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第4章 集まれ仲間達

1度きりのチャンス -7-

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 青蘭夫人に案内されたのは、控えの間ではなかった。

 何が起こったのか理解が及ばないまま、侍女さん達やメイドさん達に寄ってたかって脱がされて、普通のお湯とは違う、透明なトロミがついた湯が満たされたお風呂に入れられた。

 全身磨きまくられ、髪や身体に香油を塗られまくってあっちもこっちも揉み解された。

 わたしはまだ3歳なので、普段、侍女さんやメイドさんが相手にする城の高貴な女性達より圧倒的に対応面積が狭いからだろう。

 もう終わっちゃった、みたいな物足りなさそうな顔をされるのが印象的だった。

 綺麗に髪を整えられて、憧れるだけで終わっていたようなドレスやリボンで飾られ、ほんの少しだけ化粧を施されてから装飾品をつけられる。

「いかがですか?」

 最後に大きな鏡が運ばれてきて、椅子に座ったままの姿を見せられた時、わたしは素で思ってしまった。

(誰⁈)

 思わず立ち上がって鏡の傍へ行ってしまい、その行動の所為でこの鏡に映っているのが、間違いなく自分なんだと分かったくらいの別人が、そこに居た。

 手入れもロクに出来ずボロボロだった薄金の髪は、輝きを取り戻し、寝不足で隈が出来ていた不健康な肌は文字通り一皮剥けたみたいに艶めいていた。

 豪奢な白いレースがふんだんに使われたドレスは赤と青、2色の彩がレースを境にして細かく品よく切り替えられていて、袖口のリボンと前の横髪を結ぶリボンは右が赤、左が青。

 靴は少しだけ踵のある、わたしの瞳と同じ色の柔らかな紫で、甲の部分に幅広の青いリボンと赤い石が飾られていた。

(……わたし、だけど……誰⁈ ホントに誰⁈)

 半ばパニックに陥ってしまったわたしの耳に、楽しげな青蘭夫人の声が届く。

「今日という日を貴女という1人の女性を自由にする解放記念日にするのだと息巻いた “六精霊の魔導術士” 様が、まあ、王都近郊のダンジョンというダンジョンを短期間制覇で巡られましてね? 築き上げた私財を惜しげもなく注ぎまくってくださったのよ。お陰様で、王妃様もわたくしも、心ゆくまで、あれもこれもとドレスや普段着、装飾品だけでなく、洗髪剤から香油まで買い揃えましてね。わたくしなど、もし亡くなった旦那様との間に娘の1人でも居たら、と思っていたのがここぞとばかりに爆発してしまって。娘時代にすらしたことがない程、買い物ではしゃいでしまいましたわ。ほほほほほほ」

 ごめんなさい、青蘭夫人。

 今のわたしに、その多過ぎる情報を処理出来るだけの頭と気持ちの余裕はありません。

 と、いう、か…….。

(わ、わたし、もしかしなくても、お会いしたことすらない六精霊の魔導術士様にメチャクチャ散財させて、迷惑ばっかりおかけして……!)
『ナイナイ。メイワクトカ ”リリエンヌセンヨウ” ッテカカレタ、アイツノ、ノウナイジショニ、ソンナコトバハ、ソンザイスラ、シテネッテノ』

 1人焦りまくっていたわたしにチビ精霊ちゃんが、そう教えてくれた。

(チビ精霊ちゃん……それ、どういう意味?)
『アエバワカルヨ。チャカイトヤラニ、アイツモイルカラ』

「あ、あの……せいらんふじん。きょうの、でんかのおちゃかいに、ろくせいれいのまどうじゅつしさまも、いらしていると、いま、チビせいれいちゃんたちが、おしてえくれたのですけれど……」
「ええ、勿論。 “六精霊の魔導術士” 様は、プレ・デビュタント後にエンディミオン殿下の側近となることが決まっておられますからね」

 エンディミオン殿下の側近。

 王都近郊のダンジョンを短期間制覇出来るだけの実力をお持ちなのに、陛下を守る魔法士団には所属されておられないの?

「ふふっ、リリエンヌ嬢。お聞きしたいことは、全てお会いして、ご本人にお聞きなさい。さ、そろそろ紅薔薇宮殿へ参りますよ」
「は、はい」

 チビ精霊ちゃんも青蘭夫人も「本人と会って確かめなさい」と言う趣旨のことを仰っているのだから、きっとそうするべきなんだろうし。

 何より招待されているお茶会の場にいらっしゃるようだし。

 え。

 わたし、お会いして何を申し上げればいいの?

 初めまして? ありがとうこざいます? 後、何? 何かある? お茶会なのよ? 何かお話ししないと。

 でも、何を話せばいいの?

 結局、わたしは混乱の治らないまま紅薔薇宮殿の入口に辿り着いてしまった。

 青蘭夫人が女性騎士の方と許可証の提示、確認と手続きをしている間、近からず遠からずくらいの位置で待っていた。

 その時。

「リリエンヌ! 貴様ぁ‼︎」
「よくも父様と僕に恥をかかせたな! この出来損ないのクソ女ッ! 死ね!」
「死んで詫びるがいい‼︎」

 聞き慣れたお父様とお兄様の罵倒が聞こえてきて、そちらへ目を向けると、びしょ濡れのまま薄汚れた下履きだけを身につけた2人が、それぞれ剣と馬上槍を手に、わたしに向かって走り込んで来ていた。

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