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第1章 ウィムンド王国編 2
隙間時間に出来ることを
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アドルフィルトが冒険者ギルドの会議室を出て暫し。
会議室内に居る者達は、竜種大行進の話しが進められないのもあって、フリュヒテンゴルト公爵達が戻るまでの暇時間を利用して、ヴェルザリスで5歳から受けられると言う精霊と魔法の属性に関する基礎講義をアーウィンから受けさせて貰うことにした。
何せ、この大陸では4属性しか属性がないとされていて、魔法の深淵を覗くことの出来る選ばれた才能を持たないとそれを完全には使い熟せないという教育をされていて、氷、雷、毒、治癒(回復)、など特殊な魔法は生まれ持った才能が全てなのだと信じられていた。
やろうと思えば後天的にでも全属性となることが出来るヴェルザリスの属性認識とは根本的に異なり、且つ、教育と訓練で誰でも出来ると言われてしまうと、やりたい、と思ってしまうのは、仕方のないことかもしれなかった。
「まず、先天的にその感覚を有する者以外を対象に、我が国の教育期間では、魔力、というものの説明から子供達に施している」
そう前置きしたアーウィンは、竜種の説明をしていた時と同じように紫板を指先で叩いて、発光している白い線で人型っぽい輪郭が書かれた図を表示した。
「魔力の発生源は、主に2つ。1つは心臓にあり、もう1つは脳内に存在している。これは器官として存在しているのではなく、予め誰にでも備わってはいるものの、使わなくても生きていける環境では、未発達だったりすることが多い。特に脳内の物が休眠状態にあると心臓の物は働かなくなってしまうので、魔力を使うことが出来ぬ者、使えてもごく、微量でしかない者などは、脳内の能力野に問題が発生しているケースが多い」
説明しながらアーウィンが紫板を叩くと輪郭人物の頭部分に赤く発光した線で脳の形が描かれる。
「脳の大脳辺縁系に存在する、この部分。帯状回と呼ばれている部位では、感情の形成と処理、学習と記憶に関わりを持ち、呼吸器系の調整を行なっている。嬉しかったり楽しかったことを何度もやりたくなったり、嫌なことや痛い目に遭った時、それを回避しようとするのは、この部位が齎す感情による記憶が原因だ。部位への入力情報は、視床と大脳皮質の体性感覚皮質領域からされている」
専門用語が多くなってきた説明に、ヴェルザリスではこれを5歳で聞くのか……という、何とも言えない空気が会議室を満たした。
「生まれた時から全属性ではない者に、我が国では “目が見える、匂いが分かる、音が聞こえるのと同じように魔力があるのが分かる” 、“目が良い者、耳が良い者、鼻が良い者、手先が器用な者などがいるのと同じように魔力を扱いやすい者がいる” 生まれ持っての差など、その程度だと教える。全ての感覚が訓練である程度、鋭敏にすることが可能なのだから、方法さえ分かれば、魔力でもそれが出来る。そういう発想で我が国の魔法は発達してきたのだ」
「……言われてみればって感じではありますけど、そのキモの部分って “方法さえ分かれば、魔力でもそれが出来る” の、方法ってトコですよね?」
アーウィンの説明を受けてバリナが疑問に思ったのだろう所を素直に口へと上らせた。
「そうだな。訓練を伴わない方法で一時的に刺激してやることで、脳内のこの部分が目覚めて、その刺激から解放されても休眠しなくなってしまったが故に、そこからずっと使えるようになってしまった者も居るには居るが、私個人としては、あまりこの方法の実行は薦めん」
「因みにその一時的な刺激というのは、どんなもんなんじゃ?」
参考までに、とでも言った雰囲気で訊ねたローガンにアーウィンが、やや困ったように眉を下げて答える。
「……地妖精は、この方法を使うのに無理があるかもしれぬが、理性が完全に飛ぶまでアルコールを摂取した後、霊的、または魔法的な恐怖体験をして、後日、それと全く同じ体験を素面の時にさせると可成りの高確率で休眠状態から目覚めるのだよ」
「恐怖体験……」
「アルコールの過剰摂取状態でも記憶の片隅に最低限残るレベルの物でなくてはならない為、個々人の恐怖基準を事前に調べておかなくてはならないとか、それを忘れた頃にやらないと意味がないとか、アルコールを摂取出来る程度には身体が出来上がっていないといけないとか、地味にハードルが高くてな。我が国では、もうやらなくなってしまった過去の覚醒法でもあるのだよ」
既に試みられなくなった方法とは言え、過去にそんなことを実際行っていたのだと聞いてしまうと、ヴェルザリスにも色々と苦労した時代があるのだな、なんて少し感慨深くなってしまった。
「恐怖体験って言われてもさ、特に思い浮かばないんスけど、例えば、どんなこと試したんスか?」
「元々は、酒を飲んで騎馬で駆けるという軍の規律違反をしていた者を当時の隊長が凝らしめる為だったと聞いているのだが、こう、見た目が90歳くらいの白い服を着た媼が裸足で走って馬を追い越して行き、振り返って不気味に笑まれるとか。酔っぱらった状態で魔法薬を調合しようとした者の使っている器具から、親指の1関節分くらいしかない大きさの翁が現れて、皮肉で馬鹿にしているような厭らしい笑いを向けられるとか、寝台横に死斑の浮かんだ青白い子供が目から上だけを出してこちらを見ていたとか、そんなものから始まって、どんどんエスカレートしていったらしくてな。仕舞いには、魔物と区別がつかなくなって危ないからと禁止令が出たのだよ」
禁止令が出るレベルの恐怖体験というからには、そのエスカレートぶりはさぞ、振り切った感じの代物になって行ったのだろうな、と一同は遠い目をしてしまった。
「……どう考えても質の悪い悪戯としか思えないそれを最終的には学問にまで昇華したのですから、ヴェルザリスの先人達は色んな意味で凄いですね」
総合的な感想としてレンリアードが呟き。
「学問になった後で教えて貰えるヴェルザリスの子供達や、ミューニャ達は、恵まれてるのニャ」
少なくとも馬に乗っててババアに追い抜かれることも何かの器具からジジイにニヤつかれることもないのだと思えば、その感想には頷かざるを得なかった一同だった。
会議室内に居る者達は、竜種大行進の話しが進められないのもあって、フリュヒテンゴルト公爵達が戻るまでの暇時間を利用して、ヴェルザリスで5歳から受けられると言う精霊と魔法の属性に関する基礎講義をアーウィンから受けさせて貰うことにした。
何せ、この大陸では4属性しか属性がないとされていて、魔法の深淵を覗くことの出来る選ばれた才能を持たないとそれを完全には使い熟せないという教育をされていて、氷、雷、毒、治癒(回復)、など特殊な魔法は生まれ持った才能が全てなのだと信じられていた。
やろうと思えば後天的にでも全属性となることが出来るヴェルザリスの属性認識とは根本的に異なり、且つ、教育と訓練で誰でも出来ると言われてしまうと、やりたい、と思ってしまうのは、仕方のないことかもしれなかった。
「まず、先天的にその感覚を有する者以外を対象に、我が国の教育期間では、魔力、というものの説明から子供達に施している」
そう前置きしたアーウィンは、竜種の説明をしていた時と同じように紫板を指先で叩いて、発光している白い線で人型っぽい輪郭が書かれた図を表示した。
「魔力の発生源は、主に2つ。1つは心臓にあり、もう1つは脳内に存在している。これは器官として存在しているのではなく、予め誰にでも備わってはいるものの、使わなくても生きていける環境では、未発達だったりすることが多い。特に脳内の物が休眠状態にあると心臓の物は働かなくなってしまうので、魔力を使うことが出来ぬ者、使えてもごく、微量でしかない者などは、脳内の能力野に問題が発生しているケースが多い」
説明しながらアーウィンが紫板を叩くと輪郭人物の頭部分に赤く発光した線で脳の形が描かれる。
「脳の大脳辺縁系に存在する、この部分。帯状回と呼ばれている部位では、感情の形成と処理、学習と記憶に関わりを持ち、呼吸器系の調整を行なっている。嬉しかったり楽しかったことを何度もやりたくなったり、嫌なことや痛い目に遭った時、それを回避しようとするのは、この部位が齎す感情による記憶が原因だ。部位への入力情報は、視床と大脳皮質の体性感覚皮質領域からされている」
専門用語が多くなってきた説明に、ヴェルザリスではこれを5歳で聞くのか……という、何とも言えない空気が会議室を満たした。
「生まれた時から全属性ではない者に、我が国では “目が見える、匂いが分かる、音が聞こえるのと同じように魔力があるのが分かる” 、“目が良い者、耳が良い者、鼻が良い者、手先が器用な者などがいるのと同じように魔力を扱いやすい者がいる” 生まれ持っての差など、その程度だと教える。全ての感覚が訓練である程度、鋭敏にすることが可能なのだから、方法さえ分かれば、魔力でもそれが出来る。そういう発想で我が国の魔法は発達してきたのだ」
「……言われてみればって感じではありますけど、そのキモの部分って “方法さえ分かれば、魔力でもそれが出来る” の、方法ってトコですよね?」
アーウィンの説明を受けてバリナが疑問に思ったのだろう所を素直に口へと上らせた。
「そうだな。訓練を伴わない方法で一時的に刺激してやることで、脳内のこの部分が目覚めて、その刺激から解放されても休眠しなくなってしまったが故に、そこからずっと使えるようになってしまった者も居るには居るが、私個人としては、あまりこの方法の実行は薦めん」
「因みにその一時的な刺激というのは、どんなもんなんじゃ?」
参考までに、とでも言った雰囲気で訊ねたローガンにアーウィンが、やや困ったように眉を下げて答える。
「……地妖精は、この方法を使うのに無理があるかもしれぬが、理性が完全に飛ぶまでアルコールを摂取した後、霊的、または魔法的な恐怖体験をして、後日、それと全く同じ体験を素面の時にさせると可成りの高確率で休眠状態から目覚めるのだよ」
「恐怖体験……」
「アルコールの過剰摂取状態でも記憶の片隅に最低限残るレベルの物でなくてはならない為、個々人の恐怖基準を事前に調べておかなくてはならないとか、それを忘れた頃にやらないと意味がないとか、アルコールを摂取出来る程度には身体が出来上がっていないといけないとか、地味にハードルが高くてな。我が国では、もうやらなくなってしまった過去の覚醒法でもあるのだよ」
既に試みられなくなった方法とは言え、過去にそんなことを実際行っていたのだと聞いてしまうと、ヴェルザリスにも色々と苦労した時代があるのだな、なんて少し感慨深くなってしまった。
「恐怖体験って言われてもさ、特に思い浮かばないんスけど、例えば、どんなこと試したんスか?」
「元々は、酒を飲んで騎馬で駆けるという軍の規律違反をしていた者を当時の隊長が凝らしめる為だったと聞いているのだが、こう、見た目が90歳くらいの白い服を着た媼が裸足で走って馬を追い越して行き、振り返って不気味に笑まれるとか。酔っぱらった状態で魔法薬を調合しようとした者の使っている器具から、親指の1関節分くらいしかない大きさの翁が現れて、皮肉で馬鹿にしているような厭らしい笑いを向けられるとか、寝台横に死斑の浮かんだ青白い子供が目から上だけを出してこちらを見ていたとか、そんなものから始まって、どんどんエスカレートしていったらしくてな。仕舞いには、魔物と区別がつかなくなって危ないからと禁止令が出たのだよ」
禁止令が出るレベルの恐怖体験というからには、そのエスカレートぶりはさぞ、振り切った感じの代物になって行ったのだろうな、と一同は遠い目をしてしまった。
「……どう考えても質の悪い悪戯としか思えないそれを最終的には学問にまで昇華したのですから、ヴェルザリスの先人達は色んな意味で凄いですね」
総合的な感想としてレンリアードが呟き。
「学問になった後で教えて貰えるヴェルザリスの子供達や、ミューニャ達は、恵まれてるのニャ」
少なくとも馬に乗っててババアに追い抜かれることも何かの器具からジジイにニヤつかれることもないのだと思えば、その感想には頷かざるを得なかった一同だった。
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