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学園の授業はどれも基礎的なところからで、授業はしっかりと聞いていれば、試験は大丈夫だと思われる。
クローデットは、今のところクラスメイトとは挨拶や軽い話題で少し話す程度であった。ロンサール侯爵令嬢のご友人はクローデットには積極的に話しかけることはないため、彼女の派閥なのかわかりやすい。
毎日お昼にはお菓子を持参していた。2週間ほどが経過した頃、デザートを食べ終わったタイミングを見計らって、1人の令嬢が話しかけてきた。
「あの、アルトー様、少しよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうかされましたの?」
「アルトー様が昼食時に召し上がっているお菓子についてお話をお聞きしたいのですが」
「まぁ。それならどうぞお座りになって」
「ありがとうございます」
エルネストと一緒にいるお昼時に話しかけられたのは初めてだった。エルネストは特に何も言わずに様子を窺っている。話しかけてきたのは、ミルズ伯爵令嬢だった。
彼女は目利きが得意で、彼女が立ち上げた商会は瞬く間に拡大していると聞く。ドレスやアクセサリーから、雑貨や小物に調味料など幅広く手掛けているらしい。元々ミルズ家の先祖は商人で爵位を得て、そこから伯爵まで陞爵しているため、ミルズ家の令息令嬢が商会を経営していても何の違和感もなく受け入れられている。商会を経営しているだけあって情報通らしく、信用を最も大切にしているので後ろ暗いこともなく、悪い噂も聞いたことがない。
「あの、アルトー様がいつもお昼に召し上がっているお菓子は、持参していらっしゃいますよね? 見たことのないお菓子もあるようですが、外国のお菓子でしょうか? 差し支えなければ、どちらの国のものかを教えていただけますか?」
「ふふっ、実は私が作っているのよ」
「アルトー様が自らお作りになられているのですか?! 先日の花の形をしたお菓子がとても可愛らしくて素敵で気になっていたのです。あの……、今度お持ちになられる際には、近くで見せていただけないでしょうか?」
「あぁ、アレが気になっているのね。いいわ、また今度持ってくるわ。その時にはぜひミルズ様も召し上がってね」
「いいんですか? ありがとうございます! すごく楽しみです」
お昼の休憩時間は少ししか残っていなかったので、軽くお菓子について話してから授業に向かった。
事前にエルネストには了承を得た上で、後日ミルズ伯爵令嬢をお昼に誘った。当日にお誘いして都合が悪いと困るので、もちろん数日前にはミルズ伯爵令嬢に都合を確認していた。ミルズ伯爵令嬢はエルネストとクローデットのお昼の邪魔をしたことに申し訳なさを感じているようだったが、一緒に食堂に向かいながら話をしたり、2人の態度から、徐々に緊張が抜けていった。
食事中には色々なことを話したが、興味が惹かれるものが似ていて気が合う感じがしたので、お互いクローデットとセシリアと名前で呼ぶことにした。
「さて、食事も食べ終わりましたし、デザートをいただきましょうか」
そう言ってクローデットがテーブルに出したのは、もちろんセシリアが気になっていたお菓子である。
「まぁ、これがあのお花の形のお菓子ですね。これは焼き菓子かしら? とても可愛いくて、食べるのが勿体無いくらいどれも素敵ですね!」
「こちらは、ラングドシャを花びらの形にして焼いて、それを色付けたクリームで覆って、花びらを一枚一枚くっつけて花の形にしているの。さぁ、召し上がってみて」
「サクッとした食感と程よい甘味のクリームがすごくあっていて、上品なお菓子ですね。それに、ほのかに薔薇の香りもします」
「ローズウォーターでクリームに少し香りづけをしているのよ」
「ローズウォーターですか?」
「えぇ、簡単に言うと薔薇から抽出した水よ」
「そうなんですね。技術的なところはお聞きしませんが、このお菓子や、そのローズウォーターを販売することは考えてないのですか?」
「そうね、今のところは量産できる体制も整っていないのと、しばらくは販売するつもりはないの。ごめんなさい」
「いいえ、私の方こそ差し出がましいことを…。申し訳ございません。とても素晴らしいものでしたので、つい熱が入ってしまいました」
「ふふっ、気にしないでね。もし、販売することに興味が出たら、セシリア様の商会にお声がけさせていただくわ」
「ありがとうございます。クローデット様、本日はお誘いくださり感謝申し上げます。とても美味しかったです。こちらは本日のお礼ですので、どうぞジュリオ様とお召し上がりください」
「まぁ、ありがとう。後でいただくわ」
セシリアから渡されたのは、外国のお菓子のようで、今度セシリアの商会から売り出す予定らしい。クローデットは初めて見るお菓子だったため、とても興味が湧いた。
セシリアから提案された販売については以前考えたこともあったが、万が一ゲームのような展開になってしまった場合、販売してもらう商会にも迷惑がかかることを危惧したのと、売り出してしまった後に、例えば国外追放にでもなったとしたら、他国で売る時には盗作扱いをされるかもしれない。ありとあらゆる可能性を考えた結果、急いで判断しないで、色々見極めてから手を出すことにしたのだった。
セシリアは押し付けがましくなく、気が合うこともあり信頼できると感じたので、商品として販売する時には本当に頼ろうと思う。他国にも人脈を持っていそうだったので、外国の話も聞けそうだった。単純にお菓子に興味を持ってくれたこともあったので、今後も時々セシリアも誘って一緒にお菓子を食べたりできたらいいなと思った。
友人が出来そうで少し良い気分になっていると、午後の授業が始まる。席について教師の話に耳を傾けていたら、かなり小さい音ではあったが、クローデットの隣の席から、お腹が鳴っているような音が聞こえて思わず隣を見てしまった。隣に座っているのはキャサリン・リッチモンド公爵令嬢である。まさか公爵令嬢のお腹がなるとは思わなかったが、リッチモンド公爵令嬢と目が合うと、少し照れた感じで苦笑いをしながら、お腹をさすっている……。そのまさかであった。あまりの衝撃にその授業の間は集中が出来ず、隣が気になりすぎて、授業が終わり次第すぐに小声で話しかけてしまった。
「あの、リッチモンド様、お昼は食べられていないのですか?」
「そうなの~。昨日の夜に恋愛小説を一気読みしてしまって、あまり寝てなかったのよね~。それで、お昼は食べずに寝ていたわ~」
「よろしければ、これ食べますか?」
いつも鞄に小腹が空いた時用に入れている野菜クッキーを渡す。
「いいの~? ありがとう~。いただきます」
野菜クッキーがすごい勢いでなくなっていく。リッチモンド公爵令嬢のお口にあったようだ。食べ終わるまで見守ることにした。それにしても、恋愛小説の一気読みで寝不足な上にお昼は食事を取らず寝るなんて、クローデットの前世としてはすごく共感できるが、この世界の公爵令嬢としてはあり得ないだろう。しかも、リッチモンド公爵令嬢といったら、マクシミリアン殿下の従姉妹であり、王妹が母親になるはずなので、なおさら考えられない出来事である。
「助かったわ、ありがとう~。アルトー様は救世主ね~。しかも、このクッキー、優しい味がして、とても美味しかったわ~!」
「お口にあったようで良かったですわ」
「このクッキーは、どれも野菜の味がしたけれど、野菜が入っているのかしら~?」
「えぇ、すりおろしたお野菜を生地に練り込んでますわ」
「なるほど~、とっても健康に良さそうね~」
リッチモンド公爵令嬢は少し考える素振りを見せた。
「ねぇ、このクッキーの作り方を教えてもらえないかしら~?」
「えぇ、作り方を教えるのは問題ないですわ。レシピを紙に書けばよろしいかしら?」
「できれば、直接作り方を見せていただける~? 一緒に作って、何かおかしなところがあれば指摘して欲しいのだけれど~。良いかしら~?」
「え? リッチモンド様がお菓子を作られるのですか?」
「もちろんよ~。お菓子は作ったことはないけれど、料理はやったことがあるわ~。やっぱり差し入れなら、手作りが一番ですもの~!」
「差し入れ?」
「えぇ、騎士団の見学に行く時に差し入れを持って行くのよ~」
「そうなのですね、わかりましたわ。では、調理器具も揃っているので、我が家のタウンハウスでよろしいかしら?」
「えぇ、もちろんよ~」
「材料を揃えておきますので、今度の休日などはいかがでしょうか?」
「それで大丈夫よ~! ありがとう~。よろしくお願いしますわ~」
クローデットはなぜかリッチモンド公爵令嬢に野菜クッキーの作り方を教えることになってしまった。それにしても挨拶くらいしかしていなかったので、リッチモンド公爵令嬢があのような性格や喋り方をしているのは気づかなかった。貴族令嬢としては変わっている部類になるかもしれないが、フレンドリーな感じだったので、仲良くなれるかもしれないと思った。
クローデットは、今のところクラスメイトとは挨拶や軽い話題で少し話す程度であった。ロンサール侯爵令嬢のご友人はクローデットには積極的に話しかけることはないため、彼女の派閥なのかわかりやすい。
毎日お昼にはお菓子を持参していた。2週間ほどが経過した頃、デザートを食べ終わったタイミングを見計らって、1人の令嬢が話しかけてきた。
「あの、アルトー様、少しよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうかされましたの?」
「アルトー様が昼食時に召し上がっているお菓子についてお話をお聞きしたいのですが」
「まぁ。それならどうぞお座りになって」
「ありがとうございます」
エルネストと一緒にいるお昼時に話しかけられたのは初めてだった。エルネストは特に何も言わずに様子を窺っている。話しかけてきたのは、ミルズ伯爵令嬢だった。
彼女は目利きが得意で、彼女が立ち上げた商会は瞬く間に拡大していると聞く。ドレスやアクセサリーから、雑貨や小物に調味料など幅広く手掛けているらしい。元々ミルズ家の先祖は商人で爵位を得て、そこから伯爵まで陞爵しているため、ミルズ家の令息令嬢が商会を経営していても何の違和感もなく受け入れられている。商会を経営しているだけあって情報通らしく、信用を最も大切にしているので後ろ暗いこともなく、悪い噂も聞いたことがない。
「あの、アルトー様がいつもお昼に召し上がっているお菓子は、持参していらっしゃいますよね? 見たことのないお菓子もあるようですが、外国のお菓子でしょうか? 差し支えなければ、どちらの国のものかを教えていただけますか?」
「ふふっ、実は私が作っているのよ」
「アルトー様が自らお作りになられているのですか?! 先日の花の形をしたお菓子がとても可愛らしくて素敵で気になっていたのです。あの……、今度お持ちになられる際には、近くで見せていただけないでしょうか?」
「あぁ、アレが気になっているのね。いいわ、また今度持ってくるわ。その時にはぜひミルズ様も召し上がってね」
「いいんですか? ありがとうございます! すごく楽しみです」
お昼の休憩時間は少ししか残っていなかったので、軽くお菓子について話してから授業に向かった。
事前にエルネストには了承を得た上で、後日ミルズ伯爵令嬢をお昼に誘った。当日にお誘いして都合が悪いと困るので、もちろん数日前にはミルズ伯爵令嬢に都合を確認していた。ミルズ伯爵令嬢はエルネストとクローデットのお昼の邪魔をしたことに申し訳なさを感じているようだったが、一緒に食堂に向かいながら話をしたり、2人の態度から、徐々に緊張が抜けていった。
食事中には色々なことを話したが、興味が惹かれるものが似ていて気が合う感じがしたので、お互いクローデットとセシリアと名前で呼ぶことにした。
「さて、食事も食べ終わりましたし、デザートをいただきましょうか」
そう言ってクローデットがテーブルに出したのは、もちろんセシリアが気になっていたお菓子である。
「まぁ、これがあのお花の形のお菓子ですね。これは焼き菓子かしら? とても可愛いくて、食べるのが勿体無いくらいどれも素敵ですね!」
「こちらは、ラングドシャを花びらの形にして焼いて、それを色付けたクリームで覆って、花びらを一枚一枚くっつけて花の形にしているの。さぁ、召し上がってみて」
「サクッとした食感と程よい甘味のクリームがすごくあっていて、上品なお菓子ですね。それに、ほのかに薔薇の香りもします」
「ローズウォーターでクリームに少し香りづけをしているのよ」
「ローズウォーターですか?」
「えぇ、簡単に言うと薔薇から抽出した水よ」
「そうなんですね。技術的なところはお聞きしませんが、このお菓子や、そのローズウォーターを販売することは考えてないのですか?」
「そうね、今のところは量産できる体制も整っていないのと、しばらくは販売するつもりはないの。ごめんなさい」
「いいえ、私の方こそ差し出がましいことを…。申し訳ございません。とても素晴らしいものでしたので、つい熱が入ってしまいました」
「ふふっ、気にしないでね。もし、販売することに興味が出たら、セシリア様の商会にお声がけさせていただくわ」
「ありがとうございます。クローデット様、本日はお誘いくださり感謝申し上げます。とても美味しかったです。こちらは本日のお礼ですので、どうぞジュリオ様とお召し上がりください」
「まぁ、ありがとう。後でいただくわ」
セシリアから渡されたのは、外国のお菓子のようで、今度セシリアの商会から売り出す予定らしい。クローデットは初めて見るお菓子だったため、とても興味が湧いた。
セシリアから提案された販売については以前考えたこともあったが、万が一ゲームのような展開になってしまった場合、販売してもらう商会にも迷惑がかかることを危惧したのと、売り出してしまった後に、例えば国外追放にでもなったとしたら、他国で売る時には盗作扱いをされるかもしれない。ありとあらゆる可能性を考えた結果、急いで判断しないで、色々見極めてから手を出すことにしたのだった。
セシリアは押し付けがましくなく、気が合うこともあり信頼できると感じたので、商品として販売する時には本当に頼ろうと思う。他国にも人脈を持っていそうだったので、外国の話も聞けそうだった。単純にお菓子に興味を持ってくれたこともあったので、今後も時々セシリアも誘って一緒にお菓子を食べたりできたらいいなと思った。
友人が出来そうで少し良い気分になっていると、午後の授業が始まる。席について教師の話に耳を傾けていたら、かなり小さい音ではあったが、クローデットの隣の席から、お腹が鳴っているような音が聞こえて思わず隣を見てしまった。隣に座っているのはキャサリン・リッチモンド公爵令嬢である。まさか公爵令嬢のお腹がなるとは思わなかったが、リッチモンド公爵令嬢と目が合うと、少し照れた感じで苦笑いをしながら、お腹をさすっている……。そのまさかであった。あまりの衝撃にその授業の間は集中が出来ず、隣が気になりすぎて、授業が終わり次第すぐに小声で話しかけてしまった。
「あの、リッチモンド様、お昼は食べられていないのですか?」
「そうなの~。昨日の夜に恋愛小説を一気読みしてしまって、あまり寝てなかったのよね~。それで、お昼は食べずに寝ていたわ~」
「よろしければ、これ食べますか?」
いつも鞄に小腹が空いた時用に入れている野菜クッキーを渡す。
「いいの~? ありがとう~。いただきます」
野菜クッキーがすごい勢いでなくなっていく。リッチモンド公爵令嬢のお口にあったようだ。食べ終わるまで見守ることにした。それにしても、恋愛小説の一気読みで寝不足な上にお昼は食事を取らず寝るなんて、クローデットの前世としてはすごく共感できるが、この世界の公爵令嬢としてはあり得ないだろう。しかも、リッチモンド公爵令嬢といったら、マクシミリアン殿下の従姉妹であり、王妹が母親になるはずなので、なおさら考えられない出来事である。
「助かったわ、ありがとう~。アルトー様は救世主ね~。しかも、このクッキー、優しい味がして、とても美味しかったわ~!」
「お口にあったようで良かったですわ」
「このクッキーは、どれも野菜の味がしたけれど、野菜が入っているのかしら~?」
「えぇ、すりおろしたお野菜を生地に練り込んでますわ」
「なるほど~、とっても健康に良さそうね~」
リッチモンド公爵令嬢は少し考える素振りを見せた。
「ねぇ、このクッキーの作り方を教えてもらえないかしら~?」
「えぇ、作り方を教えるのは問題ないですわ。レシピを紙に書けばよろしいかしら?」
「できれば、直接作り方を見せていただける~? 一緒に作って、何かおかしなところがあれば指摘して欲しいのだけれど~。良いかしら~?」
「え? リッチモンド様がお菓子を作られるのですか?」
「もちろんよ~。お菓子は作ったことはないけれど、料理はやったことがあるわ~。やっぱり差し入れなら、手作りが一番ですもの~!」
「差し入れ?」
「えぇ、騎士団の見学に行く時に差し入れを持って行くのよ~」
「そうなのですね、わかりましたわ。では、調理器具も揃っているので、我が家のタウンハウスでよろしいかしら?」
「えぇ、もちろんよ~」
「材料を揃えておきますので、今度の休日などはいかがでしょうか?」
「それで大丈夫よ~! ありがとう~。よろしくお願いしますわ~」
クローデットはなぜかリッチモンド公爵令嬢に野菜クッキーの作り方を教えることになってしまった。それにしても挨拶くらいしかしていなかったので、リッチモンド公爵令嬢があのような性格や喋り方をしているのは気づかなかった。貴族令嬢としては変わっている部類になるかもしれないが、フレンドリーな感じだったので、仲良くなれるかもしれないと思った。
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