爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。

柚木

文字の大きさ
24 / 52
二章 十纏

24話 薬売り 蘇葉

しおりを挟む
「まあ、そんなことがありまして親子喧嘩継続です」

「それって何かおかしくない?」

「あたしもそれは思っている」

 昼休み、二人に昨日の事を話すとそんな答えが返って来た。

「前に会った時は、そんな素振りはなかった。言い方は悪かったが、いいなりにする様な雰囲気はなかったな」

「そうなんです。自分の事は自分でって親だったのに、突然言うことを聞けなんておかしかったから、二人に相談したんですけど」

 良いか悪いかは別として、放任主義だった父さんが、昨日から突然言いなりになれは明らかにおかしい。
 霊山くんのことがあって、過敏になってる可能性もあるから二人に相談した。
 その二人もおかしいと言ってくれるなら、また十纏か三毒の誰かが近づいて来たってことだ。

「それについては放課後、家で話そう。今日は客も来るしな」

「それなら、別の所の方がいいんじゃないですか?」

「大丈夫よ、今日来るのは幽世の人だから」

「いや、えっ? 幽世から人って来れるんですか?」

 確かそれを防ぐために鍵を守ってたはずだけど、来れるならこれ守る必要あるの?

「来れるぞ。出入りできなかったら門である必要ないだろ」

 当たり前のように言われたけど、そっちの事情を僕は知らない。

「昔から幽世から現世に来る行事があるでしょ」

「もしかしてお盆ですか?」

「そうだ。だから二つの世界を行き来するのは、不可能じゃないんだよ」

「それだとこの鍵を守る必要ないじゃないですか」

「わかりやすさで言うなら、門は検問みたいなものよ。危険なのはそこで弾くの」

 わかるようなわからないような……、二人の話を聞いてると、頭の中では空港が出来上がっていくんだけどいいんだろうか。
 お盆は帰省ラッシュで空港が混んでますみたいな。

「難しく考える必要はないぞ、その鍵を守れば悪人はこっちに来れないってことだ」

「あんたはそのくらいの認識でいいわ」

「一先ずそれで納得しておきます。それで、今日のお客さんって誰なんですか?」

「一言で言うなら薬売りかしら」



「これからどこに行くんですか?」

「客を迎えに行く。家の近くにある寺が今回の出口だな」

「今回のってことは、他にもあるんですか?」

「あるぞ、基本的に神社仏閣だな。盆の時は家の庭が出入り口になる」

「もう一日中うるさくてかなわないわよ」

 あの庭確かに広いけど、帰省ラッシュに耐えきれるんだろうか……。

「聞くのが怖かったんですけど、今日来る人ってどんな人ですか?」

 幽世の住人って言われると、どうしてもコベットやカルマとか、化け物のイメージが先行しちゃんだよな。
 焔さん達みたいのもいるんだろうけど、それは少数なイメージだ。

「心配するな、優しくていい人だよ。見た目もあたし達と変わらない。そもそも、現世に来るのは、人型か動物型だけだ。そうじゃないとこっちが大騒ぎになるだろ?」

「そう言われればそうですよね」

 よかった、もし化け物が出てきたら全力で逃げ出すところだった。
 その二パターンなら安心だな。

 鬼石邸から徒歩十分ほどの位置にある寺、時期のせいか閑散としていた。
 そんな境内の端にあるベンチに、一人の女性が座っていた。
 時代劇でしか見たこと無い様な大きな薬箱を抱きしめながら、退屈そうに空を眺めている。

「最初に注意しておくけど、あんた、鼻の下は伸ばさないようにしなさいよ」

「それってどういう意味ですか?」

「会えばわかるわ」

 意味深なことを言って結局答えは教えてくれないんだ。
 でも、気をつけなさいじゃなくて、鼻の下を伸ばさないようにってどういう注意の仕方だ?

「焔ちゃん、氷美湖ちゃん!」

 いきなり大声を上げた薬売りが薬箱を置いたままこっちに走って来た。
 そして先頭にいた焔さんに全力で抱き付いた。
 その行動にも驚いたけど、一番驚いたのは、彼女の見た目だった。
 股引に腹掛け、その上に羽織を着て、それに収まりきらない胸は上部に深い谷を作っていた。

「ちょっと、蘇葉そようさん」

「氷美湖ちゃんもハグー」

 氷美湖さんもそのまま谷間に顔を埋められてしまった。

「そっちの子が鍵を持ってる子だね。初めましてのハグだよ」

「こいつにはやめてください」

 焔さんが僕と薬売りさんの間に入り込んで止めてくれた。
 別に全然残念じゃないぞ、あの谷間に顔を埋めたいなんて考えてない。
 僕は焔さん一筋だ。

「そうなの? じゃあ、代わりに焔ちゃんにハグだね」

「何か少し残念そうじゃない?」

「いえ、僕は焔さん一筋なので」

 これが鼻の下を伸ばさないようにって意味だったのか。
 危なく、だらしない顔を焔さんに見せる所だった。

「それじゃあ、早速巌さんに会いに行こう」

 二度のハグをされた焔さんはぐったりしているが、そんなのお構いなしで薬売りのお姉さんはずんずん先に進む。
 これって迎えとか必要ないんじゃないのかな?

「そうだ、私の名前は蘇葉っていうから覚えておいてね。神流秋良くん」



 蘇葉さんは鬼石邸に上がると、慣れた様子で薬箱に数種類の薬を入れていく。

「これで、いつもの薬と新薬は補充したよ。後は何か必要なのあるかな?」

「秋良の腕を治す薬はありますか?」

「秋良くんは人間だよね? 人間にも使えるのはいくつかあるけど、ちょっと見せてね、ギプスは一回とっちゃうね」

「取るってどういう――」

 止める暇も無く、ギプスに腕を走らせるとあっさり二つに割られた。
 これって勝手に外して大丈夫なの?
 僕の心配をよそに、蘇葉さんが僕の張れた腕に触れる。

「綺麗に折れてるから、これくらいなら使っても大丈夫かな。もしかしたら一日か二日だるさが残るかもしれないけど、薬のせいだから気にしないでね」

 さっと薬を塗られ、ギプスを再度嵌めると、なぜかピタリとギプスが接着した。

「どうなってるんですか?」

「私特製の塗り薬。自然治癒を極限まで高めるの。便利なんだけど、こっちの人間に使うと体力を全部奪われて死んじゃうんだよね」

 そっちのことを聞いたわけじゃないんだけど……、ん?

「それって大丈夫じゃないですよね?」

「そのくらいの怪我なら、明日にはくっつくと思うから平気だよ」

 あっけらかんと言われるけど、全治一ヶ月が一日で治るとかそれは大丈夫なのか?

「それじゃあ、他の所にも行ってくるからまたね」

 それだけ告げると、あっという間にその場から去って行った。

「椿、悪いがあいつを追いかけてやってくれ。蘇葉に限って何もしないだろうが、見張るのも鬼石家の仕事だ」

「わかってます」

 椿さんも蘇葉さんの後を追って行くと、その場にいた全員がため息を吐いた。
 あの嵐みたいな人は何者なんだろうか。

「蘇葉の事はいったん置いておくとして、秋良くん、君の父親が昼にここに来たよ。秋良くんを破門しろと言っていたが、何かあったのか?」

 父さん、ここにまで来てたのか……。
 師匠にも一通り昨日の話をした。

「なるほど、事情はわかった。詰まる所、悪いのはアイザックということか」

 どうしよう、真面目な顔で言われるとツッコミ難い。
 爺ちゃんがもっと上手にやってればいいのに思わないことも無いしな。

「冗談はさておき、その判断をつけたいなら、適任がいるぞ」

「誰ですか?」

「蘇葉だよ。あいつならそういうのに敏感だからな」

 師匠の提案に焔さん達が微妙な顔をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...