天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

リゼパァンズ恩寵大神殿 -1-

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「何だ平民! 我々を嘲笑いに来たのか⁈」

 スライが書類の束を片手にそこへ辿り着いてすぐ、寝台の上から放たれた怒鳴り声は、奇しくもフェリシティアが予想したスライの訪問理由と合致していた。

「………」

 バリナがフェリシティアにした返答同様、そこまで暇じゃねぇよ、と思いながら黙したスライは、どうしてくれよう……なんて、ほんのちょっと考えてから怒鳴ってきた貴族魔法士を見据えると。

「ぎゃははははははははっ! 普段あんだけ自分は優秀だ、凄いんだ、偉いんだ、敬ってへつらえ! とか言ってる分際で、たいして活躍もしねぇで神殿に担ぎ込まれてやんの! 超ダセェ! クッソ笑えるぅ!」
「くっ……!」

 ビシッと指差しながらワザとらしさすら漂うレベルでゲラゲラ笑ってやると言われていることが事実な自覚はあるのだろう、寝台の上から悔しそうに喉を詰まらせる音が聞こえて、スライは溜息と共に、すん、と態度を鎮静化させた。

「お望み通り嘲笑ってやったぞ。これで満足か?」
「何っ⁈」
「くだらないことで時間取らせんじゃねぇよ。俺が、お前らのトコに書類持って訪ねて来る理由とか、報告用の聴取以外に何があるってんだ。冒険者ギルドと傭兵ギルドの協力で、市井の報告書はもう団長のトコに上がってるんだ。お前らも、とっとと協力しな」
「馬鹿なことを! ワイバーン戦はまだ続いているのだろう⁈ 報告などしている暇がある訳……!」
「もう終わった」
「は⁈」
「何を言ってるんだ、貴様は! そんな筈なかろう!」
「まさか……負けたなどと言わぬだろうな⁈ もしそうなら貴様とて無事な筈がないのだから、すぐ露見するような嘘を口にするなよっ⁈」

 これまでの彼等の常識では、その日の内に味方が全滅するか、対抗出来ても3日は消耗戦を余儀なくされる相手だ。
 スライが終戦を告げても信じられないと感じて当然だったろう。

「神殿に居るから静かに感じてるんじゃねぇ。兵以外に死人も出ねぇで、ほぼ無事に終わってるから静かなんだよ」

 ここに収容されて外の状況が何一つ分からない身空でも戦闘音の有無や戦闘時の緊迫感の有り無し、敗戦時に漂う何とも言えない悲壮感くらいは分かるだろう、とばかりに告げて出入口付近に置いてある椅子を寝台側へと少し寄せたスライは、その上へと腰を下ろした。

「ワイバーンが、何某かの理由で王都を去ったのか⁈」
「いいや。キッチリ討伐されたぜ?」
「討ったのは騎士団か? 魔法士か? よもや冒険者や傭兵じゃあるまいな⁈」
「そのどれでもねぇよ」

 木炭と黒鉛に黒粘土を混ぜて棒状に固め、布を巻いた持ち歩き用の筆記具を取り出したスライは、右の足首を左膝の上に乗せ、自身の脛上で報告用紙に必要事項の記入を始めながら次々と投げかけられる質問へ端的に答えていた。

「ではどこの組織が討伐したと言うのだ⁈」
「どこの組織でもねぇ。たまたまここへ来た他国の王族が、通りすがりに一撃でワイバーンの首刈って終わった」
「はあぁ⁈」
(うん。まぁ、最初に聞いた時は “はあぁっ⁈” ってなるよな。そこだけは分かるわ、お前らの気持ち)

 それまで黙って話しを聞いていたらしい他の寝台上に居る者達からも同音の疑問を表す声が合唱みたいに上がったことで、スライは思わず心の中でだけ彼等に共感を示していた。

「ど、どの国の王族なのだ? よもや、カルドランスなどでは……?」

 休戦協定を結んでいるとは言え、150年前の大戦時から何かと因縁のある南の隣国。
 今でこそ互いの行き来が多少制限されているとは言え復活こそしているものの、お世辞にも友好国とは言い難い彼の国に自分達よりも優れた戦力を保持されるのは驚異でしかない。
 そんな危惧より発せられたのだろう質問にスライは、ハッキリと首を横に振った。

「安心しろ。カルドランスどころか、この大陸のどの国の王族でもないから」
「何だと⁈」
「貴様っ! 敗戦の責任を負うのが嫌で、出任せを言ってるんじゃなかろうな⁈」
「その方の国は、天空国家ヴェルザリス。あっちこっちに古代文明っつって遺跡が残ってる、あの国だ。報告書に記された入街時の身分証にもキッチリそれが記録されてた。俺もあの方の国の話しは直接、聞いた訳じゃないが、為人ひととなりと魔法力、技術力はこの目で見たぜ?」
「魔法力? 通常、あれだけ高い技術力を誇る文明ならば、魔法力は反対に落ちてゆく筈だが?」

 未だ謎ばかりで解析や使用が出来る物の方が少ない古代文明の遺跡や遺物。
 それを考えれば技術力が高いのは察することが出来たものの、魔法力までも高い、というのが理解出来ずに魔法士の1人が疑義を示した。

「それに関しては……ええと……」

 問われたことにスライはくすんだ金茶の髪を少し掻き分けるようにして、手にした筆記具の布巻きされた端側を使い、側頭部を擦り掻きながら記憶を漁った。
 思い出した内容を確かめるべく、記入用紙の下敷きにしていた資料を横から引き出すと覚えのある所まで紙を捲る。

「ああ、ここだ。読むぞ。 “天空国家ヴェルザリスは、絶対王政の政治体制を敷いていながら国民皆兵を実現せねばならぬ国柄で” 」
「⁈」

 スライがそこまで記載事項を読み上げた時、アーウィンから同じ話しを聞いたレンリアード隊とほぼ同種の驚愕が、騒めきとなって寝台上から幾つも湧き上がった。

「 “その主な理由は、国土に出没する約8割の魔物が竜種であり、ワイバーン程度は自力で単独討伐出来るようにならないと農業すらもままならぬ状況であるからのようだ” 」
「………」

 続いて記載事項されている事柄を読み上げたスライに向けられる目は、一様に信じ難い物を見るような目だった。
 出没する魔物の8割が竜種なんて、そんな土地柄で人が生きて行けるとは、彼等の常識では到底考えられなかったのだ。

「 “それゆえに彼の国では、全国民が階級、男女を問わず、3歳になると武器の扱いを教わる為の専門課程を。5歳になると魔法の扱いを教わる為の専門課程を修める場である初級学校というものに通うことが義務づけられているそうで、不所持属性すらも後天的に獲得し、全ての国民を全属性にすることが出来る教育レベルがあるようだ” 」
「……嘘だろ……」

 全国民が後天的に全属性になる。
 魔法属性が4属性しか知られていないこの国ですら稀な存在である全属性を、それも後から獲得することが可能だなんて、にわかには信じ難く、また、器用貧乏と呼ばれる全属性などにわざわざ全員がなる意味も理解出来なかった。

「 “また、全ての国民が普段の生活から魔法を使うことで、総魔力量の増加と属性値の伸び不足を解消している模様。例として料理で4属性魔法を使用、洗濯で5属性魔法を使用出来ると説明されたが” 」
「は⁈」
「何だと⁈」
「魔法で料理に洗濯?????」
「いや待て! それより5属性ってどういうことだ⁈」

 読み上げられた事柄に寝台上から次々と疑問と驚愕の声が上がるが、スライはそれに頓着することなく続きを口にした。

「 “魔法属性が4属性しか知られていない上に貴族以外の国民が殆ど魔法を使えぬ我が国では、それを実践するどころか、学習も説明すらも困難なものと思われる。尚、天空国家ヴェルザリスに於ける魔法属性は12属性であると語っておられた” ……だ、そうだ」
「貴様は、その魔法とやらを実際に見たのか⁈」

 信じ難い。
心の中で唱えているのだろうその言葉が、声色と表情へ如実に現れている彼等を見回したスライは、それでも隠し立てすることなく、その問いに頷いた。

「ああ。俺が見たのは、水魔法と治癒魔法をぶつけるだけで勝手にそれが必要な場所へ魔法を振り分けてくれる、空に描かれたデッカイ魔法陣」
「?」

 コイツは何を言ってるんだろう? 空に魔法陣を描く? そんなことが出来る訳がない。
 そもそも魔法陣というのは、それ自体が魔法を構築している記号と文字列を図化したもので、他の魔法の影響なぞ受けない筈のものなのに。

「それと、1本飲むだけで枯渇した魔力が全回復する魔力ポーションの箱詰めが山積みで出て来た収納魔法」
「………」

 1本で全回復。
 その有り得ないと思える効能も勿論だが、箱詰めされて山積みとなった状態のまま収納魔法からそれを出すことの出来る魔力量は、彼等の誰も持ち得ないものだった。

「軽症重症を問わず、あっと言う間に火傷や怪我を治癒した治癒魔法。それと……火事で亡くなった3人の人間を俺だけじゃなく、沢山の民の目の前で蘇らせた死者蘇生の魔法」
「‼︎」

 今以って寝台の上の住人である彼等は、あっという間に身体が癒える魔法の存在を知って目を見開き、次いで蘇生魔法を実際に目撃した人間が多数に及んでいる事実に文字通り、言葉を失った。

「火事現場の炭と灰だけになっちまった焼け跡の残骸を使って、見たことないくらいキラキラ輝いてる金剛透石を作り出すのも見たし、移動するのに空を飛んでく魔法を使ってるのも見た」
「…………」

 失伝魔法。
 貴族魔法士達ですら、どのような魔法でそれが可能となるのか丸で分からない話しの数々に文献でだけその存在を知る単語が脳裏に浮かんだ。

「何が1番信じられねぇってな? 他国の、それも王族であるあの方が、自ら火事場の各所へ足を向け、市井の者達へ、全て、無償で。これらのことを行ってくださったことだよ」
「そんな馬鹿なことがあってたま……!」
「今回の件が終わって、あの方がこの街を出る時、俺はあの方について行くことにした。騎士の職は辞す。俺は、仕えるのならば、あの方に仕えたい」

 キッパリと言い切ったスライに嘘の臭いはしなかった。
 彼が平民だから何かの詐欺ペテンにかかっているだけだと断じることは簡単だが。

「言っとくが、俺達が平民で騙されてるだけだとか考えてるなら不敬罪を覚悟しろよ? 何たって、あの方は、我が国ウチの第1王女殿下が、直々にお茶会へ誘う書状を出された程の方だからな?」

 ダメ押しとばかりにその情報を暴露すると貴族騎士や貴族魔法士の面々は、今迄で1番信じられないといった表情を全員が浮かべていた。



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