爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。

柚木

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四章 十纏との決戦 前編

46話 奥義

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 片腕では倒せないと感じた怪物は、炎を纏っている左手も使い始めた。
 氷の結界は炎に弱いのかと思ったが、そんなことはなかった。
 炎の侵入は氷の結界を少しだけ押し込むが、すぐに氷の茨が動き出しその侵入を止める。
 その締め付けで刀が怪物の手から離れ地面に落ち、氷の茨が焔さんに届ける。
 武器を取り返した焔さんは闇の手を何本も切り落とす。

 目まぐるしく変化する戦闘に次第に目が追いつかなくなってくる。
 ただ見ている僕でこうなんだから、実際に戦っている二人の疲労も相当溜まっているはずだ。

「埒が明かないわね。神流、何か弱点はないの?」

「強いて言えば時間制限です。果実を複数食べてたので、さっきよりは長いかもしれませんけど」

「なるほどね。なら時間切れまで大人しくしててもらおうかしら」

 円状に広がっていた結界が一直線に怪物まで伸び、炎まで結界に取り込んだ。
 結界から伸びた氷の茨は怪物に巻き付き、怪物の動きを抑え込んでいく。
 そしてついに怪物を茨が全て飲み込んだ。

「お姉ちゃん、その腕は切っちゃって」

「わかった。鬼石流居合術 地裂き」

 炎を纏わない技に怪物の腕は切られ、腕が伸びていた場所もすぐに茨が抑え込んだ。

「これで、タイムリミットまで身動きできないわ」

「これで、後は三人か。いや、レイラがいるから四人か」

 二人は気を抜いているが、僕にはこれで勝ったとはどうしても思えなかった。
 裃さん達が一撃で吹き飛ばされたのを見たからか、対峙した時の恐怖が残っているからなのか……。
 切り飛ばされた腕は未だに燃え燻りながらそこにある。

「焔さん、まだ終わってないです。腕がまだ残ってる……」

 ピシッとひびが入る音が聞こえた。
 氷の茨にひびが入り、そこから腕が生えてくる。

「最後まで止めを刺さないと終わらないってことか」

 氷の腕が切り落とされた腕を掴み本体に引き寄せ、氷の茨を突き破り胴体にくっついた。

「あいつ氷も操るのね」

「どれだけ要素を詰め込めばいいんだろうな」

 氷の結界を力技で抜け出し、怪物は雄たけびをあげた。
 大型の獣と同じ構えをし、二つの鋭い眼が僕達を捕らえる。
 ドンッと地響きを轟かせ、怪物は僕達目掛け突っ込んでくる。

 氷美湖さんに引かれ何とか直撃はしなかったが、その威力に僕の心に恐怖がより深く刻まれる。
 通っただけで地面がめくれ、近くの木が風圧で折れていた。

「氷美湖、一分でいい時間をくれ。あいつはあたしが切る」

「わかった、お姉ちゃんを信じるわよ。鬼石流氷術 氷帝」

 またグッと気温が下がった。

「あんたは、あたしの近くにいなさい。その方が安全だから」

「焔さんは何をするんですか?」

「一撃必殺の奥義ってやつかしら。それじゃあ、行くわよ」

「時間を稼ぐなら、吾平律を倒したのは氷美湖さんだってことにしてください」

「それが、あいつの戦う理由ってことね。わかったわ、あんたも死ぬ気で付いてきなさいよ、少しでも油断したら死ぬわよ」

「わかってます」

「吾平律を倒したのは私よ。あんたが復讐するべきはこの私よ」

 言葉が理解できるのかと不安もあったが、怪物は重そうな足を持ち上げ、僕らの方を向いた。

 地鳴りと共に怪物の猛攻が始まる。
 炎や氷、闇が一斉に体から吹き出し、僕らを襲ってくる
 知ってはいたが、怪物の攻撃は僕の反射速度よりも早い。
 氷美湖さんが、守ってくれていなければこの数秒で何度か死んでいた。
 僕が命を長らえるたびに、氷美湖さんの体に傷が増えて行く。

 それに気がついたのか、怪物は僕を狙いをつけた。
 氷美湖さんが動いた先を見た一瞬に、氷と闇で作られた複数の腕が一斉に僕の方に向いた。

 これは、死んだ。

 二本までは辛うじて避けたが、三本目が避けた先に現れた。

「遅れてごめん」

 眼前に迫った氷の腕は地面に転がり、その代わりに亜麻色の髪が三つ見えた。

「氷美湖、秋良は私達が守るからあいつの足止めをして」

「もう準備はできてます。鬼石流氷術 氷結界・大釜」

 地面にはいつの間にか氷の杭が打たれていた。
 その杭は怪物の頭上で一つに繋がり、瞬く間に大きなかまくらが完成した。

「あれってそんなに持たないですよね?」

 どかどかとかまくらが内側から叩かれ震えている。
 僕から見てもすぐに壊されそうだった。

「大丈夫よ。もう一分経ったから」

 こちらとは反対側、つまり焔さんのいる方の壁が壊れ、そこからかまくらは崩壊した。

「お前の相手はあたしだろ。鬼石流居合術奥義 鍔鳴り」

 崩れたかまくらの奥に見えたのは焔さんを襲おうとする怪物、そして聞こえたのはキンッという小さな鍔鳴りが一つ。
 そのまま怪物は焔さんに道を開けるように二つに割れ、黒い靄を体から立ち上らせて怪物は天に消えて行った。



 吾平調を倒し終わった翌日、筋肉痛が酷い中病院に向かう。
 いまだに眠る霊山くんに昨日の出来事を伝えた。
 霊山くんは吾平調を好きだったはずで、その相手を倒したという報告は少しだけ気が引けた。

「――そんな感じで吾平調は倒したよ」

 当然返事はない。
 無機質な機械音と機械的に落ちる点滴の音だけが病室に響く。 

「目を覚ましたら、今度こそ友達になろうよ」

「ごめんだよ」

 起きないと思っていたのに、霊山くんは目を覚ました。

「起きてたの?」

「昨日からな、まだ起きるのが辛いから黙ってたのに、お前はぺらぺらとおしゃべりしてさ、本当に迷惑だ」

「ごめん。でも、よかった……、本当によかった……」

 その後すぐに霊山くんの両親がやってきた。
 昨日の夜に目を覚まし後遺症も無く、リハビリをすれば前みたいに普通に動けるらしい。
 話を聞いて長居してはダメだと、すぐに帰路に着いた。

「あいつが目を覚ましてよかったな」

「はい」

 でも、素直には喜べない。
 僕は霊山くんが好きだった人を殺した。
 その事実を霊山くんは知ってしまった。

「あたしの勝手な想像だけど、霊山はあたしと戦った時には吾平調の事を好きじゃないぞ。ただ、好きだった人に裏切られてどうしたらいいかわからなかっただけだ。だからあいつを倒したのは間違ってないし、秋良が気に病む必要はない。だから胸を張れ、秋良は友達を助けたんだ」

「そう、ですね……。そうだと嬉しいです」
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