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十三、穴持たず
一
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霜枯れ時が過ぎ、阿仁集落は辺り一面雪景色になった。森吉山では熊が巣穴に入って冬眠を始める頃だ。この季節、マタギ達は冬眠明けの熊撃ち、所謂、巻狩りに備え、熊の巣穴を探すことがある。中には冬眠中の熊を狙うマタギもいた。冬眠中の熊は栄養を十分に蓄えている為、熊の胆も肥っており、一層高値で売れる。
竹蔵、勘吉、六郎の三人は、日の出前から山入りし、一獲千金を狙い、雪山で熊を仕留めようと目をギラつかせていた。とは言え、過去に巻狩りで仕留めた辺りの熊穴を数カ所探して見てみたが、熊は一頭も居なかった。熊だって馬鹿ではない。毎年新しい巣穴を探し、身を隠す為に岩や石で穴を隠すことだってある。
昇りきった太陽が傾きはじめた頃、
「今日だば諦めて、羚羊どこ狙うべ」
六郎がふうふうと、息をきらせて竹蔵に言った。勘吉も六郎に賛同するように頷いている。普段の森吉山は曇天と大雪で視界が悪いのだが、今日は山の機嫌が良く、天気に恵まれていた。こんな絶好の機会を逃すのは惜しい。諦めきれない竹蔵はどうしたものかと悩んでいると、ブナの大木が目に入った。
「あいだば良い! お前ら、あっちゃさある大木どこ確認して、熊が居ねば諦めるど」
竹蔵が指した方向に二人は目を向けると、それくらいなら、と頷いた。
三人は大木に近づいて幹を確認する。
「……あった。カガリだ!」
当たりだ! と竹蔵が目を輝かせた。
幹には、まだ新しい熊の齧り跡が残っていた。これをマタギは「カガリ」と呼んでいた。諸説あるが、カガリは熊の縄張りを示すようなものであった為、この跡があれば大木の洞で熊が冬眠している可能性が高い。
三人は顔を合わせて頷くと、静かに各々の配置についた。
勢子の六郎は木の洞の側で、大きなヘラのような形をしたコナガイという武器を持ち、構えた。竹蔵と勘吉は巣穴から出てきた瞬間、熊の頭を撃つため、竹蔵は後頭部が狙える巣穴の背後側へ、勘吉は側頭部がねらえる側面側へと射場についた。
「へば、いくど!」
六郎が叫ぶと、コナガイを使って力強く大木の幹をバァンバァン! と叩く。木の空洞では煩い音が頭に痛く響くだろう。
叩き続けて暫くすると、黒い影がのそり、と穴から突き出してきた。
――今だ!!
一発で仕留めたい竹蔵が、黒い影の先端を狙って銃を撃った。
黒い影が止まった。――が、再び動き出した。
「クソ! まだだ! 勘吉!」
わかっている! と勘吉も銃を撃つ。
側頭部を外れて胴体に二発目の弾を受けた黒い影は、苦しそうに鳴いた後、ピクリとも動かなくなった。
「――勝負! 勝負!」
近くで熊の状態を確認した六郎の勝負声に、竹蔵と勘吉が肩の力を抜いた。
「この獲物は俺ら三人で山分けだ!!」
仕留めた熊は、重さ二十貫位のまだ若い熊だった。それを見下ろしながら、竹蔵は満足げに笑った。
……ザク、ザク……。……グウゥゥゥゥ……。
「……?」
僅かな雪の音と低い唸り声が背後から聞こえ、不思議に思った勘吉が振り返ると、彼は言葉を失った。彼らの居る十間ほど先で三百貫以上の重さがあるであろう、黒い毛並みの巨大な熊が彼らを見据えていた。
勘吉がその熊をしっかりと認識する間もなく、熊は赤い目を光らせて彼らに向かって走り出した――。
竹蔵、勘吉、六郎の三人は、日の出前から山入りし、一獲千金を狙い、雪山で熊を仕留めようと目をギラつかせていた。とは言え、過去に巻狩りで仕留めた辺りの熊穴を数カ所探して見てみたが、熊は一頭も居なかった。熊だって馬鹿ではない。毎年新しい巣穴を探し、身を隠す為に岩や石で穴を隠すことだってある。
昇りきった太陽が傾きはじめた頃、
「今日だば諦めて、羚羊どこ狙うべ」
六郎がふうふうと、息をきらせて竹蔵に言った。勘吉も六郎に賛同するように頷いている。普段の森吉山は曇天と大雪で視界が悪いのだが、今日は山の機嫌が良く、天気に恵まれていた。こんな絶好の機会を逃すのは惜しい。諦めきれない竹蔵はどうしたものかと悩んでいると、ブナの大木が目に入った。
「あいだば良い! お前ら、あっちゃさある大木どこ確認して、熊が居ねば諦めるど」
竹蔵が指した方向に二人は目を向けると、それくらいなら、と頷いた。
三人は大木に近づいて幹を確認する。
「……あった。カガリだ!」
当たりだ! と竹蔵が目を輝かせた。
幹には、まだ新しい熊の齧り跡が残っていた。これをマタギは「カガリ」と呼んでいた。諸説あるが、カガリは熊の縄張りを示すようなものであった為、この跡があれば大木の洞で熊が冬眠している可能性が高い。
三人は顔を合わせて頷くと、静かに各々の配置についた。
勢子の六郎は木の洞の側で、大きなヘラのような形をしたコナガイという武器を持ち、構えた。竹蔵と勘吉は巣穴から出てきた瞬間、熊の頭を撃つため、竹蔵は後頭部が狙える巣穴の背後側へ、勘吉は側頭部がねらえる側面側へと射場についた。
「へば、いくど!」
六郎が叫ぶと、コナガイを使って力強く大木の幹をバァンバァン! と叩く。木の空洞では煩い音が頭に痛く響くだろう。
叩き続けて暫くすると、黒い影がのそり、と穴から突き出してきた。
――今だ!!
一発で仕留めたい竹蔵が、黒い影の先端を狙って銃を撃った。
黒い影が止まった。――が、再び動き出した。
「クソ! まだだ! 勘吉!」
わかっている! と勘吉も銃を撃つ。
側頭部を外れて胴体に二発目の弾を受けた黒い影は、苦しそうに鳴いた後、ピクリとも動かなくなった。
「――勝負! 勝負!」
近くで熊の状態を確認した六郎の勝負声に、竹蔵と勘吉が肩の力を抜いた。
「この獲物は俺ら三人で山分けだ!!」
仕留めた熊は、重さ二十貫位のまだ若い熊だった。それを見下ろしながら、竹蔵は満足げに笑った。
……ザク、ザク……。……グウゥゥゥゥ……。
「……?」
僅かな雪の音と低い唸り声が背後から聞こえ、不思議に思った勘吉が振り返ると、彼は言葉を失った。彼らの居る十間ほど先で三百貫以上の重さがあるであろう、黒い毛並みの巨大な熊が彼らを見据えていた。
勘吉がその熊をしっかりと認識する間もなく、熊は赤い目を光らせて彼らに向かって走り出した――。
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