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第2話 毒入り紅茶とインチキ占い師の推理
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私、山中真希は路地裏に捨てられていた子ども。
籠に入れられて、カレンさんのお店の裏口に置かれてたんだって。
昔、カレンさんが教えてくれた。
見つけたカレンさんが警察や病院に連絡してくれたんだけど、結局、身内は誰も見つからなかったんだって。
まぁ、そうだろうね。捨てたんだもん。
そんな赤ちゃんな私を育ててくれたのが、カレンさん。
小さな私を、愛情いっぱいに育ててくれたカレンさん。
小学生の頃はカレンさんを見た友達から、
「真希ちゃんのお父さん? それともお母さん?」って困った顔で聞かれたなぁ。
そんな時、私はいつも「カレンさんだよ!」って答えてた。
生物学的には男性なヨシオさん。
でも、普段は真っ赤なリップがトレードマークのカレンさん。
私にとって、カレンさんは――カレンさんなんだよね。
⸻
「あら、真希ちゃん、目が覚めたのね。ほら、こっちにいらっしゃい。髪、整えてあげるわよ」
目が覚めて、しばらくぼーっとカレンさんを見ていたら、目が合った。
久しぶりに見たかも、化粧してないカレンさん。スカートじゃないカレンさんって、いつぶりだろ?
「ありがとう。化粧してないカレンさん、久しぶりに見たよ。今はヨシオさんって呼ぶべき?」
「もう、ヨシオは封印中よ。真希ちゃんを育て始めてからはカレンさんで通してるんだから」
「ヨシオさんでも、カレンさんでも美人さんだよ」
「あら、正直ね。ほら、ここに座って」
ソファーに腰掛けると、優しく髪を梳いてくれるカレンさんに、振り返って笑顔を向けた。
「なぁに、ご機嫌ね」
「だって、嬉しいんだもん。昔はよく髪の毛セットしてもらってたけど、高校卒業して以来?」
「そっか」
「そうだよ、もう五年も前」
「真希ちゃんも大きくなって、立派に占い師やってるもんね」
「カレンさんは知ってるでしょ? 私、占いできないって。インチキ占い師だって」
中学生の頃に占いにハマって、いろんな本を読んだけど、結局はよくわからなかったんだよね。
高校卒業して、街の建設会社の事務員してたけど、そこがなかなかブラックで。
入社半年で胃潰瘍になって退職。
とりあえず見よう見まねで始めた占いの仕事。
手相もタロットも頑張ったけど、あまりパッとしなかった。
元々、人間観察が得意な私は、占いに来た人を観察して、そこから分かることを話してみたら、意外とそれっぽくなったってわけ。
「またそんなこと言ってる。うちの店の常連の滝川さん、真希ちゃんの占いでピンチを切り抜けたって喜んでたよ」
⸻
トントントン。
扉をノックする音が聞こえた。
後ろに視線を送ると、軽く頷いたカレンさんが扉に向かって話しかける。
「どなたかしら?」
「朝の紅茶をお持ちしました……入ってもよろしいでしょうか」
声を聞いた瞬間、何かが引っかかった。
でも、何? って言われてもわからない。
一点を見つめる私を不思議に思ったカレンさんが尋ねる。
「真希ちゃん? どうする?」
「あっ、いいよ。喉乾いたし」
ハッとして答えると、カレンさんが「どうぞ、入って」と声をかけた。
扉がゆっくりと開く。
神官服とは少し違う簡素な服の女性が、ワゴンを押しながら入ってきた。
引き結んだ唇。視線はずっとワゴンに縫い付けられている。
そんなにそのワゴン重いの?
そこまで集中しないと溢れそうな量のお湯でも入ってるの?
……それとも、カレンさんが怖い?
なんだろう。何かが引っかかる――。
⸻
女性がカップを手に取ると、すごく慎重にテーブルに置いた。
ティーポットから紅茶を注ぐ手が、微かに揺れている。
注ぎ終えて下がった女性の視線の先は、カップの飲み口。
……まさかね。
でも……。
「カレンさん、ちょっと待って」
カップに手を伸ばしたカレンさんを制止する。
「真希ちゃん、どうかしたの?」
「ほら、私たちって異世界から来たでしょ? 世界が変われば、飲み方やマナーが違うかもしれないじゃない?」
突然の私の言葉に、何かを察したカレンさんが話に乗ってくれた。
「そうね。マナーは女性の嗜みだわ。今後、間違っていたら相手にも悪いし、私たちも恥をかくわね」
「ねぇ、あなたにお願いできる? カレンさんに代わって、その紅茶を飲んでみて。あなたの動きを見て、覚えるから」
女性の顔が引き攣った。
あ・た・り‼︎
「ほら、早く。遠慮しないで。カレンさん、彼女を座らせてあげて」
カレンさんが女性に一歩近づく。
「いやー! 来ないで! そんなの飲んだら死ぬじゃない!」
叫びながら女性は崩れ落ちた。
「やっぱりね」
「真希ちゃん、よくわかったね」
⸻
女性の叫び声に、数名の神官が駆けつけた。
「何事ですか? 今、叫び声が」
慌てて扉から入ってきた神官が、床に崩れ落ちた女性に問いかける。
「あなたは、どなたですか?」
「ここの人じゃないんだね。てっきり、神殿関係者かと思ったよ」
私の言葉に、状況が掴めない神官たちが困惑の表情で聞いてくる。
「いったい何があったのですか?」
「あぁ、その紅茶のカップに毒が塗られてるんだよ」
訝しげな顔を向ける神官が、私を見て「まさか」と漏らした。
「疑うなら、飲み口を布でしっかり拭って、その布をこの水差しに入れて。よくかき混ぜたら、そこの花瓶の花を入れてみて。多分、萎れるよ」
1人の神官が私の言葉通りの手順を踏む。
すると、みるみるうちに花がしおれ始めた。
⸻
「なぜ、毒だとわかったのですか? やはり、あなた様は預言者様なのですか?」
最初に怪訝そうな顔をしていた神官が尋ねた。
「そんなの、見てればわかるよ。彼女の動きが変だったから。声は微かに震えてるし、動作の一つ一つが必要以上に慎重だし。
それに、カップの飲み口の位置ばかり気にしてたからね。しかも、カレンさんのカップだけ」
「真希ちゃん、よく見てたね。さすがだね。ところで、この女性は誰の差金かしら?」
カレンさんの言葉に、神官たちが女性に詰め寄る。
「誰の指示だ、言いなさい」
顔を伏せた女性は、一言も発しない。
「多分、あの第一王子のアルマ? って人だよ」
全員の視線が一斉にこちらへ向いた。
「そんな簡単に王族の方だと決めてはいけません。不敬罪で処罰されますよ!」
慌てた神官が声を荒げる。
ただ、女性だけは信じられないといった表情で、こちらを睨んでいた。
⸻
「あら、真希ちゃん、どうしてそう思ったの?」
カレンさんが、私に話を振ってくれた。
「カレンさん、覚えてない? 昨日のアルマって人のアクセサリー。金でできた蔦のようなデザインのネックレス。ところどころに、赤とか青とか緑の宝石がついてたやつ」
思い出したようにカレンさんが、
「あぁ、そういえば、そんな悪趣味なネックレスつけてたわね」と返す。
すかさず、私は女性の首元を指さした。
「ほら、同じもの、彼女の首にもあるでしょ? 王族が既製品を使うと思う? それも、プライドの高そうなあの王子様が。どう考えても一点ものでしょ?」
女性が慌ててネックレスを握る。
「昨日、カレンさんに負けたから、きっと腹いせだよね。
あるいは、魔法が使えるカレンさんを危険視したか、どっちか。
彼女は、王子様の恋人って立ち位置かな? 多分、複数いるうちの1人だね」
「なんで、あんたにそんなことがわかるのよ!」
怒りを露わにした女性が叫ぶ。
「王子様に言われなかった? “こんなこと頼めるのは君だけだよ”って。
それって、“こんなバカなことを引き受けてくれるのは君だけだよ”って意味だと思うよ。
それにそのネックレスも、“僕はその場に行けないから、これを僕だと思ってもらって欲しい”的な言葉で渡されたんじゃない?」
女性が目を見開いたかと思うと、大声で泣き出した。
「やっぱりね」
大体、この手の女性に言い寄るクズはこんなセリフ吐いてるんだよね。
うちのお客さんにも、何人かいたし……。
カレンさんを見ると、優しい視線が返ってきた。
なんだか、“よくできました”って言われたみたい。
⸻
その日のうちに、神殿内には噂が立った。
今回の召喚は、実は成功していた――。
異世界から預言者様と賢者様がいらしたのだと。
籠に入れられて、カレンさんのお店の裏口に置かれてたんだって。
昔、カレンさんが教えてくれた。
見つけたカレンさんが警察や病院に連絡してくれたんだけど、結局、身内は誰も見つからなかったんだって。
まぁ、そうだろうね。捨てたんだもん。
そんな赤ちゃんな私を育ててくれたのが、カレンさん。
小さな私を、愛情いっぱいに育ててくれたカレンさん。
小学生の頃はカレンさんを見た友達から、
「真希ちゃんのお父さん? それともお母さん?」って困った顔で聞かれたなぁ。
そんな時、私はいつも「カレンさんだよ!」って答えてた。
生物学的には男性なヨシオさん。
でも、普段は真っ赤なリップがトレードマークのカレンさん。
私にとって、カレンさんは――カレンさんなんだよね。
⸻
「あら、真希ちゃん、目が覚めたのね。ほら、こっちにいらっしゃい。髪、整えてあげるわよ」
目が覚めて、しばらくぼーっとカレンさんを見ていたら、目が合った。
久しぶりに見たかも、化粧してないカレンさん。スカートじゃないカレンさんって、いつぶりだろ?
「ありがとう。化粧してないカレンさん、久しぶりに見たよ。今はヨシオさんって呼ぶべき?」
「もう、ヨシオは封印中よ。真希ちゃんを育て始めてからはカレンさんで通してるんだから」
「ヨシオさんでも、カレンさんでも美人さんだよ」
「あら、正直ね。ほら、ここに座って」
ソファーに腰掛けると、優しく髪を梳いてくれるカレンさんに、振り返って笑顔を向けた。
「なぁに、ご機嫌ね」
「だって、嬉しいんだもん。昔はよく髪の毛セットしてもらってたけど、高校卒業して以来?」
「そっか」
「そうだよ、もう五年も前」
「真希ちゃんも大きくなって、立派に占い師やってるもんね」
「カレンさんは知ってるでしょ? 私、占いできないって。インチキ占い師だって」
中学生の頃に占いにハマって、いろんな本を読んだけど、結局はよくわからなかったんだよね。
高校卒業して、街の建設会社の事務員してたけど、そこがなかなかブラックで。
入社半年で胃潰瘍になって退職。
とりあえず見よう見まねで始めた占いの仕事。
手相もタロットも頑張ったけど、あまりパッとしなかった。
元々、人間観察が得意な私は、占いに来た人を観察して、そこから分かることを話してみたら、意外とそれっぽくなったってわけ。
「またそんなこと言ってる。うちの店の常連の滝川さん、真希ちゃんの占いでピンチを切り抜けたって喜んでたよ」
⸻
トントントン。
扉をノックする音が聞こえた。
後ろに視線を送ると、軽く頷いたカレンさんが扉に向かって話しかける。
「どなたかしら?」
「朝の紅茶をお持ちしました……入ってもよろしいでしょうか」
声を聞いた瞬間、何かが引っかかった。
でも、何? って言われてもわからない。
一点を見つめる私を不思議に思ったカレンさんが尋ねる。
「真希ちゃん? どうする?」
「あっ、いいよ。喉乾いたし」
ハッとして答えると、カレンさんが「どうぞ、入って」と声をかけた。
扉がゆっくりと開く。
神官服とは少し違う簡素な服の女性が、ワゴンを押しながら入ってきた。
引き結んだ唇。視線はずっとワゴンに縫い付けられている。
そんなにそのワゴン重いの?
そこまで集中しないと溢れそうな量のお湯でも入ってるの?
……それとも、カレンさんが怖い?
なんだろう。何かが引っかかる――。
⸻
女性がカップを手に取ると、すごく慎重にテーブルに置いた。
ティーポットから紅茶を注ぐ手が、微かに揺れている。
注ぎ終えて下がった女性の視線の先は、カップの飲み口。
……まさかね。
でも……。
「カレンさん、ちょっと待って」
カップに手を伸ばしたカレンさんを制止する。
「真希ちゃん、どうかしたの?」
「ほら、私たちって異世界から来たでしょ? 世界が変われば、飲み方やマナーが違うかもしれないじゃない?」
突然の私の言葉に、何かを察したカレンさんが話に乗ってくれた。
「そうね。マナーは女性の嗜みだわ。今後、間違っていたら相手にも悪いし、私たちも恥をかくわね」
「ねぇ、あなたにお願いできる? カレンさんに代わって、その紅茶を飲んでみて。あなたの動きを見て、覚えるから」
女性の顔が引き攣った。
あ・た・り‼︎
「ほら、早く。遠慮しないで。カレンさん、彼女を座らせてあげて」
カレンさんが女性に一歩近づく。
「いやー! 来ないで! そんなの飲んだら死ぬじゃない!」
叫びながら女性は崩れ落ちた。
「やっぱりね」
「真希ちゃん、よくわかったね」
⸻
女性の叫び声に、数名の神官が駆けつけた。
「何事ですか? 今、叫び声が」
慌てて扉から入ってきた神官が、床に崩れ落ちた女性に問いかける。
「あなたは、どなたですか?」
「ここの人じゃないんだね。てっきり、神殿関係者かと思ったよ」
私の言葉に、状況が掴めない神官たちが困惑の表情で聞いてくる。
「いったい何があったのですか?」
「あぁ、その紅茶のカップに毒が塗られてるんだよ」
訝しげな顔を向ける神官が、私を見て「まさか」と漏らした。
「疑うなら、飲み口を布でしっかり拭って、その布をこの水差しに入れて。よくかき混ぜたら、そこの花瓶の花を入れてみて。多分、萎れるよ」
1人の神官が私の言葉通りの手順を踏む。
すると、みるみるうちに花がしおれ始めた。
⸻
「なぜ、毒だとわかったのですか? やはり、あなた様は預言者様なのですか?」
最初に怪訝そうな顔をしていた神官が尋ねた。
「そんなの、見てればわかるよ。彼女の動きが変だったから。声は微かに震えてるし、動作の一つ一つが必要以上に慎重だし。
それに、カップの飲み口の位置ばかり気にしてたからね。しかも、カレンさんのカップだけ」
「真希ちゃん、よく見てたね。さすがだね。ところで、この女性は誰の差金かしら?」
カレンさんの言葉に、神官たちが女性に詰め寄る。
「誰の指示だ、言いなさい」
顔を伏せた女性は、一言も発しない。
「多分、あの第一王子のアルマ? って人だよ」
全員の視線が一斉にこちらへ向いた。
「そんな簡単に王族の方だと決めてはいけません。不敬罪で処罰されますよ!」
慌てた神官が声を荒げる。
ただ、女性だけは信じられないといった表情で、こちらを睨んでいた。
⸻
「あら、真希ちゃん、どうしてそう思ったの?」
カレンさんが、私に話を振ってくれた。
「カレンさん、覚えてない? 昨日のアルマって人のアクセサリー。金でできた蔦のようなデザインのネックレス。ところどころに、赤とか青とか緑の宝石がついてたやつ」
思い出したようにカレンさんが、
「あぁ、そういえば、そんな悪趣味なネックレスつけてたわね」と返す。
すかさず、私は女性の首元を指さした。
「ほら、同じもの、彼女の首にもあるでしょ? 王族が既製品を使うと思う? それも、プライドの高そうなあの王子様が。どう考えても一点ものでしょ?」
女性が慌ててネックレスを握る。
「昨日、カレンさんに負けたから、きっと腹いせだよね。
あるいは、魔法が使えるカレンさんを危険視したか、どっちか。
彼女は、王子様の恋人って立ち位置かな? 多分、複数いるうちの1人だね」
「なんで、あんたにそんなことがわかるのよ!」
怒りを露わにした女性が叫ぶ。
「王子様に言われなかった? “こんなこと頼めるのは君だけだよ”って。
それって、“こんなバカなことを引き受けてくれるのは君だけだよ”って意味だと思うよ。
それにそのネックレスも、“僕はその場に行けないから、これを僕だと思ってもらって欲しい”的な言葉で渡されたんじゃない?」
女性が目を見開いたかと思うと、大声で泣き出した。
「やっぱりね」
大体、この手の女性に言い寄るクズはこんなセリフ吐いてるんだよね。
うちのお客さんにも、何人かいたし……。
カレンさんを見ると、優しい視線が返ってきた。
なんだか、“よくできました”って言われたみたい。
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その日のうちに、神殿内には噂が立った。
今回の召喚は、実は成功していた――。
異世界から預言者様と賢者様がいらしたのだと。
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