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025.殺人現場のラブホテル
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大学生の理沙は、友人の沙織から「心霊スポット巡り」に誘われ、あるラブホテルに向かっていた。
夜も深まった頃、彼女たちは薄暗く佇むそのホテルの前に立っていた。
周囲の建物とは異なり、まるで時間が止まったかのように荒れ果てていて、誰も寄りつかない雰囲気を漂わせている。
「ここって、本当に出るの?」
理沙が恐る恐る尋ねると、沙織は少し得意げにうなずいた。
「ネットの噂によるとね、昔この部屋で女の人が男に殺されたんだって。それ以来、その女の幽霊が現れるって話よ」
理沙は冗談めかした表情を浮かべつつも、その場を離れたくてたまらなかった。
けれど、沙織に強引に引っ張られ、廃墟と化したラブホテルの中へと足を踏み入れた。
廊下には薄暗い明かりがかろうじて残り、カビと古びた香水のにおいが立ち込めている。
壁には落書きが無数に刻まれ、家具は散乱し、まるでこの場所が破滅を迎える前の最後の瞬間を切り取ったようだ。
「確か、殺人があったのは……302号室だっけ?」
沙織の言葉に従い、二人は階段を上がっていく。
途中、廊下のあちこちにひび割れた鏡や割れた窓があり、懐中電灯の光が反射して不気味な影を作り出していた。
「ここだよ、302号室……」
扉はかすかに開いたままだった。ドアノブに触れると、冷たい金属が手にまとわりつくような感触がする。
理沙は無意識に息をのみ、沙織の後に続いて部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋の中は、薄暗さと不気味な静けさに満ちていた。
中央には大きなベッドがあり、シーツはずたずたに引き裂かれ、何かのシミがところどころに残っている。
そのシミはまるで、かつての血が乾いた跡のようにも見えた。
「ほんとにここで殺人があったのかもね……」
沙織が低い声でつぶやく。その瞬間、理沙の背筋に冷たいものが走った。
まるで誰かが二人の会話を聞いているような気配が漂っている。
「ねえ、沙織、帰ろうよ。なんか嫌な感じがする……」
理沙が帰りたそうに言うと、沙織は笑いながら言った。
「何言ってるの、せっかく来たんだからもう少し見ていこうよ!」
沙織はそのままベッドの横にある鏡台に近づき、手鏡を手に取った。
だがその鏡に映った彼女の顔は、どこか異様だった。
表情が歪み、まるで見知らぬ誰かのような暗い眼差しが返ってきたのだ。
「なんか、この鏡、変だね……」
そう言って沙織が理沙に手鏡を向けると、理沙の目にも異様な映り込みが目に入った。
その鏡には、彼女たち以外の「誰か」が、ベッドの傍に立っている。
ぼんやりとした女性の姿が、冷たい目で二人を見つめているのだ。
「……あれ、誰かいるの……?」
理沙が震える声で沙織に問いかけたが、沙織の顔はどこかぼんやりして、彼女の言葉に応えなかった。
沙織の視線は鏡に釘付けで、まるで何かに引き寄せられているように、その手が自然とベッドの上へと伸びていく。
「沙織、やめて……」
だが、理沙の呼びかけも虚しく、沙織は一歩ずつベッドに近づいていった。
理沙が必死に沙織の肩をつかむと、ようやく沙織は我に返ったかのようにその場に立ち尽くした。
「ごめん……何かに引き寄せられてたみたい……」
その言葉に安堵する間もなく、背後のドアが急に閉じる音がした。
振り返ると、いつの間にか部屋の扉が閉ざされ、外に出られなくなっていた。
「嘘でしょ……!?」
理沙がドアを叩きながら必死に開けようとするが、びくともしない。
二人は取り残され、部屋全体が次第に冷たさを増していく。
まるでそこに「彼女」がいるかのように、空気が重く、圧し掛かってくるようだった。
「この部屋には……女の幽霊がいるって話、本当なのかも……」
沙織が震える声でそう呟いた瞬間、部屋の中に微かなすすり泣きが響き始めた。
音は徐々に大きくなり、誰かの無念が今にも爆発しそうな怒りに変わっていくのを感じる。
「出して……出して……」
冷たい声が二人の耳元で囁き、理沙は悲鳴をあげた。振り返ると、そこには血まみれの女性が立っている。
彼女は苦しげな表情で、二人をじっと見つめている。
「あなたたちも……ここで……」
その瞬間、理沙と沙織の身体がまるで操られるように動き始めた。
ベッドに引き寄せられる二人。体が冷たくなり、指先から温かさが奪われていく。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
理沙が泣き叫んでも、女性の姿は消えるどころかますます鮮明になっていく。
まるで彼女の無念が二人に乗り移っていくかのように、彼女たちはベッドの上に引きずり込まれた。
冷たい布団に包まれると、無数の影が二人を覆い尽くしていく。
――――――――――
数日後、地元の警察はこのラブホテルで二人の若い女性の遺体を発見した。
彼女たちはベッドに横たわり、静かな表情で眠っているかのように見えた。
しかしその瞳には、何か強烈な恐怖が焼き付けられていた。
そして、その302号室の鏡には、彼女たちの背後に血まみれの女の影が映っていた
夜も深まった頃、彼女たちは薄暗く佇むそのホテルの前に立っていた。
周囲の建物とは異なり、まるで時間が止まったかのように荒れ果てていて、誰も寄りつかない雰囲気を漂わせている。
「ここって、本当に出るの?」
理沙が恐る恐る尋ねると、沙織は少し得意げにうなずいた。
「ネットの噂によるとね、昔この部屋で女の人が男に殺されたんだって。それ以来、その女の幽霊が現れるって話よ」
理沙は冗談めかした表情を浮かべつつも、その場を離れたくてたまらなかった。
けれど、沙織に強引に引っ張られ、廃墟と化したラブホテルの中へと足を踏み入れた。
廊下には薄暗い明かりがかろうじて残り、カビと古びた香水のにおいが立ち込めている。
壁には落書きが無数に刻まれ、家具は散乱し、まるでこの場所が破滅を迎える前の最後の瞬間を切り取ったようだ。
「確か、殺人があったのは……302号室だっけ?」
沙織の言葉に従い、二人は階段を上がっていく。
途中、廊下のあちこちにひび割れた鏡や割れた窓があり、懐中電灯の光が反射して不気味な影を作り出していた。
「ここだよ、302号室……」
扉はかすかに開いたままだった。ドアノブに触れると、冷たい金属が手にまとわりつくような感触がする。
理沙は無意識に息をのみ、沙織の後に続いて部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋の中は、薄暗さと不気味な静けさに満ちていた。
中央には大きなベッドがあり、シーツはずたずたに引き裂かれ、何かのシミがところどころに残っている。
そのシミはまるで、かつての血が乾いた跡のようにも見えた。
「ほんとにここで殺人があったのかもね……」
沙織が低い声でつぶやく。その瞬間、理沙の背筋に冷たいものが走った。
まるで誰かが二人の会話を聞いているような気配が漂っている。
「ねえ、沙織、帰ろうよ。なんか嫌な感じがする……」
理沙が帰りたそうに言うと、沙織は笑いながら言った。
「何言ってるの、せっかく来たんだからもう少し見ていこうよ!」
沙織はそのままベッドの横にある鏡台に近づき、手鏡を手に取った。
だがその鏡に映った彼女の顔は、どこか異様だった。
表情が歪み、まるで見知らぬ誰かのような暗い眼差しが返ってきたのだ。
「なんか、この鏡、変だね……」
そう言って沙織が理沙に手鏡を向けると、理沙の目にも異様な映り込みが目に入った。
その鏡には、彼女たち以外の「誰か」が、ベッドの傍に立っている。
ぼんやりとした女性の姿が、冷たい目で二人を見つめているのだ。
「……あれ、誰かいるの……?」
理沙が震える声で沙織に問いかけたが、沙織の顔はどこかぼんやりして、彼女の言葉に応えなかった。
沙織の視線は鏡に釘付けで、まるで何かに引き寄せられているように、その手が自然とベッドの上へと伸びていく。
「沙織、やめて……」
だが、理沙の呼びかけも虚しく、沙織は一歩ずつベッドに近づいていった。
理沙が必死に沙織の肩をつかむと、ようやく沙織は我に返ったかのようにその場に立ち尽くした。
「ごめん……何かに引き寄せられてたみたい……」
その言葉に安堵する間もなく、背後のドアが急に閉じる音がした。
振り返ると、いつの間にか部屋の扉が閉ざされ、外に出られなくなっていた。
「嘘でしょ……!?」
理沙がドアを叩きながら必死に開けようとするが、びくともしない。
二人は取り残され、部屋全体が次第に冷たさを増していく。
まるでそこに「彼女」がいるかのように、空気が重く、圧し掛かってくるようだった。
「この部屋には……女の幽霊がいるって話、本当なのかも……」
沙織が震える声でそう呟いた瞬間、部屋の中に微かなすすり泣きが響き始めた。
音は徐々に大きくなり、誰かの無念が今にも爆発しそうな怒りに変わっていくのを感じる。
「出して……出して……」
冷たい声が二人の耳元で囁き、理沙は悲鳴をあげた。振り返ると、そこには血まみれの女性が立っている。
彼女は苦しげな表情で、二人をじっと見つめている。
「あなたたちも……ここで……」
その瞬間、理沙と沙織の身体がまるで操られるように動き始めた。
ベッドに引き寄せられる二人。体が冷たくなり、指先から温かさが奪われていく。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
理沙が泣き叫んでも、女性の姿は消えるどころかますます鮮明になっていく。
まるで彼女の無念が二人に乗り移っていくかのように、彼女たちはベッドの上に引きずり込まれた。
冷たい布団に包まれると、無数の影が二人を覆い尽くしていく。
――――――――――
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