4 / 14
4
しおりを挟む
ルネが義弟となって、もう1年も経過した。
その間、エルネストは変わらずにアルトー家に訪問し、クローデットがルネと本当の姉弟のように仲睦まじくなったのと同様に、エルネストとルネも実の兄弟のように仲良くなった。
ある日、クローデットは護衛や侍女を数人連れて、エルネストとルネを誘って小高い丘にピクニックに来た。
「ピクニック仕様のダージリンのスコーンやキッシュが楽しみだわ。マドレーヌにダックワーズ、アップルパイにマカロンと色々なお菓子も持って来たのよ! 普段とは違う景色の中で食べるお菓子はきっと最高ね!」
「ははっ、ピクニックでもクゥの優先順位は全くブレないな~」
「義姉様! アップルパイは僕の好物なので、大きいやつをくださいね!」
「えぇ、もちろんよ! たくさん用意したから、ルネも好きなだけ食べてちょうだい」
楽しく会話をしながら目的地に向かう。
小高い丘の上にある自然公園の入り口までは馬車で行けるが、公園内は徒歩用と騎乗用で道が分かれている。自然の景観を大事にしている公園として有名で、家族連れや恋人とのデートで訪れる人も多い。敷地が広いため、人が混雑する事はなく、ゆっくり過ごせる場所である。
太陽光が反射する湖の周りには散歩コースもあり、木陰で休息を取っている人達がちらほらと見えた。
遮蔽物のない広い視界に映る自然の風景は心を癒し、色とりどりの花畑は人々の目を楽しませ、甘く優雅な香りが漂っている。奥に進むと樹木が増え、小さい滝が流れ込む水深3mくらいの池がある。
その近くのテーブル席を確保して、持参した軽食やお菓子をテーブルに並べ、早速、手をつける。自然を感じながら、マナーに拘る必要のない気軽な食事はより一層美味しい。時折、撫でる風も気持ちいい。
目の前の池は透明度が高く綺麗な水で、覗き込むと底が見える。平民の子供達は、夏の日差しが強く暑い日には、涼むために池に足をつけると聞いた。
お菓子もお腹いっぱい食べて満足したエルネストとルネは元気よく遊び始めた。クローデットも滝が流れ込む場所を近くで見ようと池に近づいた。
そこで足を滑らせてしまい、池に落ちてしまった。
泳ぎ方も知らず、池に落ちてしまったパニックで、クローデットは池から出ようと必死にもがく。しかし、ドレスが水を吸ってどんどん重くなり、泳げずに沈んでいく。暴れたせいで水も飲み込んでしまった。
「た……すけ…っ……す…て!…っ」
クローデットが池に落ちた音で、周りの者はすぐに気づき、護衛の男性達がクローデットを助けに動くが、パニックになっているクローデットは暴れるばかり。ただでさえ、クローデットは太っていて重いのに、そこに水を吸ったドレスの重さが加わり、池から引っ張りあげるのも容易ではなく、大人3人かがりで救助した。その時にはもうクローデットは気を失っていた。
目を覚ましたクローデットの目に入ったのは部屋の天井で、自室のベッドに寝かされていると思い至る。傍に居た侍女はクローデットが目覚めた事に気付き、目に涙を溜めた状態で声を掛けた。
「お嬢様っ……お目覚めになられて本当に良かったです。すぐに旦那様をお呼びしますので、お待ち下さいませ」
侍女は両親や医師にクローデットが目覚めた事を伝える様に他の侍女に指示すると、水差しからコップに水を入れて、クローデットに渡した。
「何か欲しいものはございますか?」
「大、じょぶ……お水、だけ…ちょ、だい」
侍女に差し出された水で喉を潤す。
クローデットは頭の中で、自分に起こった出来事を思い返した。エルネストとルネとピクニックに行き、池に落ちて溺れて、死ぬ思いをした……。
溺れた恐怖を思い出し、身震いを抑えるために両手で自分を強く抱きしめた。その時にクローデットはふと何か違和感の様なものを感じたが、それよりも体が熱く、頭がボーッとしている事に意識が取られた。疲れとか、池に落ちて身体が冷えたために熱が出て意識が朦朧してるんだ、とどこか客観的に判断した。
数人の駆けてくる足音が聞こえて扉が開くと、両親は止まる事なくベッドまで来て、クローデットを抱きしめた。2人ともクローデットの目が覚めて良かったと安堵の声をもらしていた。医師はクローデットの状況を見て風邪と診断。飲み薬を渡し、しばらくは安静にする必要がある事を告げ、両親達が部屋から出るよう誘導した。部屋には静寂だけが残り、クローデットはすぐに眠りに落ちた。
目を覚ましたら夜だった。どのくらい時間が経ったのか曖昧だったが、再び駆けつけた両親によると、5日間寝込んでいたらしい。家族もアルトー家の使用人も、ものすごく心配をしており、エルネストも毎日見舞いに来ていたとのこと。クローデットはたくさんの人に心配をかけてしまった事に申し訳なさを感じた。
まだあと数日は安静に過ごす様に言われ、それには異論もなかった。とりあえず夜だとしても空腹である事に耐えられなかったため、胃に優しいスープと食べやすいフルーツを用意してもらい、ベッドの上での食事を許してもらった。
食事だけで疲れてしまったから、もう休みたいと伝えて、部屋には誰もいなくなった。
クローデットは表面上はずっと平静を装っていたが、目覚めた時から内心はパニックを起こしていた。なぜなら、池に落ちたショックで前世の記憶を思い出していたから。
もちろん、クローデットについての認識は一切変わったり忘れたりしておらず、そこに、前世の記憶が入り込んだ状態だ。こことは別の世界の日本という国で暮らしていた黒髪黒目の平凡な見た目の女子大生で、お菓子とゲームをこよなく愛していた前の自分の記憶を、クローデットの過去の記憶と同様に『昔の記憶』として覚えているという感じである。
その間、エルネストは変わらずにアルトー家に訪問し、クローデットがルネと本当の姉弟のように仲睦まじくなったのと同様に、エルネストとルネも実の兄弟のように仲良くなった。
ある日、クローデットは護衛や侍女を数人連れて、エルネストとルネを誘って小高い丘にピクニックに来た。
「ピクニック仕様のダージリンのスコーンやキッシュが楽しみだわ。マドレーヌにダックワーズ、アップルパイにマカロンと色々なお菓子も持って来たのよ! 普段とは違う景色の中で食べるお菓子はきっと最高ね!」
「ははっ、ピクニックでもクゥの優先順位は全くブレないな~」
「義姉様! アップルパイは僕の好物なので、大きいやつをくださいね!」
「えぇ、もちろんよ! たくさん用意したから、ルネも好きなだけ食べてちょうだい」
楽しく会話をしながら目的地に向かう。
小高い丘の上にある自然公園の入り口までは馬車で行けるが、公園内は徒歩用と騎乗用で道が分かれている。自然の景観を大事にしている公園として有名で、家族連れや恋人とのデートで訪れる人も多い。敷地が広いため、人が混雑する事はなく、ゆっくり過ごせる場所である。
太陽光が反射する湖の周りには散歩コースもあり、木陰で休息を取っている人達がちらほらと見えた。
遮蔽物のない広い視界に映る自然の風景は心を癒し、色とりどりの花畑は人々の目を楽しませ、甘く優雅な香りが漂っている。奥に進むと樹木が増え、小さい滝が流れ込む水深3mくらいの池がある。
その近くのテーブル席を確保して、持参した軽食やお菓子をテーブルに並べ、早速、手をつける。自然を感じながら、マナーに拘る必要のない気軽な食事はより一層美味しい。時折、撫でる風も気持ちいい。
目の前の池は透明度が高く綺麗な水で、覗き込むと底が見える。平民の子供達は、夏の日差しが強く暑い日には、涼むために池に足をつけると聞いた。
お菓子もお腹いっぱい食べて満足したエルネストとルネは元気よく遊び始めた。クローデットも滝が流れ込む場所を近くで見ようと池に近づいた。
そこで足を滑らせてしまい、池に落ちてしまった。
泳ぎ方も知らず、池に落ちてしまったパニックで、クローデットは池から出ようと必死にもがく。しかし、ドレスが水を吸ってどんどん重くなり、泳げずに沈んでいく。暴れたせいで水も飲み込んでしまった。
「た……すけ…っ……す…て!…っ」
クローデットが池に落ちた音で、周りの者はすぐに気づき、護衛の男性達がクローデットを助けに動くが、パニックになっているクローデットは暴れるばかり。ただでさえ、クローデットは太っていて重いのに、そこに水を吸ったドレスの重さが加わり、池から引っ張りあげるのも容易ではなく、大人3人かがりで救助した。その時にはもうクローデットは気を失っていた。
目を覚ましたクローデットの目に入ったのは部屋の天井で、自室のベッドに寝かされていると思い至る。傍に居た侍女はクローデットが目覚めた事に気付き、目に涙を溜めた状態で声を掛けた。
「お嬢様っ……お目覚めになられて本当に良かったです。すぐに旦那様をお呼びしますので、お待ち下さいませ」
侍女は両親や医師にクローデットが目覚めた事を伝える様に他の侍女に指示すると、水差しからコップに水を入れて、クローデットに渡した。
「何か欲しいものはございますか?」
「大、じょぶ……お水、だけ…ちょ、だい」
侍女に差し出された水で喉を潤す。
クローデットは頭の中で、自分に起こった出来事を思い返した。エルネストとルネとピクニックに行き、池に落ちて溺れて、死ぬ思いをした……。
溺れた恐怖を思い出し、身震いを抑えるために両手で自分を強く抱きしめた。その時にクローデットはふと何か違和感の様なものを感じたが、それよりも体が熱く、頭がボーッとしている事に意識が取られた。疲れとか、池に落ちて身体が冷えたために熱が出て意識が朦朧してるんだ、とどこか客観的に判断した。
数人の駆けてくる足音が聞こえて扉が開くと、両親は止まる事なくベッドまで来て、クローデットを抱きしめた。2人ともクローデットの目が覚めて良かったと安堵の声をもらしていた。医師はクローデットの状況を見て風邪と診断。飲み薬を渡し、しばらくは安静にする必要がある事を告げ、両親達が部屋から出るよう誘導した。部屋には静寂だけが残り、クローデットはすぐに眠りに落ちた。
目を覚ましたら夜だった。どのくらい時間が経ったのか曖昧だったが、再び駆けつけた両親によると、5日間寝込んでいたらしい。家族もアルトー家の使用人も、ものすごく心配をしており、エルネストも毎日見舞いに来ていたとのこと。クローデットはたくさんの人に心配をかけてしまった事に申し訳なさを感じた。
まだあと数日は安静に過ごす様に言われ、それには異論もなかった。とりあえず夜だとしても空腹である事に耐えられなかったため、胃に優しいスープと食べやすいフルーツを用意してもらい、ベッドの上での食事を許してもらった。
食事だけで疲れてしまったから、もう休みたいと伝えて、部屋には誰もいなくなった。
クローデットは表面上はずっと平静を装っていたが、目覚めた時から内心はパニックを起こしていた。なぜなら、池に落ちたショックで前世の記憶を思い出していたから。
もちろん、クローデットについての認識は一切変わったり忘れたりしておらず、そこに、前世の記憶が入り込んだ状態だ。こことは別の世界の日本という国で暮らしていた黒髪黒目の平凡な見た目の女子大生で、お菓子とゲームをこよなく愛していた前の自分の記憶を、クローデットの過去の記憶と同様に『昔の記憶』として覚えているという感じである。
197
あなたにおすすめの小説
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる