幽くんは噛み合わない

柚木

文字の大きさ
8 / 18

幽くんと休み時間

しおりを挟む
 幽くんは霊感があります。
 そのせいかたまに挙動がおかしいです。挙動がおかしいのは昔からみたいだというのは最近知りました。
 この日は選択授業で、美術を選択している私と技術を選択している幽くんは授業を受ける教室が違います。
 そんな寂しい授業も終わり、トイレから出てくると廊下の端に幽くんがいました。

 幽くんだ。そう思って駆けだそうとした時に幽くんは何度も頭を下げています。
 先輩か誰かいるのかと辺りを見ても誰もいなかったので、たぶん幽霊だと思います。
 これが噂になっている奇行なんだと今更気が付きました。
 霊感があることを知っている私から見ると怖い先輩風の人とぶつかって謝っている様に見えるのですが、知らない人から見ると確かにデスメタルの練習をしている様に見えているのかもしれません。

 それから許してもらえたらしく、握手を交わし友情を確かめ合ったのかハグしています。
 羨ましい幽霊です。私もああいう風に抱きしめてもらいたいです。そしてそのまま愛を囁いてもらえればこの世に未練はありません。

 ハグを終え、また少し歩くとまた誰かにぶつかったみたいです。
 見えているはずなのに、なぜそんなにぶつかるのかはわかりません。
 またさっきの様に羨ましいハグをするのかと思っていましたが、今度はしゃがんで何かを話しているみたいです。
 その目の高さからして小さい子供の様です。今回はどうやら目に入らなかったのでぶつかったのでしょう。
 それにしてもなぜ高校にあのくらいの小さい子供がいるのかわかりません。兄妹とはぐれて亡くなってしまったのでしょうか?
 急におろおろとしてしまったところを見ると子供が泣き出してしまったようです。鳴き声は聞こえませんがおそらくそれで間違っていないと思います。

 一度助けに行った方がいいのでしょうか?

 幽くんは急に後ろを振り返り、身振り手振りで何かを伝えているみたいです。
 ご家族の方が見つけてくれたのかもしれません。
 それにしてもなぜあんなに驚いているのでしょうか。首を傾げたりしていますが相手の首が無いとかでしょうか?
 そこは何があったかわかりませんが、どうやら知り合いだったのはたしからしく最後に目線を合わせて手を振っています。
 どこか満足気な幽くんは何かを見つけたようにこちらに小走りで向かってきます。
 また何か見つけたのでしょうか? それともトイレでしょうか?

「桜はここで何してんの?」

 見つけられたのは私でした。見つからないようにしていたのに見つけてくれて嬉しく思うとは、自分のことながら初々しいと思います。

「よく私のこと見つけられたね」

 愛のおかげさ。みたいな言葉を言ってもらえれば卒倒ものなんですが、現実は甘くありません。

「男子がトイレに行きにくそうにしてるから」

 幽くんを見ていて気が付いていませんでしたが、幽くんの言う通り私の背後には何人もの男子が私を見ていました……。
 そして私だと認識すると何事もなかったようにトイレに入っていきます。
 見ていたつもりが見られているとは思っていませんでした……。

「幽くんはさっき何してたの? 幽霊に謝ったりしてたけど」
「とりあえず教室に戻ろうか」

 男子トイレの前でまだ話そうとする私は幽くんに窘められ教室に向かいます。

「それで何があったの?」

 クイズの答え合わせの様でどこか楽しい気持ちです。

「変わった学生服を着た男に絡まれて、平謝りしてた。その後は子供が居て、泣き出してどうしようかと思ったらその男と兄妹らしくてそれを見守ってた」

 変な学生服ってどんな学生服でしょうか。私が知っている学生服は男子が着ているのくらいしか知りませんが、色が茶色とか紺色だったのでしょうか?

「それってどんな学生服なの?」
「学ランの上がものすごく長くて、ズボンもサイズを間違えていたみたいで異様に太かった。それだけも変だけど学ランの裏地に喧嘩上等とか書いてた」

 それはまたものすごく古風な不良さんでした。私もお父さんの持っている漫画でしか知りません。確かツッパリって呼ばれてた人達です。

「髪も凄かった、リーゼントって言うのか? 長いフランスパンみたいな髪型でビックリした」

 この学校は意外と歴史があるのかもしれません。実在していたら天然記念物に認定されている程にクラシカルなツッパリです。

「それで喧嘩上等と反対側の文字が読めなかったんだよ。夜の露に死ぬほど苦しむって書いてたけどなんて読むんだ?」

 『よろしく』です。その漢字をわざわざ説明すると何があったのか気になります。

「それはよろしくって読むんだと思うよ」
「それであんなに怒ってたのか。よろしくって挨拶されたのに首を傾げたからあんなに怒ってたんだな。でもあれ最初は読めないよな? どこかの方言とかか?」
「方言ではないかな」

 寧ろ業界用語と言ったほうがいいかもしれません。

「それは置いておいて子供がなんでこんなところに居るの? その人のお迎えとか?」
「誘拐されてその男の人が助けに来てくれたんだけど二人とも死んだんだって。ここも結構物騒だな」

 お兄さんを迎えに来たなんてほのぼのとした理由はありませんでした。不良の抗争に巻き込まれた被害者でした……。
 そりゃあ、幽霊になっているんですからそんなほのぼのしているはずはありません。

「でも死んでも二人でいるって本当に仲がいい兄妹だったんだな」
「そうだね。終わりよければって奴だね」

 幽霊でも子供を助けようとする幽くんは優しいです。
 そしてその二人がなぜ幽霊になったかは早いうちに忘れようと思います。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...