緋色ノ叉鬼

越子

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十四、薬売りの与太話

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「――あれから十八年が経ち、父は病で他界しました。今となっては誰も信じてくれません。これが私の与太話です」

 清兵衛が話し終えると、周囲は静まりかえっていた。

「立山の男と、鬼神草か……確か、立山の山神は男じゃったな……」

「そ、そうなんです! 実は私、彼は山神だったのでは、と考えているのです!」

 眉間に皺を寄せて考え込みながら言った山神に、清兵衛は前のめりになって答えた。またしても山神と彼の距離が近くなったので、大和は黙って二人の距離を離した。

「そうかもね。でも、あなた達は立山の山神を怒らせちゃったんじゃない? 再び姿を現してくれるかなぁ」

 右京の言葉に皆が頷き清兵衛を見ると、「え!?」と後ずさった。

 彼は目頭を押さえて泣いていたのだ。

「皆さん、私の話を本当に信じてくれるなんて……感激です!」

 山神を目の前にして、山神を信じてくれたと感動している清兵衛に、彼女は眉をひそめた。

「……まあ、良い。大和! 立山へ行くぞ! 絶対に鬼神草を手に入れるのじゃ!」

 山神が意気揚々と大和に向かって言うと、

「山神様! 俺も行きてえ! 毎日知らねえ爺さんさ追いかけられるのだば、もう懲り懲りだ!」

「何か面白そうだから、俺も行くよ」

 佐介と右京も賛同した。

「では、私が案内人として同行します」

 彼らの様子を清兵衛は嬉しそうに眺めて言った。

「櫻井先生、したっけ俺ら長旅になるスけ。図々しいども、俺らの不在中、辰巳さんと家どこお願いしても良いべか?」

 大和が松陰に頭を下げると、松陰は「いいから頭を上げて」と、快く承諾した。

「あなた方、くれぐれも気をつけて行ってな。留守だば私さ任せで、必ず無事に帰ってな」



   ◇ ◇ ◇



 大和たちは家に帰り、いつも通り皆で夕飯を食べることにした。

 鬼熊を倒した日以来、佐介と右京は毎日大和の家に厄介になっていた。今日は加えて清兵衛も居る。

「大和、今日の飯は何じゃ?」

 土間に立つ大和の後ろで、山神がそわそわしている。

「今夜は、ぼたっこと味噌汁だスけ。あど、いぶりがっこも食うか?」

「いぶりがっこ!? 儂はそれが好きじゃ! ぼたっこも楽しみじゃのう」

 ぼたっこ、とは鮭を塩漬けにしたもので秋田の保存食として食べられている。かなり塩辛いが旨味もある為、ご飯のお供には欠かせない一品だ。

 山神が喜ぶ姿に大和は微笑んだ。

「山神様の前だば、大和良い顔するよなぁ」

 二人の様子を佐介が板の間で横になりながら眺めていると、

「あの二人は親密な関係ですか? 私、何度か彼に彼女との距離を引き離されました」

 何も事情を知らない清兵衛が訊くと、右京がハハッと笑った。

「確かにそうだね。複雑だけど親密な関係だねぇ」

 囲炉裏を囲い、皆で夕飯を済ませると、腹が満たされた山神はその場で寝っ転がった。

「ぼたっこは塩辛くて、白米が進むな! 不思議じゃのう、いつも以上に白米が甘く感じたぞ!?」

 十合炊いた米が、あっという間に空になっていた。いつも佐介が沢山食べるのだが、その彼以上に清兵衛が沢山米を食べ、平らげてしまった。豆餅といい、彼の大食漢には全員が驚かされていた。

「ああ、山神様こさ寝ねでけれ。隣の部屋さ布団っこ敷くから待っててけれ」

 佐介と右京が土間で夕飯の後片付けをしているので、必然と布団は大和が敷くことになる。そこで大和はハッと気がついた。

「寝る部屋が、二部屋しかねがった……」

 大和の家は、板の間と畳の間の三部屋しかない。畳の間は二部屋あるが其々四畳半の広さしか無いため、いつも山神と大和が一部屋を使い、佐介と右京がもう一部屋使っていた。が、客人の清兵衛が居るとなると四畳半の部屋に三人は少々限界があった。そして布団も四人分しか無かった。

「なんとせば良いべか……」

 大和が頭を抱えていると、山神は笑顔で彼の肩を叩いた。

「儂はこの板の間でも構わぬ。布団も要らぬ。暖かいからな!」

「山神様!? そいだば駄目だ! 暖かいのは今だけだ! ただでさえ、貴方は――」

「儂が、何じゃ?」

「……いや、なんでもねス」

 大和が気まずそうに顔を逸らした。

 今、板の間は暖かいが、火事になる恐れがあるため、夜通し囲炉裏を暖めることは出来なかった。助けてもらった上に、ご飯までご馳走になり、さすがに申し訳なく思った清兵衛が、自分が板の間で寝ると名乗り出た。だが、客人にそんなことはさせられないと、彼は拒んだ。

 片付けを終えた二人が板の間に上がると、大和は佐介の肩を強く掴んだ。

「右京と清兵衛さんは一緒の部屋さ寝てけれ。したっけ佐介、おは山神様と一緒の部屋さ寝てけれ!」

「え゙!?」

 仕留められた獣のように佐介の身体が固まった、更に追い打ちをかけるように大和は彼を睨んだ。

「俺が板の間で雑魚寝するスけ。……佐介、俺はおどこ信じてる!」

「……そんたに圧どこかけるくれえなら、俺が板の間で雑魚寝してぇよ。……あど、おの馬鹿力で肩、痛ぇよ」

 佐介は困惑して大和に訴えたが、ずっと睨みを利かせている彼は、佐介の肩を強く掴んだまま首を縦に振らなかった。

「俺は、おどこ信じでらよ!」

 清兵衛が「これは一体?」と首を傾げると、

「貴方もそのうちわかるよ。おかっぱ様と大和は、似た者同士だってこと――ッッッッ」

 右京は声を必死に殺して笑っていた。
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