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003.中古車
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中古車を買う機会がある人は、絶対に気をつけた方がいい。
俺が今から書く体験談はまだまだ甘いものだった。
いいか、中古車を買う前には必ずその車の過去を調べろ。
最悪の事態になってからじゃ遅いからな。
事の始まりは半年ほど前だ。自動車の運転免許を取得してからすぐに車屋へといった。
あの時は憧れの運転ってことで相当舞い上がってた。ただ、免許を取るのにもお金はかかるもので、手元に対してお金は残っていなかった。
もちろん新車なんて買うことはできない。それでもやはり車は欲しかったから、車屋と言っても中古車を扱っているところに行ったんだ。
「あまりよさげなのはないな」
一人で行くのもどうかと思い、一緒に行くことになったのは中学時代からの親友であるユウキだった。
とにかく鈍い彼は店内で平然とそんなことを言う。
「そんなこと言うなよ。失礼だろ」
俺もこう入ったが、実際のところいいものはなかった。ほしいと思ったものはことごとく価格が高かったのだ。
手元のお金で買えるようなものはずいぶんと使い古されたものばかりであった。
そもそも、大した稼ぎのない大学生がいいものを買えるはずもなかったのだ。
「ん? なあ、これ良くねえか? かっこいいし、走行距離もそこまでじゃない。それに安い。お前でも買えそうだ」
ユウキはそう言って一台の車を指さした。年式こそ古いものの確かにかっこいいし、走行距離も一万キロに達していなかった。
そして価格がコミコミで二五万円と破格であった。今思えばこんなの疑うべきだったとは思うが、あの時は特に何も気にしなかった。
「超いいじゃん。これにするわ」
もともと深く悩む性格ではないというのもあって、すぐにその車を購入することに決めた。
手続きだとかが面倒なのかとも思っていたが、その場ですぐに終わり、即日納車ということでそのまま乗って帰ることができた。
念願の自己所有車であり、しかもなかなかいい買い物だったこともあり、非常に気分がよかった。
異変が生じたのはその車を購入してから三日後だった。購入した日を除けばそれが初めての運転となる。
店から家までという短い距離ではなく、当てもないドライブの予定であった。もちろんユウキも一緒だった。
今思えば、ではあるが最初の異変はドライブ開始から一時間ほどたってからだった。気持ちよく運転をしていたのだが、後続車両から急にクラクションを鳴らされたのである。
巷で有名なあおり運転かと思い恐かったが、完全に無視を決め込んでやり過ごした。
しばらくするとクラクションの音もやみ、結局何が目的だったのかはわからないでいた。
せっかくのドライブだったが、その出来事のせいで気も萎えてしまったため、あまり遠くまではいかずに帰ることにした。
ユウキに謝ったが、彼は苦笑して「まあ、しゃーないな」と言った。やはり彼も萎えてしまっていたのだろう。
その次のドライブでも後続車からクラクションを鳴らされまくった。もはや俺もユウキも笑っていた。
それでもやはり怖いもので、さすがに文句を言いに止まるということは無かった。
しかし、二度あることは三度あるとはよく言ったもので、その次のドライブでもクラクションを鳴らされた。
しかも、その日は運の悪いことに後続車もしつこく、しまいには車を横付けされてしまった。
「おい、兄ちゃん。悪いことは言わねえから次のコンビニで一度止まれ。問題になるぞ」
横付けしてきた車の助手席に座っていた強面のおっさんはそう言ってきた。
面倒ごとは嫌だったが、こちらもクラクションを鳴らされた挙句、車を横付けされて止まれと言われては引き下がれない。
一言文句を言ってやろうと次のコンビニに入った。
あの後、俺たちの車を追い抜き先にコンビニに車を停めたおっさん達は何故か非常に驚いた顔をしていた。
何があったのかは知らないがとりあえず文句を言おうと車から降りると、先におっさんたちに詰め寄られた。
「おい! 上にいた姉ちゃんはどこに行ったんだ!」
訳の分からないその言葉に、俺もユウキもぽかんとしていた。強面のおっさんなど、俺たちがぽかんとしていたせいか、オロオロとし始めた。
一体何があったというのか。
落ち着いてきたのか、おっさん達は再度俺たちに話しかけてきた。
「兄ちゃんたち、車の上に姉ちゃん乗ってただろ?」
理解が追いつかなかった。おっさんがふざけているわけではないということはわかる。
ただ、それがわかったとしても、俺もユウキも何も出来なかった。
その後詳しく話を聞いたところ、彼らは車の上に女性が乗っているのが見えたため、クラクションを鳴らしたそうだ。
しかし、それを俺たちが無視したので、問題になる前にと横付けしたらしい。
それでコンビニに車を停めたはいいが、俺たちの車の上に女性の姿がなく、驚いたようだ。
もちろん、俺たちは車の上に女性など乗せていなかった。この話を聞いてやっと、この車はおかしいのかもしれないと思い始めた。
今までクラクションを鳴らしていた人たちも恐らく同じ理由で鳴らしていたのだろう。
ただ、実害といえば後続車からクラクションを鳴らされる程度で、せっかく買った車も惜しかったのでそのまま乗り続けていた。
しかし、つい二週間前に大きな実害が出てしまった。ついに件の女性とやらが俺の前に姿を現した。それも最悪なタイミングかつ最悪な登場方法だった。
事件はユウキの家に向かっていた時に起きた。いつも通りの道を走っていたが、急に車の上でバンバンと音が鳴り始めた。
それだけならまだよかったのだが、この後に恐るべき事態が起きたのだ。
ここを曲がればすぐにユウキの家につくというタイミングで、見知らぬ女性がバンっとフロントガラスに張り付いてきた。
急なことで俺はパニックになってしまい、案の定車のハンドル操作を誤った。そして、すぐ近くの電柱に衝突してしまった。
この後は記憶があいまいだったためユウキに聞いた話になる。
なんでも、この衝突で他に犠牲者が出ることはなかったものの、俺は昏睡状態であったらしい。
最初に家から出てきたおばさんが通報したそうで、すぐに救急車で運ばれたが意識は長い間戻らず、植物状態になるかもしれないと言われたそうだ。
現場には奇妙なことにハンドル操作を誤る原因など見つからず、警察は困惑していたと言っていた。
そりゃそうである。原因はフロントガラスに張り付いてきたこの世のものとは到底思えないモノだったのだから。
この一件でもちろん車は廃車。俺の夢はあっけなく散り、しばらくは運転することを禁じられた。
今も病院にいるため、あの車について中古車屋に聞くことはできていないが、あれは確実に事故車だったのだろう。
今後は絶対に中古車なんて買うもんかと心に決めた。
俺が今から書く体験談はまだまだ甘いものだった。
いいか、中古車を買う前には必ずその車の過去を調べろ。
最悪の事態になってからじゃ遅いからな。
事の始まりは半年ほど前だ。自動車の運転免許を取得してからすぐに車屋へといった。
あの時は憧れの運転ってことで相当舞い上がってた。ただ、免許を取るのにもお金はかかるもので、手元に対してお金は残っていなかった。
もちろん新車なんて買うことはできない。それでもやはり車は欲しかったから、車屋と言っても中古車を扱っているところに行ったんだ。
「あまりよさげなのはないな」
一人で行くのもどうかと思い、一緒に行くことになったのは中学時代からの親友であるユウキだった。
とにかく鈍い彼は店内で平然とそんなことを言う。
「そんなこと言うなよ。失礼だろ」
俺もこう入ったが、実際のところいいものはなかった。ほしいと思ったものはことごとく価格が高かったのだ。
手元のお金で買えるようなものはずいぶんと使い古されたものばかりであった。
そもそも、大した稼ぎのない大学生がいいものを買えるはずもなかったのだ。
「ん? なあ、これ良くねえか? かっこいいし、走行距離もそこまでじゃない。それに安い。お前でも買えそうだ」
ユウキはそう言って一台の車を指さした。年式こそ古いものの確かにかっこいいし、走行距離も一万キロに達していなかった。
そして価格がコミコミで二五万円と破格であった。今思えばこんなの疑うべきだったとは思うが、あの時は特に何も気にしなかった。
「超いいじゃん。これにするわ」
もともと深く悩む性格ではないというのもあって、すぐにその車を購入することに決めた。
手続きだとかが面倒なのかとも思っていたが、その場ですぐに終わり、即日納車ということでそのまま乗って帰ることができた。
念願の自己所有車であり、しかもなかなかいい買い物だったこともあり、非常に気分がよかった。
異変が生じたのはその車を購入してから三日後だった。購入した日を除けばそれが初めての運転となる。
店から家までという短い距離ではなく、当てもないドライブの予定であった。もちろんユウキも一緒だった。
今思えば、ではあるが最初の異変はドライブ開始から一時間ほどたってからだった。気持ちよく運転をしていたのだが、後続車両から急にクラクションを鳴らされたのである。
巷で有名なあおり運転かと思い恐かったが、完全に無視を決め込んでやり過ごした。
しばらくするとクラクションの音もやみ、結局何が目的だったのかはわからないでいた。
せっかくのドライブだったが、その出来事のせいで気も萎えてしまったため、あまり遠くまではいかずに帰ることにした。
ユウキに謝ったが、彼は苦笑して「まあ、しゃーないな」と言った。やはり彼も萎えてしまっていたのだろう。
その次のドライブでも後続車からクラクションを鳴らされまくった。もはや俺もユウキも笑っていた。
それでもやはり怖いもので、さすがに文句を言いに止まるということは無かった。
しかし、二度あることは三度あるとはよく言ったもので、その次のドライブでもクラクションを鳴らされた。
しかも、その日は運の悪いことに後続車もしつこく、しまいには車を横付けされてしまった。
「おい、兄ちゃん。悪いことは言わねえから次のコンビニで一度止まれ。問題になるぞ」
横付けしてきた車の助手席に座っていた強面のおっさんはそう言ってきた。
面倒ごとは嫌だったが、こちらもクラクションを鳴らされた挙句、車を横付けされて止まれと言われては引き下がれない。
一言文句を言ってやろうと次のコンビニに入った。
あの後、俺たちの車を追い抜き先にコンビニに車を停めたおっさん達は何故か非常に驚いた顔をしていた。
何があったのかは知らないがとりあえず文句を言おうと車から降りると、先におっさんたちに詰め寄られた。
「おい! 上にいた姉ちゃんはどこに行ったんだ!」
訳の分からないその言葉に、俺もユウキもぽかんとしていた。強面のおっさんなど、俺たちがぽかんとしていたせいか、オロオロとし始めた。
一体何があったというのか。
落ち着いてきたのか、おっさん達は再度俺たちに話しかけてきた。
「兄ちゃんたち、車の上に姉ちゃん乗ってただろ?」
理解が追いつかなかった。おっさんがふざけているわけではないということはわかる。
ただ、それがわかったとしても、俺もユウキも何も出来なかった。
その後詳しく話を聞いたところ、彼らは車の上に女性が乗っているのが見えたため、クラクションを鳴らしたそうだ。
しかし、それを俺たちが無視したので、問題になる前にと横付けしたらしい。
それでコンビニに車を停めたはいいが、俺たちの車の上に女性の姿がなく、驚いたようだ。
もちろん、俺たちは車の上に女性など乗せていなかった。この話を聞いてやっと、この車はおかしいのかもしれないと思い始めた。
今までクラクションを鳴らしていた人たちも恐らく同じ理由で鳴らしていたのだろう。
ただ、実害といえば後続車からクラクションを鳴らされる程度で、せっかく買った車も惜しかったのでそのまま乗り続けていた。
しかし、つい二週間前に大きな実害が出てしまった。ついに件の女性とやらが俺の前に姿を現した。それも最悪なタイミングかつ最悪な登場方法だった。
事件はユウキの家に向かっていた時に起きた。いつも通りの道を走っていたが、急に車の上でバンバンと音が鳴り始めた。
それだけならまだよかったのだが、この後に恐るべき事態が起きたのだ。
ここを曲がればすぐにユウキの家につくというタイミングで、見知らぬ女性がバンっとフロントガラスに張り付いてきた。
急なことで俺はパニックになってしまい、案の定車のハンドル操作を誤った。そして、すぐ近くの電柱に衝突してしまった。
この後は記憶があいまいだったためユウキに聞いた話になる。
なんでも、この衝突で他に犠牲者が出ることはなかったものの、俺は昏睡状態であったらしい。
最初に家から出てきたおばさんが通報したそうで、すぐに救急車で運ばれたが意識は長い間戻らず、植物状態になるかもしれないと言われたそうだ。
現場には奇妙なことにハンドル操作を誤る原因など見つからず、警察は困惑していたと言っていた。
そりゃそうである。原因はフロントガラスに張り付いてきたこの世のものとは到底思えないモノだったのだから。
この一件でもちろん車は廃車。俺の夢はあっけなく散り、しばらくは運転することを禁じられた。
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