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第1章 ウィムンド王国編 2
報告その2 -ワイバーン回収 1 -
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「殿下。荷車は大体、横幅が1.13m、長さが2.74m程になりますが、縦10台、横は少し間を空けて2台並べ、ロープで前後と隣を繋げる形にすれば問題ありませんかな?」
「ああ。尻尾と翼を身体に沿わせる位置に固定しておけばそれで問題はなかろう」
ベントレー子爵が確認するように投げた質問へ、空間へ浮かぶ四角から視線を外したアーウィンがそう答える。
「おい、お前ら! アレは1週間以内ならいつでも見れるそうだから、見たけりゃ非番の時にじっくり見ろ! 今は仕事だ、仕事!」
恐らくは彼自身もそう考えることで、呵責を受け続ける部下のことを割り切ったのだろう。
荷車の傍で呆然と佇んで四角を見上げているだけの騎士達を叱責しつつ、荷車の配置を指示していく。
相変わらず右袖を握り締めているミューニャを無理に引き剥がすことをせず、アーウィンが嵌めている手袋ごと右手の親指と中指の先を擦り合わせる。
すると呵責を受けている者達の脱魂した身体を内側に入れる形で正四角錐の枠が姿を現した。
「捕縛結界内で、その者達の身体が死なぬよう保護する故、捕らえている者達は身体を離して構わぬぞ?」
「はっ!」
何を心配したのか不明な速度で返事をし、パッと瞬時にその身を離した両側の騎士達が無意識に視線を向けたその先で、倒れ込んだ身体が枠組みの側面より現れた透明な黄色の壁に阻まれた。
中へと収められた身体が両側を離された時より更に不格好な様相で、重力に従い中でズルズルとズレて行く。
(……これが、捕縛結界だって?)
(縄や檻、魔法鍵すら必要ないとは。我が国の魔法士達が使う物とはレベルが違うな……)
(返す返すも何で俺達、こんな凄ぇ人に喧嘩売れたんだろう……)
現場を見ていない状態で齎された情報が、あまりにも突拍子が無いもの過ぎて、丸切り信じることが出来なかったのは否定しないが、今現在、目の前へと突き付けられている現実の方がもっと真実味がないことばかりなのも事実な訳で。
そこを鑑みてしまうと如何に自分達の下した判断が、よく知りもしない相手を決めつけと思い込みだけで見下しまくって為されていたものなのかを思い知ってしまった。
結局は戦闘力のみならず、文明力、技術力、魔法力、全てに於ける差が自国とは段違いに上であることを認めない訳にはいかない事実が、現実として目の前に横たわっていたのを理解した。
「あっ、いけね! 仕事仕事!」
「ああ、そうだった!」
己の思考に埋没しかけていた彼等も手持ち無沙汰のままいられる状況ではないことにすぐ思い至って、荷車を並べている同僚に混ざる形でその場を離れていった。
「あら、いけない。はしたない姿をお見せいたしまして……失礼いたしました。殿下」
改められた彼等の所作にホッと息をつくことで、アーウィンにしがみついたままでいたことへ意識が向いたらしいフェリシティアは、貴族の令嬢らしく、慌てているのを悟られないよう気をつけながら傍を離れて頭を下げた。
「ニャー……フェリシティア、無理しない方がいいのニャ。これからワイバーン出で来るのニャ」
「っ!」
何の為に騎士達が荷車を並べているのか理由はハッキリしているのだし、そんなもん目の前で見たら例え死んでても尻尾が3倍位に膨らむ自信のあったミューニャは、未だにアーウィンの右袖を握って離さない。
「で、でも……死んでおりますのよね?」
「殿下が首チョンパして討伐したって聞いてるのニャ。でも倉庫街の報告書に同じ個体として収納の魔法陣から取り出された遺骸は、首が繋がってて完全体だったって書いてあったのニャ。所感にも “今すぐ飛び上がって咆哮とかブレスとかかましてきてもおかしくないように見えた” って記載があったのニャ! おっかないのニャ!」
「ミューニャ嬢」
本来であれば、自国や各ギルドの保持戦力だけでは対抗しきれなかった魔物である以上、その存在を恐れるのは仕方のないことだろう。
だが、必要以上に怖がらせる必要もないと穏やかな声で彼女の名を呼んだアーウィンが笑みを向ける。
「私の収納には、修復機能がついて居る。故に損傷修復という形で首が繋がってしまっただけで、蘇生はしておらぬ。安心してくれて問題ないぞ?」
「ホントニャ?」
「勿論だ」
「ミューニャさん! 気持ちは痛い程に分かりますけれども、姫様のお立場でさえ殴り込みをかけてくるかもしれない程、殿下を愛しておられる若奥様に申し訳が立たないのではございませんこと?」
まだ婚約者でしかないルクレンティアのことを敢えて「若奥様」と表現したフェリシティアにアーウィンが驚いたような目を向けて幾度か瞬いた。
「にゅぅぅぅぅぅぅ……じゃあ、お前にくっつくのニャ」
剣神のスキル持ちに喧嘩売られるのだけは勘弁願いたいのだろう。
暫しの葛藤を唸りに変えたミューニャは、そう言ってフェリシティアの手を握り締めた。
「殿下! 背中に隠れててもいいニャ?」
「うん? その位ならば好きにして構わぬぞ?」
「で、では、わたくしも」
空いている方の手でミューニャの手を握り返し、都合、2人で手を握り合っているような格好になりながらミューニャとフェリシティアは、アーウィンの後ろへ周り、こそっとその身の端から荷車の方を覗き込んだ。
「はー? ワイバーン、死んでんの知ってるのにあの反応って、よく分かんないなぁ。私は寧ろ、死んでるならこれ幸いとばかり、超近くで見てみたい派なんだけど? やっぱ普通の御令嬢って、ああやって恐がるもんなんですかね?」
「……そうでなくば、騎士など務まるまい、とは思うものの、そなたのような女子は確かに中々居らぬかもしれぬな」
2人を見やりつつバリナの零した感想へ、傍に居たフリュヒテンゴルト公爵が是でも否でもないながらバリナ自身の態度を肯定するような答えを返した。
「殿下! お待たせ致しました」
どうでも良さげな会話を交わしつつ、そっと心の準備をしていた女性陣の耳にベントレー子爵が告げる声が届き、彼女達だけでなく、騎士達も固唾を呑んで静まり返った。
「うむ。では上から出すぞ」
子爵の言葉にそう答えて左手を翳したアーウィンは、荷車の上空6m付近に大収納の魔法陣を展開した。
「ああ。尻尾と翼を身体に沿わせる位置に固定しておけばそれで問題はなかろう」
ベントレー子爵が確認するように投げた質問へ、空間へ浮かぶ四角から視線を外したアーウィンがそう答える。
「おい、お前ら! アレは1週間以内ならいつでも見れるそうだから、見たけりゃ非番の時にじっくり見ろ! 今は仕事だ、仕事!」
恐らくは彼自身もそう考えることで、呵責を受け続ける部下のことを割り切ったのだろう。
荷車の傍で呆然と佇んで四角を見上げているだけの騎士達を叱責しつつ、荷車の配置を指示していく。
相変わらず右袖を握り締めているミューニャを無理に引き剥がすことをせず、アーウィンが嵌めている手袋ごと右手の親指と中指の先を擦り合わせる。
すると呵責を受けている者達の脱魂した身体を内側に入れる形で正四角錐の枠が姿を現した。
「捕縛結界内で、その者達の身体が死なぬよう保護する故、捕らえている者達は身体を離して構わぬぞ?」
「はっ!」
何を心配したのか不明な速度で返事をし、パッと瞬時にその身を離した両側の騎士達が無意識に視線を向けたその先で、倒れ込んだ身体が枠組みの側面より現れた透明な黄色の壁に阻まれた。
中へと収められた身体が両側を離された時より更に不格好な様相で、重力に従い中でズルズルとズレて行く。
(……これが、捕縛結界だって?)
(縄や檻、魔法鍵すら必要ないとは。我が国の魔法士達が使う物とはレベルが違うな……)
(返す返すも何で俺達、こんな凄ぇ人に喧嘩売れたんだろう……)
現場を見ていない状態で齎された情報が、あまりにも突拍子が無いもの過ぎて、丸切り信じることが出来なかったのは否定しないが、今現在、目の前へと突き付けられている現実の方がもっと真実味がないことばかりなのも事実な訳で。
そこを鑑みてしまうと如何に自分達の下した判断が、よく知りもしない相手を決めつけと思い込みだけで見下しまくって為されていたものなのかを思い知ってしまった。
結局は戦闘力のみならず、文明力、技術力、魔法力、全てに於ける差が自国とは段違いに上であることを認めない訳にはいかない事実が、現実として目の前に横たわっていたのを理解した。
「あっ、いけね! 仕事仕事!」
「ああ、そうだった!」
己の思考に埋没しかけていた彼等も手持ち無沙汰のままいられる状況ではないことにすぐ思い至って、荷車を並べている同僚に混ざる形でその場を離れていった。
「あら、いけない。はしたない姿をお見せいたしまして……失礼いたしました。殿下」
改められた彼等の所作にホッと息をつくことで、アーウィンにしがみついたままでいたことへ意識が向いたらしいフェリシティアは、貴族の令嬢らしく、慌てているのを悟られないよう気をつけながら傍を離れて頭を下げた。
「ニャー……フェリシティア、無理しない方がいいのニャ。これからワイバーン出で来るのニャ」
「っ!」
何の為に騎士達が荷車を並べているのか理由はハッキリしているのだし、そんなもん目の前で見たら例え死んでても尻尾が3倍位に膨らむ自信のあったミューニャは、未だにアーウィンの右袖を握って離さない。
「で、でも……死んでおりますのよね?」
「殿下が首チョンパして討伐したって聞いてるのニャ。でも倉庫街の報告書に同じ個体として収納の魔法陣から取り出された遺骸は、首が繋がってて完全体だったって書いてあったのニャ。所感にも “今すぐ飛び上がって咆哮とかブレスとかかましてきてもおかしくないように見えた” って記載があったのニャ! おっかないのニャ!」
「ミューニャ嬢」
本来であれば、自国や各ギルドの保持戦力だけでは対抗しきれなかった魔物である以上、その存在を恐れるのは仕方のないことだろう。
だが、必要以上に怖がらせる必要もないと穏やかな声で彼女の名を呼んだアーウィンが笑みを向ける。
「私の収納には、修復機能がついて居る。故に損傷修復という形で首が繋がってしまっただけで、蘇生はしておらぬ。安心してくれて問題ないぞ?」
「ホントニャ?」
「勿論だ」
「ミューニャさん! 気持ちは痛い程に分かりますけれども、姫様のお立場でさえ殴り込みをかけてくるかもしれない程、殿下を愛しておられる若奥様に申し訳が立たないのではございませんこと?」
まだ婚約者でしかないルクレンティアのことを敢えて「若奥様」と表現したフェリシティアにアーウィンが驚いたような目を向けて幾度か瞬いた。
「にゅぅぅぅぅぅぅ……じゃあ、お前にくっつくのニャ」
剣神のスキル持ちに喧嘩売られるのだけは勘弁願いたいのだろう。
暫しの葛藤を唸りに変えたミューニャは、そう言ってフェリシティアの手を握り締めた。
「殿下! 背中に隠れててもいいニャ?」
「うん? その位ならば好きにして構わぬぞ?」
「で、では、わたくしも」
空いている方の手でミューニャの手を握り返し、都合、2人で手を握り合っているような格好になりながらミューニャとフェリシティアは、アーウィンの後ろへ周り、こそっとその身の端から荷車の方を覗き込んだ。
「はー? ワイバーン、死んでんの知ってるのにあの反応って、よく分かんないなぁ。私は寧ろ、死んでるならこれ幸いとばかり、超近くで見てみたい派なんだけど? やっぱ普通の御令嬢って、ああやって恐がるもんなんですかね?」
「……そうでなくば、騎士など務まるまい、とは思うものの、そなたのような女子は確かに中々居らぬかもしれぬな」
2人を見やりつつバリナの零した感想へ、傍に居たフリュヒテンゴルト公爵が是でも否でもないながらバリナ自身の態度を肯定するような答えを返した。
「殿下! お待たせ致しました」
どうでも良さげな会話を交わしつつ、そっと心の準備をしていた女性陣の耳にベントレー子爵が告げる声が届き、彼女達だけでなく、騎士達も固唾を呑んで静まり返った。
「うむ。では上から出すぞ」
子爵の言葉にそう答えて左手を翳したアーウィンは、荷車の上空6m付近に大収納の魔法陣を展開した。
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