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第1章 ウィムンド王国編 2
そもそもの用件
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「何とも……ヴェルザリスの話しは、聞いていて飽きんな。他国というのもあろうが、やはり天空の国は我々と文明や文化の違いが凄まじい」
「それは私も感じます。我が国では当たり前のことが、この国だとそうではないので。どちらがいいとか、悪いとか言う話しではなく、純粋に面白いと感じることが多いですね」
「うむ。こんな慌ただしい時分でないならば、是非、国同士としても交流を持ち、色々と学ばせて貰いたかったものよ」
「同感です」
己が紡いだ希望に当たり障りのない言葉としてではない同意を返したアーウィンに、王侯貴族として大なり小なりある筈の「裏表」に類するものをアドルフィルトは感じなかった。
(まぁ、こうして本人と話しをしておれば、理由は自ずと察せられるがな)
作る必要がないのだ。
ヴェルザリスにおける彼の武勇と影響度を正確に理解すればするだけ、他者にとって彼は「敵に回すべきではない」と判断せざるを得ない存在なのだと知れる。
咄嗟の決断だったが、第1王女と第1王子を謹慎させて彼との接触を物理的に図れないよう取り計らったのは、正解だったと胸の内でアドルフィルトは、安堵の息を吐いていた。
「ああ、そうだ。忘れぬ内にこれを渡しておくとしよう」
今、思い出した、みたいな空気感を纏って懐から取り出した金色の金属片をアーウィンに向かって差し出した。
「アーウィン殿下の国境侵犯を国王である余の名に於いて不問とし、国内全ての関と街の出入口を通過することを許す免状だ。受け取ってくれ」
「………国内全て?」
「竜との戦いで、それが足枷となっては本末転倒だからな。貴殿は自由にしてもらっておった方が、利益の高い人物なのだと自国でも評されとるのだろう? ならば、我が国もそれに倣おうではないか」
先程、アーウィンが口にした言葉を掬い取って告げたアドルフィルトに、幾度か面食らったような瞬きを繰り返してから、破顔したアーウィンにアドルフィルトも自然と面へ笑みが浮かんだ。
「御配慮、痛み入ります」
「よいよい。活躍に期待する。さて、残念ながらあまり長居の出来ぬ身なのでな。余はそろそろ退散することとしよう。アーウィン殿下。貴殿とは、また時間を設けて語り合いたいものよ」
「有り難う御座います。是非に」
お互いが立ち上がって交わされる握手にこの場の者達は、アドルフィルトが国王と王子という身分差を捨て置き、己と同等の者であると認めたことをその所作から理解して、一様に目を瞠った。
「では、失礼する。いずれまた」
「はい」
「陛下。護衛の者は……?」
「問題ない。階下に居る」
投げかけられたレンリアードの確認に快活な声で答えたアドルフィルトは、振り返りもせず、真っ直ぐ部屋の扉へ向かう。
そこには、いつの間にやらフェリシティアが待機していて、アドルフィルトに一礼してから無言のまま扉を開いた。
「尽くせ」
「はい」
擦れ違い様に、小さな声でかけられた命にフェリシティアも口元を殆ど動かすことなく短い答えを返すにとどめ、アドルフィルトは冒険者ギルドから去って行った。
王城で「第1王子が騎士団を引き連れて何処ぞへ向かった」という報告を受け、慌てて飛び出した国王に付き従って来た者達は、帰りの彼が見せる晴れやかな様子に揃って安堵の息を漏らしていたと言う。
「あの馬鹿王子が騎士団動かしてまで自分で来ちゃったから、国王様まで自分で来なくちゃならなくなっちゃったとか。ほんと、ご苦労様なのニャ」
帰って行く国王専用の馬車と騎士達を会議室の小窓から覗き見ていたミューニャが、アドルフィルトが国王でありながら自ら市井の、それも冒険者ギルドへと足を運ばなければならなくなった理由を端的に口へと上らせた。
あの我儘自己中王子が、騎士団まで動員してアーウィンの捕縛に動き、しかもその背後に第1王女がいるとなったら、ちょっとやそっとの人間では、もう介入すること自体が困難だ。
それを見越して自ら動いたのが1つ。
そして、その時点で第1王女と第1王子の謹慎は国王の中でほぼ、決定事項だったのだろうことは、疑う余地もない。
息子や娘より、国を取ることが出来ない者に玉座に座り続ける資格はない。
だが、これまで溺愛してきた子供達だからこそ、即座に処罰を下すことは躊躇われたが故の決定なのだろう。
自国に竜種大行進の情報も対抗戦力もなく、それを唯一所持している人物は、誰1人武力で叶う者が居ないだろうことを先のワイバーン戦で実感出来てしまった以上、父親としてではなく、国王として下す判断では、アーウィンを取るしか選択肢がないのだ。
もし、アーウィンがもっと居丈高で、傲慢で、上から目線で、嫌味たらしくて、権力に対して弱っちぃ男だったなら、わざとバカルダサーレ王子を見逃してアーウィンを捕縛した後、解放を交換条件に竜達と戦わせる選択肢も選べただろう。
だが、アーウィンが悪気ゼロで色々とやらかしていた全てが、国益と民の支持とを得てしまっていた以上、それでも王女と王子を優先すれば、最悪、革命の出目すら有り得た。
それを自ら動くことで、キッチリ回避してきたのだから、アドルフィルトがこれまで国王としてやってきた経験による読みの正確さと手腕を褒めるべきだろう。
惜しむらくは。
「……城下に遊びに来たかっただけじゃねぇの? 馬車、城の方角に向かってねぇけど?」
フリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵を早々に城へ追いやって、お目付役から逃れたアドルフィルトが、真っ直ぐ城に帰りそうにないことをミューニャの隣から同じ小窓を覗き込んだスライだけが看破していた。
「それは私も感じます。我が国では当たり前のことが、この国だとそうではないので。どちらがいいとか、悪いとか言う話しではなく、純粋に面白いと感じることが多いですね」
「うむ。こんな慌ただしい時分でないならば、是非、国同士としても交流を持ち、色々と学ばせて貰いたかったものよ」
「同感です」
己が紡いだ希望に当たり障りのない言葉としてではない同意を返したアーウィンに、王侯貴族として大なり小なりある筈の「裏表」に類するものをアドルフィルトは感じなかった。
(まぁ、こうして本人と話しをしておれば、理由は自ずと察せられるがな)
作る必要がないのだ。
ヴェルザリスにおける彼の武勇と影響度を正確に理解すればするだけ、他者にとって彼は「敵に回すべきではない」と判断せざるを得ない存在なのだと知れる。
咄嗟の決断だったが、第1王女と第1王子を謹慎させて彼との接触を物理的に図れないよう取り計らったのは、正解だったと胸の内でアドルフィルトは、安堵の息を吐いていた。
「ああ、そうだ。忘れぬ内にこれを渡しておくとしよう」
今、思い出した、みたいな空気感を纏って懐から取り出した金色の金属片をアーウィンに向かって差し出した。
「アーウィン殿下の国境侵犯を国王である余の名に於いて不問とし、国内全ての関と街の出入口を通過することを許す免状だ。受け取ってくれ」
「………国内全て?」
「竜との戦いで、それが足枷となっては本末転倒だからな。貴殿は自由にしてもらっておった方が、利益の高い人物なのだと自国でも評されとるのだろう? ならば、我が国もそれに倣おうではないか」
先程、アーウィンが口にした言葉を掬い取って告げたアドルフィルトに、幾度か面食らったような瞬きを繰り返してから、破顔したアーウィンにアドルフィルトも自然と面へ笑みが浮かんだ。
「御配慮、痛み入ります」
「よいよい。活躍に期待する。さて、残念ながらあまり長居の出来ぬ身なのでな。余はそろそろ退散することとしよう。アーウィン殿下。貴殿とは、また時間を設けて語り合いたいものよ」
「有り難う御座います。是非に」
お互いが立ち上がって交わされる握手にこの場の者達は、アドルフィルトが国王と王子という身分差を捨て置き、己と同等の者であると認めたことをその所作から理解して、一様に目を瞠った。
「では、失礼する。いずれまた」
「はい」
「陛下。護衛の者は……?」
「問題ない。階下に居る」
投げかけられたレンリアードの確認に快活な声で答えたアドルフィルトは、振り返りもせず、真っ直ぐ部屋の扉へ向かう。
そこには、いつの間にやらフェリシティアが待機していて、アドルフィルトに一礼してから無言のまま扉を開いた。
「尽くせ」
「はい」
擦れ違い様に、小さな声でかけられた命にフェリシティアも口元を殆ど動かすことなく短い答えを返すにとどめ、アドルフィルトは冒険者ギルドから去って行った。
王城で「第1王子が騎士団を引き連れて何処ぞへ向かった」という報告を受け、慌てて飛び出した国王に付き従って来た者達は、帰りの彼が見せる晴れやかな様子に揃って安堵の息を漏らしていたと言う。
「あの馬鹿王子が騎士団動かしてまで自分で来ちゃったから、国王様まで自分で来なくちゃならなくなっちゃったとか。ほんと、ご苦労様なのニャ」
帰って行く国王専用の馬車と騎士達を会議室の小窓から覗き見ていたミューニャが、アドルフィルトが国王でありながら自ら市井の、それも冒険者ギルドへと足を運ばなければならなくなった理由を端的に口へと上らせた。
あの我儘自己中王子が、騎士団まで動員してアーウィンの捕縛に動き、しかもその背後に第1王女がいるとなったら、ちょっとやそっとの人間では、もう介入すること自体が困難だ。
それを見越して自ら動いたのが1つ。
そして、その時点で第1王女と第1王子の謹慎は国王の中でほぼ、決定事項だったのだろうことは、疑う余地もない。
息子や娘より、国を取ることが出来ない者に玉座に座り続ける資格はない。
だが、これまで溺愛してきた子供達だからこそ、即座に処罰を下すことは躊躇われたが故の決定なのだろう。
自国に竜種大行進の情報も対抗戦力もなく、それを唯一所持している人物は、誰1人武力で叶う者が居ないだろうことを先のワイバーン戦で実感出来てしまった以上、父親としてではなく、国王として下す判断では、アーウィンを取るしか選択肢がないのだ。
もし、アーウィンがもっと居丈高で、傲慢で、上から目線で、嫌味たらしくて、権力に対して弱っちぃ男だったなら、わざとバカルダサーレ王子を見逃してアーウィンを捕縛した後、解放を交換条件に竜達と戦わせる選択肢も選べただろう。
だが、アーウィンが悪気ゼロで色々とやらかしていた全てが、国益と民の支持とを得てしまっていた以上、それでも王女と王子を優先すれば、最悪、革命の出目すら有り得た。
それを自ら動くことで、キッチリ回避してきたのだから、アドルフィルトがこれまで国王としてやってきた経験による読みの正確さと手腕を褒めるべきだろう。
惜しむらくは。
「……城下に遊びに来たかっただけじゃねぇの? 馬車、城の方角に向かってねぇけど?」
フリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵を早々に城へ追いやって、お目付役から逃れたアドルフィルトが、真っ直ぐ城に帰りそうにないことをミューニャの隣から同じ小窓を覗き込んだスライだけが看破していた。
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