悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました

神村結美

文字の大きさ
5 / 14

5

しおりを挟む
前世の記憶を思い出した後、クローデット・アルトーという名前に聞き覚えがある気がした。記憶を辿ったところ、最後にプレイしていた乙女ゲーム『そらささほしかがやき』に登場していたキャラクターだった気がする。

『天に捧ぐ星の輝き』、コアファンからは『天星てんせい』と呼ばれていた乙女ゲームの舞台は学園で、下位貴族にあたる令嬢が主人公。彼女は孤児院で育ったが、ある日、病気で娘を亡くしていたマリオット男爵に出逢う。娘と同じ髪と瞳の色を持つステラに縁を感じ、孤児院から引き取って養子にする。男爵令嬢となったステラは、貴族の子供たちが通う学園に入学となる。

ステラがマリオット男爵の養子となったのは13歳の時。学園は14歳から18歳の4年制で、社交界デビューは15歳。ステラがマリオット男爵の義娘となって日は浅い。本来なら時間を掛けて貴族教育を施していくところだが、学園入学までに残された時間は少ない。

王族も通う学園で『常識を知らないがために不敬な事をしでかして処罰される』なんてことがないように、ステラにしっかりと説明をした上で、最低限の貴族の常識やマナーを短期間で徹底的に、厳しめに教え込んだ。

学園入学後のステラは、男爵令嬢で目立つこともなく、学園生活や貴族令嬢の振る舞いや言葉遣いに慣れる事に必死だったため、2年ほどは男爵令嬢らしい地味で平穏な生活を送っていた。

日常が崩れるのはステラが16歳の誕生日を迎えた日。彼女の特殊能力『星読み』の力が目覚め、その力は、ある事件を通して広く知られることとなる。星読みは国の命運を左右するとも言われており、彼女は要人扱いとなった。護衛に騎士団団長子息で伯爵家のロイド・サージェントがつき、第一王子であるマクシミリアンは国王からの指示でステラの事を気にかける。王子の側近達はマクシミリアンと過ごす時間が多いため、彼らも含めてステラは仲良くなっていく。

ゲームの攻略対象は5人。メインヒーローとなる第一王子マクシミリアン・レスタンクール。宰相子息のエルネスト・ジュリオ。騎士団長子息のロイド・サージェント。公爵子息のルネ・アルトー。そして、星読みの一族の末裔で他国の王子であるクルト・アショフだ。クルトのみ特定の条件にならないと登場しないため、隠しキャラに近い。


そのメインの攻略対象者であるマクシミリアンの婚約者がクローデットで、徐々に仲良くなり楽しそうにマクシミリアンと過ごすステラに嫉妬し、酷い虐めを行う様になる。マクシミリアンはステラを庇う様になり、さらに距離が縮まっていく。

ステラとマクシミリアンが結ばれるハッピーエンドでは、卒業パーティーにてクローデットの行ってきた悪事が暴かれ、マクシミリアンに婚約破棄を言い渡される。逆上してステラに襲い掛かろうとしたため処刑となる。ノーマルエンドでは、クローデットは婚約破棄されたことに絶望して、その場に崩れ落ちる。今までの罪により国外追放。


クローデットがマクシミリアンの婚約者となるのは、誰のルートでも変わらない。そのため、ルネは確実にアルトー家の養子となる。ルネは生家で長男や次男と比較され『出来ない子』と蔑まれ、養子に迎えられたアルトー家でもクローデットに酷い扱いをされ、心が折れて無気力となり、人を信じられなくなる。自分の意思は持たず人に流されて、寄ってくる女性達も来るもの拒まずで堕落した生活を送る。そのルネを救うのがステラである。

クローデットは、基本的に傲慢で我儘、高圧的でプライドも高く、身分を笠にきてやりたい放題のため、ステラがルネと仲良くなっていく場合でも、ルネとステラの2人を蔑んで虐めぬく。

ステラがルネを選んだ場合のハッピーエンドでは、クローデットは悪行を公表され、王子から婚約破棄の後、平民に落とされる。ノーマルエンドでも婚約破棄後、修道院行きとなる。

残りの3人のルートでは、ステラはマクシミリアンとそこまで親密そうな関係にはならないため、クローデットは悪役令嬢とはならない。

しかし、ステラが誰を選ぶかによって、自分の将来が左右されるということだ。万が一、マクシミリアンかルネが選ばれた場合、婚約破棄が確定で処刑や国外追放や修道院など、明るくない未来が待っている。5人中2人ってバッドエンドの可能性は、かなり高めではないか思う……。

クローデットは乙女ゲームの内容を細かに思い出し、悪役令嬢に転生してしまったなんて……と、絶望で目の前が暗くなりそうだったが、次の瞬間に重要なことに気づいた。


あれ? そもそも第一王子のマクシミリアン殿下の婚約者ではないな、と。クローデットの婚約者は幼馴染で宰相子息のエルネストである。まぁ、エルネストも攻略対象ではあるが……。義弟のルネはエルネストも含めて仲良しで、良好な関係を築いているし、ルネにゲームの面影は一切見当たらない。

それに、ゲームでのクローデットは胸が大きく腰は細くてスタイル抜群。サラサラで艶があるプラチナブロンドに、気高さを印象付けるアメシストの紫瞳が輝く目は、少しつり上がっている。ハッキリとした整った顔立ちの、少しキツめの美人さんだった。

一方、現在は、お菓子に関しては我儘を発揮しているが、高圧的な態度は取ってないはず。ゲームのクローデットとは絶対に別人だと思える程、見た目も違う。かなり太っているせいで、美人の要素が全く見当たらない……。

『天星』の初期設定が崩壊していて、成り立っていない。大前提の第一王子の婚約者ですらないし……これって、どうなるの??


クローデットがバッドエンドになりそうなマクシミリアンルートだけど、今は王子の婚約者でもないし、自分から王子にもヒロインにも関わる気は全くない。ルネルートもすでに実の姉弟の様に仲が良く、ヒロインを虐める気もない。これはゲーム開始よりだいぶ前だけど、既にバッドエンドは回避してるって思って良いのかな??

あ、でも、今の婚約者のエルネストも攻略対象だったから、注意が必要かもしれない。

万が一、エルネストから婚約破棄されて国外追放とか平民落ちとかになったら……うーん、お菓子作りとかで生計を立てられないかな? 前世では趣味だったけどお菓子作りもしてたし、それを現世での目標にするのも楽しそう!

将来とか関係なくてもお菓子は作りたい。前世の記憶思い出したら、アレもコレも食べたくなっちゃった! 

そうだ! お菓子作りは早速明日から始めよう。この世界のお菓子の作り方も覚えたい。どんどん楽しみになってきて自然と笑顔になる。色々な未来の想像を繰り広げた所で、再びハッとした。

今までは全く気にする事はなかった私の見た目と体型。でも、前世の記憶とゲームについて思い出したせいか、気になってしまう。


そして、考えに考えた結果ーー

痩せることにした!


だって、もし、お菓子のお店を出すとなった時、こんな見た目の女性がお菓子を売っていたら買おうと思う?

否。それを食べたら、こんなに太りますよ、ってアピールでしかない……。そしたら、若い女性は購入してくれないだろう。

それに、記憶に薄らと残っている池で溺れてる時に助けてくれた人の声。「くっ……重過ぎて、俺1人じゃ引き上げられない。おい、誰か! 協力してくれ!」……もし、痩せていれば、もっと早くに助けてもらえていたということ。あんなに恐怖を感じることもなかったかもしれない。

ゲームで見た本来のクローデットはスタイルも良い美人だった。前世の一般的な感覚も知った今、痩せてあんなに綺麗になるとわかっているなら、もう痩せるしかないでしょう!

痩せた方が色々とメリットがあるのだと気づいた。だから、お菓子もカロリー控えめな物にしたり、運動も始めたりと、無理のないダイエットを進めていこうと決意した。


『天星』のゲーム開始は16歳。今は11歳だから、あと5年もある。そもそも設定も崩壊してる中、出来ることは何もない。唯一、出来る事といえば、エルネストやルネとずっと良好な関係を続けていくくらいだろう。せっかく前世のお菓子のレシピも思い出したのだから、お菓子を作って、2人に振る舞うのもいいだろう。どれを作ろうか考え始め、どんな感想が出てくるかと想像していたら、どんどん気分が盛り上がり、ゲームのことは既にどうでも良くなっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?

無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。 「いいんですか?その態度」

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

処理中です...