天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

文字の大きさ
54 / 113
第1章 ウィムンド王国編 2

報告その2 -ワイバーン回収 1 -

しおりを挟む
「殿下。荷車は大体、横幅が1.13mメルガ、長さが2.74mメルガ程になりますが、縦10台、横は少し間を空けて2台並べ、ロープで前後と隣を繋げる形にすれば問題ありませんかな?」
「ああ。尻尾と翼を身体に沿わせる位置に固定しておけばそれで問題はなかろう」

 ベントレー子爵が確認するように投げた質問へ、空間へ浮かぶ四角から視線を外したアーウィンがそう答える。

「おい、お前ら! アレは1週間以内ならいつでも見れるそうだから、見たけりゃ非番の時にじっくり見ろ! 今は仕事だ、仕事!」

 恐らくは彼自身もそう考えることで、呵責を受け続ける部下のことを割り切ったのだろう。
 荷車の傍で呆然と佇んで四角を見上げているだけの騎士達を叱責しつつ、荷車の配置を指示していく。
 相変わらず右袖を握り締めているミューニャを無理に引き剥がすことをせず、アーウィンが嵌めている手袋ごと右手の親指と中指の先を擦り合わせる。
 すると呵責を受けている者達の脱魂した身体を内側に入れる形で正四角錐の枠が姿を現した。

「捕縛結界内で、その者達の身体が死なぬよう保護する故、捕らえている者達は身体を離して構わぬぞ?」
「はっ!」

 何を心配したのか不明な速度で返事をし、パッと瞬時にその身を離した両側の騎士達が無意識に視線を向けたその先で、倒れ込んだ身体が枠組みの側面より現れた透明な黄色の壁に阻まれた。
 中へと収められた身体が両側を離された時より更に不格好な様相で、重力に従い中でズルズルとズレて行く。

(……これが、捕縛結界だって?)
(縄や檻、魔法鍵すら必要ないとは。我が国の魔法士達が使う物とはレベルが違うな……)
(返す返すも何で俺達、こんな凄ぇ人に喧嘩売れたんだろう……)

 現場を見ていない状態で齎された情報が、あまりにも突拍子が無いもの過ぎて、丸切り信じることが出来なかったのは否定しないが、今現在、目の前へと突き付けられている現実の方がもっと真実味がないことばかりなのも事実な訳で。
 そこを鑑みてしまうと如何に自分達の下した判断が、よく知りもしない相手を決めつけと思い込みだけで見下しまくって為されていたものなのかを思い知ってしまった。
 結局は戦闘力のみならず、文明力、技術力、魔法力、全てに於ける差が自国とは段違いに上であることを認めない訳にはいかない事実が、現実として目の前に横たわっていたのを理解した。

「あっ、いけね! 仕事仕事!」
「ああ、そうだった!」

 己の思考に埋没しかけていた彼等も手持ち無沙汰のままいられる状況ではないことにすぐ思い至って、荷車を並べている同僚に混ざる形でその場を離れていった。

「あら、いけない。はしたない姿をお見せいたしまして……失礼いたしました。殿下」

 改められた彼等の所作にホッと息をつくことで、アーウィンにしがみついたままでいたことへ意識が向いたらしいフェリシティアは、貴族の令嬢らしく、慌てているのを悟られないよう気をつけながら傍を離れて頭を下げた。

「ニャー……フェリシティア、無理しない方がいいのニャ。これからワイバーン出で来るのニャ」
「っ!」

 何の為に騎士達が荷車を並べているのか理由はハッキリしているのだし、そんなもん目の前で見たら例え死んでても尻尾が3倍位に膨らむ自信のあったミューニャは、未だにアーウィンの右袖を握って離さない。

「で、でも……死んでおりますのよね?」
「殿下が首チョンパして討伐したって聞いてるのニャ。でも倉庫街の報告書に同じ個体として収納の魔法陣から取り出された遺骸は、首が繋がってて完全体だったって書いてあったのニャ。所感にも “今すぐ飛び上がって咆哮とかブレスとかかましてきてもおかしくないように見えた” って記載があったのニャ! おっかないのニャ!」
「ミューニャ嬢」

 本来であれば、自国や各ギルドの保持戦力だけでは対抗しきれなかった魔物である以上、その存在を恐れるのは仕方のないことだろう。
 だが、必要以上に怖がらせる必要もないと穏やかな声で彼女の名を呼んだアーウィンが笑みを向ける。

「私の収納には、修復機能がついて居る。故に損傷修復という形で首が繋がってしまっただけで、蘇生はしておらぬ。安心してくれて問題ないぞ?」
「ホントニャ?」
「勿論だ」
「ミューニャさん! 気持ちは痛い程に分かりますけれども、姫様のお立場でさえ殴り込みをかけてくるかもしれない程、殿下を愛しておられる若奥様に申し訳が立たないのではございませんこと?」

 まだ婚約者でしかないルクレンティアのことを敢えて「若奥様」と表現したフェリシティアにアーウィンが驚いたような目を向けて幾度か瞬いた。

「にゅぅぅぅぅぅぅ……じゃあ、お前にくっつくのニャ」

 剣神のスキル持ちに喧嘩売られるのだけは勘弁願いたいのだろう。
 暫しの葛藤を唸りに変えたミューニャは、そう言ってフェリシティアの手を握り締めた。

「殿下! 背中に隠れててもいいニャ?」
「うん? その位ならば好きにして構わぬぞ?」
「で、では、わたくしも」

 空いている方の手でミューニャの手を握り返し、都合、2人で手を握り合っているような格好になりながらミューニャとフェリシティアは、アーウィンの後ろへ周り、こそっとその身の端から荷車の方を覗き込んだ。

「はー? ワイバーン、死んでんの知ってるのにあの反応って、よく分かんないなぁ。私は寧ろ、死んでるならこれ幸いとばかり、超近くで見てみたい派なんだけど? やっぱ普通の御令嬢って、ああやって恐がるもんなんですかね?」
「……そうでなくば、騎士など務まるまい、とは思うものの、そなたのような女子おなごは確かに中々居らぬかもしれぬな」

 2人を見やりつつバリナの零した感想へ、傍に居たフリュヒテンゴルト公爵が是でも否でもないながらバリナ自身の態度を肯定するような答えを返した。

「殿下! お待たせ致しました」

 どうでも良さげな会話を交わしつつ、そっと心の準備をしていた女性陣の耳にベントレー子爵が告げる声が届き、彼女達だけでなく、騎士達も固唾を呑んで静まり返った。

「うむ。では上から出すぞ」

 子爵の言葉にそう答えて左手を翳したアーウィンは、荷車の上空6mメルガ付近に大収納の魔法陣を展開した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...