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九、地獄谷の神
四
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「俺、こんた山、初めて見たど。腐った卵みてえに臭いし……なんだか死んだ山みてえだな」
河原毛地獄に着いて早々、佐介が驚くのは無理はない。
この山は一面、灰色の大地で地面からは有毒ガスが所々に噴き出している。硫黄臭が酷く、動物どころか植物すら生えていない、無の地であった。
民子を山の麓に待機させた後、有毒ガスに気をつけながら三人が山の頂上付近まで到達すると、高さ二間位の石碑が建てられていた。此処で何かが祀られているようだ。
「おい! いい加減、儂らをからかっていないで出て来たらどうじゃ!?」
山神は石碑に向かって怒鳴りつけた。
「あら、気づいていたのぉ?」
佐介の背後から、透き通るような声が聞こえた。
「!? どわぁっ!! あの時の幽霊でねが!?」
振り向くやいなや、佐介は驚き飛び跳ねた。彼の背後には絹のような白銀の髪と青白い肌に、緋色の目をした女性が立っていた。妖艶で儚げな姿は人間の域を超えている。
「この女が、地獄谷の神じゃ」
『え!?』
山神に言われ、辰巳と佐介は女を凝視すると、女の頬がほんのり明るくなった。
「こんな素敵な二人の殿方に、そんな熱い眼差しを向けられたら……駄目よぉ。惚れてしまうわぁ」
桃色になった頬を両手で覆い隠しながら女が言うと、山神は鼻で笑った。
「はんっ。久しぶりに貴様を見たが、相変わらずじゃな。阿婆擦れ女」
女の顔色が変わると、彼女は山神を睨みつけた。
「ふんっ。貴方に言われたくないわぁ。この、性悪女! あ、いつもは熊の姿だから性悪熊女かしらぁ!?」
「なんじゃと!? ぐぬぬぬぬっ……」
会って早々、彼女たちは火花を散らしている。それを目の前にして、ドン引きした辰巳と佐介は、思わず三歩後ずさった。
「辰巳さん……女って、熊よりも恐ろしいがも……」
「んだな……女どこ怒らせてはいげねな」
だけど……と、どうしても地獄谷の神だという女の容姿が気になる辰巳は、睨み合っている彼女たちの間に割って入った。
「お取り込み中、すまねス。貴方様は、もしかして雪女さんでねスべが?」
「!? 貴方、何故その名前を……?」
「それだけではないだろう? キヨは貴様じゃな? ……正確に言えば、キヨの魂を口寄せしたな!?」
辰巳と山神に言い寄られ、地獄谷の神は観念したと言わんばかりに溜息をついた。
「……そうよぉ。私が雪女。人間は私のこと、雪女って言ってるわねぇ。そして、山神の言う通り、キヨを口寄せしたわぁ。彼女はこの山に遺恨を残して逝ったわ。まさか貴方の身体がキヨの遺恨の対象だったなんてねぇ。キヨの魂が私に纏わりついて煩いから、貴方に会わせたのよぉ」
結局、新たな遺恨を残したまま彼女の魂は消えたわ。と、雪女は皮肉混じりに笑った。
「……という理由じゃ。分かったか?」
山神が佐介に目を向けると、彼は口をあんぐりと開いて固まっていた。
「したっけ雪女さん、十七年前に赤子を産んでねスべか? 櫻井松陰という男を覚えているべか!?」
辰巳は必死だった。雪女は驚き、訝しむように彼を見て言った。
「貴方、何故それを……!? 私の息子を知っているの!? 松陰さんは生きているの!? あの時、鬼熊に殺されていなかったの――!?」
河原毛地獄に着いて早々、佐介が驚くのは無理はない。
この山は一面、灰色の大地で地面からは有毒ガスが所々に噴き出している。硫黄臭が酷く、動物どころか植物すら生えていない、無の地であった。
民子を山の麓に待機させた後、有毒ガスに気をつけながら三人が山の頂上付近まで到達すると、高さ二間位の石碑が建てられていた。此処で何かが祀られているようだ。
「おい! いい加減、儂らをからかっていないで出て来たらどうじゃ!?」
山神は石碑に向かって怒鳴りつけた。
「あら、気づいていたのぉ?」
佐介の背後から、透き通るような声が聞こえた。
「!? どわぁっ!! あの時の幽霊でねが!?」
振り向くやいなや、佐介は驚き飛び跳ねた。彼の背後には絹のような白銀の髪と青白い肌に、緋色の目をした女性が立っていた。妖艶で儚げな姿は人間の域を超えている。
「この女が、地獄谷の神じゃ」
『え!?』
山神に言われ、辰巳と佐介は女を凝視すると、女の頬がほんのり明るくなった。
「こんな素敵な二人の殿方に、そんな熱い眼差しを向けられたら……駄目よぉ。惚れてしまうわぁ」
桃色になった頬を両手で覆い隠しながら女が言うと、山神は鼻で笑った。
「はんっ。久しぶりに貴様を見たが、相変わらずじゃな。阿婆擦れ女」
女の顔色が変わると、彼女は山神を睨みつけた。
「ふんっ。貴方に言われたくないわぁ。この、性悪女! あ、いつもは熊の姿だから性悪熊女かしらぁ!?」
「なんじゃと!? ぐぬぬぬぬっ……」
会って早々、彼女たちは火花を散らしている。それを目の前にして、ドン引きした辰巳と佐介は、思わず三歩後ずさった。
「辰巳さん……女って、熊よりも恐ろしいがも……」
「んだな……女どこ怒らせてはいげねな」
だけど……と、どうしても地獄谷の神だという女の容姿が気になる辰巳は、睨み合っている彼女たちの間に割って入った。
「お取り込み中、すまねス。貴方様は、もしかして雪女さんでねスべが?」
「!? 貴方、何故その名前を……?」
「それだけではないだろう? キヨは貴様じゃな? ……正確に言えば、キヨの魂を口寄せしたな!?」
辰巳と山神に言い寄られ、地獄谷の神は観念したと言わんばかりに溜息をついた。
「……そうよぉ。私が雪女。人間は私のこと、雪女って言ってるわねぇ。そして、山神の言う通り、キヨを口寄せしたわぁ。彼女はこの山に遺恨を残して逝ったわ。まさか貴方の身体がキヨの遺恨の対象だったなんてねぇ。キヨの魂が私に纏わりついて煩いから、貴方に会わせたのよぉ」
結局、新たな遺恨を残したまま彼女の魂は消えたわ。と、雪女は皮肉混じりに笑った。
「……という理由じゃ。分かったか?」
山神が佐介に目を向けると、彼は口をあんぐりと開いて固まっていた。
「したっけ雪女さん、十七年前に赤子を産んでねスべか? 櫻井松陰という男を覚えているべか!?」
辰巳は必死だった。雪女は驚き、訝しむように彼を見て言った。
「貴方、何故それを……!? 私の息子を知っているの!? 松陰さんは生きているの!? あの時、鬼熊に殺されていなかったの――!?」
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