私が預言者?いいえ、ただのインチキ占い師です!

香樹 詩

文字の大きさ
3 / 6

第3話 日陰の部屋と継承の紋

しおりを挟む
「カレンさん、ちょっと探検してくるね」

もうここに連れてこられて三日目。
さすがに飽きた。
三食はきっちり出されるけど、それ以外は基本放置。
あっ、お風呂の準備とか掃除はしてもらえてるよ。
でも、それ以外はここの人たちと関わることが全くないんだよね。

「いいけど、迷子にならないでね」

カレンさんは神殿の図書室から本を数冊借りてきて読んでいる。

なぜか、私もカレンさんもこの世界の言葉が話せるし、読める。
不思議なんだよね。
ほら、異世界“転生”ならわかる気がするけど、私たちって異世界“転移”じゃない?

まぁ、考えてもわからないことはわからない。
それより、この退屈な日々をなんとかしなくちゃ。

「カレンさん、もう私、小さな子どもじゃないよ」

わざと口を尖らせた私に、カレンさんが優しく言った。

「真希ちゃんは、何年経っても、私の可愛い真希ちゃんなのよ」

嬉しくて思わず笑顔になる。
「気をつけてね」と手を振るカレンさんに、私も手を振り返して部屋を出た。



「ここは神殿の南側だったよね? とりあえず反対の北側に行ってみよう」

誰もいないけど、独り言を落として歩き出す。
最初の角を曲がった瞬間、スッと思考が抜ける感覚に襲われた。
続けて、頭の中に鮮明な映像が流れ込んでくる。
——暗い部屋に静かに休む、高校生くらいの男の子。

ん? あれ? なに?
奇妙な感覚に首を傾げる。

「まぁ、いいや。気のせいかも」

軽く深呼吸して、また歩き出した。
だんだん周りが薄暗く、不気味に感じる。
同じ敷地内なのに、南と北じゃこんなに雰囲気違うの?
一瞬引き返そうかと思ったけど、なぜだかこのまま進んだ方がいい気がして。

辺りの空気は重く、湿った気配さえしてきた頃、廊下の突き当たりに一枚の扉が見えた。

木製の、どこにでもあるような扉。
でも、そのドアノブに見覚えがあった。

「あっ! さっき頭の中に流れ込んできたやつ‼︎」

思わず駆け寄って、ドアノブを凝視する。
間違いない。古びた木製の扉に似つかわしくない、金色のドアノブ。

ベッドに休んでいる男の子が映った直前、一瞬だけ見えたこの扉。
本当にこの中に彼がいるのか確かめたくて、ゆっくりドアを開けた。

ぎーっ、と錆びついた音。

部屋の中は薄暗くて、かび臭い。
カーテンは閉じたまま。
目が慣れると、壁際のベッドに横たわる男の子の輪郭が浮かんだ。

「うそ……いた……」

思わず漏れた言葉が、室内に反響する。
その声に男の子がゆっくりと視線を動かした。
目が合った気がして、息が詰まる。
奇妙な体験に思考はまとまらず、鼓動だけが主張して耳まで響く。

コホン、コホン。
突然、男の子が咳き込み出すと、苦しそうに体を丸める。
慌てて駆け寄って、背中をさすった。

「だ、大丈夫?」

こちらの声は届いたようで、男の子は微かに頷き、手で大丈夫と合図した。

「誰だ! ここで何をしている!」

鋭く冷たい声が背後から刺さる。
振り返ると、長身の男性が立っていた。
驚いて固まる私に近づいてくる——よく見ると私と同じくらいの年齢?

淡い金髪にブルーの瞳。
いかにも王子様って感じの風貌に、あぁ、ここは異世界なんだなぁと、全く関係ないことを思う。

「私にもよくわからないんだよね。散歩してたら、ここの部屋の映像が頭に浮かんで……まさかって思って扉を開けたら、この子が寝てたの」

的を射ない返事に、彼は眉をわずかにひそめ、顎に手を添えて考え始めた。

「あなたは、異世界から来た人?」

確かめるようで、でもどこか確信めいた問い。
とりあえず「はい」と答える。

「山中真希です。三日前にここに連れてこられました」

簡単に自己紹介すると、彼も名乗ろうと口を開いた——が。

「私は——」

「あら、真希ちゃん、ここにいたのね。なかなか帰ってこないから、迷子かと思って探しにきたのよ」

そう言いながら部屋に入ってくるカレンさん。
見た目と口調のギャップに驚いたのか、男性は固まった。

部屋の状況に苦い顔をしたカレンさんが、「なにここ? こんなかび臭い部屋、誰が管理してるのかしら」と言いながら、閉まったままのカーテンを開ける。
日差しは差さないけれど、わずかな外の光が流れ込んだ。
すかさず窓を開け、こちらを見る。私と目が合うと、すぐにベッドの男の子に気づいた。

「あら、なんて可愛い坊や。……顔色が悪いわね」

そばに来て、男の子の顔を覗き込み、額に手を当てる。

「熱もあるみたいね。それに汗もかいてる。そこの美青年くん、拭くものと着替えはある? このままだと、この子がかわいそうよ」

テキパキ指示を出すカレンさんに、金髪の彼はあっけに取られたが、すぐ意識を切り替えたのか部屋を出ていった。

「……ありがとう」

ベッドの上の男の子が、か細い声でカレンに話しかける。
「どういたしまして。子どもはそんなこと気にしないの」
優しく頭を撫でるカレンさん。
昔、私が風邪を引いたときの姿が重なる。カレンさんは、いつだってカレンさん。

「これでいいだろうか」

急いで戻ってきた金髪の彼の腕には、タオルや着替えが抱え込まれていた。

「ありがとう。真希ちゃん、ちょっと手伝って。坊や、少し起こすわね?」

そう言って、ゆっくり男の子を座らせる。
カレンさんが支える間に、私が上着を脱がせて背中を拭く。

肩甲骨の間あたりに、卵くらいの大きさのアザ——?

「アザ? ここ?」

問いかけると、カレンさんも覗き込んだ。
「あら、本当。変わった形のアザね」

私たちが話していると、不思議そうな顔をした金髪の彼が口を開いた。

「継承の紋……知らないのか?」

「何それ? 継承? 紋? 初耳。これ、ケガとか打撲じゃないの?」

「あぁ、この世界の者なら誰にでもある。生まれた時から」

「あぁ、蒙古斑的な?」

私の返しに、カレンさんが吹き出す。
「真希ちゃん、蒙古斑とは違うんじゃない? ねぇ、美青年くん? これ、何らかの意味があるんでしょ?」

「……美青年、ですか。あっ、名乗っていませんでした。私はアマール王国の第二王子、ユーエンと申します。彼は弟のノエルです」

姿勢を正して挨拶する彼に、思わず言ってしまった。
「ってことは、あのボンクラ——じゃなかった、アルマって王子の弟」

「真希ちゃん、心の声が漏れてるわよ。……まぁ、否定はしないけど」

「アルマは王妃の息子で、私とノエルは側妃の息子です。それと、私のことは“ユーエン”と呼んでください」

「その継承の紋は血縁関係を示すもの。
だいたい両親の紋を合わせたような図柄になります。兄弟でも構図は違いますが、描かれるモチーフは似ています」

「そうなんだ……。良いような、そうでもないような仕組みだね」

なんだか、紋の造形が違うと家族じゃないって言われてるみたいで、少しモヤっとした。
多分、顔に出たんだと思う。だってカレンさんが私の頭をポンポンって撫でたから。
全部お見通しの目が、「関係ないから」と言ってくれていた。

「ほら、早く服を着せないとノエルくんが寒いわよ」

カレンさんの声でハッとし、手早く清潔な服を手繰り寄せる。
——ふと、また何かが目に入った。うっすらと蛇が這うようなアザ。

「ねぇ、ユーエンさん。ここのアザも“継承の紋”ってやつ?」

指さす先を見たユーエンさんの目が見開かれた。
咄嗟に近づき、それをなぞって確かめる。

「……いや、これは違う。呪いの痕跡だ」

え、呪い?
そんなものも存在するの、この世界。
——魔法はもう使えないはずだけど、儀式や呪詛の“名残”はあるのかも……。

いろいろ考えていると、カレンさんが「ほら、早く服、着せてあげて」と声をかけてきた。

ノエルくんは“呪い”って言葉に、あまり驚いていなかった。
どちらかというと「やっぱり」という顔。

そう思いながら服を着せていると、また——あの感覚。
スッと頭の中から何かが抜け、映像が流れ込む。

茶色の長い髪の少女。目の下のほくろが印象的な、可愛い子。
たくさんの子どもたちと笑い合っている場面。
すぐに映像が切り替わった。
次は、このベッドでノエルくんの手を握っている——。

「真希ちゃん? 大丈夫? 顔色が悪いよ?」

心配したカレンさんの声。答えようとするけど、映像が邪魔をする。
最後に、ノエルくんがその子と並んで笑っている場面。そこで途切れた。

「だ、大丈夫。さっきもこんなことがあったんだ。白昼夢かな? でも、そのおかげでここに辿り着いたんだけど」

取り止めのない話に、ユーエンさんが食いついてくる。

「——あなたは、今、何を見たのですか?」

「何って、茶色の髪の女の子。目の下にほくろのある可愛い子。その子とノエルくんが手をつないで並んでた」

「場所は? その子がいた場所はわかりますか」

なんでそんなに食いつくの? 何がそんなに気になるの?

「場所ねぇ。子どもたちがたくさんいた。身なりはあまり良くなかったけど、楽しそうに笑ってたかな。……ねぇ、ユーエンさん、こんなこと聞いてどうするの?」

「預言……ですよね。あなたは今、神殿で噂になっている“預言者様”ですよね」

ん? 預言者?
何言ってるの? それに、何その噂。どこから出たの。

「いや、私、預言者じゃないよ。インチキ占い師だけど」

困惑する私に、カレンさんが一言。

「案外、そうじゃないかもよ」

——言葉にできない、何かがこの体を動かしている。そんな感覚がよぎった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...