爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。

柚木

文字の大きさ
34 / 52
三章 恋の始まり

34話 仲間割れ

しおりを挟む
「やっぱりだめでした」

 いつまでも下りてこない焔さんに昼食を持って行ったが、返事さえしてもらえなかった。
 もしかして本当に体調が悪いんだろうか?
 でもあの言い方は体調不良ってわけじゃなさそうだったんだよな。

「お姉ちゃんお昼も下りてこないで大丈夫なのかしら?」

「返事もしてくれないから、それもわからないんですよね」

「あんたやっぱりお姉ちゃんに何かしたんじゃない?」

「記憶にないんですよね。昨日も稽古とコベットに襲われたくらいですから」

 昨日は僕もちゃんと役割をこなせたと思うんだけどな。
 それ以外に何か失敗してはいないし。

「焔ならさっき窓から出てったよ」

「えっ?」

 レイラさんはペットが散歩に行ったくらいに軽く言う。

「焔ならさっき窓から出てったよ」

「何で止めてくれなかったんですか!?」

「止めてくれるなって言われたから」

「こいつに期待しちゃダメよ。本当に出て行ったなら急いで追いかけないと」

「追いかけてどうするの? 焔泣かせたのは二人のどっちかじゃないの?」

 焔さんが泣いてた?

「あんたはそれを見たの?」

「見たよ。ずっと変な声が聞こえてたから気になって覗いたら泣いてたよ。それで、追いかけてどうするの?」

「追いついてから考えます」

 僕は別荘を飛び出した。



 秋良がそんな奴じゃないのは知っている。
 一生懸命で、誰にでも優しくて、大切な物が何か知っている。
 そんなところがカッコよくてあたしは秋良を好きになった。
 今回それがあの市居って女子に向いただけだとわかってる。
 わかってるけど、それをあたしだけに向けて欲しい。
 自分がこんなに女々しいとは思ってなかったな……、こんなことで動揺していて秋良を守れるんだろうか……。

 何度も繰り返される思考を断ち切るため、焔はこっそり別荘を抜け出したが、結果は部屋に居ても外に居ても変わらず、何度も同じことを考えて落ち込んでいた。
 皆と顔を合わせにくいため食事もとれておらず、焔は町に向かっていた。

 何だあれ? 有名人でも来てるのか?

 町に着くと、妙な人だかりができていて、その中心らしき場所から巨大な頭が見え近づき近くの人に声をかける。

「何してるんですか?」

「ブリ姫が来てるんだよ」

「それって誰ですか?」

 姫呼びされるなんて一体どんなやつだ? まさか鰤が大好きな姫ってことはないだろうけど。

「SNSの有名人だよ。確かな味覚を持ってて、色んな店の評価を世界に発信してるんだよ。彼女の判断で店が傾くとか――」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 要は美食家って奴か。
 あたしには関係ないし、どっか適当な場所で飯でも食べるか。

 話を聞くと長くなりそうだと説明の途中で話を終わらせ、集団に背を向けた瞬間、焔に悪寒が走る。

 気のせいってわけじゃないよな。
 あの殺気は普通じゃない。
 あそこの中に三毒か十纏が混じってるのか? 見つかったのがあたしでよかった。

 焔はわざと人気の無さそうな場所を目指し歩いた。
 路地裏を進みながら、徐々に周りから人がいなくなっていく。
 結局別荘近くの林道に入ると人気はなくなり、焔は足を止めた。

「お前が殺気を放ってたのか」

「そうだよ。私も仕事先で門番に会えるとは思ってなかったよ。一応自己紹介しておこうか。十纏の一人、ブリーレ・スイートマンだ。あんたは門番の片割れでいいんだろ?」

 焔の後をついて来たのはさっきまでファンに囲まれていたブリ姫だった。
 ブリーレは巨漢という言葉では片づけきれない程に大きい。
 焔よりも二回り以上大きな身長、体重に至っては倍でも足りない程だ。

「知ってるんならこっちの紹介はいらないよな」

 領分を広げ戦闘装束に換装しようとするが、なぜか換装できなかった。

 なんで戦闘装束になれないんだ?

「来ないならこっちから行くよ」

 換装できない戸惑いから、焔はブリーレの攻撃を見ていなかった。
 あの巨大さなら動きが遅い、それなら対処できるという油断が焔にはあった。
 しかし戦闘が始まると、ブリーレは重さを感じない速度で移動し焔の視界をその巨体で覆う。

 早い!? そう思った時にはブリーレの一撃は焔の体に直撃した。

「ごふっ!」

 あの巨体でこの速度ってどういうことだ?

「門番って弱いのね。一撃で終わるなんて思わなかったわ」

「お前みたいなのが……、そこまで俊敏だと、思ってなかったんだ……」

「人を見た目で判断したらダメよ。来世でその教訓を生かしなさい」

 ブリーレは全体重を乗せ踏みつける。
 ガードした腕がミシミシと悲鳴を上げた。

「ぐああぁぁああ!」

「焔さん!」

 秋良の声? そんなはずない領分の中に秋良は来れない。
 最後に秋良に会いたかったな……。

 死を覚悟した焔は目を疑った。

「十纏の気配だと思ったらブリーレか。久しぶり」

「レイラ。そのガキはもしかして鍵の持ち主か?」

 突然現れたのはレイラと秋良だった。

「秋良、逃げろ!」

 十纏が二人いる現状に秋良が来てしまった。
 レイラを未だに信じ切れていない焔は現状をそう捕らえた。
 ブリーレも勝利を確信し、秋良に手を伸ばす。
 自分の慢心と弱さのせいで鍵を奪われて自分達は負ける。

「これは何の真似だ?」

 しかし、そうはならなかった。
 ブリーレの腕をレイラが止める。

「何の真似って、好きな人にいい所を見せるのって普通でしょ?」

「裏切るのかい?」

「裏切るも何も、別に全員仲間じゃないでしょ。だから私は好きなようにやるの」

「なら死ね」

 ブリーレはレイラを掴み、金槌を振り下ろすように地面にたたきつける。

「秋良くん、焔を助けてあげてくれる?」

「随分と余裕ぶってるけど、今の状況から逃げられると思ってる?」

「思ってるよ」

 そういうと、いとも簡単にブリーレの手から逃れた。

「あんた今何した?」

「柔術。訳あって丸一日やってたんだ。さあ、秋良くんにいい所見せるために頑張ろうかな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...