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第1章 ウィムンド王国編 2
休眠状態の解除
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「さて。では詳しい話しをしていこう。まずは、脳内のこの部分」
言いながらアーウィンが映し出されている人型と輪郭しかない脳の一部分を切り抜いたように赤く色付けて点滅させる。
「主に感情野と呼ばれていて、外からの刺激と己の記憶を用いて、発露する感情を決めている部分だ。特にこの後ろの方にあるヶ所なのだが、黄色く光っている部分が恐怖を感じる部分で、隣にある橙に光っている部分が、楽しいと感じる部分、そして黄色の反対側にある緑の部分が面白い、と感じる部分になるのだが……」
「ニャニャ? 怖いは、楽しいと面白いに挟まれた、お隣さん同士なのニャ? 全然違う感情なのにどうして真ん中に怖いが居るのニャ?」
点灯している部分とアーウィンからされた説明にミューニャが不思議そうな声音で尋ねる。
「うむ。それに関しては我が国でもあれこれ実験していて判明したことなのだ。感覚器官より入力された情報によって、最終的に脳のどの部位に伝達物質が届き、それが脳の何処から身体の何処へ到達しているのかを調べる為に、まだ飛翔、浮遊、浮揚などの魔法を使えぬ者をペガサスの背に乗せて、高速で空を飛んでもらう体験をさせたのだ」
当然、安全は担保されているのだろうが、万一、ペガサスの背から落ちたら自力で助かる術が少ないだろう者達をわざわざ選んで実験している辺りにヴェルザリスの本気度が窺えた。
「そこから明らかになったのは、初期段階で感情野の、怖いの所に到達していた伝達物質が、恐怖を紛らわせる為に防衛本能による誤作動を起こして、楽しいや面白いの部分に誤配されていることが明らかとなり、且つ、その情報による伝達が1度、誤配された後には、それを正常ルートと認識してしまい、同じ体験から脳が受け取る情報の伝達は、以後も全て誤配された同じ場所へと分配されることが分かったのだ」
度胸試しだの、肝試しだの言い方は種々あるようだが、それを「面白かった」「楽しかった」と言っている者の何割かが、これに該当しているのかもしれないな、とこの場の者達も自身の経験を元に考察する。
「正しく怖がって終わる者と、段々楽しくなったり、面白くなったりしたその出来事を神経伝達物質の誤配によって自身の認識自体に誤認が生じていることを理解せぬまま、自ら同じ体験を繰り返しするようになる者の差は、この伝達物質の誤配が起きるか否かにかかっていると言っていいだろう」
「……レイスやゴースト、アンデット系の魔物がモリモリのダンジョンに行って、怖がって帰って来る冒険者は、真面に見えるけど、面白かったとか言ってるヤツが変人に見えるのは、それが原因だったのニャ」
自分の中での謎が1つ解けたのだろう。
ミューニャが、嫌そうに眉根を寄せて、耳を後ろ側へ、ぺいっ、と折り曲げながら言ったことに、アーウィンが、肩を竦めて見せる。
「無論、この3ヶ所の何処にも伝達物質が到達せずに終わる者も居るから、本当にそういう系統の依頼に向いておるのは、何処にも到達せず、冷静に事を為せる者達なのだろうがな」
「確かに。怖がられるのも、楽しまれるのも危険な事柄というのは、あるからのう」
「知らないから怖くない、みたいなのありますからねぇ? 特に若い人族は、知る前は怖いもの見たさを優先する者が必ず居ますから」
「そうだのう」
隊の纏め役を担うことが多いローガンとレンリアードは、そういう事での苦労を体験することもあったのだろう。
しみじみとした口調で頷きあっていた。
彼等にとってもこの話しは、経験とも合致して納得出来る物であったらしい。
「そして、この感情野の今、説明した3ヶ所に程近いこの部位が、脳内の魔力を司っている部位になる」
アーウィンが、紫板を指先叩いて白く点滅させた位置は、言葉の通りほぼ真上に見える所にあった。
「あ。だから恐怖体験で、使えるようになっちゃう人がいるんですね? もしかして、誤作動とか誤配とかっていうのが、楽しいとか、面白いとかに行くんじゃなくて、そっちに行っちゃう感じなんですか?」
「その通りだ」
バリナが、先程の話しからピンと来たのか、思いついたままに問いかけたことをアーウィンが、ごく短い言葉で肯定した。
「この誤作動は、あくまで防衛本能がベースとなって起こるものなので、迷走した末に休眠状態に入っていたこの部位を起こさないと、原因となっている事象を正しく判断できないと脳内の無意識領域にある命令系統が指示を出し、休眠状態から醒めて活動するようになるのだ」
「脳内の無意識領域、というのは意識していなくても勝手に身体の中で活動している所と解釈してよろしいですか?」
レンリアードがした確認にアーウィンが緩く幾度か肯いた。
「その理解で問題ない」
「怖いって思うと胸がドキドキする感じになるのも、関係してるのニャ?」
「そうだな。血圧と発汗の変化、心拍の上昇、筋肉の収縮と弛緩などにも関係してくる事柄になる」
「あー、怖すぎてチビったり漏らしたりするヤツって居ますからねぇ」
「それに関しては対策がなくもないが、今は説明を省く。この中で魔力がないとか、魔力量が少ないとか言われたことのある者は居るか?」
アーウィンが、挙手を求めて左手を上げながら問いかけたことに、レンリアードとフェリシティア以外の全員が、そそっと手を上げた。
「………これは由々しき事態だな。少し待て」
驚いたような声音で呟いたアーウィンが、半透明の球体の中へ身体を戻し、再び本格的に紫板の上で指先を踊らせ始めた。
一同は、何が始まるのだろうか、とその場で伸び上がったり、テーブルの天板ギリギリまで身を屈めたりしながらそれぞれが視界を確保して、彼がしていることを注視していた。
言いながらアーウィンが映し出されている人型と輪郭しかない脳の一部分を切り抜いたように赤く色付けて点滅させる。
「主に感情野と呼ばれていて、外からの刺激と己の記憶を用いて、発露する感情を決めている部分だ。特にこの後ろの方にあるヶ所なのだが、黄色く光っている部分が恐怖を感じる部分で、隣にある橙に光っている部分が、楽しいと感じる部分、そして黄色の反対側にある緑の部分が面白い、と感じる部分になるのだが……」
「ニャニャ? 怖いは、楽しいと面白いに挟まれた、お隣さん同士なのニャ? 全然違う感情なのにどうして真ん中に怖いが居るのニャ?」
点灯している部分とアーウィンからされた説明にミューニャが不思議そうな声音で尋ねる。
「うむ。それに関しては我が国でもあれこれ実験していて判明したことなのだ。感覚器官より入力された情報によって、最終的に脳のどの部位に伝達物質が届き、それが脳の何処から身体の何処へ到達しているのかを調べる為に、まだ飛翔、浮遊、浮揚などの魔法を使えぬ者をペガサスの背に乗せて、高速で空を飛んでもらう体験をさせたのだ」
当然、安全は担保されているのだろうが、万一、ペガサスの背から落ちたら自力で助かる術が少ないだろう者達をわざわざ選んで実験している辺りにヴェルザリスの本気度が窺えた。
「そこから明らかになったのは、初期段階で感情野の、怖いの所に到達していた伝達物質が、恐怖を紛らわせる為に防衛本能による誤作動を起こして、楽しいや面白いの部分に誤配されていることが明らかとなり、且つ、その情報による伝達が1度、誤配された後には、それを正常ルートと認識してしまい、同じ体験から脳が受け取る情報の伝達は、以後も全て誤配された同じ場所へと分配されることが分かったのだ」
度胸試しだの、肝試しだの言い方は種々あるようだが、それを「面白かった」「楽しかった」と言っている者の何割かが、これに該当しているのかもしれないな、とこの場の者達も自身の経験を元に考察する。
「正しく怖がって終わる者と、段々楽しくなったり、面白くなったりしたその出来事を神経伝達物質の誤配によって自身の認識自体に誤認が生じていることを理解せぬまま、自ら同じ体験を繰り返しするようになる者の差は、この伝達物質の誤配が起きるか否かにかかっていると言っていいだろう」
「……レイスやゴースト、アンデット系の魔物がモリモリのダンジョンに行って、怖がって帰って来る冒険者は、真面に見えるけど、面白かったとか言ってるヤツが変人に見えるのは、それが原因だったのニャ」
自分の中での謎が1つ解けたのだろう。
ミューニャが、嫌そうに眉根を寄せて、耳を後ろ側へ、ぺいっ、と折り曲げながら言ったことに、アーウィンが、肩を竦めて見せる。
「無論、この3ヶ所の何処にも伝達物質が到達せずに終わる者も居るから、本当にそういう系統の依頼に向いておるのは、何処にも到達せず、冷静に事を為せる者達なのだろうがな」
「確かに。怖がられるのも、楽しまれるのも危険な事柄というのは、あるからのう」
「知らないから怖くない、みたいなのありますからねぇ? 特に若い人族は、知る前は怖いもの見たさを優先する者が必ず居ますから」
「そうだのう」
隊の纏め役を担うことが多いローガンとレンリアードは、そういう事での苦労を体験することもあったのだろう。
しみじみとした口調で頷きあっていた。
彼等にとってもこの話しは、経験とも合致して納得出来る物であったらしい。
「そして、この感情野の今、説明した3ヶ所に程近いこの部位が、脳内の魔力を司っている部位になる」
アーウィンが、紫板を指先叩いて白く点滅させた位置は、言葉の通りほぼ真上に見える所にあった。
「あ。だから恐怖体験で、使えるようになっちゃう人がいるんですね? もしかして、誤作動とか誤配とかっていうのが、楽しいとか、面白いとかに行くんじゃなくて、そっちに行っちゃう感じなんですか?」
「その通りだ」
バリナが、先程の話しからピンと来たのか、思いついたままに問いかけたことをアーウィンが、ごく短い言葉で肯定した。
「この誤作動は、あくまで防衛本能がベースとなって起こるものなので、迷走した末に休眠状態に入っていたこの部位を起こさないと、原因となっている事象を正しく判断できないと脳内の無意識領域にある命令系統が指示を出し、休眠状態から醒めて活動するようになるのだ」
「脳内の無意識領域、というのは意識していなくても勝手に身体の中で活動している所と解釈してよろしいですか?」
レンリアードがした確認にアーウィンが緩く幾度か肯いた。
「その理解で問題ない」
「怖いって思うと胸がドキドキする感じになるのも、関係してるのニャ?」
「そうだな。血圧と発汗の変化、心拍の上昇、筋肉の収縮と弛緩などにも関係してくる事柄になる」
「あー、怖すぎてチビったり漏らしたりするヤツって居ますからねぇ」
「それに関しては対策がなくもないが、今は説明を省く。この中で魔力がないとか、魔力量が少ないとか言われたことのある者は居るか?」
アーウィンが、挙手を求めて左手を上げながら問いかけたことに、レンリアードとフェリシティア以外の全員が、そそっと手を上げた。
「………これは由々しき事態だな。少し待て」
驚いたような声音で呟いたアーウィンが、半透明の球体の中へ身体を戻し、再び本格的に紫板の上で指先を踊らせ始めた。
一同は、何が始まるのだろうか、とその場で伸び上がったり、テーブルの天板ギリギリまで身を屈めたりしながらそれぞれが視界を確保して、彼がしていることを注視していた。
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