緋色ノ叉鬼

越子

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十四、薬売りの与太話

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『俺は、おどこ信じでらよ!』

 皆が寝静まった深夜。今、佐介の頭の中は大和の言葉がぐるぐると回っている。

(こんた事になるなら、はえぐ言ってけれよ大和……)

 佐介が大和の言葉の本当の意味を今、知ることになった。

 最初は布団が二つ敷かれ、山神と佐介はそれぞれの布団で寝ていた。……はずなのに。

(なして山神様は俺の身体さ引っ付いてらんだ!?)

 いつの間にか山神は佐介の布団に潜り込み、暖を取るように彼の身体にピタリとくっついて寝ている。

 ――彼女は無防備だ。

 以前の記憶が蘇る。山神には男性に対する危機感が無い。今まで直接人間と接することが無かったから当然といえば当然なのだが。

 佐介の硬い胸板に柔らかいモノがあたった。夜目が利く彼は山神を見ると、彼女の着物は少しはだけており、白玉みたいに白くハリのある肌が見えると、佐介の視線は釘付けになった。

 彼女の胸元から谷間がちらりと見える。

 咲希は小柄で見た目は少し幼いが、身体は今年十八歳になる立派な女性だった。

 佐介は生唾をゴクリと飲み込んだ。

(こいだば……目の毒だ!! 大和、助けてけれ!!)

 この寒い季節、毎晩大和がこの生き地獄に耐えていたかと思うと、佐介は尊敬の念すら抱いてしまう。

 間違えて山神に手を出そうものなら、と思うと頭に浮かんでくるのは大和の殺気に満ちた顔と、佳代の汚物を見るような顔だった。

 理性はある。だが、本能もある。速い鼓動に全身が波打ち、意に反して身体が疼き始める。

 ――俺自身に負けてたまるかぁぁ!! ……だけど、

 このままでは色んな意味で身が持たないと思った佐介は、起こさないようにそっと山神の身体を引き剥がすと、忍び足で板の間の戸を開けた。

「勝ち負けの問題でね。始めっからこうせばがったんだ」

 板の間では、大和が昏々と眠りについている。囲炉裏を挟んで大和の対面側に寝っ転がると、気が抜けた佐介は深い眠りについた。



   ◇ ◇ ◇



 山神が寒さを感じて目が覚めると、佐介の布団の中にいた。だが、そこに佐介は居ない。

(佐介の奴、何処へ行ったのじゃ?)

 着物がはだけたまま、寝ぼけ眼で板の間の戸を開けると、囲炉裏を挟んで大和と佐介が雑魚寝をしていた。

 山神はブルッと体を震わせ、「よく、こんな寒い所で寝られるな」と呟き、自分が寝ていた部屋から掛け布団を大和と佐介に掛けてあげた。

(あ、儂の掛け布団がなくなったではないか! どうしてくれる!?)

 山神は自分のした事に苛立ったが、大和の寝姿が目に入ると変な誘惑に駆られた。

 ――大和の身体で暖を取りたい。

 惹きつけられるように山神が大和の掛け布団に潜り込み、横を向いて寝ている彼の背中に引っ付くと、彼の温もりに安心感を覚える。そして彼の匂いに全身が満たされ、彼女は笑みをこぼす。

 ――今、儂は大和を独り占めしている!



   ◇ ◇ ◇



 早朝、まだ辺りが薄暗い時間。朝餉当番だった右京が目覚め、白い息をはぁ~っと出し、背中を丸めながら板の間の戸を開けると、思考が止まった。

「――何でこうなるの!?」

 彼が見た光景は、板の間でいびきをかいて寝ている佐介と、大和に引っ付いて寝ている山神の姿だった。

「右京? ……ようやぐ朝か……」

 ゆっくり身体を起こした大和と目が合うと「俺が聞きてえよ」と、彼は眠そうな顔で右京に安堵の溜息をついた。
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