4 / 160
004.ランニングニキ
しおりを挟む
これは先日、俺が骨折してしまった時の話だ。
その日はいつも通り業務を終え、バイクで自宅へと向かっていた。職場から家まではバイクを使って三十分程であった。
ただ、その日俺は買い出しをしなければならないことを思い出した。
いつもなら職場近くにある激安スーパーに寄るのだが、その店はとっくに通り過ぎてしまった。
自宅付近にはスーパーはなく、コンビニのみなので割高になってしまう。
「いつもとは違うところに行くか」
一人そう呟いて俺はいつもと違う道へと逸れた。違う道とは言っても、遠くへ行くわけでもなく、すぐにいつもの道に戻って来られる場所だった。
そうして見つけたスーパーに立ち寄った。この時まではまさかあんなことが起きるとは思ってもいなくて、のほほんと買い物をしていた。
今夜は何を作ろうだとか、作り置きはあれにしようだとか。
結局、二十分ほどで店内を回り、多くの食材やら何やらを買い込んだ。
世の主婦たちは毎日買い物に出かけるというのだから、頭が上がらない。その分買う量なんかも違ってくるのだとは思うが。
購入したものをしまったり、引っ掛けたりしてまたバイクに跨った。エンジンをかけ、ゆっくりと走り出す。
今更だが、先程から言っているバイクとは原付である。周りからは笑われるが、無難な生活を送る人間は原付で十分だと思う。
元来た道を戻っていると、奇妙だなと思った。そこまで田舎という訳では無いのにも関わらず、車が一台も通っていなかったのだ。
都会で言うところの帰宅ラッシュの時間帯であったのにも関わらずである。
俺は、奇妙だなとは思いつつも結局運が良かっただけだと思ってそのまま走っていた。
そしてこの後、俺は運が良かったのではなく、運が悪かったのだと思い知ることになる。
ここを曲がればいつもの帰り道だというところで事件が起きた。目の前にランニングをしている男性が現れたのだ。高身長でジャージ姿の男性であった。
いつも曲がるような場所ではなかったので、俺はあまり注意をしていなかったようだ。
そのランニングをしている男性を避けようとした結果、バイクは転倒した。初めての事故だった。
右足が巻き込まれてしまったが、まずはランニングをしていた男性を探した。もし巻き込んでしまっていたら大問題だ。
しかし、その心配は杞憂に終わり、男性は無傷で立っていた。
確実に大丈夫ではない俺が「大丈夫ですか」と声をかけたが、返答はなかった。その後男性はしばらく俺の事を見つめてから、走り去っていった。
なにか一言あってもよかったのではないか、と思いつつも、現状がかなり危ないということを思い出し、痛みに顔を顰めた。
どうにかしてバイクにしまってあるスマホを取り出そうと動こうとするも、なかなか体は言うことを聞いてくれない。
「おい、兄ちゃん。大丈夫か?」
後ろから声がした。地元の人だろうか、こちらまで走ってきてくれたのか汗をかいている。
「はい。大丈夫です。とりあえず救急車をお願いできますか」
そういうと、駆け寄ってきてくれた人は慌てて携帯電話を取りだし、電話をかけてくれた。そうして電話が切れると、話しかけてきた。
脚やその他諸々が痛かったので勘弁して欲しかったが、行為を無下にすることも出来ず、話をしていた。
その会話の中で、俺はその年一番と言っていいほど恐怖を覚えた。
「それにしても、ランニングしていた男性巻き込まずに済んで良かったです」
こういうと、地元の人は首を傾げた。何かあったのかと思い、声をかけようとするとこう言ったのだ。
「遠くから見ていたが、兄ちゃんしかいなかったぞ? ひとりでに転んだから何事かと思って、走ってきたんだ」
たしかにこう言ったのだ。俺の他には誰もいなかったと。
この時俺は震えた。だって、俺はランニングをしていた男性を避けようとして、転倒したのだから。
聞いている人からしたら何が怖いんだと思うかもしれないが、当事者としてはものすごく怖かった。俺にしか見えていないモノがあったという恐怖が。
どうして俺にしか見えなかったのか、というのは今のところわかっていない。別段霊感とやらがあったわけでもないし、むしろ俺は幽霊否定派だった。
けれど、今回の件で幽霊はいると、信じなければならないかもしれない。
その日はいつも通り業務を終え、バイクで自宅へと向かっていた。職場から家まではバイクを使って三十分程であった。
ただ、その日俺は買い出しをしなければならないことを思い出した。
いつもなら職場近くにある激安スーパーに寄るのだが、その店はとっくに通り過ぎてしまった。
自宅付近にはスーパーはなく、コンビニのみなので割高になってしまう。
「いつもとは違うところに行くか」
一人そう呟いて俺はいつもと違う道へと逸れた。違う道とは言っても、遠くへ行くわけでもなく、すぐにいつもの道に戻って来られる場所だった。
そうして見つけたスーパーに立ち寄った。この時まではまさかあんなことが起きるとは思ってもいなくて、のほほんと買い物をしていた。
今夜は何を作ろうだとか、作り置きはあれにしようだとか。
結局、二十分ほどで店内を回り、多くの食材やら何やらを買い込んだ。
世の主婦たちは毎日買い物に出かけるというのだから、頭が上がらない。その分買う量なんかも違ってくるのだとは思うが。
購入したものをしまったり、引っ掛けたりしてまたバイクに跨った。エンジンをかけ、ゆっくりと走り出す。
今更だが、先程から言っているバイクとは原付である。周りからは笑われるが、無難な生活を送る人間は原付で十分だと思う。
元来た道を戻っていると、奇妙だなと思った。そこまで田舎という訳では無いのにも関わらず、車が一台も通っていなかったのだ。
都会で言うところの帰宅ラッシュの時間帯であったのにも関わらずである。
俺は、奇妙だなとは思いつつも結局運が良かっただけだと思ってそのまま走っていた。
そしてこの後、俺は運が良かったのではなく、運が悪かったのだと思い知ることになる。
ここを曲がればいつもの帰り道だというところで事件が起きた。目の前にランニングをしている男性が現れたのだ。高身長でジャージ姿の男性であった。
いつも曲がるような場所ではなかったので、俺はあまり注意をしていなかったようだ。
そのランニングをしている男性を避けようとした結果、バイクは転倒した。初めての事故だった。
右足が巻き込まれてしまったが、まずはランニングをしていた男性を探した。もし巻き込んでしまっていたら大問題だ。
しかし、その心配は杞憂に終わり、男性は無傷で立っていた。
確実に大丈夫ではない俺が「大丈夫ですか」と声をかけたが、返答はなかった。その後男性はしばらく俺の事を見つめてから、走り去っていった。
なにか一言あってもよかったのではないか、と思いつつも、現状がかなり危ないということを思い出し、痛みに顔を顰めた。
どうにかしてバイクにしまってあるスマホを取り出そうと動こうとするも、なかなか体は言うことを聞いてくれない。
「おい、兄ちゃん。大丈夫か?」
後ろから声がした。地元の人だろうか、こちらまで走ってきてくれたのか汗をかいている。
「はい。大丈夫です。とりあえず救急車をお願いできますか」
そういうと、駆け寄ってきてくれた人は慌てて携帯電話を取りだし、電話をかけてくれた。そうして電話が切れると、話しかけてきた。
脚やその他諸々が痛かったので勘弁して欲しかったが、行為を無下にすることも出来ず、話をしていた。
その会話の中で、俺はその年一番と言っていいほど恐怖を覚えた。
「それにしても、ランニングしていた男性巻き込まずに済んで良かったです」
こういうと、地元の人は首を傾げた。何かあったのかと思い、声をかけようとするとこう言ったのだ。
「遠くから見ていたが、兄ちゃんしかいなかったぞ? ひとりでに転んだから何事かと思って、走ってきたんだ」
たしかにこう言ったのだ。俺の他には誰もいなかったと。
この時俺は震えた。だって、俺はランニングをしていた男性を避けようとして、転倒したのだから。
聞いている人からしたら何が怖いんだと思うかもしれないが、当事者としてはものすごく怖かった。俺にしか見えていないモノがあったという恐怖が。
どうして俺にしか見えなかったのか、というのは今のところわかっていない。別段霊感とやらがあったわけでもないし、むしろ俺は幽霊否定派だった。
けれど、今回の件で幽霊はいると、信じなければならないかもしれない。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる