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二章 十纏
24話 薬売り 蘇葉
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「まあ、そんなことがありまして親子喧嘩継続です」
「それって何かおかしくない?」
「あたしもそれは思っている」
昼休み、二人に昨日の事を話すとそんな答えが返って来た。
「前に会った時は、そんな素振りはなかった。言い方は悪かったが、いいなりにする様な雰囲気はなかったな」
「そうなんです。自分の事は自分でって親だったのに、突然言うことを聞けなんておかしかったから、二人に相談したんですけど」
良いか悪いかは別として、放任主義だった父さんが、昨日から突然言いなりになれは明らかにおかしい。
霊山くんのことがあって、過敏になってる可能性もあるから二人に相談した。
その二人もおかしいと言ってくれるなら、また十纏か三毒の誰かが近づいて来たってことだ。
「それについては放課後、家で話そう。今日は客も来るしな」
「それなら、別の所の方がいいんじゃないですか?」
「大丈夫よ、今日来るのは幽世の人だから」
「いや、えっ? 幽世から人って来れるんですか?」
確かそれを防ぐために鍵を守ってたはずだけど、来れるならこれ守る必要あるの?
「来れるぞ。出入りできなかったら門である必要ないだろ」
当たり前のように言われたけど、そっちの事情を僕は知らない。
「昔から幽世から現世に来る行事があるでしょ」
「もしかしてお盆ですか?」
「そうだ。だから二つの世界を行き来するのは、不可能じゃないんだよ」
「それだとこの鍵を守る必要ないじゃないですか」
「わかりやすさで言うなら、門は検問みたいなものよ。危険なのはそこで弾くの」
わかるようなわからないような……、二人の話を聞いてると、頭の中では空港が出来上がっていくんだけどいいんだろうか。
お盆は帰省ラッシュで空港が混んでますみたいな。
「難しく考える必要はないぞ、その鍵を守れば悪人はこっちに来れないってことだ」
「あんたはそのくらいの認識でいいわ」
「一先ずそれで納得しておきます。それで、今日のお客さんって誰なんですか?」
「一言で言うなら薬売りかしら」
†
「これからどこに行くんですか?」
「客を迎えに行く。家の近くにある寺が今回の出口だな」
「今回のってことは、他にもあるんですか?」
「あるぞ、基本的に神社仏閣だな。盆の時は家の庭が出入り口になる」
「もう一日中うるさくてかなわないわよ」
あの庭確かに広いけど、帰省ラッシュに耐えきれるんだろうか……。
「聞くのが怖かったんですけど、今日来る人ってどんな人ですか?」
幽世の住人って言われると、どうしてもコベットやカルマとか、化け物のイメージが先行しちゃんだよな。
焔さん達みたいのもいるんだろうけど、それは少数なイメージだ。
「心配するな、優しくていい人だよ。見た目もあたし達と変わらない。そもそも、現世に来るのは、人型か動物型だけだ。そうじゃないとこっちが大騒ぎになるだろ?」
「そう言われればそうですよね」
よかった、もし化け物が出てきたら全力で逃げ出すところだった。
その二パターンなら安心だな。
鬼石邸から徒歩十分ほどの位置にある寺、時期のせいか閑散としていた。
そんな境内の端にあるベンチに、一人の女性が座っていた。
時代劇でしか見たこと無い様な大きな薬箱を抱きしめながら、退屈そうに空を眺めている。
「最初に注意しておくけど、あんた、鼻の下は伸ばさないようにしなさいよ」
「それってどういう意味ですか?」
「会えばわかるわ」
意味深なことを言って結局答えは教えてくれないんだ。
でも、気をつけなさいじゃなくて、鼻の下を伸ばさないようにってどういう注意の仕方だ?
「焔ちゃん、氷美湖ちゃん!」
いきなり大声を上げた薬売りが薬箱を置いたままこっちに走って来た。
そして先頭にいた焔さんに全力で抱き付いた。
その行動にも驚いたけど、一番驚いたのは、彼女の見た目だった。
股引に腹掛け、その上に羽織を着て、それに収まりきらない胸は上部に深い谷を作っていた。
「ちょっと、蘇葉さん」
「氷美湖ちゃんもハグー」
氷美湖さんもそのまま谷間に顔を埋められてしまった。
「そっちの子が鍵を持ってる子だね。初めましてのハグだよ」
「こいつにはやめてください」
焔さんが僕と薬売りさんの間に入り込んで止めてくれた。
別に全然残念じゃないぞ、あの谷間に顔を埋めたいなんて考えてない。
僕は焔さん一筋だ。
「そうなの? じゃあ、代わりに焔ちゃんにハグだね」
「何か少し残念そうじゃない?」
「いえ、僕は焔さん一筋なので」
これが鼻の下を伸ばさないようにって意味だったのか。
危なく、だらしない顔を焔さんに見せる所だった。
「それじゃあ、早速巌さんに会いに行こう」
二度のハグをされた焔さんはぐったりしているが、そんなのお構いなしで薬売りのお姉さんはずんずん先に進む。
これって迎えとか必要ないんじゃないのかな?
「そうだ、私の名前は蘇葉っていうから覚えておいてね。神流秋良くん」
†
蘇葉さんは鬼石邸に上がると、慣れた様子で薬箱に数種類の薬を入れていく。
「これで、いつもの薬と新薬は補充したよ。後は何か必要なのあるかな?」
「秋良の腕を治す薬はありますか?」
「秋良くんは人間だよね? 人間にも使えるのはいくつかあるけど、ちょっと見せてね、ギプスは一回とっちゃうね」
「取るってどういう――」
止める暇も無く、ギプスに腕を走らせるとあっさり二つに割られた。
これって勝手に外して大丈夫なの?
僕の心配をよそに、蘇葉さんが僕の張れた腕に触れる。
「綺麗に折れてるから、これくらいなら使っても大丈夫かな。もしかしたら一日か二日だるさが残るかもしれないけど、薬のせいだから気にしないでね」
さっと薬を塗られ、ギプスを再度嵌めると、なぜかピタリとギプスが接着した。
「どうなってるんですか?」
「私特製の塗り薬。自然治癒を極限まで高めるの。便利なんだけど、こっちの人間に使うと体力を全部奪われて死んじゃうんだよね」
そっちのことを聞いたわけじゃないんだけど……、ん?
「それって大丈夫じゃないですよね?」
「そのくらいの怪我なら、明日にはくっつくと思うから平気だよ」
あっけらかんと言われるけど、全治一ヶ月が一日で治るとかそれは大丈夫なのか?
「それじゃあ、他の所にも行ってくるからまたね」
それだけ告げると、あっという間にその場から去って行った。
「椿、悪いがあいつを追いかけてやってくれ。蘇葉に限って何もしないだろうが、見張るのも鬼石家の仕事だ」
「わかってます」
椿さんも蘇葉さんの後を追って行くと、その場にいた全員がため息を吐いた。
あの嵐みたいな人は何者なんだろうか。
「蘇葉の事はいったん置いておくとして、秋良くん、君の父親が昼にここに来たよ。秋良くんを破門しろと言っていたが、何かあったのか?」
父さん、ここにまで来てたのか……。
師匠にも一通り昨日の話をした。
「なるほど、事情はわかった。詰まる所、悪いのはアイザックということか」
どうしよう、真面目な顔で言われるとツッコミ難い。
爺ちゃんがもっと上手にやってればいいのに思わないことも無いしな。
「冗談はさておき、その判断をつけたいなら、適任がいるぞ」
「誰ですか?」
「蘇葉だよ。あいつならそういうのに敏感だからな」
師匠の提案に焔さん達が微妙な顔をした。
「それって何かおかしくない?」
「あたしもそれは思っている」
昼休み、二人に昨日の事を話すとそんな答えが返って来た。
「前に会った時は、そんな素振りはなかった。言い方は悪かったが、いいなりにする様な雰囲気はなかったな」
「そうなんです。自分の事は自分でって親だったのに、突然言うことを聞けなんておかしかったから、二人に相談したんですけど」
良いか悪いかは別として、放任主義だった父さんが、昨日から突然言いなりになれは明らかにおかしい。
霊山くんのことがあって、過敏になってる可能性もあるから二人に相談した。
その二人もおかしいと言ってくれるなら、また十纏か三毒の誰かが近づいて来たってことだ。
「それについては放課後、家で話そう。今日は客も来るしな」
「それなら、別の所の方がいいんじゃないですか?」
「大丈夫よ、今日来るのは幽世の人だから」
「いや、えっ? 幽世から人って来れるんですか?」
確かそれを防ぐために鍵を守ってたはずだけど、来れるならこれ守る必要あるの?
「来れるぞ。出入りできなかったら門である必要ないだろ」
当たり前のように言われたけど、そっちの事情を僕は知らない。
「昔から幽世から現世に来る行事があるでしょ」
「もしかしてお盆ですか?」
「そうだ。だから二つの世界を行き来するのは、不可能じゃないんだよ」
「それだとこの鍵を守る必要ないじゃないですか」
「わかりやすさで言うなら、門は検問みたいなものよ。危険なのはそこで弾くの」
わかるようなわからないような……、二人の話を聞いてると、頭の中では空港が出来上がっていくんだけどいいんだろうか。
お盆は帰省ラッシュで空港が混んでますみたいな。
「難しく考える必要はないぞ、その鍵を守れば悪人はこっちに来れないってことだ」
「あんたはそのくらいの認識でいいわ」
「一先ずそれで納得しておきます。それで、今日のお客さんって誰なんですか?」
「一言で言うなら薬売りかしら」
†
「これからどこに行くんですか?」
「客を迎えに行く。家の近くにある寺が今回の出口だな」
「今回のってことは、他にもあるんですか?」
「あるぞ、基本的に神社仏閣だな。盆の時は家の庭が出入り口になる」
「もう一日中うるさくてかなわないわよ」
あの庭確かに広いけど、帰省ラッシュに耐えきれるんだろうか……。
「聞くのが怖かったんですけど、今日来る人ってどんな人ですか?」
幽世の住人って言われると、どうしてもコベットやカルマとか、化け物のイメージが先行しちゃんだよな。
焔さん達みたいのもいるんだろうけど、それは少数なイメージだ。
「心配するな、優しくていい人だよ。見た目もあたし達と変わらない。そもそも、現世に来るのは、人型か動物型だけだ。そうじゃないとこっちが大騒ぎになるだろ?」
「そう言われればそうですよね」
よかった、もし化け物が出てきたら全力で逃げ出すところだった。
その二パターンなら安心だな。
鬼石邸から徒歩十分ほどの位置にある寺、時期のせいか閑散としていた。
そんな境内の端にあるベンチに、一人の女性が座っていた。
時代劇でしか見たこと無い様な大きな薬箱を抱きしめながら、退屈そうに空を眺めている。
「最初に注意しておくけど、あんた、鼻の下は伸ばさないようにしなさいよ」
「それってどういう意味ですか?」
「会えばわかるわ」
意味深なことを言って結局答えは教えてくれないんだ。
でも、気をつけなさいじゃなくて、鼻の下を伸ばさないようにってどういう注意の仕方だ?
「焔ちゃん、氷美湖ちゃん!」
いきなり大声を上げた薬売りが薬箱を置いたままこっちに走って来た。
そして先頭にいた焔さんに全力で抱き付いた。
その行動にも驚いたけど、一番驚いたのは、彼女の見た目だった。
股引に腹掛け、その上に羽織を着て、それに収まりきらない胸は上部に深い谷を作っていた。
「ちょっと、蘇葉さん」
「氷美湖ちゃんもハグー」
氷美湖さんもそのまま谷間に顔を埋められてしまった。
「そっちの子が鍵を持ってる子だね。初めましてのハグだよ」
「こいつにはやめてください」
焔さんが僕と薬売りさんの間に入り込んで止めてくれた。
別に全然残念じゃないぞ、あの谷間に顔を埋めたいなんて考えてない。
僕は焔さん一筋だ。
「そうなの? じゃあ、代わりに焔ちゃんにハグだね」
「何か少し残念そうじゃない?」
「いえ、僕は焔さん一筋なので」
これが鼻の下を伸ばさないようにって意味だったのか。
危なく、だらしない顔を焔さんに見せる所だった。
「それじゃあ、早速巌さんに会いに行こう」
二度のハグをされた焔さんはぐったりしているが、そんなのお構いなしで薬売りのお姉さんはずんずん先に進む。
これって迎えとか必要ないんじゃないのかな?
「そうだ、私の名前は蘇葉っていうから覚えておいてね。神流秋良くん」
†
蘇葉さんは鬼石邸に上がると、慣れた様子で薬箱に数種類の薬を入れていく。
「これで、いつもの薬と新薬は補充したよ。後は何か必要なのあるかな?」
「秋良の腕を治す薬はありますか?」
「秋良くんは人間だよね? 人間にも使えるのはいくつかあるけど、ちょっと見せてね、ギプスは一回とっちゃうね」
「取るってどういう――」
止める暇も無く、ギプスに腕を走らせるとあっさり二つに割られた。
これって勝手に外して大丈夫なの?
僕の心配をよそに、蘇葉さんが僕の張れた腕に触れる。
「綺麗に折れてるから、これくらいなら使っても大丈夫かな。もしかしたら一日か二日だるさが残るかもしれないけど、薬のせいだから気にしないでね」
さっと薬を塗られ、ギプスを再度嵌めると、なぜかピタリとギプスが接着した。
「どうなってるんですか?」
「私特製の塗り薬。自然治癒を極限まで高めるの。便利なんだけど、こっちの人間に使うと体力を全部奪われて死んじゃうんだよね」
そっちのことを聞いたわけじゃないんだけど……、ん?
「それって大丈夫じゃないですよね?」
「そのくらいの怪我なら、明日にはくっつくと思うから平気だよ」
あっけらかんと言われるけど、全治一ヶ月が一日で治るとかそれは大丈夫なのか?
「それじゃあ、他の所にも行ってくるからまたね」
それだけ告げると、あっという間にその場から去って行った。
「椿、悪いがあいつを追いかけてやってくれ。蘇葉に限って何もしないだろうが、見張るのも鬼石家の仕事だ」
「わかってます」
椿さんも蘇葉さんの後を追って行くと、その場にいた全員がため息を吐いた。
あの嵐みたいな人は何者なんだろうか。
「蘇葉の事はいったん置いておくとして、秋良くん、君の父親が昼にここに来たよ。秋良くんを破門しろと言っていたが、何かあったのか?」
父さん、ここにまで来てたのか……。
師匠にも一通り昨日の話をした。
「なるほど、事情はわかった。詰まる所、悪いのはアイザックということか」
どうしよう、真面目な顔で言われるとツッコミ難い。
爺ちゃんがもっと上手にやってればいいのに思わないことも無いしな。
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