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二、撃てないマタギ
二
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――此処はどこだ? 頬が熱い……俺は今、どうなっているんだ?
「おい、小僧。こやつ、目が覚めたぞ」
青年がゆっくり瞼を開けると、おかっぱで黒水晶のような綺麗な瞳をした女の姿がぼんやりと見え始めた。
「……? お前、誰だ? めんけえな」
「お前とは無礼だな。儂は山神じゃ」
――この娘、何を言っているんだ? ああ、そうか。これは夢か……。
「山神様。この人、混乱しでるス。ほら、また目どご閉じ始めだ」
意識が遠のく中、聞き覚えのある声に青年は瞼を全開し、バネのような勢いで上半身を起こして声の方向に顔を向けた。
「お前! よぐもさっきは思いっきり殴ってけだな!」
「良がった。物凄く元気だな」
拳を振り上げ、剣幕で怒鳴り込む青年に、大和は安堵の表情で応えた。彼の態度に拍子抜けした青年は、振り上げた拳を下ろす機会を失い、視線をそらして話題を変えた。
「そ、そういえば子熊が居だな。あの後、お前どが撃ったんだが?」
「子熊じゃね。民子だ」
「へ?」
大和は無防備に休んでいた民子の前脚を持ち上げて青年に見せた。万歳した状態の民子を見て青年は目を丸くした。
「ただの子熊じゃね! こいつは『ミナグロ』だ!」
「え?」
驚いた大和は民子の胸元を凝視する――民子の胸元には三日月模様が無かった。
「今頃になって気付いたのか、この愚か者」
山神は呆れ顔になっていた。
ミナグロとは三日月模様を持たないツキノワグマのことで『神の使い』と言われている。そのため、マタギ界ではミナグロを殺すことは禁忌とされ、万が一でも殺した場合はマタギ界を引退せざるおえないくらい、重い罪にあたる。
「おい、お前。小僧に救われたな」
「ふん……そいだばどうだべな」
顔に影を落とした青年は再び銃を構え、民子に銃口を向けた。
山神と大和は、先程まで強気だった青年の意外な様子に目を疑った。
「……俺が止めるまでもなく、こいだば撃てねな」
青年が構える銃はガタガタと震え、獲物に焦点を合わせることが出来ない。素人以下だ。
「情けねども、今だばこんた有り様よ」
重苦しい表情で青年は銃を下げる。
「……昔だば撃てたんだか?」
「んだ、別に信じてけねぐてもいいけどな」
吐き捨てるように佐介は言ったが、大和は彼の銃を一瞥すると、その言葉を拾い上げた。
「いや、信じる。お前の銃だばしっかりど手入れがされている。好きでねば、そうはならね」
大和の率直な言葉に、やさぐれていた青年に兆しが見え始めたようだ。青年の表情はにわかに軽くなっていた。
「俺、佐介。上杉佐介っていうんだ! お前、いい奴だったんだずなぁ!」
「俺は、大和だ。藤島大和」
突然、大和の両肩を力強く掴むと、佐介は瞳を輝かせ、
「大和! 俺さだばこの銃しかねえんだ。早ぐ熊どご撃たねば……金銭が必要なんだ!」
「……ん、んだか」
前のめり気味に話す佐介と、それに戸惑う大和を山神は面白い動物を観察するかのようにじっと眺めていた。
「おい、小僧。こやつ、目が覚めたぞ」
青年がゆっくり瞼を開けると、おかっぱで黒水晶のような綺麗な瞳をした女の姿がぼんやりと見え始めた。
「……? お前、誰だ? めんけえな」
「お前とは無礼だな。儂は山神じゃ」
――この娘、何を言っているんだ? ああ、そうか。これは夢か……。
「山神様。この人、混乱しでるス。ほら、また目どご閉じ始めだ」
意識が遠のく中、聞き覚えのある声に青年は瞼を全開し、バネのような勢いで上半身を起こして声の方向に顔を向けた。
「お前! よぐもさっきは思いっきり殴ってけだな!」
「良がった。物凄く元気だな」
拳を振り上げ、剣幕で怒鳴り込む青年に、大和は安堵の表情で応えた。彼の態度に拍子抜けした青年は、振り上げた拳を下ろす機会を失い、視線をそらして話題を変えた。
「そ、そういえば子熊が居だな。あの後、お前どが撃ったんだが?」
「子熊じゃね。民子だ」
「へ?」
大和は無防備に休んでいた民子の前脚を持ち上げて青年に見せた。万歳した状態の民子を見て青年は目を丸くした。
「ただの子熊じゃね! こいつは『ミナグロ』だ!」
「え?」
驚いた大和は民子の胸元を凝視する――民子の胸元には三日月模様が無かった。
「今頃になって気付いたのか、この愚か者」
山神は呆れ顔になっていた。
ミナグロとは三日月模様を持たないツキノワグマのことで『神の使い』と言われている。そのため、マタギ界ではミナグロを殺すことは禁忌とされ、万が一でも殺した場合はマタギ界を引退せざるおえないくらい、重い罪にあたる。
「おい、お前。小僧に救われたな」
「ふん……そいだばどうだべな」
顔に影を落とした青年は再び銃を構え、民子に銃口を向けた。
山神と大和は、先程まで強気だった青年の意外な様子に目を疑った。
「……俺が止めるまでもなく、こいだば撃てねな」
青年が構える銃はガタガタと震え、獲物に焦点を合わせることが出来ない。素人以下だ。
「情けねども、今だばこんた有り様よ」
重苦しい表情で青年は銃を下げる。
「……昔だば撃てたんだか?」
「んだ、別に信じてけねぐてもいいけどな」
吐き捨てるように佐介は言ったが、大和は彼の銃を一瞥すると、その言葉を拾い上げた。
「いや、信じる。お前の銃だばしっかりど手入れがされている。好きでねば、そうはならね」
大和の率直な言葉に、やさぐれていた青年に兆しが見え始めたようだ。青年の表情はにわかに軽くなっていた。
「俺、佐介。上杉佐介っていうんだ! お前、いい奴だったんだずなぁ!」
「俺は、大和だ。藤島大和」
突然、大和の両肩を力強く掴むと、佐介は瞳を輝かせ、
「大和! 俺さだばこの銃しかねえんだ。早ぐ熊どご撃たねば……金銭が必要なんだ!」
「……ん、んだか」
前のめり気味に話す佐介と、それに戸惑う大和を山神は面白い動物を観察するかのようにじっと眺めていた。
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