天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

報告その7 - 古龍種 操重竜グランドサンスピア 通常種 4 -

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「その溜息は、彼の国が我が国に亡命しにやって来るだろう王侯貴族を憂慮してのことでしょうが、別に受け入れなければいいのでは? 警告自体はしてやるのですから、聞き入れなかった彼の国に非があるでしょう?」

 薬師ギルドのマスター、ベルザックが場の空気感から察した事柄を口にすると再び大きな溜息を国王アドルフィルトがついた。

「それが通るなら150年も遺恨が残ったりはせんわい」
「今回ばっかりは “自国でどうにかしろ” か “他所行け” でいいのニャ。そもそも連中がこの国に魔物暴走スタンピード起こす為に隠蔽したダンジョンから出て来たハーモニアエリゾンの所為でドラゴンがこんなにワンサカ来てるのに、自国が危なくなったら助けてくれは通らないし、通しちゃダメなのニャ」
「そうね。助けても助けなくても文句言われる未来しか来ないのは目に見えてるんだから、それならわざわざ助けてやる義理なんかないわ。資源の無駄よ」

 ミューニャの主張にまたしてもリーゼラルダが同意して、隣国を助ける為に割く全ての資源リソースを無駄と切って捨てた。

「隣国の気質は民を犠牲にし、敵国に縋ってでも王侯貴族だけが助かろうとする国であると理解してよいのか?」
「そうニャ。序でに言うなら心ある民だって、ほんの一握りなのニャ。そう言う人達は国の外からちゃんと確実な情報を仕入れるルート持ってるから多分、1体目のドラゴンが来た話しが流れて来た時点で全財産抱えて、どっかの国に脱出してるのニャ」
「ふむ……周辺国が、その対応で納得すると言うのであれば、私がとやかく言う問題ではないが……」
「150年前の戦争でカルドランスの味方をした5つの国の内、4国は既に離反しております。残る1国も自国よりカルドランスを優先することはありますまい。それよりもこの光るドラゴンが、極大風魔法を使うような状態のまま我が国にやってくる方が余程、脅威でございましょう」

 ミューニャの主張を受けて、やや言葉を濁したアーウィンだったがサンタナ侯爵が眩しさに目を細めながら上奏したことに頷いたアーウィンは、再びコンソールを指先で叩いてグランドサンスピアが映し出されている画面にフィルターをかけて、この場の者達が感じているだろう光の暴力を軽減した。

「サンタナ侯爵の懸念は否定せぬ。此奴が南の海辺で攻撃されたなら、この国にやって来るより先に気が済んで “凶暴化” は解けている公算が高い」
「是非、カルドランスで暴れて気が済んで貰いたいもんだな」

 クォートが合いの手を入れるように呟いたことへ、その場の殆どの者が思わず頷いてしまった。

「だが、隣国の中心部または、この国との国境付近で “凶暴化” した場合は、ある程度の被害を免れぬだろう。先程見て貰った尖岩混じりで放たれる風の極大魔法だけでなく、この古龍が冠名詞として “操重竜そうじゅうりゅう” と呼称される理由になっている固有技能ピキュリアリティスキルは、此奴を中心とした半径3.6kmカールメルガに及ぶ範囲内に於ける重引力を自在に操る力なのだ。空間魔法、重力魔法の2つを取得できて居らぬ者は、攻防どころか移動にも事欠くこととなるだろう」

 説明を加えながらフィルターのかかった画面内で身体の周囲に火花のような物を散らしたグランドサンスピアは、それを合図に自身の周囲にあったありとあらゆるものを空中に浮かせていた。
 人、物、植物、動物、建造物は言うに及ばず、土や水ですらも無防備な状態で、ただ力無く浮き上がっている光景は驚きよりも恐怖を喚起して会議室の者達は皆、口を噤んでしまった。
 映像内ではアーウィンが説明した魔法を所持する者が数名居たようで、グランドサンスピアが支配する空間内を飛翔魔法らしきもので自在に飛び回り、救助活動をしている様子が映し出されていた。

「……この飛び回ってる魔法ってー? 飛翔魔法っしょー? 大陸中探したって、こんな伝説クラスの失伝魔法、使える人いないしー?」
「収納魔法や浮遊魔法ならば使える者は居るのか?」

 アヴィエートが疲れ切ったような声音でした訴えにアーウィンが、微妙に方向性の異なる2つの魔法を例に出して問いかけた。

「まぁ、それなら片方くらいは何とかー? 両方ってなるとウチ含めて大陸中でも3人くらいかなー?」
「では、その者達には希望があれば私が飛翔魔法と座標取得魔法を教えよう。特に座標取得魔法は使えるようになると地図魔法の精度が上がるし、何より転移魔法にも使える魔法であるゆえ、習得しておくと便利だぞ?」
「マジだし⁈ ちょ! 他のヤツとかどうでもいいから今すぐウチに教えるし!」

 アーウィンからの申し出にグランドサンスピアそこ退け状態で立ち上がったアヴィエートは、大興奮状態で彼に駆け寄り、ミューニャとフェリシティアに壁として立ちはだかられてギャーギャー騒いでいた。

「……陛下。1体目のドラゴンが我が国へやって来るまで後4日。その間に私どもが準備の肩代わりをすることが可能であるならば、いっそ、見込みのありそうな者を殿下に預けて古龍がやってくるまでにある程度の対抗戦力を国で保有する準備を進めた方が良いのではありませんかな?」

 目の前で展開される大騒動を尻目にサンタナ侯爵が提案したことは、既にアーウィンが会議室の初期メンバーへ話していたことでもあったので、騒ぎの中心になっている4人以外の者達は何となく国王とサンタナ侯爵の話しへと意識の方向を向けてしまった。

「一朝一夕に作り上げられる物ではなかろうが、将来的なことを考えるならば視野に入れざるを得んだろうな。此度のこととてアーウィン王子が居らなんだなら、ほぼ全ての国が滅亡しておった筈だ。後150年もすれば魔王が蘇る事態も起こり得る。備え始めねばならぬのは確かであろうからな」

 国王アドルフィルトの答えに話しを聞いていた者達は一様に頷いて見せ、再びギャーギャー騒ぎまくっているアヴィエート達へ視線を戻し。

「アンタは1回落ち着きなさいっ! 話しが進まないじゃないのっ‼︎」
「あ痛っ」

 リーゼラルダに平手で頭を叩かれたことによって、漸くと終息したやりとりに苦笑いを漏らした。
 襲来することだけは確定事項となっている8体の竜達。
 それはこの国のみならず、この大陸のこれまでの在り方自体の是非を問われているようで、会議室内の空気は決して明るくも軽くも感じることが出来なかったけれど、同時に全く希望がない訳ではないことも理解は出来て、皆が皆、複雑な表情を面に浮かべていた。


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