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第1章 ウィムンド王国編 2
第1王子バカルダサーレ
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異臭を放つ液体が、床に広がって行くのを止められないまま、尚もガン泣きし続けている青年を今だけでいいから知らないフリしたい。
奇しくもアーウィン以外の者達は、割と本気で、切実に、そう考えていた。
入口にヘタリ込む青年は、この国の王族。
それも間違うことなく第1王子。
齢13にもなって、まだ立太子の目処すら立たぬと陰口を叩かれ始めて既に2年の月日が経過している。
まあ、冊立されぬ理由など、この状態を見れば一目瞭然だが、王妃の実家以外に真面な後ろ盾が存在しないこともその一因ではあった。
青年の名は、バカルダサーレ。
馬鹿でダサいね、と渾名をつけられ、揶揄される彼の命名者は王妃の父であるセッツカッカーレ侯爵、御歳68歳。
当時流行った「~サーレ」という名に彼が拘り、同じく当時の国王であった彼の祖父が「カルディ」という名をつけたかったことから、王国の祖より賜る冠名「ヴァ」を頭につけて、当初、彼の名は「ヴァカルディーサーレ」となる筈だった。
所が、彼の1番上の姉……現第1王女が、神殿に提出する出生届の登録名欄をどうしても自分が書くのだと言い張って、耳で聞いた発音を習い始めたばかりの文字で書き記し「Va」を「Ba」、「day」を「da」と間違えて記載し、そのまま受理されてしまったことから第1王子の名は「バカルダサーレ」として登録され、王族名鑑にも記載されてしまった。
驚いたことにその間違いが発覚したのは、彼自身が5歳になって神殿から洗礼という名のスキル授受を行う儀式の最中で。
既に神へと奉納してしまった名を今更、変えれば、彼は受け取れる筈のスキルを永遠に失ってしまうことになると告げられた。
ゆえにその日から彼の名は、公私共に「バカルダサーレ」とされたのだ。
(……こう言っては何だが、名は体を表すとはよく言ったものだ。自国の次期国王相手に一体、誰が最初に「馬鹿でダサイね」などという、秀逸な渾名をつけたのか……)
色々な意味で、取り返しがつかなくなっている目の前の光景にフリュヒテンゴルト公爵は、虚な目をしながら益体もないことを脳裏に流していた。
よせばいいのに、ついつい、自国の王子から逸らしてしまった彼の視線が捉えたのは、よりにもよってアーウィンだった。
水色と紫の光を放つ半透明の球体の中で、まるで光に支えられて座し、宙に浮かんですら見える姿は、例え異国の王族、それも継承権は低いだろう第3王子であるとは言っても自国の第1王子と比較するには、過ぎる存在だった。
その彼自身はというと、バカルダサーレが入室してきてからこっち、ずっと目を瞬かせて、そのヘタリ込む様を見詰めていたのだが。
「……と、言う訳で、2つ目の威嚇行動に於いては、1つ目の時とは違い、恐怖や恐慌、咆哮に対する無効化や耐性が必要となってくる」
何事もなかったかのように、説明を再開させた。
「いやいやいやいやいや! 殿下! あ、えっと……アーウィン殿下! アレをまるっと存在ごと無視しないでくださいよ!」
「隊長! 王族、指差しちゃダメっ!」
「おっと!」
王族を「アレ」と呼ばわるより、指を差す方がバリナの中ではダメ度が高かったらしい。
「無視などしておらぬ。記録魔導具からの音声とはいえ、此奴の咆哮に無効化スキルや耐性スキルがないとどうなるのかを身をもって示したのだ。活かしてやらぬことの方が酷であろうよ?」
物はいいよう。
口上からして、バカルダサーレの護衛とアーウィンの捕縛を指示されていたのだろう騎士達は、誰1人として傍に残らぬという底辺人望を曝け出し、本人は本人で、へたり込んで失禁。
おまけに母親を呼んで号泣し続けるという為体。
だが、まぁ、どうなるかの見本になったと捉えるのならば、確かにこの場に於ける有用性だけはあったと言えるのだから。
「そ、そなたっ! こ、こ、このっ、おれをっ、っく、ふっ、だ、だれだとっ、おもっ、おもってっ! おるのだぁっ!」
無理くり虚勢を張ったのだろうバカルダサーレが、アーウィンに指を差して殆ど言語の体を為していない言葉を発した時、アーウィンの指先が、紫板を1つ、指先でポン、と叩いたのをフェリシティアは見てしまった。
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「ぎゃあああああああああっ! お゙があ゙ざま゙あ゙っ! だずげでぇ゙っ!」
再び響き渡ったフランティウルス変異種の咆哮に当然のように泣き叫ぶバカルダサーレと今の咆哮が何故、もう1度流れたのかを察した一同が、驚愕の視線をアーウィンへと注ぐ。
「ぎ、ぎ、ぎざ、ま゙っ!」
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「ゔぎゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あっ!」
「あ、あの、アーウィン殿下……?」
バカルダサーレが気に入らないのか、虐めているのか分からないが、叫ぶのは分かっているだろうに繰り返しフランティウルス変異種の咆哮を聞かせ続ける様を見て、流石にアーウィンを制止しようとフリュヒテンゴルト公爵が呼びかける。
「ふむ。やはりすぐには難しいものなのか」
「何をなさっておいでなのか、お聞きしても……?」
「うん?」
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「ぎゃあああああああああっ! 」
「いやな? 咆哮を何回くらい聞かせたら耐性スキルというものは、生えるものなのかな、と。何せ我が国の民は皆、母親の胎内に居る時より竜の咆哮なぞ聞き慣れておるゆえ、無効化スキルや耐性スキル持ちしか生まれて来ぬからな。そなた達のように他のスキルを使い、多少なりと堪えることすら出来ぬような者に対するデータがないのだよ」
実験。
脳裏に浮かんだその単語に誰もが「酷い」と思い、自国の第1王子を実験台にされるとかどうなんだ? とか思いつつも心の何処かで「まぁ、コレならいいか」とか「確かにいつ生えるのかというのは知りたいな」なんて考えてしまった所為で。
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「にぎゃあああああああああっ! もうやだぁ! なんでこうなるのだぁ!」
蹲って咆哮が響く度、律儀に叫ぶバカルダサーレを見詰めるだけで動きを止めた。
奇しくもアーウィン以外の者達は、割と本気で、切実に、そう考えていた。
入口にヘタリ込む青年は、この国の王族。
それも間違うことなく第1王子。
齢13にもなって、まだ立太子の目処すら立たぬと陰口を叩かれ始めて既に2年の月日が経過している。
まあ、冊立されぬ理由など、この状態を見れば一目瞭然だが、王妃の実家以外に真面な後ろ盾が存在しないこともその一因ではあった。
青年の名は、バカルダサーレ。
馬鹿でダサいね、と渾名をつけられ、揶揄される彼の命名者は王妃の父であるセッツカッカーレ侯爵、御歳68歳。
当時流行った「~サーレ」という名に彼が拘り、同じく当時の国王であった彼の祖父が「カルディ」という名をつけたかったことから、王国の祖より賜る冠名「ヴァ」を頭につけて、当初、彼の名は「ヴァカルディーサーレ」となる筈だった。
所が、彼の1番上の姉……現第1王女が、神殿に提出する出生届の登録名欄をどうしても自分が書くのだと言い張って、耳で聞いた発音を習い始めたばかりの文字で書き記し「Va」を「Ba」、「day」を「da」と間違えて記載し、そのまま受理されてしまったことから第1王子の名は「バカルダサーレ」として登録され、王族名鑑にも記載されてしまった。
驚いたことにその間違いが発覚したのは、彼自身が5歳になって神殿から洗礼という名のスキル授受を行う儀式の最中で。
既に神へと奉納してしまった名を今更、変えれば、彼は受け取れる筈のスキルを永遠に失ってしまうことになると告げられた。
ゆえにその日から彼の名は、公私共に「バカルダサーレ」とされたのだ。
(……こう言っては何だが、名は体を表すとはよく言ったものだ。自国の次期国王相手に一体、誰が最初に「馬鹿でダサイね」などという、秀逸な渾名をつけたのか……)
色々な意味で、取り返しがつかなくなっている目の前の光景にフリュヒテンゴルト公爵は、虚な目をしながら益体もないことを脳裏に流していた。
よせばいいのに、ついつい、自国の王子から逸らしてしまった彼の視線が捉えたのは、よりにもよってアーウィンだった。
水色と紫の光を放つ半透明の球体の中で、まるで光に支えられて座し、宙に浮かんですら見える姿は、例え異国の王族、それも継承権は低いだろう第3王子であるとは言っても自国の第1王子と比較するには、過ぎる存在だった。
その彼自身はというと、バカルダサーレが入室してきてからこっち、ずっと目を瞬かせて、そのヘタリ込む様を見詰めていたのだが。
「……と、言う訳で、2つ目の威嚇行動に於いては、1つ目の時とは違い、恐怖や恐慌、咆哮に対する無効化や耐性が必要となってくる」
何事もなかったかのように、説明を再開させた。
「いやいやいやいやいや! 殿下! あ、えっと……アーウィン殿下! アレをまるっと存在ごと無視しないでくださいよ!」
「隊長! 王族、指差しちゃダメっ!」
「おっと!」
王族を「アレ」と呼ばわるより、指を差す方がバリナの中ではダメ度が高かったらしい。
「無視などしておらぬ。記録魔導具からの音声とはいえ、此奴の咆哮に無効化スキルや耐性スキルがないとどうなるのかを身をもって示したのだ。活かしてやらぬことの方が酷であろうよ?」
物はいいよう。
口上からして、バカルダサーレの護衛とアーウィンの捕縛を指示されていたのだろう騎士達は、誰1人として傍に残らぬという底辺人望を曝け出し、本人は本人で、へたり込んで失禁。
おまけに母親を呼んで号泣し続けるという為体。
だが、まぁ、どうなるかの見本になったと捉えるのならば、確かにこの場に於ける有用性だけはあったと言えるのだから。
「そ、そなたっ! こ、こ、このっ、おれをっ、っく、ふっ、だ、だれだとっ、おもっ、おもってっ! おるのだぁっ!」
無理くり虚勢を張ったのだろうバカルダサーレが、アーウィンに指を差して殆ど言語の体を為していない言葉を発した時、アーウィンの指先が、紫板を1つ、指先でポン、と叩いたのをフェリシティアは見てしまった。
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「ぎゃあああああああああっ! お゙があ゙ざま゙あ゙っ! だずげでぇ゙っ!」
再び響き渡ったフランティウルス変異種の咆哮に当然のように泣き叫ぶバカルダサーレと今の咆哮が何故、もう1度流れたのかを察した一同が、驚愕の視線をアーウィンへと注ぐ。
「ぎ、ぎ、ぎざ、ま゙っ!」
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「ゔぎゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あっ!」
「あ、あの、アーウィン殿下……?」
バカルダサーレが気に入らないのか、虐めているのか分からないが、叫ぶのは分かっているだろうに繰り返しフランティウルス変異種の咆哮を聞かせ続ける様を見て、流石にアーウィンを制止しようとフリュヒテンゴルト公爵が呼びかける。
「ふむ。やはりすぐには難しいものなのか」
「何をなさっておいでなのか、お聞きしても……?」
「うん?」
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「ぎゃあああああああああっ! 」
「いやな? 咆哮を何回くらい聞かせたら耐性スキルというものは、生えるものなのかな、と。何せ我が国の民は皆、母親の胎内に居る時より竜の咆哮なぞ聞き慣れておるゆえ、無効化スキルや耐性スキル持ちしか生まれて来ぬからな。そなた達のように他のスキルを使い、多少なりと堪えることすら出来ぬような者に対するデータがないのだよ」
実験。
脳裏に浮かんだその単語に誰もが「酷い」と思い、自国の第1王子を実験台にされるとかどうなんだ? とか思いつつも心の何処かで「まぁ、コレならいいか」とか「確かにいつ生えるのかというのは知りたいな」なんて考えてしまった所為で。
[Gaoraocoaeeeeeeeeee!!]
「にぎゃあああああああああっ! もうやだぁ! なんでこうなるのだぁ!」
蹲って咆哮が響く度、律儀に叫ぶバカルダサーレを見詰めるだけで動きを止めた。
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