爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。

柚木

文字の大きさ
25 / 52
二章 十纏

25話 懺悔の窓

しおりを挟む
 後で蘇葉がそっちに行く。と何も説明されないまま稽古が始まり、何も理解できないまま家に帰ると、父さんも丁度帰って来ていた。

「また、道場に行ったみたいだな。秋良そこに座れ」

「嫌だ」

 ガタンと椅子を倒した父さんは僕の頬を全力で叩いた。

「なんだその態度は、俺が座れと言ってるんだ」

「優、暴力はダメだよ」

「母さんは黙ってろ。俺はこいつが親父みたいになるのを止める義務がある」

「親の言うことは聞くんじゃないの?」

「大人は別だ。社会も知らない子供は、親の言うことを聞いていればいい」

 更に叩き、昨日と同じ言葉を繰り返す。

「やっぱりお前は道場に通ってからおかしくなったよ。前はもっと素直な子供だった」

「僕だって強くなったんだよ」

 そのまま怒鳴り始めた父さんを無視し、部屋に戻る。
 窓をコンコンとノックされるが、外には誰もいない。
 いたずらかと思うと、また窓を叩かれるけど、そこにはやはり誰もいない。
 ぞっとしたが、窓の下から小さな動物の手が見えた。
 そこでようやく師匠の言葉を思い出し窓を開けた。
 そこから一匹のイタチがのそのそと入ってきて、幽霊じゃないことに少し安心した。

「蘇葉さんですよね?」

「そうだよ。巌さん達から話は聞いてるでしょ?」

 こうして話していても違和感があるなぁ。
 このイタチが蘇葉さんだと言われてもどうもピンとこない。

「一度、人間の姿になってくれませんか? 実際に見ないといまいち飲み込めなくて」

「いいよ。私も人型の方が好きなんだよね」

 ぽふっと一瞬でイタチは蘇葉さんの姿に変わった。
 本当に変身できるんだ。
 氷美湖さん達も変身と言えば変身なんだけど、なんか違うもんな。

「おっと、危なかった」

 僕が感動していると、なぜか蘇葉さんは両手を広げて固まっていた。

「どうかしましたか?」

「危なく抱き付くところだった。焔ちゃんから私の恋人なので抱き付かないようにってきつく言われたんだよね」

 気持ちはわかるから何も言いたくはないけど、一度くらい僕の事も抱きしめてもらいたい。

「だからこれで我慢しようかな」

 再びイタチの姿に戻ると僕の膝の上に乗って来た。

「ほらほら、撫でて撫でて」

「わかりました」

 言われるままに撫でて感動した。
 凄くふわふわで毛並みも綺麗で撫でていて心地いい。
 これ、いつまでも撫でてたい。

「こうされるのが、ハグするのと同じくらい好きなんだよね。撫でられながら、軽くお話聞こうかな」

「そうですね」

 本日何度目かの話に、蘇葉さんは相槌を打ちながら聞いてくれた。

「君がそう言うなら、ほとんど確定で良いと思うよ」

「実際に見ないでいいんですか?」

「診る診る。どこまで侵食してるかは、実際に診てみないとわからないからね。でも、何かがあるのは確定だよ」

「それを取り除くってできるんですか?」

「それも診てみないとわからないかな。何も考えないで取り除くなら、それを植え付けた奴を倒すのが一番早くて確実だよ」

「やっぱりそうですよね」

 昨日の夜からおかしかったってことは、父さんが仕事に出てる間にやられたってことだよな。
 それなら会社か? いや、僕の事を知ってやったなら、電車の中とかでもできるか。

「考え込む必要はないよ。私がしっかり診察してあげるから」

「はい、宜しくお願いします」



「僕がついていく必要ってあるんですか?」

「もちろんだよ。君が一緒だったら、多少物音がしても平気だからね」

 深夜と呼べる時間になり、僕は蘇葉さんを抱っこしたまま父さん達の寝室に向かう。
 なるべく考えないようにしていたけど、今僕の手にいるイタチはあの蘇葉さんなんだよな。
 さっき撫でていた時にも、蘇葉さんの姿が一瞬ちらついて、いけないことをしている気分になっていた。
 今の状況もイタチだからいいけど、実際だとお互いが抱き合ったまま移動している状態だ。
 こういう考えが煩悩なのかなぁ。

「ちょっと待っててね」

 寝室のドアを少し開けると、蘇葉さんはするりと中に入って行った。
 物の一分くらいですぐに出てきて、僕の体に抱き付き、部屋に戻った。
 あまりにもあっさりしすぎていて、本当にちゃんと診てくれたのか心配になる。

「一言で言うと、かなりヤバいね。浸食具合とかじゃなくて、設置されてるのが酷い」

「そんなに酷いんですか?」

 その診察結果に霊山くんの姿が思い浮かんだ。
 父さんまで霊山くんと同じ状況になってしまうんだろうか……。

「コベットが発生する理由とかは知ってる?」

「はい。確か煩悩が膨れてできた穴みたいのから幽世の人が出てくるんですよね?」

「そう、その穴を強制的に開けられて閉じないようにされてる。今はまだ小さいから出てこれる奴はいないけど、今のままだと君のパパさんから大量のコベットが出てくるね。敵はそれを速めるために、秋良くんとパパさんが喧嘩するように仕向けたのかもね」

 体の中心で何かが沸き上がってくるのを感じた。
 なんで、そんなことをされなきゃいけないんだ? そんな怒りが沸々と胸の奥から膨れていく。

「落ち着いて」

 ふわりと、花の匂いが舞い、僕の心が一気に落ち着いた。

「アロマっていいよね、心を落ち着かせてくれる。特別に何個かあげるね」

 いつの間にやったのか、蘇葉さんの手には小さなガラスに入ったキャンドルが握られていた。

「ねえ明日って、君と焔ちゃんか氷美湖ちゃんのどっちか時間あるかな?」

「学校終わりなら時間はありますけど」

「それって今日迎えに来てくれた時間? それだとちょっと遅いかな。君のお父さんを尾行したいんだ」

「学校を休めば大丈夫ですけど、何するんですか?」

「決まってるでしょ、犯人捜し。あんな面倒な物付けたくらいだからね、近づけば見つけられるよ」

「取り外すってことはできないんですか?」

 僕には犯人を捜すより、父さんに付けられた物を取り外したい。

「できなくはないけど、手元が狂ったらパパさん死ぬけどいいの?」

「それは困ります」

「でしょ。それに、あれを取り外したことを相手にはバレたくないってのもあるね。あれをやったのは、三毒とかでしょ? バレないうちに奇襲をかけたいんだよね。秋良くんがあれを早く取り外したいって気持ちもわかるけどね」

 ここで逃がしたら、また誰かが犠牲になるってことか。

「わかりました、必ずそいつを見つけて倒しましょう」

「それじゃあ、今日はもう寝ようか」

「そうですね。僕ももう眠いです」

 特に何も考えていない一言を、僕は遅れて後悔した。
 イタチ姿とはいえ、僕の体にぴたりとくっついて眠るのは蘇葉さんだ。
 朝起きたら人間の姿になっていたらどうしようと妄想してしまった。
 結局そんな妄想みたいにはいかなかったが、僕の睡眠時間はかなり減った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...