私が預言者?いいえ、ただのインチキ占い師です!

香樹 詩

文字の大きさ
2 / 6

第2話 毒入り紅茶とインチキ占い師の推理

しおりを挟む
私、山中真希は路地裏に捨てられていた子ども。
籠に入れられて、カレンさんのお店の裏口に置かれてたんだって。
昔、カレンさんが教えてくれた。
見つけたカレンさんが警察や病院に連絡してくれたんだけど、結局、身内は誰も見つからなかったんだって。

まぁ、そうだろうね。捨てたんだもん。

そんな赤ちゃんな私を育ててくれたのが、カレンさん。
小さな私を、愛情いっぱいに育ててくれたカレンさん。

小学生の頃はカレンさんを見た友達から、
「真希ちゃんのお父さん? それともお母さん?」って困った顔で聞かれたなぁ。
そんな時、私はいつも「カレンさんだよ!」って答えてた。

生物学的には男性なヨシオさん。
でも、普段は真っ赤なリップがトレードマークのカレンさん。
私にとって、カレンさんは――カレンさんなんだよね。



「あら、真希ちゃん、目が覚めたのね。ほら、こっちにいらっしゃい。髪、整えてあげるわよ」

目が覚めて、しばらくぼーっとカレンさんを見ていたら、目が合った。
久しぶりに見たかも、化粧してないカレンさん。スカートじゃないカレンさんって、いつぶりだろ?

「ありがとう。化粧してないカレンさん、久しぶりに見たよ。今はヨシオさんって呼ぶべき?」

「もう、ヨシオは封印中よ。真希ちゃんを育て始めてからはカレンさんで通してるんだから」

「ヨシオさんでも、カレンさんでも美人さんだよ」
「あら、正直ね。ほら、ここに座って」

ソファーに腰掛けると、優しく髪を梳いてくれるカレンさんに、振り返って笑顔を向けた。

「なぁに、ご機嫌ね」
「だって、嬉しいんだもん。昔はよく髪の毛セットしてもらってたけど、高校卒業して以来?」
「そっか」
「そうだよ、もう五年も前」

「真希ちゃんも大きくなって、立派に占い師やってるもんね」
「カレンさんは知ってるでしょ? 私、占いできないって。インチキ占い師だって」

中学生の頃に占いにハマって、いろんな本を読んだけど、結局はよくわからなかったんだよね。
高校卒業して、街の建設会社の事務員してたけど、そこがなかなかブラックで。
入社半年で胃潰瘍になって退職。

とりあえず見よう見まねで始めた占いの仕事。
手相もタロットも頑張ったけど、あまりパッとしなかった。

元々、人間観察が得意な私は、占いに来た人を観察して、そこから分かることを話してみたら、意外とそれっぽくなったってわけ。

「またそんなこと言ってる。うちの店の常連の滝川さん、真希ちゃんの占いでピンチを切り抜けたって喜んでたよ」



トントントン。

扉をノックする音が聞こえた。
後ろに視線を送ると、軽く頷いたカレンさんが扉に向かって話しかける。

「どなたかしら?」

「朝の紅茶をお持ちしました……入ってもよろしいでしょうか」

声を聞いた瞬間、何かが引っかかった。
でも、何? って言われてもわからない。

一点を見つめる私を不思議に思ったカレンさんが尋ねる。

「真希ちゃん? どうする?」
「あっ、いいよ。喉乾いたし」

ハッとして答えると、カレンさんが「どうぞ、入って」と声をかけた。

扉がゆっくりと開く。
神官服とは少し違う簡素な服の女性が、ワゴンを押しながら入ってきた。

引き結んだ唇。視線はずっとワゴンに縫い付けられている。

そんなにそのワゴン重いの?
そこまで集中しないと溢れそうな量のお湯でも入ってるの?
……それとも、カレンさんが怖い?

なんだろう。何かが引っかかる――。



女性がカップを手に取ると、すごく慎重にテーブルに置いた。
ティーポットから紅茶を注ぐ手が、微かに揺れている。

注ぎ終えて下がった女性の視線の先は、カップの飲み口。

……まさかね。
でも……。

「カレンさん、ちょっと待って」

カップに手を伸ばしたカレンさんを制止する。

「真希ちゃん、どうかしたの?」
「ほら、私たちって異世界から来たでしょ? 世界が変われば、飲み方やマナーが違うかもしれないじゃない?」

突然の私の言葉に、何かを察したカレンさんが話に乗ってくれた。

「そうね。マナーは女性の嗜みだわ。今後、間違っていたら相手にも悪いし、私たちも恥をかくわね」

「ねぇ、あなたにお願いできる? カレンさんに代わって、その紅茶を飲んでみて。あなたの動きを見て、覚えるから」

女性の顔が引き攣った。

あ・た・り‼︎

「ほら、早く。遠慮しないで。カレンさん、彼女を座らせてあげて」

カレンさんが女性に一歩近づく。

「いやー! 来ないで! そんなの飲んだら死ぬじゃない!」

叫びながら女性は崩れ落ちた。

「やっぱりね」
「真希ちゃん、よくわかったね」



女性の叫び声に、数名の神官が駆けつけた。

「何事ですか? 今、叫び声が」
慌てて扉から入ってきた神官が、床に崩れ落ちた女性に問いかける。

「あなたは、どなたですか?」

「ここの人じゃないんだね。てっきり、神殿関係者かと思ったよ」

私の言葉に、状況が掴めない神官たちが困惑の表情で聞いてくる。

「いったい何があったのですか?」

「あぁ、その紅茶のカップに毒が塗られてるんだよ」

訝しげな顔を向ける神官が、私を見て「まさか」と漏らした。

「疑うなら、飲み口を布でしっかり拭って、その布をこの水差しに入れて。よくかき混ぜたら、そこの花瓶の花を入れてみて。多分、萎れるよ」

1人の神官が私の言葉通りの手順を踏む。
すると、みるみるうちに花がしおれ始めた。



「なぜ、毒だとわかったのですか? やはり、あなた様は預言者様なのですか?」
最初に怪訝そうな顔をしていた神官が尋ねた。

「そんなの、見てればわかるよ。彼女の動きが変だったから。声は微かに震えてるし、動作の一つ一つが必要以上に慎重だし。
それに、カップの飲み口の位置ばかり気にしてたからね。しかも、カレンさんのカップだけ」

「真希ちゃん、よく見てたね。さすがだね。ところで、この女性は誰の差金かしら?」

カレンさんの言葉に、神官たちが女性に詰め寄る。

「誰の指示だ、言いなさい」

顔を伏せた女性は、一言も発しない。

「多分、あの第一王子のアルマ? って人だよ」

全員の視線が一斉にこちらへ向いた。

「そんな簡単に王族の方だと決めてはいけません。不敬罪で処罰されますよ!」
慌てた神官が声を荒げる。
ただ、女性だけは信じられないといった表情で、こちらを睨んでいた。



「あら、真希ちゃん、どうしてそう思ったの?」
カレンさんが、私に話を振ってくれた。

「カレンさん、覚えてない? 昨日のアルマって人のアクセサリー。金でできた蔦のようなデザインのネックレス。ところどころに、赤とか青とか緑の宝石がついてたやつ」

思い出したようにカレンさんが、
「あぁ、そういえば、そんな悪趣味なネックレスつけてたわね」と返す。

すかさず、私は女性の首元を指さした。

「ほら、同じもの、彼女の首にもあるでしょ? 王族が既製品を使うと思う? それも、プライドの高そうなあの王子様が。どう考えても一点ものでしょ?」

女性が慌ててネックレスを握る。

「昨日、カレンさんに負けたから、きっと腹いせだよね。
あるいは、魔法が使えるカレンさんを危険視したか、どっちか。
彼女は、王子様の恋人って立ち位置かな? 多分、複数いるうちの1人だね」

「なんで、あんたにそんなことがわかるのよ!」
怒りを露わにした女性が叫ぶ。

「王子様に言われなかった? “こんなこと頼めるのは君だけだよ”って。
それって、“こんなバカなことを引き受けてくれるのは君だけだよ”って意味だと思うよ。
それにそのネックレスも、“僕はその場に行けないから、これを僕だと思ってもらって欲しい”的な言葉で渡されたんじゃない?」

女性が目を見開いたかと思うと、大声で泣き出した。

「やっぱりね」
大体、この手の女性に言い寄るクズはこんなセリフ吐いてるんだよね。
うちのお客さんにも、何人かいたし……。

カレンさんを見ると、優しい視線が返ってきた。
なんだか、“よくできました”って言われたみたい。



その日のうちに、神殿内には噂が立った。
今回の召喚は、実は成功していた――。
異世界から預言者様と賢者様がいらしたのだと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...