天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 1

ラッキョラの尻尾

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「お前ら………揃いも揃って馬鹿なのかニャァ?」

 とっとと冒険者ギルドを巻き込むことを決定したフリュヒテンゴルト公爵の判断を元に、これまでの情報を会議室で全て公開した結果の末に騎士達へと向けられたミューニャの感想である。
 本来であれば出席する権利もないのに冒険者ギルドでは、自分がアーウィンの担当であることを主張して、ちゃっかり同席した上に並居る貴族達に対し、失礼この上ない言い様だったのもあってギルドマスターの顔色が変わる。

「こら、ミューニャ!」
「だって、マスター。おかしいニャ。そもそも、糞の役にも立たない血筋と階級だけが取り柄の宰相一派ダメンズ集団とワイバーンを単独討伐出来る上に失伝魔法ビシバシ使えて、イケてるオーラビンビンNo.1のアーウィン殿下をこの危機的状況下で同じ天秤に乗せて比べること自体が、普通に有り得ないのニャァッ!」

 言葉通り、道端で野糞の塊りを見つけてしまった時みたいな渋苦い表情と真横にペタンと寝てしまった猫耳。
 背負った太いオドロ線の大群を伴ってミもフタもない評価が立板に水の如しと彼女の唇から流れ出て、ギルドマスターは被害が増すなら突っ込むんじゃなかったと、ほんの僅か後悔した。
 後悔の度合いが、ほんの僅かで終わってしまったのは、ミューニャの口にした台詞が、ぐうの音も出ない程の正当評価であったからだ。
 その証拠に騎士団側からは、文句の1つすら飛んで来ない。
 彼等の身にザクザクザックリと刺さったミューニャの言葉による矢衾の幻影が見えるかのようだった。

「まあ、宰相一派アホの対応は、ギルドの責任範疇外だから公爵達に任せるのニャ! アーウィン殿下。ハーモニアエリゾンってヤツだけでも早目に討伐しないとヤバい気がするのニャ。殿下のお国では、最悪いつぐらいのタイミングまで討伐を先延ばしに出来たのニャ?」
「………すまぬが、それに関しては一切、我が国を参考にはせぬ方がよいと私は思う」

 ミューニャの当然と言えば当然の疑問に困ったような顔をして返答したアーウィンを訝しんだのはレンリアードだ。

「何故ですか? 殿下」

 そう問い返されても困り顔は改められることなく、仕方なさげにアーウィンが口を開いた。

「まず、前提としてだが、我が国では魔物暴走スタンピードに対して民の間で使われている別名が存在するのだ」
「別名?」
「先程、説明した通り、我が国に出没する魔物の約8割は竜種だ」

 ギルドマスターとミューニャに対してされた情報共有でした話しを強調するようにもう1度口にしてからアーウィンは続ける。

「冒険者ギルドに所属する最高Sクラスまでの者達にとっては、己の実力で狩ることが出来るのは、精々が小型の竜種まで。となれば、彼らにとっては中型以上の竜種が滅多におらず、代わりに様々な種族が入り混じった形で魔物が大量発生する魔物暴走スタンピードは、狂喜乱舞の入れ食い状態。ただの祭でしかないのだ。故に『素材祭』という別名で呼ばれ、最大の稼ぎ時と認識されている。冒険者ギルドに籍を置くことが可能な7歳くらいの子供達すら喜び勇んで魔物達の群れに突っ込んで行くような話しなのだよ」

 7歳の子供まで、喜び勇んで突っ込んで行く魔物暴走スタンピード
 完全に自分達側が勝つことを前提とした別名の由来。
 そんな状況を想像すらもすることが出来なくて、全員が全員、呆気にとられたような表情を浮かべた。

「加えて申すなら? ハーモニアエリゾンなど……発見された瞬間、100%生け捕りにした上、狩人ハンターギルドと国家境界防衛隊アルディファエに速攻で連絡が飛んで、血反吐を吐きまくって鳴けなくなるまで鳴かせまくってから討伐、解体。魔石からやってくる竜種を特定した後、商人達が主催する竜種大行進ドラゴンマーチ大歓迎祭が開催される。やってくる竜種の特定解析技術を私が国に提供するまでは、完全ランダム状態だったのにも関わらず、昔からさしてこの対応に変わり映えがないのだぞ? ……参考に出来そうな所なぞ、この国にあるのかね?」

 自国と彼の国の決定的とも言える差。
それは恐らく、ヴェルザリスにとっては一般冒険者レベルから敵対した魔物は例え竜種だろうが勝てる前提で全て狩り尽くす方向に思考と動きがあって、事実、勝ててしまうらしい所。
そしてこの国では、亜竜種であるワイバーンですら敵対されたらいっぱいいっぱいな所に違いないだろう。

「うん。この国じゃ同じ対応を望むのは、まるっきし無理だニャ。よし! ハーモニアエリゾンは、とっとと討伐するニャ。殿下。指名依頼受けてくれるニャ?」
「っ」
「?」

 火事場の時と同じく、2つ返事で引き受けてくれるだろうと思っていたミューニャは、言い淀んだアーウィンに不思議そうな目を向けた。
 何故、そんな目を向けられるのか理解は及んでいるのだろう。
 アーウィンが言い難そうにミューニャへと答える。

「私自身は……正直言って、群ごと瞬殺可能だし、いつでもヤツの討伐なぞ出来るのだが……」
「別の群れが居るかもしれねぇって話しのことか?」
「それもある」
「何か別の心配事があるニャ?」

 ギルドマスターとミューニャに代わる代わる突っ込まれたアーウィンは、やっぱり言い難そうな表情のまま懸念事項を口にする。

「この魔物暴走スタンピードに人為的な……ある種の作為を感じるのだ。他所者の私ですらデータを少し読み解けばそれが分かるのだ。その宰相一派とやらからしてみれば、私が此度の件を自作自演して、この国に恩を売ろうとしていると、取られかねん気がしてな」
「確かに」

 自分が対応可能な魔物を自分で呼んで自分で倒す。
 アーウィンの言葉にギルドマスター以下、騎士達も皆、宰相一派が主張してくる事柄としては、さもありなんとばかり嫌そうに頷きを返す。

「は? 何でニャ? アーウィン殿下がこの国に飛ばされて来た時にはもう、アタシ達はワイバーンと開戦して5timティミア(約5時間)以上経ってたのニャ。第一、そんな面倒なことしなくても、殿下は1人でこの国の王族と貴族、丸ごと力尽くで総取っ替え出来るだけの実力があるのニャ。お国だってメチャクチャ遠いお空の上で、色ーんなことが、この国より数段上の状態なんだから貿易相手としても旨味なんかないのに自作自演までして恩売って、殿下に何の得があるのニャ?」
「私にその気はまるでないことを先に断っておいた上で敢えて言うが」
「?」
「私は “第3王子” なのだよ」

 つまり、どれだけ優秀で実績があっても本来の王統を考えるならば、継承権上位の者が存命なら通常、次代の王にはなれぬ立場にある。
だが、他国に恩を売っておいて油断を誘い、最終的には力尽くで国を丸ごとブン取って、新しい国を興すと言うなら話しは別だ。
 状況的にもそんな邪推をされてもおかしくないし、自分が宰相一派かれらならそれも視野に入れる、とアーウィンは言っているのだ。
 それは分かる。
分かるけれど。
 眉間にクッキリとした縦シワを幾筋も刻んだ嫌そげな表情で、ミューニャが右手を上げる。

「何かね?」
宰相一派アホどもには、この感覚、絶対分かんないだろうけど、アタシら民の側は皆、乗っ取り大賛成だと思うニャ。あのアホ王子とアーウィン殿下なら次代の王に民が望むのは、満場一致でアーウィン殿下ニャ」
「いや、だからな? そこを警戒されるのではないかと申されて居られるのだよ、殿下は。我が国には王子の姉である姫殿下とて居られるのだからな?」
「ニャァ……あの “強く賢く逞しく、人望厚く心優しい超がつくお金持ちで優秀な色男イケメンとしか結婚しない” とか、ふざけたことを本気で抜かしてる嫁き遅れ姫のことかニャ? 悲しいことに条件は満たしちゃってるけど、アーウィン殿下と嫁き遅れ姫じゃ不釣り合い過ぎておとといきやがれなのニャ。あの女にくれてやるくらいならミューニャが戴くニャ」
「ミューニャ!」

 ギルドマスターとミューニャのやり取りが面白いのか、アーウィンは楽しげな表情を浮かべてクスクスと笑い、騎士達は問題の姉姫を思い描いているのか、皆が皆、ショッパイ顔をしていた。

「そいつらの的外れな思い込みは、殿下にその気がホントにないなら、勝手にやらせとけばいいのニャ。唯一得意な裏工作と悪どい根回しに精を出しててくれれば、戦いの邪魔されるよりはマシなのニャー」

 ある意味、結論として提案されたミューニャの言葉は「やっぱりそうなるよなー」的な空気感をもって騎士達に受け入れられていて、図らずも彼等が普段、どれだけ理不尽且つ、しょうもない感じで振り回されているのかがよく伝わってきた。

「うん、まぁ……残念ながらミューニャの言うことにも一理ある。そうなると唯一の懸念事項は、国境侵犯だわな」

 その問題もあった。
ギルドマスターの言葉に自分の権限でそれを不問には出来るけれど、アーウィンの懸念通り、したらしたで宰相一派に突っ込まれることは間違いなく、フリュヒテンゴルト公爵は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「公爵閣下」

 そんな声にギルドマスターからかかる声。

「もういっそのこと、全部片付くまで “知らぬ存ぜぬラッキョラの尻尾” ってことで、アーウィン殿下の存在ごと俺達との繋がりに関しては、とことんバックレるってのはどうですかい?」

 食べることが可能な植物系魔物の一種であるラッキョラ。
 形状が、丸っこいネギ状のものに手足という代物で、古くから「尻尾が生えてるのを見た」なんて目撃証言が後を絶たぬものの、いざ捕まえて解体してみると尻尾の形跡はどこにも見当たらず「知っていたり、見ていたりする癖に見つからないもの」転じて「知っていても知らんぷりすること」として使われている、この国の言事ことわざじみた言葉の一種だった。

「ラッキョラの……尻尾、か」

 額を支えるような具合で組まれた両手指の下で目を閉じたフリュヒテンゴルト公爵の呟き。
 彼とは正反対に椅子の背へと身体を預け、天井を見上げながら黄昏た空気を漂わせるベントレー子爵。
 2人の逡巡を他所に窓の外では、沈みかけた夕陽が夜の訪れを静かに告げていた。




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