爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。

柚木

文字の大きさ
10 / 52
一章 門番との出会い

10話 強くなりたい理由

しおりを挟む
「土蜘蛛が瞬殺されちゃった」

「次はあんたの番よ」

 百目木虚は体から力を抜き、とんとんと足で謎のリズムを刻みだした。

「顕現装束 大蛇だいじゃ

 蛇を身に纏い、何をするのかと身構えるが、百目木虚は鬼石さんに向かっていく。
 予想外の動きに戸惑った鬼石さんの薙刀に大蛇はくるりと巻き付き、一直線に腕を目指す。
 咄嗟に薙刀を放すが、もう百目木虚は鬼石さんの懐に入り込んでいた。

「判断が遅いよね」

 掴みかかる鬼石さんを無視し、僕に向かい方向を変えてくる。
 狙いは最初から僕?

「そっちは判断ミスだけどね。鬼石流氷術 樹氷じゅひょう

 氷でできた一本の木が、僕を包むように生え、百目木虚の攻撃を防いでくれた。
 鬼石さんは、その隙に大蛇を踏みつけ薙刀を拾いなおし、攻撃に移ると一気に形勢は逆転した。
 最初は当たらなかった攻撃も、確実に百目木虚を捉え始めていた。

「羨ましいよね。ピンチになると奇跡の復活って、ありきたりができて、羨ましい」

「あんたみたいなのにはそう見えるんでしょうね」

「顕現装束 天龍てんりゅう

 一体の龍が、校舎を壊しながら天高く舞い上がる。

「今日はこれで帰る。どれだけ強いかわかったし、今度は殺すから」

 いつの間にか龍に乗っていた百目木虚は、そのまま遠くに飛んで行った。



 急いで焔さんと合流すると、龍が出現すると、百目木現も龍の出現と一緒に逃げて行ったらしい。

「双子で三毒か。あたしが聞いてた三毒とは違うってことか」

「そうみたい。それにどっちかが弱いってわけじゃないみたいだし」

「あの、焔さんは大丈夫ですか?」

「このくらいならすぐに治るよ。こんなのじいちゃんの扱きに比べたらかすり傷だ。それよりも秋良の方が痛そうだぞ」

「僕のは二人ほどじゃないですよ」

 すでに領分も消え、どれだけの戦闘が行われていたかわからない。
 でも、焔さんの体に刻まれた傷が戦闘の激しさを物語っている。

「ところで、二人は契約したのか?」

「な、何を聞いてるの?」

「その反応はしたみたいだな。こっちと同じくらいって言うなら契約してない氷美湖が勝てるはずはないよなって思ってな」

「ええ、しましたよ。仕方なく、本当に仕方なくだからね。私が意地を張ったせいで大事な鍵が奪われるなんてあってはいけないから。神流にそういう感情は一切ないからそこだけはしっかり肝に銘じておきなさいよね」

「はい、わかりました」

 僕も別にそこは嘘だと思ってなかったんですけど。

「そうか、あたしは秋良の事好きだぞ。最初は情けないと思ったけどな、こいつには勇気がある」

 ぐいっと、焔さんに抱きしめられる。
 あんなに強いとは思えない柔らかさ、戦闘の後なのに、埃っぽさよりも強い焔さんの爽やかな甘い匂い。

「お姉ちゃん、それは契約者としてってことだよね?」

「いや、雄として好きだ。秋良の子なら産みたいと思うほどにはな」

「あんた、お姉ちゃんから離れなさい! 今すぐ、大至急よ!」

 ぶんとゴミの様に投げ捨てられ、机に盛大に突っ込んだ。
 僕、何も悪いことしてないんですけど。

「いい、あんたはこれからお姉ちゃんに近づく時私に話を通すこと!」

「ほう。あたしとの蜜月を防ぐと同時に、自分は秋良と二人の時間を作るとは、中々やるな」

「ち・が・う・か・ら! お姉ちゃんが毒牙にかからないようにしてるだけ!」

 なんか、どんどん鬼石さんの印象が変わっていくな。
 もっと人間味が無いと思ってたけど、そんなこと無かった。

「あんたは何笑ってんのよ。あんたと契約したからこんなことになってんだからね」

「焔さん、鬼石さんは鍵を守るために、僕と契約したんですからあんまりからかわないで上げてください」

「前から言おうと思ってたんだが、あたしも鬼石さんだぞ」

「はい、双子ですからそうですよね」

 二人の家にも行ってるんだからそれは重々承知してる。

「契約したんだし、氷美湖の事も名前で呼んだらいいんじゃないか?」

「僕はいいんですけど、鬼石さんが嫌がるんじゃ」

 僕の事結構嫌がってるみたいだし。

「好きにしたらいいわ。不本意とは言え、契約したことに変わりはないしね」

「じゃあ、僕の事も秋良で良いですよ」

「それは嫌。なんか仲がいいみたいじゃない」

 僕が名前呼ぶのもそんなに変わらないと思うけど……。

「あんたが呼ぶ分にはいいのよ。憧れの生徒会長を名前で呼ぶのは普通でしょ」

 それだと僕は完全にストーカーみたいだな。

「それじゃあ氷美湖さん、これからよろしくお願いします」

 二人と契約し、氷美湖さんに見張られながらの帰り道。
 僕はさっき流れてしまった話題を蒸し返す。

「今からお二人の家に行っていいですか?」

「駄目に決まってるじゃないこの変態」

「なんで罵倒されたんですか……」

「家に来てお姉ちゃんにいかがわしいことするつもりなんでしょ?」

「あたしは大歓迎だぞ。体も頑丈だし、人間同士ではできないこともしてやれる」

「やっぱり変態じゃないの」

「勝手な妄想で、僕を変態に仕上げるのは、やめて貰ってもいいですか? 僕が二人の家に行きたいのは、強くなりたいからです。爺ちゃんほどじゃないにしても、二人の足を引っ張らない程度には、強くなりたいんです。だから、巌さんに稽古をつけてもらえないかなって」

 そうすれば、二人は僕を気にしないで戦える。
 僕が強ければ、氷美湖さんが怪我をしなくてもよかったかもしれない。

「あたし達が怪我をしたのはあたし達がまだ弱いからだ。秋良の力がどうってわけじゃない。秋良のじいちゃんができたからって秋良がやる必要はないんだ」

「全く戦闘もできないで後ろに隠れてた、って人も昔はいたわよ。寧ろ、アイザックさんみたいな方が特殊なの」

「そうだとしても、僕は、僕のせいで、二人が傷つくのを見ていたくはないです。僕は二人を大事な友達だと思ってます。二人から見たら、今だけの契約って関係だとしても僕は友達だと思ってます」

 厚かましいと思われても、やっぱり二人が傷ついた姿を見ているのは、自分が傷つくよりも痛い。

「あの、この手は何でしょうか」

 頭が尋常じゃない力で押さえつけられて足元しか見えない。

「ならこれから家に来い、じいちゃんに話通してみるから」

「習うからには死に物狂いで頑張りなさいよ。こっちの世界は厳しいわよ」

 鬼石邸に着くまでの間、僕の頭は二人に押さえつけられたままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...