7 / 9
七、怒り
しおりを挟む
冬の山は白魔が荒れ狂っていた。
雪煙で羚羊たちの姿が消え去り、山入りしていた辰巳たちも身体が風に吹き飛ばされそうになっていた。マタギたちが雪穴に身を潜めて天候が回復するのを待っていたが
「これ以上は危険だ。山を下りる」
マタギの長が決断し、集落へ戻ることにした。
「山神様は、何に怒っているのか……何一つ山の恵みを授かることが出来なかった」
皆、このような言葉を口にし、肩を落として帰路につく。
集落に着くと、一軒家に村人が集まっていた。それに気付いた平次が辰巳の肩を叩いた。
「おい。あの家、ハナのとこじゃないか?」
今、ハナの家に住んでいるのは父親だけだ。辰巳は胸騒ぎを覚えて、人だかりにゆっくりと近づく。
「……いたましや……いたましや」
村人の言葉に反応し、素早く人と人を掻き分けて家の中に入ると、辰巳は目を疑った――そこには、梁に縄を吊るして首を括られているハナの父親の姿があった。
自ら時を止めた振り子時計の無惨な姿に、辰巳は血の気が引いて青ざめたが、それが見慣れてくると、沸々と身体が熱くなってくるのを感じた。
――ハナは、何の為に売られた?
――ハナは、誰の為に売られた?
――ハナは、お前の為に……!
「お前が居なくなったら、ハナはどうなるんだ!」
――お前の笑顔を見たいが為に、喜んで身を売ったハナはどうなるんだ!!
辰巳の視線の先にいる顔は、笑顔とは遠くかけ離れたものだった。
身体中が熱く煮えたぎった辰巳は、雪風巻の中をもろともせずに勢いよく駆け出した。
「おい! 辰巳!!」
慌てて平次も彼の後を追い、二人は白い煙のように集落から姿を消した。
雪煙で羚羊たちの姿が消え去り、山入りしていた辰巳たちも身体が風に吹き飛ばされそうになっていた。マタギたちが雪穴に身を潜めて天候が回復するのを待っていたが
「これ以上は危険だ。山を下りる」
マタギの長が決断し、集落へ戻ることにした。
「山神様は、何に怒っているのか……何一つ山の恵みを授かることが出来なかった」
皆、このような言葉を口にし、肩を落として帰路につく。
集落に着くと、一軒家に村人が集まっていた。それに気付いた平次が辰巳の肩を叩いた。
「おい。あの家、ハナのとこじゃないか?」
今、ハナの家に住んでいるのは父親だけだ。辰巳は胸騒ぎを覚えて、人だかりにゆっくりと近づく。
「……いたましや……いたましや」
村人の言葉に反応し、素早く人と人を掻き分けて家の中に入ると、辰巳は目を疑った――そこには、梁に縄を吊るして首を括られているハナの父親の姿があった。
自ら時を止めた振り子時計の無惨な姿に、辰巳は血の気が引いて青ざめたが、それが見慣れてくると、沸々と身体が熱くなってくるのを感じた。
――ハナは、何の為に売られた?
――ハナは、誰の為に売られた?
――ハナは、お前の為に……!
「お前が居なくなったら、ハナはどうなるんだ!」
――お前の笑顔を見たいが為に、喜んで身を売ったハナはどうなるんだ!!
辰巳の視線の先にいる顔は、笑顔とは遠くかけ離れたものだった。
身体中が熱く煮えたぎった辰巳は、雪風巻の中をもろともせずに勢いよく駆け出した。
「おい! 辰巳!!」
慌てて平次も彼の後を追い、二人は白い煙のように集落から姿を消した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる