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第1章 ウィムンド王国編 1
出陣
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作戦名「ラッキョラの尻尾」は、当該会議の終了を以って発動された。
他国の王子を捕まえてラッキョラの尻尾扱いするのは如何なものかと言う一部騎士達の主張は、当の本人による「だからこそ普通は、その可能性を否定するのではないのか? そなた達のようにな?」と楽しげに紡がれた一言によって一笑に付された。
「それじゃ、殿下。ネードリー平原にいる魔物暴走の群れ、丸ごとの討伐で指名依頼切ってホントにいいんだな?」
「構わぬ。これより先は宰相一派とやらに捕捉され、王城に連れ込まれてどうこうされるような話しになるまで、私は1冒険者としてこの国の民に貢献するとしよう」
「……有り難うよ」
己の立ち位置が何処にあるかということよりも民への貢献を優先する。
そう言い切るアーウィンに申し訳なさげな表情と共に依頼書へ自身のサインを書き入れて、今か今かと隣でウズウズしているミューニャへと渡してやる。
彼女は、それをアーウィンの冒険者証と共に読み取り機へとかけて、出てきた2つの品をカウンター越しにアーウィンへと差し出した。
「いざとなったらミューニャが全力で裏ルート使って、この国から逃してあげるから安心するのニャー!」
「ほう。それは頼もしいな」
「……ちょっと待て。お前、いつの間に裏ルート作った?」
「御法度の裏街道開発は、猫の嗜みなのニャ!」
確かにそこいらをホテホテ歩いてる猫達は、何でお前はそんな所に入っていくのだ? と疑問にしか思わない所をよく通り道にしてはいるけれども。
「お前、猫じゃなくて猫獣人じゃねぇか……」
「人と猫の本能両方持ってるからこそミューニャは猫獣人なのニャ!」
相変わらずどこか漫才じみたやり取りを繰り広げるギルドマスターとミューニャを微笑ましげな顔で見ていたアーウィンが、渡された2つの物を小収納へと仕舞い込んだのを横目で確認したミューニャが、彼へと向き直ってペッコリと頭を下げる。
「アーウィン殿下! ご無事のお戻りをお待ちしておりますニャ!」
「頼んだぞ、殿下!」
「うむ」
2人に見送られてギルドの入口を出たアーウィンは、今度は飛んで行かずに歩いて東南の門へと向かった。
途中途中に顔見知りとなった者達とすれ違う度、にこやかに挨拶や言葉を交わす彼に人々は、どうしても居丈高な自国の王族と彼を比べてしまう。
こんなマトモな王族も他国には居るのに、何故自国の次代の王族はアレなんだろう? と。
「ご苦労」
外壁の厚み分だけ長さのある通路を通って外へ出たアーウィンは、街へ入る時にも手続きを頼んだ門番に声をかけた。
「アーウィン殿下!」
即座に反応が返ってきて、彼の方から近づいてきてくれる。
「1度街の外に出るのだが……」
「こんな時間から⁈ あ、いえ……失礼致しました。つい。すみませんすみませんすみません」
すっかり沈んでしまった太陽と時期に門を閉じる刻限が近づいてきているのもあって、アーウィンの切り出した話しを途中で遮ってしまったことに気がついた門番の青年は平謝りに謝った。
「よい。冒険者ギルドで緊急の指名依頼を受けたのでな。故に街を出るのに冒険者証で出入りをしたい。構わぬか?」
「はいっ! 手続きを致しますので、冒険者証とギルドからの依頼書をご提示ください」
請われた通り、自身の冒険者証と指名依頼書を小収納の魔法陣から出してくれたアーウィンから受け取って。
「⁈」
門番の青年は、思わず依頼書に記されている依頼内容に目を剥いた。
“アティスへ向けネードリー平原侵攻中の魔物暴走の群れを全殲滅”
それを信じ難い驚愕で以って受け止めてしまった青年は、表情を取り繕うことも出来ずにアーウィンの方を伺い見てしまった。
「すぐに済む故、他言無用に頼むぞ?」
「し、しかし……これが事実なら!」
「ギルドマスターも騎士団長であるフリュヒテンゴルト公爵も了承済だ。ワイバーン襲撃からやっと一息つけたばかりの民に余計な心労をかけたくはないからな」
「ですが! 御一人で対抗なさる数ではないと……!」
「問題ない。確かに数はいるが、全て雑魚だ。依頼通り全てを殲滅するのに5min(約5分)もかからぬ故、調べ物を追加したとしても30min(約30分)以内には戻る」
「え……?」
そこいらで雑草摘んで帰って来るのとは訳が違うんだぞ⁈
門番として、軍に身を置く者として理性ではそう思うものの頭の片隅がそれと真逆のことを訴えかけてくる。
彼は、伝説の浮島と呼ばれる国の王族だ。
現れるなり、たった一撃でワイバーンを討伐した強者だ。
王族専用の身分証、その特記に「規格外王子」なんて書かれちゃう御人なんだ。
そんな人が出来るって言い切ってるんだから、多分、きっと、出来るんじゃないのか? ……と。
「私は先を急ぐ。通ってよいか?」
「あ! は、はいっ!」
アーウィンからそう促されて、目の前の現実へと意識を戻した門番の青年は、慌ててアーウィンのギルド証と依頼書を読み取り機にかけて認証を通し、その2つを差し出した。
「御武運を!」
「任せておけ」
アーウィンは門番の青年の言葉に笑顔すら浮かべてそう答え、左の爪先で飛翔の魔法陣を発動させると空中へと浮かび上がった。
上空へと顔ごと視線を向けた瞬間、物凄い速度で切り揉みしながら真っ直ぐ飛び上がり、東南の方向へと流星のような速度で消えて行った。
「すっげぇ速さで飛んでった……」
「………おう。今の、レンリアード隊長達が連れて来た他国の王族とかいう人だったよな?」
同じ門番の反対側に陣取っていた青年が、他に誰も居ないのをいいことに彼の方へとやって来てそう尋ねた。
「ああ。ヴェルザリス? っていったかな? 確か。伝説の天空の浮島って話しのアレ。そこみたいだぜ? 殿下のお国」
「はぁーん? よく分かんねぇけど、伝説って言うだけあって凄そうな国だな?」
「……うん」
もう完全にアーウィンの姿なぞ見えなくなってしまった夕闇の彼方へ2人揃って目をやりながらそんな話しをした。
その間にも彼が向かった先から、この街へ向かっている魔物暴走の群れを全殲滅、と書かれていた依頼書の内容が頭から離れなかった青年は、生返事をしながら、そのことについてずっと思いを巡らせていた。
他国の王子を捕まえてラッキョラの尻尾扱いするのは如何なものかと言う一部騎士達の主張は、当の本人による「だからこそ普通は、その可能性を否定するのではないのか? そなた達のようにな?」と楽しげに紡がれた一言によって一笑に付された。
「それじゃ、殿下。ネードリー平原にいる魔物暴走の群れ、丸ごとの討伐で指名依頼切ってホントにいいんだな?」
「構わぬ。これより先は宰相一派とやらに捕捉され、王城に連れ込まれてどうこうされるような話しになるまで、私は1冒険者としてこの国の民に貢献するとしよう」
「……有り難うよ」
己の立ち位置が何処にあるかということよりも民への貢献を優先する。
そう言い切るアーウィンに申し訳なさげな表情と共に依頼書へ自身のサインを書き入れて、今か今かと隣でウズウズしているミューニャへと渡してやる。
彼女は、それをアーウィンの冒険者証と共に読み取り機へとかけて、出てきた2つの品をカウンター越しにアーウィンへと差し出した。
「いざとなったらミューニャが全力で裏ルート使って、この国から逃してあげるから安心するのニャー!」
「ほう。それは頼もしいな」
「……ちょっと待て。お前、いつの間に裏ルート作った?」
「御法度の裏街道開発は、猫の嗜みなのニャ!」
確かにそこいらをホテホテ歩いてる猫達は、何でお前はそんな所に入っていくのだ? と疑問にしか思わない所をよく通り道にしてはいるけれども。
「お前、猫じゃなくて猫獣人じゃねぇか……」
「人と猫の本能両方持ってるからこそミューニャは猫獣人なのニャ!」
相変わらずどこか漫才じみたやり取りを繰り広げるギルドマスターとミューニャを微笑ましげな顔で見ていたアーウィンが、渡された2つの物を小収納へと仕舞い込んだのを横目で確認したミューニャが、彼へと向き直ってペッコリと頭を下げる。
「アーウィン殿下! ご無事のお戻りをお待ちしておりますニャ!」
「頼んだぞ、殿下!」
「うむ」
2人に見送られてギルドの入口を出たアーウィンは、今度は飛んで行かずに歩いて東南の門へと向かった。
途中途中に顔見知りとなった者達とすれ違う度、にこやかに挨拶や言葉を交わす彼に人々は、どうしても居丈高な自国の王族と彼を比べてしまう。
こんなマトモな王族も他国には居るのに、何故自国の次代の王族はアレなんだろう? と。
「ご苦労」
外壁の厚み分だけ長さのある通路を通って外へ出たアーウィンは、街へ入る時にも手続きを頼んだ門番に声をかけた。
「アーウィン殿下!」
即座に反応が返ってきて、彼の方から近づいてきてくれる。
「1度街の外に出るのだが……」
「こんな時間から⁈ あ、いえ……失礼致しました。つい。すみませんすみませんすみません」
すっかり沈んでしまった太陽と時期に門を閉じる刻限が近づいてきているのもあって、アーウィンの切り出した話しを途中で遮ってしまったことに気がついた門番の青年は平謝りに謝った。
「よい。冒険者ギルドで緊急の指名依頼を受けたのでな。故に街を出るのに冒険者証で出入りをしたい。構わぬか?」
「はいっ! 手続きを致しますので、冒険者証とギルドからの依頼書をご提示ください」
請われた通り、自身の冒険者証と指名依頼書を小収納の魔法陣から出してくれたアーウィンから受け取って。
「⁈」
門番の青年は、思わず依頼書に記されている依頼内容に目を剥いた。
“アティスへ向けネードリー平原侵攻中の魔物暴走の群れを全殲滅”
それを信じ難い驚愕で以って受け止めてしまった青年は、表情を取り繕うことも出来ずにアーウィンの方を伺い見てしまった。
「すぐに済む故、他言無用に頼むぞ?」
「し、しかし……これが事実なら!」
「ギルドマスターも騎士団長であるフリュヒテンゴルト公爵も了承済だ。ワイバーン襲撃からやっと一息つけたばかりの民に余計な心労をかけたくはないからな」
「ですが! 御一人で対抗なさる数ではないと……!」
「問題ない。確かに数はいるが、全て雑魚だ。依頼通り全てを殲滅するのに5min(約5分)もかからぬ故、調べ物を追加したとしても30min(約30分)以内には戻る」
「え……?」
そこいらで雑草摘んで帰って来るのとは訳が違うんだぞ⁈
門番として、軍に身を置く者として理性ではそう思うものの頭の片隅がそれと真逆のことを訴えかけてくる。
彼は、伝説の浮島と呼ばれる国の王族だ。
現れるなり、たった一撃でワイバーンを討伐した強者だ。
王族専用の身分証、その特記に「規格外王子」なんて書かれちゃう御人なんだ。
そんな人が出来るって言い切ってるんだから、多分、きっと、出来るんじゃないのか? ……と。
「私は先を急ぐ。通ってよいか?」
「あ! は、はいっ!」
アーウィンからそう促されて、目の前の現実へと意識を戻した門番の青年は、慌ててアーウィンのギルド証と依頼書を読み取り機にかけて認証を通し、その2つを差し出した。
「御武運を!」
「任せておけ」
アーウィンは門番の青年の言葉に笑顔すら浮かべてそう答え、左の爪先で飛翔の魔法陣を発動させると空中へと浮かび上がった。
上空へと顔ごと視線を向けた瞬間、物凄い速度で切り揉みしながら真っ直ぐ飛び上がり、東南の方向へと流星のような速度で消えて行った。
「すっげぇ速さで飛んでった……」
「………おう。今の、レンリアード隊長達が連れて来た他国の王族とかいう人だったよな?」
同じ門番の反対側に陣取っていた青年が、他に誰も居ないのをいいことに彼の方へとやって来てそう尋ねた。
「ああ。ヴェルザリス? っていったかな? 確か。伝説の天空の浮島って話しのアレ。そこみたいだぜ? 殿下のお国」
「はぁーん? よく分かんねぇけど、伝説って言うだけあって凄そうな国だな?」
「……うん」
もう完全にアーウィンの姿なぞ見えなくなってしまった夕闇の彼方へ2人揃って目をやりながらそんな話しをした。
その間にも彼が向かった先から、この街へ向かっている魔物暴走の群れを全殲滅、と書かれていた依頼書の内容が頭から離れなかった青年は、生返事をしながら、そのことについてずっと思いを巡らせていた。
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