あそこの衛兵たちと話してたよね――」


 イケメン君が頷く。

「あ、相づちもいらないですよ。
 でね、君たちがさっき言ってた不満?

 一方的に呼び出して、帰る方法もないとか言ってたやつ。
 アレとか、確実にそこの衛兵に聞かれていますから。
 もしかしたら盗聴とかもしてるかも。たぶん」


 こいつら、表情変えるなって言ってるのに……。

 イケメン君と黒髪巨乳ちゃんは目を剥いて驚いてる。
 ギャルちゃんはそれに加えて、口を大きく開け、なげーつけ爪の手を口に当てて驚いている。バカ面さらしやがって。

 案の定。イノリさんが教えてくれるが、レーダーには隣の部屋や外から人の反応が多数あり、コチラの会話を聞いてるらしい。
 しかし、ヘルメットを被ってないと、レーダーが見えないのは不便だな。


「うーん。
 いきなりこんなとこ来て、わけわからないと思うけど……。
 おそらく国とかそーいう組織が、君たちにタダ飯食わせて、なんの紐も付けずに自由に……なんてことしないと思うんですよ。

 日本みたいな平和な国じゃないんだろうし……。
 だって召喚までしてるんだよ。
 そんな人たちに叛意アリとか思われたら、なにされるかわかったもんじゃない。発言には気をつけてくださいね」


 たっぷりと脅しを含んだ声色で説明する。

 せっかく数少ない同郷の人間だ。
 生き残って欲しいし、この世界の人脈にしたい。
 さらに、恩を売っといてなにかあったら頼りたい。


「だから、そーいう話するのなら、彼らのわからない日本語で話した方がいいかなと」

「しかし、どうやったらいいか――
 自然に翻訳されるんですよね?」
 
「おおぅ。返事しなくていいって言ったのに……。
 ばれますって……」

「す、すみません……」

 こいつバカなの?
 それとも俺の話、通じてない?

 横の黒髪巨乳ちゃんも、さすがにイケメン君の袖を引っ張って注意してる。

 
『たぶんですが、意識してオンオフはできるはずです。
 「これから日本語で話す」と念じれば日本語になりますよ。
 試しに喋ってみてください』

 大量の本棚。
 それを端から端まで歩いてチェックしてるイノリさん。
 彼女が突然こっちを向いて教えてくれる。



「イッノリーン! ココであったが千年目!
 いざ尋常にしょ~~ぶっ★彡」

 ギャルがなにをトチ狂ったのか、アニメキャラみたいな声でポーズ決め、イノリさんを指差した。


『……』

「はっ……」

 慌てるギャル。
 思わず口走ってしまったのか。あたふたと、お友達二人になにか言い訳してる。
 そのお友達は「なに言ってんだコイツ」という顔で、ご乱心ギャルを見ていた。


「……あ、あの……」

『安心してください。大丈夫ですよ。
 魔力も検知されていません。
 ちゃんと日本語になっています』

 あ、翻訳のオンオフ試してたのね。


 顔を赤くしたギャルが「ふんっ、それならよかった」とそっぽを向く。

 そんな、不自然なギャルの意図を理解したのか、お友達二人もイノリさんに適当な言葉で話しかけ、判定してもらっていた。


「これで、安心して話せますね」

 いー笑顔で、イケメン君が何事もなかったかのように話し始める。
 おい、なんだか落ち込んでいるギャルはほっといてもいいのか?


「しかし、倉井さんはこれからどうするんですか?
 とりあえず俺たちは、明日から魔王と戦うための訓練をさせられるようです」


「って、今。さりげに重要な言葉ワードをぶちこんできたよね、君――」

 考えてなかった訳ではない。
 そりゃ、勇者がいるんなら魔王もいるよな。


「ああ、説明してなかったですよね。
 南にあるレムノスと呼ばれる迷宮に、ヒュプノスと呼ばれる魔王が現れたそうです」

 ここから、イケメン君の顔に不安の影が落ちる。


「その魔王と戦うため、俺たち勇者が召喚されたみたいです。
 敵対国に、そのダンジョンがあるらしくて――
 もしかしたら、その国が魔王と繋がっているかもしれない、それだと戦争になるかもしれない、とも言ってました……」



「そ、それは大変だね……」

 ヤベー、勇者じゃなくてよかった。
 イノリさんところに召喚されて、ホントよかった。
 戦争とか嫌すぎる。命がいくらあっても足りない。


「だ、だから倉井さん! 助けて欲しいんです。
 俺たち今、子供しかいません。
 さっきみたいな、大人の視点で俺たちを――」

「ちょ、ちょいまった。落ち着け」


 巻き込まれてたまるか。

 そりゃ、少しは助けてやりたいと思うが、そんなのに付き合ってたら、命がいくらあってもたりない。


「だいたいね、俺は君たちみたいに加護を授かってないし、今はね、ホラっ、牢屋ですし」

「そ、それなら、俺たちからも牢屋から出れるようお願いしてみます!
 だから、ぜひ、おねがいしますっ!」



 頭、下げられた。
 痛い、痛い、心が痛い。
 でも、命あってのなんとやらだ。全力で逃げさせてもらう。

「でもなぁ、俺なんかが、力になれるとも――」

「悠斗君! こんな人に頭下げる必要ないよっ!
 ほら、なんだかんだ言って逃げようとしてるし、ぶさぃ…で信用できないし!」

 おい、巨乳ちゃん。
 おめー、今さりげに小さい声で、顔ディスったな。
 おっさん、ギャン泣きするぞ。


「お姫様も、敵国のスパイかもしれないって言ってたよっ! 
 全然信用できない! ぶさ…ぃくで目が怖いし!」


 また、言った! 言ったよね!?

 巨乳ちゃん、本音漏れてるって!
 俺の顔が一番気に入らない要員なんですね。ひでぇ。

 つ、つらい。マジでギャン泣き五秒前だ。


「お、おちつけ、美優。
 倉井さんとは色々と――」

 騒ぎ出した俺たちに、驚いた衛兵たちが駆けつけてくる。

 室内は騒然となり、俺たちの会話そっちのけで、イノリさんを観察していたギャルも、さすがに異変に気がつく。

 消える立体映像のイノリさん。
 名残惜しそうにギャルはそれを見つめる。

 話も途中で切り上げることとなり、俺は再び牢屋にぶち込まれることになった。
 黒髪巨乳ちゃんの態度に、思ったよりダメージを受けてる自分がいる。


 抵抗する気も湧かないまま、俺は引きずられていった。

 
 さて、これからどうしよう。
 とりあえず牢屋で泣くのは決まりだ。








§
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