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第1章 ウィムンド王国編 1
大至急の理由
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港湾王都アティスにある冒険者ギルドでは、今、3つあったワイバーンのブレスによる火事被害現場から続々と対応終了の報告と詳細説明が情報として集まってきていた。
会議室として使っていた部屋から出てアーウィンを探していたレンリアードは、聞くともなしに聞いていたその報告の端々に登場する彼の名に慌てて会議室へと取って返した。
「大変です! フリュヒテンゴルト公爵っ‼︎」
「今度はどうしたっ⁈」
もうトラブルは腹いっぱいだぞ⁈ とでも言いたげな捨て鉢全開台詞にそれでもレンリアードは、一切のタメを作ることなく即座に言い放った。
「アーウィン殿下が冒険者として街に出て火事場対応してますっ‼︎」
「…………は?」
「冒険者?」
言葉の意味を理解出来なかった訳ではないけれど、会議の結果待ちをしていた筈の彼が、何をどうするとそんな駆り出され方をして街へ出ることになるのか、フリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵には計りかねたようで、端的な疑問符だけが2人の口から漏れた。
「イズマの妹を助けた時のようなことをしとるということか?」
「それ以上だ、ローガン! 殿下の蘇生魔法で生き返った者も居れば、火事場の残骸から作り上げた金剛透石を補償金代わりとして受け取った者もいるらしい!」
ちょっと待て。
何か、今、おかしな文節が……蘇生魔法で生き返った? 金剛透石を作る?
失伝魔法と理解不能なトンデモ魔法を自国内で使いまくるのはやめてくれ。
事後処理がっ!
いや、それ以前の問題だ。
理解が一切及ばない物ばかりをどう国王に報告しろというのだ?
「………」
「………」
公爵と子爵だけでなく、室内にいる騎士達も疑問符だらけの表情をしていて、存在している人数に反した静けさだけが、その場を支配していた。
「…………殿下から目を離した儂らが馬鹿だったかのぅ」
漸く口を開いたローガンが、溜息混じりに零した一寸評に額を押さえていた掌で顔を下方向に強く一撫でしたフリュヒテンゴルト公爵は、そのままその手を握り締めてテーブルの天板を全力で殴打した。
「レンリアード! 預かった “つうしんき” とやらでアーウィン殿下を大至急呼び戻せっ!」
「はいっ!」
その頃。
当のアーウィンは、港湾王都アティスの遥か上空に浮かんで魔物の群れがやってくる南東方向へ探索系の魔法と解析系の魔法を地図魔法越しにアレコレとかけて調べ物をしていた。
(この群れが南にあるこの迷宮からの魔物暴走なことは、これでほぼ間違いなくなったな。討伐したワイバーン通常種もここの産物。単に他の魔物と違って飛べるが故に障害物が少なくて早く辿り着いたに過ぎぬのだろう)
地図上で、アティスの左斜め下にあるネードリー平原。
その更に南の山間に映し出されている迷宮から発生している特有の魔力と解析数値。
ネードリー平原からこの街に向かっている魔物リストに書き出された者達から発生している魔力とその解析数値。
そして現在は、アーウィンの収納に入っているワイバーンの体内魔石より算出された魔力とその解析数値。
その6つが別の表示内に描き出されているグラフで完全に一致していたことから、それを確信した。
(となると、このハーモニアエリゾンの通常種もこの迷宮の産物ということに……何層目からの溢れ個体なのか知らぬが、公爵達の反応からしてこれまで此奴が迷宮内で発見されたことはなさそうだ。その辺りが探り所だろうか?)
王都と呼ばれるような大規模都市から5日と離れていない所に存在している迷宮が溢れるなど、自国であれば考えられない失政だ。
最もヴェルザリスに於いては、竜種ではない魔物が出る迷宮は、どこもかしこも冒険者ギルドまでしか在籍を許されないS級以下の者達でごった返している為、国が管理している年1開催の代物を除けば、魔物暴走自体が滅多と起こることはない。
精々が新規に発生した迷宮が人知れずひっそり拡大して溢れた、みたいなことがなければ4、50年に1度あるかないか程度で、簡単には遭遇出来ないような代物なのだけれど。
(こればかりは我が国を基準に考える訳にもいかぬだろうが、迷宮が溢れたにしては魔物の数が少ないのは、流石に気にかかるな。幾ら何でも桁が1つから2つ落ちて居るなど、少な過ぎであろう。もし、全ての群れがここに向かっている訳ではなく、他所へ分かれた群れが存在するならば、竜種大行進の発生タイミング如何によっては、この国の者達だけで対応するのは……)
そこまでアーウィンの思考が走った所で、上着のポケットに突っ込んでおいた通信機がコール音を奏でた。
すぐにそれを取り出したアーウィンは、目の前に展開されている魔導操作卓の群れを眺めやったまま、手元の魔導具のスイッチを入れた。
「こちらアーウィン」
『殿下っ⁈ 今、どちらにいらっしゃるんですかっ⁈』
耳を劈く大音量に思わず魔導具を自身の傍から遠ざけて、魔導具を持っているのとは反対側へと頭を傾けることで、物理的影響を可能な限り最小限にするような所作をしてしまった。
アーウィンは、やや顔を顰めながら魔導具の向きを変え、音量調整器の部分を視線で確かめる。
残念ながら知らぬ間に音量が最大になっていたとかではなく、純粋にレンリアードが通信機に向かってガナッただけらしいと分かって、その面に苦笑いが浮かぶ。
「レンリアード。そのように大声を出さずとも聞こえて居るゆえ、もう少々、声を抑えぬか」
『そんな悠長なこと仰ってる場合じゃありません! 大至急ギルドへお戻りくださいっ!』
「何かあったのか?」
『はい! 大事件が起きました!』
「大事件?」
『ええ! アーウィン殿下の姿がギルドから消えたって、そりゃもう大騒ぎなんですよぉっ⁈』
冗談なのか本気なのか当のアーウィン相手に叫ばれた、大至急ギルドへ戻らなければならない理由に、ついつい彼は声を上げて笑ってしまったのだった。
会議室として使っていた部屋から出てアーウィンを探していたレンリアードは、聞くともなしに聞いていたその報告の端々に登場する彼の名に慌てて会議室へと取って返した。
「大変です! フリュヒテンゴルト公爵っ‼︎」
「今度はどうしたっ⁈」
もうトラブルは腹いっぱいだぞ⁈ とでも言いたげな捨て鉢全開台詞にそれでもレンリアードは、一切のタメを作ることなく即座に言い放った。
「アーウィン殿下が冒険者として街に出て火事場対応してますっ‼︎」
「…………は?」
「冒険者?」
言葉の意味を理解出来なかった訳ではないけれど、会議の結果待ちをしていた筈の彼が、何をどうするとそんな駆り出され方をして街へ出ることになるのか、フリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵には計りかねたようで、端的な疑問符だけが2人の口から漏れた。
「イズマの妹を助けた時のようなことをしとるということか?」
「それ以上だ、ローガン! 殿下の蘇生魔法で生き返った者も居れば、火事場の残骸から作り上げた金剛透石を補償金代わりとして受け取った者もいるらしい!」
ちょっと待て。
何か、今、おかしな文節が……蘇生魔法で生き返った? 金剛透石を作る?
失伝魔法と理解不能なトンデモ魔法を自国内で使いまくるのはやめてくれ。
事後処理がっ!
いや、それ以前の問題だ。
理解が一切及ばない物ばかりをどう国王に報告しろというのだ?
「………」
「………」
公爵と子爵だけでなく、室内にいる騎士達も疑問符だらけの表情をしていて、存在している人数に反した静けさだけが、その場を支配していた。
「…………殿下から目を離した儂らが馬鹿だったかのぅ」
漸く口を開いたローガンが、溜息混じりに零した一寸評に額を押さえていた掌で顔を下方向に強く一撫でしたフリュヒテンゴルト公爵は、そのままその手を握り締めてテーブルの天板を全力で殴打した。
「レンリアード! 預かった “つうしんき” とやらでアーウィン殿下を大至急呼び戻せっ!」
「はいっ!」
その頃。
当のアーウィンは、港湾王都アティスの遥か上空に浮かんで魔物の群れがやってくる南東方向へ探索系の魔法と解析系の魔法を地図魔法越しにアレコレとかけて調べ物をしていた。
(この群れが南にあるこの迷宮からの魔物暴走なことは、これでほぼ間違いなくなったな。討伐したワイバーン通常種もここの産物。単に他の魔物と違って飛べるが故に障害物が少なくて早く辿り着いたに過ぎぬのだろう)
地図上で、アティスの左斜め下にあるネードリー平原。
その更に南の山間に映し出されている迷宮から発生している特有の魔力と解析数値。
ネードリー平原からこの街に向かっている魔物リストに書き出された者達から発生している魔力とその解析数値。
そして現在は、アーウィンの収納に入っているワイバーンの体内魔石より算出された魔力とその解析数値。
その6つが別の表示内に描き出されているグラフで完全に一致していたことから、それを確信した。
(となると、このハーモニアエリゾンの通常種もこの迷宮の産物ということに……何層目からの溢れ個体なのか知らぬが、公爵達の反応からしてこれまで此奴が迷宮内で発見されたことはなさそうだ。その辺りが探り所だろうか?)
王都と呼ばれるような大規模都市から5日と離れていない所に存在している迷宮が溢れるなど、自国であれば考えられない失政だ。
最もヴェルザリスに於いては、竜種ではない魔物が出る迷宮は、どこもかしこも冒険者ギルドまでしか在籍を許されないS級以下の者達でごった返している為、国が管理している年1開催の代物を除けば、魔物暴走自体が滅多と起こることはない。
精々が新規に発生した迷宮が人知れずひっそり拡大して溢れた、みたいなことがなければ4、50年に1度あるかないか程度で、簡単には遭遇出来ないような代物なのだけれど。
(こればかりは我が国を基準に考える訳にもいかぬだろうが、迷宮が溢れたにしては魔物の数が少ないのは、流石に気にかかるな。幾ら何でも桁が1つから2つ落ちて居るなど、少な過ぎであろう。もし、全ての群れがここに向かっている訳ではなく、他所へ分かれた群れが存在するならば、竜種大行進の発生タイミング如何によっては、この国の者達だけで対応するのは……)
そこまでアーウィンの思考が走った所で、上着のポケットに突っ込んでおいた通信機がコール音を奏でた。
すぐにそれを取り出したアーウィンは、目の前に展開されている魔導操作卓の群れを眺めやったまま、手元の魔導具のスイッチを入れた。
「こちらアーウィン」
『殿下っ⁈ 今、どちらにいらっしゃるんですかっ⁈』
耳を劈く大音量に思わず魔導具を自身の傍から遠ざけて、魔導具を持っているのとは反対側へと頭を傾けることで、物理的影響を可能な限り最小限にするような所作をしてしまった。
アーウィンは、やや顔を顰めながら魔導具の向きを変え、音量調整器の部分を視線で確かめる。
残念ながら知らぬ間に音量が最大になっていたとかではなく、純粋にレンリアードが通信機に向かってガナッただけらしいと分かって、その面に苦笑いが浮かぶ。
「レンリアード。そのように大声を出さずとも聞こえて居るゆえ、もう少々、声を抑えぬか」
『そんな悠長なこと仰ってる場合じゃありません! 大至急ギルドへお戻りくださいっ!』
「何かあったのか?」
『はい! 大事件が起きました!』
「大事件?」
『ええ! アーウィン殿下の姿がギルドから消えたって、そりゃもう大騒ぎなんですよぉっ⁈』
冗談なのか本気なのか当のアーウィン相手に叫ばれた、大至急ギルドへ戻らなければならない理由に、ついつい彼は声を上げて笑ってしまったのだった。
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