爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。

柚木

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二章 十纏

26話 潜入

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「あたしが行くことに何の問題もないんだけどな」

「いつまでも同じこと言わない方がいいよ。似合ってるからいいじゃない」

「僕も似合ってると思いますよ」

 父さんが敵に何かされているとわかった僕達は、今日一日学校をサボり父さんを追跡することにした。

「そう言ってくれるのは嬉しんだけどな、あたしだけこれはないんじゃないか?」

 満員電車で、どちらかが見つかってもいいように、僕と焔さんは別の恰好をしている。
 僕はいつも通りの制服姿、蘇葉さんはイタチの姿で僕の鞄の中、焔さんはスーツ姿だ。
 元から大人っぽいこともあってとても似合っているが、家を出てからずっとご立腹だ。

「秋良の父親が、すでに敵と接触か。こうなってくると、一度秋良の家族の身辺を調査してみる方がいいかもな」

「やっぱり敵には全部バレてるってことですよね」

 やっぱり百目木姉妹と最初に戦った時に決着をつけられなかったのが痛いな。
 あの時にこっちの情報がバレたんだろうな。
 僕にはどうしようもないことだけど。

「そう落ち込むな。バレているのはそこまで悲観することはないぞ。秋良には悪いが、秋良を囮にすれば探す手間が省けるからな、おっと、すまない」

 電車がカーブを曲がると、僕の顔に柔らかい物が押し付けられた。
 壁際にいたおかげで、焔さんの胸が強く押し付けられた。

「私には抱き付くなって言ったのに、焔ちゃんはするの?」

「不可抗力です。それに、あたしが秋良にやる分にはいいんです」

 その言葉は嬉しいし、今の状況に何の不満もないが、周囲の男からの視線が痛い。
 天国で針のむしろに座るという稀有な体験をしたまま、降りる駅に到着した。

「電車の中に不審な人はいましたか?」

「いなかったね」

「そうなると、敵は会社の中か見知らぬ他人ってことか」

 父さんは大企業とは呼べないまでもそれなりの会社で働いている。
 父さんが働いているのは、本社ではなく事務所として借りているビルだ。

 ここが父さんの働いている場所か。
 ドラマなんかで見る改札みたいのはないけど、警備員が待機してるし警備はしっかりしてそうだな。

「秋良の父親は何階なんだ?」

「それは流石に知らないです」

「それだと、領分で侵入しても他の人に見つかるか」

「それじゃあ、どうやって入るんですか? 蘇葉さんがもしかして透明になれる薬があるとか?」

「こっちでそれ使っちゃいけないんだよね」

 冗談で言ったのに本当にあるんだ。
 こっちではって幽世ではそれ使っても平気なんですね。

「だから、今回はこっちを使います」

 不思議な形をした金属の入れ物っぽい物を取り出した。

「ちょっと効果を強めるけど、大目に見てね」

 イタチの姿のまま中に入ると、その入れ物を床に置いた。
 何が始まるのかと見ていると、警備員やそのフロアにいた人達が倒れ始めた。

「あれって大丈夫なんですか?」

「大丈夫、蘇葉さんは人殺しするような人じゃない」

「でも、バタバタ倒れてますけど?」

 明らかに毒を散布してるようにしか見えない。

「全員眠らせたよ。それじゃあ、ちゃちゃっと秋良くんのお父さんを助けようか」

 さっきの光景を見ているせいで、中に入るのが怖いな。
 このまま中に入ったら倒れるんじゃない?

「大丈夫だよ。今回のは即効性と範囲を広げてるから、空気に溶けやすいようにしてる。もう効果はほとんどないよ」

 本当にその通りで、若干匂いは残ってるけど眠気が襲ってくる気配はなかった。

「こんだけ効くなら、睡眠不足も解消できそうですね」

「やめた方がいいよ。一度眠ると何があっても三時間は起きないから。殺されても目を覚まさないよ」

「それは、嫌、ですね……」

 蘇葉さんは笑顔だったが、殺されても目を覚まさないと言った時の目が僕には恐ろしく感じた。

 そのまま同じ要領で、各階を眠らせながら登り四階までたどり着いた。

「この薬ってね、現世の人間用に作ってるから、幽世の人には効かないんだ」

「秋良、こんなところで何してるんだ?」

 何を言い出したのかと思ったら、父さんが僕達の前に現れた。
 なるほど、父さんには敵が植え付けた何かがあるから、効かないってことか。

「二人は敵を探しに行ってください。それで、なるべく早く戻ってきてください」

「何をしているのかを聞いてるんだよ!」

 父さんが掴みかかって来た手を取り、そのまま関節を決める。
 大丈夫、片手でも対応はできる。

「焔ちゃんはこのフロア探してきて、私が秋良くんの面倒見るから」

「また、女か。そこまで反抗するなら、躾が必要だな」

 父さんの体から黒い靄が溢れ、コベットが生成されていく。
 そしてそのコベットは一瞬で蘇葉さんに一蹴されビルの外にたたき出された。

「力の大半は向こうだけどさ、その程度なら私でも楽勝だよ」

 いつの間にか領分が広がっており、蘇葉さんからは焔さんと同じくらいの気迫が感じられた。



 秋良達が戦闘を始めた同時刻、焔は執務室に入った。

「まさか、こんなに早く俺の所にたどり着くとは思ってなかったな。調の話を聞いた限りだと、一週間はかかると思ってたんだけどな」

 調って、霊山に何かした奴か。

「いつまでも後手に回ってる場合じゃないからな」

「周りの人間が眠ったのは、お前の能力か何かか?」

「それを教えると思うか?」

「いや、思わないよ。ただの好奇心だ。どうせ、ここでお前は死ぬからな」

「やってみろ」

 焔は初撃に居合を使うことが多い。
 得意ということもあるが、それよりも焔の持つ攻撃手段で最速の一撃だ。
 しかし、その最速の一撃は吾平律に止められた。
 柄を足で止められた驚きは、焔を動揺させる。

「このくらいで動揺するのか」

 焔はすぐに動揺を抑え込むが、律の攻撃の方がわずかに早く焔の体に触れた。
 デスクを吹き飛ばしながら飛ばされる焔に、律は追撃を仕掛ける。
 近くにある文具やデスクの投擲は、焔に届く前に槐に切り裂かれる。

「伊達に双子と筋肉馬鹿を倒してないな」

「そっちこそ、普通に働いてるからって甘く見てた。ここからは本気で行かせてもらう。鬼石流炎技 炎王」

「カッコいいね、残念ながら俺にはそんな技はないけど、少しだけ自慢できる技術はあるぞ」

「じゃあ、見せてみろよ」

「さっきから見せてるだろ」

 そう言って、焔の仕掛ける攻撃をまた出す前に止めた。

「これはまた、凄い技術じゃないか」

「そうだろ。俺、昔から周りに合わせるのが得意なんだよ」

 合わせる技術ってあれか、それなら、あたしでも対処できるか。
 効かなかったらその時考えよう。

「懲りずに居合かい」

 焔の攻撃を先読みし、初動を抑えるために足で柄を抑えた。
 それでも、焔の動きは止まらない。
 あっさりと柄を放し炎を纏った手刀に切り替える。
 熱量に当てられ、律は反射的にその手を弾く。

 このままやり合いを続ければ、俺の速度にすぐ追いつくか。
 それなら、この腕をへし折ればそこで終わりだろ。

「取った」

 一瞬無防備に見えた焔の腕が、逆に律の腕を掴む。

「柔術は得意じゃないけどな、不意打ちくらいには使えるだろ」

 掴まれた腕は力任せに捻じられ、バランスを崩され焔の元に勢いよく引き寄せられていく。
 圧倒的な腕力による引き寄せ、それを迎えるのは同じく圧倒的な腕力。
 その驚異的な一撃が一人の男の顔にめり込んだ。
 衝撃に耐えきれない衣服はちぎれ、律は壁にたたきつけられる。

 まだ、意識は残ってる……。
 このまま、壁を突き破って逃げれば次の動きができる……。

 勢いのまま壁を破壊させられた律は、次のために逃げる算段を立てた。

「逃がすと思ってるか? 鬼石流居合術 裂空・波紋れっくう・はもん

 空に投げ出された律を足場に、焔の刀は吾平律の体を切り裂いた。
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