天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

辞退の理由

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「そうか。役目ご苦労」

 数瞬の間があったものの、アーウィンはフェリシティアの返答にまず、労いの言葉をかけてから申し訳なさそうな表情を浮かべて再び口を開く。

「では、貴国の姫殿下には大変申し訳ないが、茶会の招待は辞退で処理を頼む。理由は、これからのこと・・・・・・・が使えぬようであれば、私には国に婚約者が居る為、王女殿下とお2人でお会いすることで、万が一にも王女殿下の安全を脅かさぬよう配慮する為、としてくれ」
「王女殿下の、安全……ですか?」

 彼女がどこまでこちらの事情を知っていて「辞退か破棄」の2択を提示したのか疑問に思ったアーウィンが告げたことに頭を下げたまま面だけ上げていたフェリシティアが確認するような音程で、気になったのだろう部分を問いかけてきた。
 上げられた文節から察するに、どうやら一通りの話しは通っているらしいと判断したアーウィンは、映像記録魔法の〈再生〉を起動して中空に1人の少女を映し出した。

「彼女が私の婚約者、ルクレンティア・ラッファエラ公爵令嬢だ」

 公爵令嬢。
身分相応、品の良い型をしたドレスは淡い水色で、白のレースとシフォンがたっぷりと使われた柔らかな風合いを醸し出していた。
 緩く波打った腰までの金髪、新緑のような色合いをした碧の瞳。
 薄桃の唇は、ほんの少し笑みの形に口角が持ち上げられていて全体的に愛らしい印象を与えている。
 この場の者達は知り得ぬ話しだが、この映像が記録された時、彼女の視線の先にはアーウィンが居た。
その為か、彼女の表情は愛と幸福に溢れていて、見る者の心に安心感や微笑ましい柔らかな空気を感じさせていた。

「流石、殿下の婚約者だな! 滅茶苦茶可愛い!」
「公爵令嬢だってよ? くぁッ! 雲の上の御人だぜ!」
「天空国家なだけにな!」

 誰かが飛ばしたオヤジギャグ全開のツッコミに冒険者側からゲラゲラと明るい笑い声が起こった。
 この和やかな空気をこれからブチ壊すことが分かっていたアーウィンは、物凄く言い難そうに言葉を繋ぐ。

「……ラッファエラ公爵家は代々の当主が、我が国の騎士団長を務めている家柄でな。彼女はそこの1人娘なのだが……実は、生まれながらにして “剣神” という、ほぼ剣術最高位と言って過言ではないスキル持ちなのだよ」
「え? けんしん………って……えっ⁈」
「マジかよ……⁈」
「……こんな、綿花みたいなポワっとした感じの御令嬢が……⁈」

 剣神。
それは、前衛戦闘職の者ならば1度は所持を夢見る最上位剣術スキルの1つだった。
 極めれば、そこいらで拾った枝の切れ端を一振りするだけで巨岩をも両断することが出来ると言われ、歴史に於いて剣で名を馳せた、所謂、剣豪と呼ばれる者達は必ず所有していたと言われる必須スキルの1つなのだが、この映像で見る少女の姿は、とてもではないが前衛戦闘職や剣豪を想起させるものではなかった。
 既にザワザワと信じられない物を見たかのような雰囲気に溢れるギルド内に、どことなく居た堪れないようなアーウィンの声が話しを続ける。

「彼女が3歳の時から手にした剣でボコボコにしてきた男の数は正に星の数。上は1つ年上から30歳年上まで、または自分と同年代。成長してからは1つ下から10歳年下までを加える形で、挑んできた男の全てを退け続けた。手にした木剣が彼女の放つ威力に耐えきれず次第、折れ砕けて粉微塵となっていこうとも相手が泣くか降参するまで一切合切攻撃の手を緩めることなく勝ち続けていたことから当時は、情け容赦ない御令嬢として国中に名を轟かせていた」
「あの……何故、そんなことに……?」

 最もと言えば最もな疑問がレンリアードの口から漏れ出て、アーウィンは思わず溜息をついてしまった。

「3歳で、どこぞの三男坊と政略結婚させられそうになった彼女が  “剣で自分に勝てぬ男の妻にはならん” と宣言した所為だと聞き及んでいる」
「ああ、なるほど……だから最終的に、お相手が、殿下しか残らなかったんですね?」

 そりゃあそうだろうともよ、と納得の空気がギルド内に流れた。
 例え女性と言えども伊達に剣神のスキル持ちではあるまい。
 同じような最上位スキル持ちならまだ拮抗もしようが、凡百では束になっても敵うことなどないだろう。

「彼女が女性であるという目の前の事実、そしてこの容姿に惑わされて “剣神” というスキルを甘く見た故の結果が敗北だったのだろうと私は見ている。当時の彼女の剣は、体力も腕力も技術もなく、スキル任せで冷静に捌くことさえ出来れば勝機は十分にあったのだがな。事実、私は勝っているし」

 皆の予想をやや裏切る形で発せられたアーウィンの発言に、剣神スキル持ちをそんな理由だけで舐めてかかることが出来る胆力と武力をヴェルザリスの男達がある程度の数、有している事実とそれだけの人数の者が敗れているにも関わらず尚、己は違う、勝てるのだと彼女を舐めたままの状態で思ってしまえる馬鹿もそれなりの数存在していることが分かって、感心していいのか呆れていいのか判断がつかずに皆が黙り込んだ。

「まぁ、それは、ちょっと置いておいて……うん。紆余曲折あったのもアレコレと影響しているのではないかと思ってはいるのだけれど……その……何というか、彼女は……私の妻の座を誰かに脅かされるということが我慢ならないらしくて、だな」

 それはそうだろう。
自国のき遅れ姫同様の未来が、一歩間違えれば彼女にだって訪れていたのだ。
 やっと捕まえた理想の男を横から掠め取られるなぞ、承服出来かねるだろうことは容易に想像できた。

「私は浮気なぞする気はないし、他の女性をそういう意味で扱ったことは、ただの1度たりともないと自信を持って言い切れるのだが……あー……彼女曰く、私に色目を使っただの媚を売っただの無遠慮に下心満載で傍寄っただの……正直、言い掛かりも多分にあるのじゃなかろうかと思うような些細なことでだな? こう、私に近づいているように見えた他の御令嬢をだな」
「剣で殴るんですかい⁈」

 話しの流れからイの1番で思いついてしまったことを冒険者の1人が驚愕と共に問う。

「あ、いや……余程のことがない限り、女性相手の時は基本、殴ったり攻撃魔法を使ったりはせぬ筈なのだが、完膚なきまでに心を折りまくって、私の近くから排斥しようとする悪癖があってな。ついた渾名が ”堕天使ルったん” 。彼女が荒ぶると速攻で私の所に連絡が来て、何かの符丁のように『殿下! 大至急、堕天使を天使に戻してください!』などと請われたものだ」
「でも、ここには殿下しか居ないんですから、そんなに心配しなくても大丈夫なんじゃないですか?」

 何処か遠い目をしながら答えたアーウィンに、レンリアードが当然と言えば当然の応を返す。

「いや。バレた段階で過去に遡ってでもお相手の御令嬢が死を覚悟するような目に遭うのは決定なのだよ。私の帰国がキッカケとなって、この国に単身攻め込んで “王女の首を出せ!” なんて……そんな国際問題驀地まっしぐらな行動を引き起こさせる訳にはいかないのだから、最初からその可能性を排除する義務が私にはあるのだよ。それが安全配慮という言葉の持つ意味だ」

 完璧令嬢の唯一の欠点と言われるそれを制御コントロールすることも婚約者の座に居る以上、己の役目であろうとアーウィンは考えている。
 今一つ実感が湧かないながらも騎士団長家の御令嬢な上に剣神のスキル持ちが自国の王女に喧嘩売りに来る可能性が、お茶会如きで発生する懸念があるのならば、是非とも回避して頂きたい、と言うのが図らずもこの場に居合わせてしまった者達共通の願いだった。

「では、ご辞退ということでお返事を承ります。理由に関しましては、我が国の姫殿下への安全配慮、とだけお伝えする形でよろしゅうございますか?」
「ああ。手数をかけるが、よろしく頼む」
「かしこまりました」

 フェリシティアがワザと含みのある表現に要約して辞意を伝える許可を求め、アーウィンがそれに是を返したことで、この件に関する話しの落とし所は一応の決着を見たようだった。

「アーウィン王子殿下。私からのお話は、実の所、もう1つあるのですが、続けてお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 フェリシティアが、すぐに告げた別件の存在こにレンリアード、ローガン、ミューニャの3人が表情を無意識に引き締めてしまい、アーウィンはこれが重要案件であることを何となく察してしまった。

「フリュヒテンゴルト公爵、またはベントレー子爵の到着までなら構わぬが?」
「では、御二方のどちらか、若しくは両人の立ち合いの元で別室にて、このお話しはさせて頂ければ助かります」
「? ……では、そうしよう」
「有り難う存じます」
「ニャー!」

 切り出しておきながら2人の名を出した途端、同席が望ましいとばかりに申し出たフェリシティアを窺い見ながらアーウィンが同意するとスルッと抜群のタイミングでミューニャが場に割って入った。

「なら、昨日使ってた会議室を今日もそのまま使うといいニャ。ギルドの皆にはミューニャから通達しとくのニャー」
「ああ、そうしていただけると助かりますね」
「うむ。それが良いじゃろうの」
「ではミューニャ嬢、手配を頼む」

 レンリアードとローガンもミューニャの提案に同意したことを受けて、階級的には1番上に当たるアーウィンが、ミューニャへと正式な是意を口にした。

「はい、なのニャー! 公爵か子爵が来たら案内するから皆は先に会議室に入っとくのニャ!」

 どうやら、とっとと人目につかない所へ行ってしまいたいらしい、ということだけは理解出来てアーウィンは、そっと息をつく。
 頭の中で保留事項が幾つあったのかを数えてみたことで実の所、己のことに関しては何1つ状況が進展していなかったことに今更ながらに気づいてしまい、そっと額を押さえながら上階への階段を登って行った。



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