天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

公爵と子爵の合流

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「あ! やっと来たニャ!」

 到着した冒険者ギルドに足を踏み入れてすぐ、フリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵を出迎えるようにかけられたのは、受付嬢ミューニャのそんな声だった。

「アーウィン殿下達は、ワイバーンの受け取りに来た騎士達と一緒に試験闘技場で待ってるのニャ」
「そうか。待たせたようだな」
「ニャー。騎士達が訪ねて来た時点で、そこで待つって決めたのは皆なのニャ。ご案内いたしますニャー!」
「うむ」

 受付カウンターから出てきたミューニャは、そう言って2人をギルドの1番右奥にある広めの通路へと誘った。
 公爵は、ギルド前に荷車が置かれたままになっていなかったことから騎士達が皆、受け取り用の荷車をギルドの外から回しているのだろうと考えていた。
 丁度、昨日、ナティオス達が馬を裏手に回していた時みたいに、このギルドは裏庭を通って試験闘技場へと出られる造りになっていた筈だ。
 冒険者ギルドの試験闘技場は、新たに冒険者となる者やランクアップをする者達が実技試験を受けたり、互いが切磋琢磨と言う名のジャレ合いをする為に設けられている施設で、騎士団の訓練場と同じ2500ニルメルガの広さを持つ。
 魔法使いが試験を受けることもあるので、多少の魔法からは被害を被らずに済むような防御の障壁を張る魔導具が設置されているが、貴重な魔導具である為か、このような措置が取られているのは各国主要都市のギルド施設だけだ。
 けれどそれも絶対ではなく、上位魔法1発で消し飛ぶ程度のものであり、都市全域をカバー出来る範囲の物でもなかったのだが、王城や王宮、そして冒険者ギルドにとっては貴重な防御戦力として重用されていた。

「おはよう。フリュヒテンゴルト公爵、ベントレー子爵。昨日以来だな」

 試験闘技場内に足を踏み入れてすぐ、にこやかに挨拶を投げてきたアーウィンに公爵と子爵は期せずして声を失った。

「ニャー! アーウィン殿下、何があったのニャ?」

 ミューニャ同様、それを激しく問いかけたくなってしまう目の前の光景。
それは、累々と騎士達が試験闘技場の地床へ倒れ伏し、レンリアード、ローガン、そしてフェリシティアが途轍もなく呆れ返った視線を彼等に投げかけている……そんな代物だったのだ。

「一応、申し上げておきますが、我々は止めたのですよ?」

 最初にそうことわりを入れたのは、レンリアード。

「殿下がワイバーンを単独討伐したのが信じられんと喧嘩を売って来たのは騎士達じゃ。儂らは、どうなっても知らんぞ、と幾度も通告したのだがのぅ」

 諦念を込めた声で、こうなった理由と制止を振り切られて現状に至っているのだということを付け足す形で言葉を紡いだのは、ローガン。

「相手の実力を見抜くことが出来ぬばかりか、見縊って過小評価した思い込みを元に、くだらぬ己が矜持を保ちたいが為に殿下のお手を煩わせるなど……全く以って愚かしいお話しですこと」
「ニャア。バカだバカだとは思ってたけど、ただのバカじゃなくて “鉄貨バカ” だったのニャ」

 絶対零度の蔑みを瞳に湛え、倒れ伏す騎士達を睥睨しながら断じたのはフェリシティア。
それに同意しながら “これ以下の価値を持つ貨幣が存在しない” ことから “それ以下が居ないバカ” を比喩で表したミューニャが、眉間にシワを寄せながらアーウィンの元へと向かう。

「……おはようございます、アーウィン殿下。後始末を押し付けることになってしまいましたことを騎士団の長として、謝罪いたします」
「おはようございます、アーウィン殿下。朝も早くからご迷惑をおかけいたしまして、面目次第もございません」

 深々と頭を下げて見せたフリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵の声には、隠し切れない疲労と不出来な部下の今後をどうしてくれよう、という苦渋が滲んでいた。

「互いに木剣で、と提案はしてみたのだがな。ワイバーンを一撃で倒した剣で、と。どうしても譲ってくれなかったのでな。仕方なく、終わったら回復魔法を使って傷を癒してよいというのを交換条件に、彼等の相手をさせて貰ったのだ」

 アーウィンが、無事では済まぬだろう彼等の身を癒すつもりでした提案は、自分の保身を図ったと受け取られて彼等に嘲笑されたのだが、流石に他国の王子を集団でボコって処分を食らうのだけは避けたかったようで、最終的には了承された。
 そして、了承したからこそ彼等は、倒れて意識がないものの、全員五体満足で生きている。

「既に負わせてしまった怪我は全て癒えている状態だ。問題ない」

 問題ありまくりだ‼︎
喉まで出かかった反論を押し殺したフリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵は、今一度、アーウィンに向かって深々と頭を下げた。

「ご温情、誠に有り難く……」
「此奴らは、ワイバーンを運ばせて、とっとと城へ返しますゆえ、王族である殿下にご無礼を働きましたことは、何卒、平に、平にご容赦を賜りたくっ……」
「まぁ、良いではないか。彼等にしてみればワイバーン討伐の手柄を私に横取りされたようなものなのだろうからな。文句の1つも言いたかろうよ」
「殿下が討伐してくださらなければ、民ばかりか国王陛下や己自身が死んでいた可能性があることにすら思いが至らぬとは。よくこの為体ていたらくで王国騎士が務まりますこと」

 アーウィンのフォローも、そんな風に慮ってやる価値すらない、とばかりにフェリシティアが言葉の刃で切って捨てた。
 正直に言えば、アーウィン以外の全員が、フェリシティアに全力で同意したい心情を抱えてはいた。
だからだろう。

「おい、お前ら! いい加減、起きんか!」
「いつまで寝そべっとるつもりだ、馬鹿者共! 邪魔だ!」

 正統な八つ当たり(?)よろしく、公爵と子爵は、転がっている意識のない騎士達を順に蹴飛ばして強制的に目を覚まさせた。
 鎧の兜越しでも結構な衝撃があったらしい騎士達は、脳内貧血を起こした後みたいな、へよへよした動きを見せながら地床の上へと座り込んだ。

「約束通り、そなた達の身には回復魔法をかけてはあるが、気分の優れぬ者は居るか?」

 穏やかな声に促されるように、そちらへと視線を巡らせた騎士達は次の瞬間、曖昧だった記憶が鮮明となったのか、一斉に大絶叫しながら次々と試験闘技場内でアーウィンから1番遠い壁まで転びながら大慌てで駆け去った。
 何が起こったのか分からぬ風で、きょとりとしながら目を瞬かせるアーウィンと乾いた笑いを浮かべるレンリアード達。
 公爵と子爵は、揃って額を押さえながら地の底から湧き出たような溜息をついた。




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