天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

報告その1 -強姦未遂騎士の末路 1-

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 取り敢えず、騎士達が自分に対して怯えているらしいと言うことだけは、分かったアーウィンだったけれど。

「ふむ、国や種族が違ってもこうした時の反応には違いがない、と言うのは面白いものだな」

 過去の経験と照らし合わせて、天空人と地上人の共通点をまた1つ見い出して、そう呟いてしまった。

「と、仰られますと?」
「私は幼少時から基本、ソロ活動だったのだが、冒険者ギルドでSランクになって、狩猟者ハンターギルドに移籍するまでは、そこの騎士達のように挑んで来る者が良く居たものだ。 “ランクは血筋で買うものではない” だの “お前の本当の実力を俺達が分からせてやる” だの理由は色々とあったが、全てが終わると何故か皆、同じような反応を私に対してするようになってな。いやはや、懐かしい」

 ローガンのした問いかけに答える彼の声音が、老成した者が遥か昔に想いを馳せるような彩を含んでいて。

(……それ、懐かしがる程、昔のことなんですかね? 殿下、どう見てもまだ10代ですよね……?)

 声には出さず、レンリアードはそう心の中で突っ込んでしまった。
 年齢で言えば3桁に乗って当然の寿命を持つ、地妖精ドワーフのローガンと森妖精エルフのレンリアードからしてみると1桁や2桁前半台の年数など、どう重く見積もっても懐かしくは感じられないものだった。

「あー……その、何と申しますか……お手数をおかけいたしました、アーウィン殿下。今一度申し上げておきますが、この者達は、ワイバーンを引き取らせたらすぐに帰らせるように致しますので」
「そうか。では、荷車をここへ入れてもらって、亡骸はその上に出すか。あの大きさでは持ち上げるのも容易ではなかろうしな」
「助かります」
「おい! いつまでそうやって居るのだ! とっとと外の荷車を持って来ぬか!」
「は、はいっ!」

 アーウィンとフリュヒテンゴルト公爵の話しを横で聞いていたベントレー子爵が喝を入れるように指示を出したことで、端っこ退避から漸く脱した騎士達は、まるでこの場所から逃げ出せる大義名分が出来たとばかり、我先に裏庭への出口に殺到した。

「うん?」

 その中に。

「待て、そこの茶髪の騎士」

 戦闘中には気付かなかった、見覚えのある顔を見つけてアーウィンが端的に髪色を指定して制止をかけると思わず、と言った体で騎士達は全員が硬直したように動きを止めた。

「そなた、何処かで……」

 呼び止めた対象の騎士にアーウィンが真っ直ぐ近づいて行くと、ササっと他の騎士達が逃げを打って茶髪騎士の傍から大袈裟なくらい距離を空けて離れた。

「ああ、思い出したぞ。冥界ネルグリファからの返答で、余罪有りと記されていた強姦未遂騎士だったな、そなた?」
「えっ⁈」

 身に覚えはあるのだろう。
指摘された茶髪騎士は、ギクっと身を強張らせて短く声を上げ、トバッチリは御免だ、とばかり自分から更に距離を取る仲間達を視線でキョロキョロと見回していた。

「な、何ですとっ⁈」
「どいうことですか殿下⁈」
「強姦未遂とは聞き捨てなりませんな……⁈」

 ローガンとベントレー子爵が驚きの声を上げ、次いでフリュヒテンゴルト公爵が、嫌悪の混じった質を投げかけた瞬間、己の不利過ぎる状況を悟ったのか、茶髪騎士が一目散に逃げ出そうと踵を返した。
だが、それを黙って見送るようなアーウィンではなく、彼に向かって白い手袋の布地を擦るようにして指を鳴らす仕草をした。
 瞬間、試験闘技場の地床から太い蔦のようなものが幾つか生えてきて、茶髪騎士をガッチリと俯せ状態で地に捕らえた。

「ぐあっ‼︎」
「まぁまぁ、そう急くな。ゆるりとそこで私の話しを聞いて居れ。どうせならば、そなたの口から同罪だという、お仲間とやらの情報を吐いてくれると手間が省けて助かるのだがな?」

 右手を翻し、収納から射出されてきた光剣の柄を握り、手元の認証を解除するまでを一息に行いながら言う。
 光と炎で出来た剣が、すぐさま柄から生えるように現れて茶髪騎士の顔傍に突き立った。
 時折、バチッ、と雷が放電する音と共に剣と同色の光が剣の周囲を駆けて地に溶けた。

「う、うわあっ⁈」
「し、知らない! 俺が考えたんじゃないっ‼︎」
「タダでいい思いさせてやるって言って来たのはそいつなんだ! 俺は悪くないっ!」
「どうせ女の平民騎士なんか、それが目当てなんだから俺達で望みを叶えてやるだけだって言われて誘われただけなんだ!」

 茶髪騎士が白状ゲロったら自分達も同じ目に遭うのだと悟った4人の騎士が、先程の地獄に堕とされたみたいな戦闘 ── 対外的には、ただの手合わせということにはなっていたが、多対一であったにも関わらず一方的な殺戮行為じみたことを行ったのは “1” の方である ── を想起させられたのか、矛先を向けられる前に土下座ならぬ五体投地同然の格好で己が主張を口にして、ガタガタと震え出した。

「………貴様等、今、喚いておったことは真実か?」
「どういうことなのか、綺麗に吐いて貰おうか?」
「何、改めて問うまでもない。こういうことだ」

 公爵と子爵の問いかけにアーウィンが、小収納から取り出した魔導具で1つの画像を映し出す。
 それは、バリナの報告を元に行われた何かの作業によって齎された最終結果を当時のまま映し出していた。
 昏倒しているらしい茶髪騎士に被さる形で赤い大きなバッテンが描かれ、更にその上に “有罪” の文字が右斜上りにデカデカと記されている。
 画像の左端には “同罪科 余罪有” の一文が但し書きのように表示されていて、その場の者達は、何処か呆然とした程でその画像を見上げた。

「殿下? これは、一体……?」
「とある女性騎士より、この男達が犯した強姦未遂事件のことを聞き及んでな。丁度目の前にこの茶髪の騎士が居たのを利用して、冥界ネルグリファの長である地獄神デウレマンズの元で日々、死者の魂の善悪を裁定する為の真偽調査を請け負って居る罪科総記録所カルマルディアへ、事の真偽を問い合わせたのだ。この映像は、その回答を貰った時のものだな」

 アーウィンの答えに、その場がシーンと静まり返った。
 彼が死者蘇生を行ったという報告自体は聞いていた。
 それがどのように行使されたものなのかはともかく、第3者視点からの経緯だけは、報告書から読み取れはした。
だが。

「驚きましたわ。死後の裁判は、実在するのですね。殿下」
「ニャア……しかも、この世に居たまま、あの世に連絡とって本当かどうか確かめられるなんて、初めて知ったのニャー」

 フェリシティアが右手で片頬を包み込んで、傾げた首を支えるような仕草をし、ミューニャが画像を見上げてパチパチと瞬きを繰り返しながら溢した台詞は、この場に居る全ての者達が抱いた感想の代弁となったのだった。


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