天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

翌日にて

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 ワイバーンがウィムンド王国の首都であるこの街を襲い、そして討伐されてから1夜が明けた。
 彼方此方で起こっていたブレスによる火災も既に全てが鎮火され、空き地となった商店や倉庫には、早くも大工達が集まって新しい建物を建築する為の足場を組み始めていた。
 ワイバーン襲撃に関する対応と報告をほぼ終えた冒険者ギルドも一時、平穏を取り戻し、やがて齎されるだろう魔物暴走スタンピードに関するアーウィンからの報告と、次にこの街を襲うことになる竜種大行進ドラゴンマーチへの準備と対策を密やかに開始した。
だが、大半の職員や冒険者達は、まだそのことを知らされていなかったこともあり、慌ただしく動く一部の者達へ不思議そうな視線を送っている。
 城へ報告に上がったフリュヒテンゴルト公爵は、夜の内にギルドへ戻ることはなく、またベントレー子爵も騎士団の被害状況を確認する為、早朝に登城した。
そしてアーウィンも宣言通り、まだギルドには姿を見せていなかった。
 そんな中、一旦、ギルドの宿泊部屋へ身を寄せていたフェリシティアが奥階段から階下に姿を現した。

「おはようございます。レンリアード隊長、ローガン様」
「やあ、おはよう」
「少しは寝れたかのう?」

 挨拶を返してくれたレンリアードとローガンが腰を落ち着けている左側のテーブル席へと歩み寄り、同じテーブルの椅子へと優雅に座ったフェリシティアは、僅かな苦笑いを浮かべた。

「情けないことに、全然眠れなくて。朝方に漸く少し眠れましたわ。父に逆らうのも城へ報告に戻らないのも初めてだったので、なんだか妙にドキドキしてしまって」
「ほっほっほ。ガキの頃に悪戯したり、外泊しまくったりしてドヤされとると何とも思わんのだがな。さてはお前さん、親から言われたことを出来るのにやらんのは理解力のないバカだと思って見下しとったクチじゃろう?」
「……これだけのことで見抜かないでくださいまし」

 笑いながらされたローガンのツッコミにフェリシティアの笑みは、その含まれる苦味が増して、項垂れるような格好で俯いてしまった。

「己に不利益がないならば、怒られん分、言うこと聞いとった方が面倒もなく得じゃろうと判断出来るのは、知恵が高い証拠じゃ。それは悪いことではないぞい?」
「ですが、怒られたり叱られたりという経験をある程度、幼い時にしておかないと他者から理不尽に齎される重圧プレッシャーに弱く、それを自力で跳ね除けられない子になってしまうのだと郷長さとおさが昔、言っていましたよ? 最も120年位前の話しですから、どうなんでしょう? 今時の子とか人族の子とかは違うんですかね?」

 ローガンの言葉に在りし日の記憶を手繰り寄せながら問うレンリアードは、種族差異による子育て方針の違いが意外と激しいことをキチンと理解していた。
 繁殖力と繁殖頻度は高いものの、全体的に寿命が50年から100年前後と短く、ステータスが貧弱で死にやすい人族は、とにかく己が子に安全策を叩き込もうとする傾向がある。
 最初に危ないことをするヤツは、死にかけることで頭と身体でそれを覚えて理解しろ! 理解したヤツは余さず後世に伝え続けろ! それを怠り、学び忘れたヤツから死んで行くんだ! 分かったか⁈ みたいな種族方針を持つ人族は、騎士爵家以外では、変わり者や変人扱いされる者くらいしかこの種族規範から滅多にはみ出すことをしない生き物なのだと森妖精エルフ達の間では認識されているのだ。

「わたくしは逆に120年前のことは存じ上げませんけれど、自分の経験を元にお話しをさせていただくならば、森妖精エルフ郷長さとおさ様が仰っておられることが正解なのだと感じますわ。育ちの所為もあって、階級差を元にした上からの理不尽に対する忍耐力は鍛えられていると思いますけれど、可能な限り心理的な重圧プレッシャーをかけられないで済むように立ち回ってきたような気がいたしますもの」
「ニャア。そんなことで、これから王族重圧プレッシャー塗れの状況になるの、耐えられるのかニャ?」

 ギルドの別部屋から出てきて受付カウンターへ向かったミューニャから通りすがりに入ったツッコミにフェリシティアは、これまでと変わらぬ苦さが混じった笑みのまま頷いてみせる。

「王族と竜でしたら仕えて来た年月がある分だけ、王族の方に耐性があると自負しておりますわ。何を言って来るか大体、予測もつきますし。わたくしのこのドキドキは、初めて親に逆らったというこれまでなかった経験の結果がどうなるのか分からない所為で、不安に思っているからなのではないかと?」
「ニャウ。それだけ自分自身と状況を客観的に分析出来てるなら大丈夫だニャー。後は……」

 不意に言葉を途切れさせたミューニャの猫耳がピクピクっと動いて、身体ごとグリンっ、とギルドの入り口の方へ向いた。

「あ! アーウィン殿下ニャ! おはようございます、なのニャー!」

 元気よく右手を上げて挨拶を投げた彼女に自然な笑みを浮かべたアーウィンが、入り口から此方へと足を向ける。

「おはよう、ミューニャ嬢。昨日は色々と世話になったな」
「ニャア! どういたしましてなのニャ! ミューニャは当然のことをしただけなのニャ!」

 アーウィンの言葉にミューニャが返事をしたのを合図に席へ座っていたレンリアード、ローガン、そしてフェリシティアが椅子から立ち上がる。

「おはようございます、アーウィン殿下」
「おはようございます。少しはお疲れがとれましたかな?」

 挨拶と共に問いを投げたローガンに小さく笑みを返してから4人の前で立ち止まったアーウィンが続ける。

「おはよう。レンリアード、ローガン。気を揉ませてすまぬな。回復に関しては問題ない。報告するべき事項については、フリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵の到着を待って始めよう」
「はっ」
「かしこまりました」

 先にしておくべき話しをしてしまってから一呼吸置いて、アーウィンの視線がもう1人、席から立ち上がっていたフェリシティアへと向く。

「処で……貴女とは、初めましてになる筈だと記憶しているが、相違はないな? 私は天空国家ヴェルザリスの第3王子 アーウィン・ラナ・ヴェルザリスだ。名を尋ねても構わぬか?」
「はい」

 他国の王族とはいえ、階級が上のアーウィンから声をかけられるまで当然のように黙して待っていたフェリシティアは、尋ねられたことに応を返してから着ていた城のメイド服姿のまま、その場で美しいカーテシーを送った。

「お初におめもじ致します。わたくしは、セギュワール伯爵家長女、フェリシティア・セギュワールにございます。アーウィン殿下に於かれましては、我が国の危難を退け続けていただいておりますことを1国民として、厚く御礼申し上げます」
「そう恐縮することはない。ただの私のお節介に過ぎぬよ。1冒険者としてのな」

 柔らかな笑顔でフェリシティアのした表現を踏襲した形で返された言葉に、彼女のおもてにも笑みが浮かぶ。

「有り難う存じます。わたくしが、此方にまかり越し、殿下のご尊顔を拝しました理由にございますが、我が国の第1王女であらせられるクレアンティーヌ姫殿下より、お茶会の招待状をお預かりし、この場に持参させていただいているからにございます。お忙しい折、誠に恐縮ではございますが、辞退か破棄かだけ、ご意向を指示いただければと存じます」

 フェリシティアが口した選択肢に一瞬、ギルド内が静寂に包まれた。
 最初から参加を選択させる気がないのが丸分かりなのは勿論、アーウィンの意向を王女付きの侍女である自分に指示してくれ・・・・・・、という内容が示唆する事実があまりにも ── “私は姫の侍女ですが貴方の指示に従います” の意味だと ── 明け透けに分かり過ぎて、早朝から依頼を探しに訪れていた冒険者までもが、呆気に取られて此方へと視線の全てを投げかけていた。




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