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第6章 <閑話> それぞれの胸中編
元奴隷侍女ロザリン -1-
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今よりももっと幼かった時のことなど、もう殆ど覚えていなかった。
唯一、記憶にあるのは両親に「お前は病弱なんだから1人で外に行ってはいけないよ」と毎日言われ続けたことくらいだ。
本当に赤児の頃から毎日毎日言われていたので、自分にとっては挨拶の1種みたいなもので、両親の願い虚しく危機感なんて持っていなかったのだと後になって思った。
きっかけは、些細なことだ。
いつも壁板の隙間から覗き見ていた外の景色。
ついこの間、咲いたばかりの小さな花を見ていたらそこに多様種の蝶が飛んできて止まった。
幼心に触ってみたい、などと思ったのがいけなかった。
両親が村の寄り合いで家に居なかったのも、状況を悪化させるのを助長した。
(ちょっとだけ。ちょっとだけだから……)
自分が何の病気かも何故、外に出てはいけなかったのかも分からなかったので、本当に出来心でしかなかった程度の衝動で家の外に出て、花に止まっている蝶に手を伸ばし、後少しで触れる、くらいのタイミングでそう遠くない場所から悲鳴が上がった。
驚いて何が起こったのか、と声のした方を見たら物凄い形相をした知らない人と目が合った。
「奇形種よ! 呪われた子がいるわ‼︎」
母親と同じような身体の特徴を持った声が、そう叫んで何処かへ駆け去って行った。
何だか嫌な感じがして、ロザリンも慌てて家の中へと戻ったが、それで何が変わった訳でもなかった。
周囲を捜索して何処にも目撃された奇形種がいない、となった村の者達は「家の中に隠れた可能性があるから中を捜索させろ」と両親に詰め寄って、最終的にはそれを強行し、発見されたロザリンは村の者達に引き摺り出された。
木の枝で打たれり、蹴飛ばされたりしても両親は俯いているだけで助けてはくれなかった。
自分がこの家の子だと分かったら両親も同じ目に遭うからだろうか、と考えた。
「この悪魔の子が!」
「呪われた忌み子がどうして村に、バラクとナミアの家に居るのよ!」
「こ、この家の子を食べてやった!」
「⁈」
「子供を食べるとわたしも普通になれるって聞いて食べてみたかった! 美味しかった!」
そんな話しは聞いたこともなかったし、この家の子は自分なので信じてくれないかもしれない、と思いながらも両親が自分と同じ目に遭うのは嫌だったし、そう言っておけばこのまま自分が殴り殺されたとしても、この人達が事実上居なくなってしまうこの家の子はどうしたのか、疑わないかもしれない、と思った。
「あ……!」
涙を流しながら手を伸ばした母親は、家の前にいた自分を見ていたけれど、周囲の人達には家の中にいる子供を確認したがっていると映ったかもしれない。
そうであって欲しい。
父親が、母親を捕まえるように抱き締めてこちらに来れないようにしてくれた。
声を上げて泣き喚く母親を強く抱きながら、ロザリンの方を悔しそうな表情で、申し訳無さそうな瞳で……そして、何故、言いつけを破ったのか、と責めているような空気を纏いながら見ていた。
(ごめんね。私が悪い子だった)
もう、それを知っても遅いけど。
だから。
「ここんちの子を食べて、私がここんちの子になれればよかったのにな!」
両親が無事ならそれでいいという思いを込めて晴れやかに笑った。
それから先のことは覚えていない。
気がついたら奴隷商の捕獲牢に居た。
それだけ。
リクアルドの乳母に買われるまで、びっくりするくらい、それしか残っている記憶のないロザリンだった。
唯一、記憶にあるのは両親に「お前は病弱なんだから1人で外に行ってはいけないよ」と毎日言われ続けたことくらいだ。
本当に赤児の頃から毎日毎日言われていたので、自分にとっては挨拶の1種みたいなもので、両親の願い虚しく危機感なんて持っていなかったのだと後になって思った。
きっかけは、些細なことだ。
いつも壁板の隙間から覗き見ていた外の景色。
ついこの間、咲いたばかりの小さな花を見ていたらそこに多様種の蝶が飛んできて止まった。
幼心に触ってみたい、などと思ったのがいけなかった。
両親が村の寄り合いで家に居なかったのも、状況を悪化させるのを助長した。
(ちょっとだけ。ちょっとだけだから……)
自分が何の病気かも何故、外に出てはいけなかったのかも分からなかったので、本当に出来心でしかなかった程度の衝動で家の外に出て、花に止まっている蝶に手を伸ばし、後少しで触れる、くらいのタイミングでそう遠くない場所から悲鳴が上がった。
驚いて何が起こったのか、と声のした方を見たら物凄い形相をした知らない人と目が合った。
「奇形種よ! 呪われた子がいるわ‼︎」
母親と同じような身体の特徴を持った声が、そう叫んで何処かへ駆け去って行った。
何だか嫌な感じがして、ロザリンも慌てて家の中へと戻ったが、それで何が変わった訳でもなかった。
周囲を捜索して何処にも目撃された奇形種がいない、となった村の者達は「家の中に隠れた可能性があるから中を捜索させろ」と両親に詰め寄って、最終的にはそれを強行し、発見されたロザリンは村の者達に引き摺り出された。
木の枝で打たれり、蹴飛ばされたりしても両親は俯いているだけで助けてはくれなかった。
自分がこの家の子だと分かったら両親も同じ目に遭うからだろうか、と考えた。
「この悪魔の子が!」
「呪われた忌み子がどうして村に、バラクとナミアの家に居るのよ!」
「こ、この家の子を食べてやった!」
「⁈」
「子供を食べるとわたしも普通になれるって聞いて食べてみたかった! 美味しかった!」
そんな話しは聞いたこともなかったし、この家の子は自分なので信じてくれないかもしれない、と思いながらも両親が自分と同じ目に遭うのは嫌だったし、そう言っておけばこのまま自分が殴り殺されたとしても、この人達が事実上居なくなってしまうこの家の子はどうしたのか、疑わないかもしれない、と思った。
「あ……!」
涙を流しながら手を伸ばした母親は、家の前にいた自分を見ていたけれど、周囲の人達には家の中にいる子供を確認したがっていると映ったかもしれない。
そうであって欲しい。
父親が、母親を捕まえるように抱き締めてこちらに来れないようにしてくれた。
声を上げて泣き喚く母親を強く抱きながら、ロザリンの方を悔しそうな表情で、申し訳無さそうな瞳で……そして、何故、言いつけを破ったのか、と責めているような空気を纏いながら見ていた。
(ごめんね。私が悪い子だった)
もう、それを知っても遅いけど。
だから。
「ここんちの子を食べて、私がここんちの子になれればよかったのにな!」
両親が無事ならそれでいいという思いを込めて晴れやかに笑った。
それから先のことは覚えていない。
気がついたら奴隷商の捕獲牢に居た。
それだけ。
リクアルドの乳母に買われるまで、びっくりするくらい、それしか残っている記憶のないロザリンだった。
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