天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

魔力の量を増やすには

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 紫の半透明な球形をしていた物の輪郭が、アーウィンの指が紫板を叩き進めるに従って崩れてゆく。
 天辺にあった小さめの深皿を伏せたような形をしていた部分が上に伸び上がり、くるりと反対側へ方向を変えて、やや離れた所でその動きを止めた。
 逆深皿の下には、アーウィンが腰掛けているのと同じ水色をした板が2枚、水平方向と斜め上から水平方向板の奥辺を接する形で空気の中から滲み出るように現れた。

「では、ローガン。そなたから始めようか。そこへ座って楽にしてくれ」
「かしこまりました」

 最初に指名されたことに僅かばかり驚いたような顔をしたものの、好奇心が勝るのか特に質問らしい質問をすることなく、座っていた椅子から離脱したローガンは、指示された水色の板がある場所へと移動した。
 右手で、座面にあたる水平板をグイグイと押してみて「おほっ」と声を上げてから、楽しげにそこへと腰を落ち着ける。

「いやはや、もっと堅い木板か鉄板のようなものなのかと思うとったが、柔らかくてフカフカしとりますなぁ、これは。寝てしまいそうですわい」
「ははっ、実際に子供などは寝てしまう子が居るようだぞ。黙ってじっと座っておるのが、つまらぬのだろうな」
「あ、それ分かる! 眠くなるんスよね。何もしないで座ってるだけって」

 ローガンの溢した感想にアーウィンが笑いながら答えると立ち上がっていた勢いそのままにスライが同意の声を上げた。

「折角座ってるなら事務仕事すればいいのニャ」
「いやいや、それがさ。紙仕事って、何だこりゃ? って、いっぺん訳分かんなくなると眠さ倍増すんだよ。不思議だよなぁ、アレ」
「事務仕事に興味なさすぎですよ、隊長」

 ミューニャのした突っ込みにスライが開け透け過ぎる返答をするとバリナが呆れた声音で事実をスパッと言い当ててみせた。

「でもまぁ、分かりますよ。これ書いたから何なんだってなるような物も中にはありますからねぇ」
「ありますあります! 特にあれですよ! あれ! 仕事に関する城内感想投票!」
「あー、あれなー。何で同じ感想投票、何度もやらすんだろうなぁ?」
「自分達が、これなら受け入れられる、上に報告出来るという結果になるまで繰り返しているだけですよ」
「あー……おんなじの3回くらいやらされると、また同じ内容ー? とか思ってどうでもよくなるから、回答の選択かなり適当に選んでますもんね」
「俺なんかメンドイから始めから全部3にしてるぜ」
「3って、確か “どちらでもない” とか “普通” とかの1番無難でどっちつかずな回答書かれてる選択肢でしたよね?」
「4の “どちらかというと違う” 、5の “全く違う” の集計結果が全体の2割以下にならないと上に報告しないみたいですよ?」
「ただの出来レースじゃねぇか、それ。なら最初から感想投票とかやらせんなっつの」
「下の意見をちゃんと聞いてますって感じにしたいだけなんでしょ。私達には、集計結果の公表もしなけりゃ、それを元に何をどうすんのかって通達すらないんだから」
「……確かに、そんな調子じゃあ、事務仕事やる気もなくなっていくのニャ」

 レンリアードとミューニャを交えて事務仕事あるあるみたいな話しをスライとバリナがしている内に、すっかり準備が整ったらしいアーウィンが座っていた場所から立ち上がり、ローガンの傍へ行く。
 それを目にした一同は、皆、口を噤んでこれから始まるだろうことを興味津々で見つめた。

「では、これからそなたの魔力量を増やす処置を始める」
「これはその為の準備だったと解釈してよろしいですかな?」

 頭上に浮かぶ逆深皿を見上げたローガンが、不思議そうにそう訊ねた。
 頭の位置を動かしても、まるで追尾しているように少し空間を空けた上位置から、己の頭を多い続ける逆深皿と半透明な紫色をした四角錐の群れ。
 指先を向けて何個あるのか数えて12個あるのを彼が確かめ終えてからアーウィンが口を開いた。

「そうだ。先程説明した、この部分が」

 言いながら光線と点滅する光で構成された人体と脳内が映し出されている光板を左手で引き寄せて、魔力を司っていると説明した白い点滅を繰り返す位置を右手で指し示す。

「脳内で魔力を司っている場所だ。ここが魔力生み出し、また全体の総量を決定している。循環と使用に関しては心臓部の器官も関わってくるが、魔力量の有無や増減だけを考えるならば、脳内のこの部分を調整すればよいだけだ。但し、いきなり大量に増やす処置をすると身体がついてゆかぬ可能性が高い。人にもよるが、増やす量を決めて1週間から1ヶ月程、慣らし慣らし増やしてゆく方がよいだろう」
「儂も若い頃のようにはいかん部分もございますのでな。そうしていただけますと有り難い」
「うむ」

 ローガンが了承を示して言ったことにアーウィンは頷いて、宙に浮く四角錐の1つを右手の人差し指で突っついた。
 その瞬間だけ位置を動かされた四角錐は、すぐさま元の位置へと自動で戻っていく。

「これは1つ1つが、脳内のこの部分を中心として配置されている」

 再び光板の白い点滅部分を示しながら説明したアーウィンは、次に頭の上にある逆深皿を指差した。

「上にあるものは、その制御をしていて、私が使っていたあのデバイスに繋がっている」

 あのデバイス、というのがアーウィンが先程まで中で座っていた紫色の半透明をした球形のことらしいかった。

「今から魔導構築制御順流マギネットワークシークエンスを使って、そなたの脳に魔力信号波マナラクトイシャラジーを送り込むことによって、そなたの脳にもっと魔力の解放率を上げる指示を出す。ここまでよいか?」
「はい。意味は何となくしか分かりませんがな」
「今はそれでよい」

 ローガンの答えに笑顔で返事をしたアーウィンが傍を離れて半球の方へと戻る。

「では、実際にやってみせよう」

 その一言を合図に半球の外側へと立ったまま紫板へと右手を伸ばし、タン、とその指先が叩音を響かせた。



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