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第1章 ウィムンド王国編 1
消火完了、そして
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「殿下。とにかくコレ、仕舞っていただけませんか? 見るべきヤツも気を失ってしまったことですし?」
「ああ、そうか。このままでは、そなた達の仕事の妨げとなってしまうな」
洋裁店に居たらしい冒険者の1人が促した言葉に首肯したアーウィンは、再び巨大な収納の魔法陣をワイバーンの下で起動した。
ゆっくりと沈み込むように消えていく巨体を眺めながら、もう動くことはないのだと頭では分かっているけれど、存在感と威圧感はそこにあるだけで半端ないものであったのだと理解出来て、誰もがホッと息をついていた。
今朝からずっと戦い続けていた相手だっただけにその脅威が確実に去ったのだとこうして視認出来たことは、彼等にとっても安心材料ではあったけれど。
「消火も一段絡ついたようだな。怪我人は、あの子達だけなのか?」
「はい。倉庫街だったのが幸いしてブレスが着弾した当時は、この子以外、誰も居なかったようで死人も出ておりません」
アーウィンの発した質問に冒険者の男が答えて、その仲間らしき者達が確認するような彼の視線を受けて頷いた。
「そうか。飲食店街で起きていた火災より遥かに被災者が少ないようで何よりだ」
「そうですね。強いて言うならその倒れている商人も含めて自分の倉庫をここに持っていた者達や、貸主と借主達に被害が出ている感じでしょうか」
「この国では、こうした事態で被害に遭った者達へ、何か補償や手当ては出しておるのか?」
「まさか。どこの国だってそんなことはしてくれませんよ。運が悪かったと思って自力でどうにかしろってのが普通です」
「……………そうか」
傭兵の男が答えたことに足元へ転がったままな商人の男を視線だけで見詰めながら呟いたアーウィンは、少年を包んでいた治癒の光球が溶け消えていくのに気がついて、そちらへ視線を移すと再びその傍へと足を向けた。
歩きながら白い手袋に包まれた右手を肩口まで上げ、指先の布を擦ると少年の上に現れた魔法陣から水色と金の光粒がその身に降りて、あっと言う間に汚れていた少年の身体を清めると簡素な上下服と織柄入りのフード付きコートを纏わせて消えた。
続いて犬の方の治癒光球も溶け消えて行き、再びアーウィンが指先を擦る。
すると今度は、耳抜きの兜が頭に被さり、手足と喉、尻尾の周辺だけが開いている従魔用の皮鎧が着せられて、前脚と後脚に鉤爪のついたガントレットのような脚甲がついた。
キョトンとした顔で、自分に装備されたそれを見詰めた犬は、これまでなかった感覚が気持ち悪いのか嫌そうな顔をしてそれを眺めてから、徐に片脚を伸ばすと腹の近くで「わっしわっしわっし」と3度低速で足を振り散らかして掻いたつもりみたいな動作をした。
「Haːeː'ʏpsilɔn¨øːumlautuː,
Beː¨tseːɛːumlautyːumlautɛseː iːteː´ɛsɛːumlaut
teːhaːiːɛngeː ɛneːtseː¨ɛsɛsɛːumlautɛɐ'ʏpsilɔn
ɛføːumlautɛɐ'ʏpsilɔnøːumlautuː iːɛnteːhaːeː
ɛfyːumlautteːyːumlautɛɐeː,
ɛshaːøːumlautyːumlautɛldeː iːyːumlautɛseːiːteː」(こらこら、それはこれからのそなた達には必要な物ゆえ、使って居る方がよいぞ?)
アーウィンが話しかけると犬はこちらに向かって顔を上げ、じっと話を聞いてから少年の方へと目を向けた。
「'ʏpsilɔnøːumlautyːumlautɛɐ ɛfɛɐiːeːɛndeː
iːɛs¨øːumlaut, teːoːøːumlaut. Haːeːhaːɛːumlautɛs
teːhaːeː kuːyːumlautɛːumlautɛliːteː'ʏpsilɔn
oːɛfteːhaːeː teːɛːumlautɛmeːɛɐ.
Beː¨tseːɛːumlautyːumlautɛseː
'ʏpsilɔnøːumlautyːumlaut Aːɛndeːhaːeː ɛliːfaʊeː
teːøːumlautgeː¨teːhaːeːɛɐ aːɛl¨teːhaːeː teːiːɛmeː.
Iːteːiːɛs faʊeːɛɐ'ʏpsilɔn uːɛseːɛfyːumlautɛl」(そなたの友も同じだ。彼には従魔獣士の素質がある。そなたと友が生涯共に生きてゆくのにそれは有益なこととなろう)
少年を見ていた犬は、アーウィンの言葉に片方の耳だけ向けて聞いていたが「生涯共に生きてゆく」の部分で顔も向けた。
穏やかな声で1度だけ鳴いた犬にアーウィンが頷いた所で、俯せで倒れ込んでいた少年が目を覚ましたのか、身じろいだ。
それに気づいた犬が起き上がって2回鳴くと鼻を鳴らしながら少年の顔を舐めた。
くすぐったそうに笑った少年は、嬉しげに犬の頭を撫でてからゆっくりとその場で上身を起こして石畳の上へと座り込んだ。
「ああ、そうか。このままでは、そなた達の仕事の妨げとなってしまうな」
洋裁店に居たらしい冒険者の1人が促した言葉に首肯したアーウィンは、再び巨大な収納の魔法陣をワイバーンの下で起動した。
ゆっくりと沈み込むように消えていく巨体を眺めながら、もう動くことはないのだと頭では分かっているけれど、存在感と威圧感はそこにあるだけで半端ないものであったのだと理解出来て、誰もがホッと息をついていた。
今朝からずっと戦い続けていた相手だっただけにその脅威が確実に去ったのだとこうして視認出来たことは、彼等にとっても安心材料ではあったけれど。
「消火も一段絡ついたようだな。怪我人は、あの子達だけなのか?」
「はい。倉庫街だったのが幸いしてブレスが着弾した当時は、この子以外、誰も居なかったようで死人も出ておりません」
アーウィンの発した質問に冒険者の男が答えて、その仲間らしき者達が確認するような彼の視線を受けて頷いた。
「そうか。飲食店街で起きていた火災より遥かに被災者が少ないようで何よりだ」
「そうですね。強いて言うならその倒れている商人も含めて自分の倉庫をここに持っていた者達や、貸主と借主達に被害が出ている感じでしょうか」
「この国では、こうした事態で被害に遭った者達へ、何か補償や手当ては出しておるのか?」
「まさか。どこの国だってそんなことはしてくれませんよ。運が悪かったと思って自力でどうにかしろってのが普通です」
「……………そうか」
傭兵の男が答えたことに足元へ転がったままな商人の男を視線だけで見詰めながら呟いたアーウィンは、少年を包んでいた治癒の光球が溶け消えていくのに気がついて、そちらへ視線を移すと再びその傍へと足を向けた。
歩きながら白い手袋に包まれた右手を肩口まで上げ、指先の布を擦ると少年の上に現れた魔法陣から水色と金の光粒がその身に降りて、あっと言う間に汚れていた少年の身体を清めると簡素な上下服と織柄入りのフード付きコートを纏わせて消えた。
続いて犬の方の治癒光球も溶け消えて行き、再びアーウィンが指先を擦る。
すると今度は、耳抜きの兜が頭に被さり、手足と喉、尻尾の周辺だけが開いている従魔用の皮鎧が着せられて、前脚と後脚に鉤爪のついたガントレットのような脚甲がついた。
キョトンとした顔で、自分に装備されたそれを見詰めた犬は、これまでなかった感覚が気持ち悪いのか嫌そうな顔をしてそれを眺めてから、徐に片脚を伸ばすと腹の近くで「わっしわっしわっし」と3度低速で足を振り散らかして掻いたつもりみたいな動作をした。
「Haːeː'ʏpsilɔn¨øːumlautuː,
Beː¨tseːɛːumlautyːumlautɛseː iːteː´ɛsɛːumlaut
teːhaːiːɛngeː ɛneːtseː¨ɛsɛsɛːumlautɛɐ'ʏpsilɔn
ɛføːumlautɛɐ'ʏpsilɔnøːumlautuː iːɛnteːhaːeː
ɛfyːumlautteːyːumlautɛɐeː,
ɛshaːøːumlautyːumlautɛldeː iːyːumlautɛseːiːteː」(こらこら、それはこれからのそなた達には必要な物ゆえ、使って居る方がよいぞ?)
アーウィンが話しかけると犬はこちらに向かって顔を上げ、じっと話を聞いてから少年の方へと目を向けた。
「'ʏpsilɔnøːumlautyːumlautɛɐ ɛfɛɐiːeːɛndeː
iːɛs¨øːumlaut, teːoːøːumlaut. Haːeːhaːɛːumlautɛs
teːhaːeː kuːyːumlautɛːumlautɛliːteː'ʏpsilɔn
oːɛfteːhaːeː teːɛːumlautɛmeːɛɐ.
Beː¨tseːɛːumlautyːumlautɛseː
'ʏpsilɔnøːumlautyːumlaut Aːɛndeːhaːeː ɛliːfaʊeː
teːøːumlautgeː¨teːhaːeːɛɐ aːɛl¨teːhaːeː teːiːɛmeː.
Iːteːiːɛs faʊeːɛɐ'ʏpsilɔn uːɛseːɛfyːumlautɛl」(そなたの友も同じだ。彼には従魔獣士の素質がある。そなたと友が生涯共に生きてゆくのにそれは有益なこととなろう)
少年を見ていた犬は、アーウィンの言葉に片方の耳だけ向けて聞いていたが「生涯共に生きてゆく」の部分で顔も向けた。
穏やかな声で1度だけ鳴いた犬にアーウィンが頷いた所で、俯せで倒れ込んでいた少年が目を覚ましたのか、身じろいだ。
それに気づいた犬が起き上がって2回鳴くと鼻を鳴らしながら少年の顔を舐めた。
くすぐったそうに笑った少年は、嬉しげに犬の頭を撫でてからゆっくりとその場で上身を起こして石畳の上へと座り込んだ。
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