凡人高校生

ゆるだら公

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凡人高校生

18話

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「…俺だって話したかったんだ。でも、昔の俺は弱い野郎で、そこそこ人気だった大に話しかけることなんて出来なかった。
それでも、アイツに親友と呼べる存在はいなかったから俺もまだ安心できたんだ。
……でも…」

「でも?」

かなり羽橋の過去に足を踏み込んでいるが、もう戻れないと、最後まで話を聞くことにした。すると羽橋は、次はイライラした様子である人物の名前を述べた。

「それなのに、高校に上がってから、大は急に1人の奴に執着し始めた。…あの、……あの満って奴に!!」

名前すら言うのも不快なようで、歯をギシギシと鳴らしていた。
凛音はようやく納得したように羽橋の話に頷いた。

「つまり、俺の方が一緒にいた時間長いのに、なんでアイツなんだよー。…てことか」

「大に親友がいないから、俺は安心して生活することが出来たのに…。アイツが…アイツが……!!」

余程ショックだったらしく、生活にも支障が出たらしい。それほど大は羽橋にとって偉大な存在だったのだろう。

「だから俺はグレた」

「性格にも支障がッ!?」

過去と今で相当性格が変わったようで、昔はちゃんと勉強していたみたいだ。でもまだ変わりきれていなくて、今のように半泣きになってしまうのだろう。

「でも、最近は頑張って話すように努力してるんだ。…無理な時もあるけど。
あっ、聞いてくれよ凛音!俺昼休みアイツと喋ったんだ!!」

さっきまでの悲しい顔や怒った顔が嘘のように、今度は生き生きとした元気な表情に変わった。どうやら羽橋は、表情のバリエーションが豊富らしい。

「今までの話を聞く限り、それはすごい事だと言えるな。それで、どんなことをしたんだ?」

「それはな!……それはな……っ……」

またまた顔を紅潮させ、小っ恥ずかしそうに下を向いた。
目を泳がせ、指で頬を擦りながら答えた。

「…べ、弁当食わしてもらった………」

「へぇ…」

✻✻

「俺も楽しませてもらうぜ。…ハハッ」

「お前……毎回1人になった時を狙って」

「アイツが居ると俺が不愉快だからな」

屋上近くの階段で、男2人が何やら近寄り難い雰囲気の会話を交わしている。それは羽橋と大だった。
羽橋は大の隣にどかっと座ると、薄気味悪い笑顔を浮かべた。

「何しに来たの?」

訝しんでいる大が彼の顔を覗く。羽橋は平然としており、言葉を紡いだ。

「俺は今腹が減っている。けど弁当もないし購買へ行く気力も残ってない。時間が有り余っているから、しょうがなくお前のところに来たまでだ」

「…素直に弁当分けてくださいって言えばいいのに」

「なッッ!!?」

グレにもグレきれていなかったようで、羽橋はすぐバレて敗北してしまった。それほどまでに、大の目には、今の羽橋はただの凡人に見えた。

「ちゃんと伝えたいことは伝えといた方がいいよ。はい卵焼き」

「…は?」

箸で取った卵焼きを、羽橋の前に差し出した。羽橋は頭が真っ白になり、言葉が詰まった。

「ん?どうした。ほらあーん」

「あ、あわ、…あ、あーんっ!」

「はは、力みすぎ」

自然に笑みが零れた大に、羽橋は目を奪われてしまう。卵焼きは最高に美味しかったそう。
あまりの美味しさに、羽橋はほかの具材も気になると、興味津々だった。
その視線に気づいた大は、ふっと静かに笑い、今度はハンバーグを箸で取って羽橋に差し出した。

「しょうがないなぁ。一緒に食べよ」

「!?……あ…お、お前がそう言うなら、…いい、けどさ……」

沈黙の中、満が戻ってくるまでの短い間、羽橋は大と2人きりの時間を過ごした。

✻✻

「…とまぁ、こんな感じだ」

「うんうんなるほどね。…じゃねぇッ!!」

羽橋の長い回想が終わると、凛音は我慢できずに思わず大声で突っ込んだ。
どうやら、回想直後から色々言いたい点はあったらしい。

「?どうした。そんな変人でも見たような顔して」

「多分それ正解。…はぁ、言いたいことは山ほどあるけど、最初に1つだけ」

小さく息を吸って心を落ち着かせた凛音は、真剣な眼差しで羽橋を直視した。

「…お前、今と話しかけた時との態度の差激しすぎ。天と地くらい違うぞ」

これだけ言ってしまえば、凛音はもうどうだっていいと考えるほどに、羽橋の性格の変わりように驚愕していた。

「や、だって……。大にこんな弱い姿、見せらんねぇだろ…」

そこは羽橋も男を見せたいと思ったらしく、素の自分を隠しているようだ。ただ、隠しきれていない点もいくつか見つかるが。

「でも、大さんと仲良くしたいんなら、素の自分を出した方がいいと思うぞ」

「でも……っ」

ウジウジしている羽橋を凛音はそっと自分に寄せて、羽橋の顔を、また自分の胸に優しく押し当てた。

「!?」

(…今まで先生してきて、こんな感じの女の子とか数え切れないほど見てきたけど、羽橋も同じだ。青春してるって感じの)

元教え子たちの顔を思い浮かべて、羽橋と重ねた。本当にそっくりで、凛音は少し微笑ましく、そして羨ましく思った。

「チャンスはまだいくらでもある。焦るな。本当のお前を見せるのかはお前次第だが、ゆっくりでいいんだぞ、ゆっくりで。辛かったら、いつでも俺のところに来い」

「……凛音センセー……」

そっと抱きしめられた羽橋は、大人しくじっと、凛音の胸の中でうずくまっていた。とても温かく、気持ちが良かったからだろう。

「おっ!今先生って言ってくれた」

「!?う、ウルセー!!今のは違う!勝手に口から出ただけだからノーカンだ!!」

「っははは…!どういうことだよ笑」

どうやら、いつもの羽橋に戻ったようで、彼に対する違和感がすっと消えたような気がした。
本音を曝け出せて、羽橋は憑き物が落ちたみたいで、また表情は、強気な男らしい顔となった。

「…はぁ。サンキュな凛音。なんか軽くなった気がするぜ。やる気も出てきたところだし、さっさと補習の続きを…」

「あー、…あのさ、羽橋」

「ん?」

凛音の膝の上から降りようとした羽橋を、彼は一旦ストップさせた。
そして、自分でもわからなかったが、羽橋に今の気持ちを告げた。

「……もう少しだけ、このままでいてくれ」
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