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甘味の国 リコッタ
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雷の町を出発してから三日。濃霧の影響で車が転倒しかけたり、落石のような雹から車を守るのに苦戦しながらようやくウェザークラフトを抜け、ようやく一段落することができた。
「今までで一番過酷な国だったな」
それなりに楽しい旅ではあったが、体調を崩したり雷獣に襲われたりと今までで一番疲れた旅でもあった。
「私はもう行きたくない。あの国は地獄だったよ」
ルリーラの言葉にセルクとオレイカ以外が頷いた。
「セルクはまたみんなに会いに行きたい!」
実際に旅をした俺達以外からは不評だったが、セルクがそこまで力強く言い切ったためそれ拒否する言葉はない。
それでもやはり行きたくないな。と全員の顔に出ていた。
それから更に一日経ちようやく甘味の国にたどり着いた。
ここには大きな都市が一つだけあり、その街を細分化しそれぞれの区画によって作られる材料が違う。
小麦粉、砂糖、ミルクなど他国に頼らず自国のみで栽培、加工を行っている。
要するに菓子を作ることしか考えておらず、国を守るのは菓子と金で雇った傭兵のみという異色で異常な国だ。
「甘い匂いがするよ」
「ルリーラちゃん、あのケーキ屋さん美味しそうだよ。見ただけでふわふわなスポンジどうやって作ってるんだろう」
街の中に入るなり車を飛び出し、騒ぎ始めた女性陣に圧倒されてしまうが正直俺は酔っていた。
鼻で呼吸しても甘い、口で呼吸しても甘い。砂糖の匂いで段々と気持ち悪くなってきた。
「旦那様、気持ちはわかります。ここまでだと流石に僕も胸やけがしてきます」
「サラもリコッタに来るのは賛成してただろ」
「ええ……、甘いのは嫌いじゃないですけど、ここまでとは思ってませんでした……」
男と思い込んで生きてきただけあって感性が俺と同じらしいサラもこの臭いにやられているらしい。
そんな俺達に気付くことなく、他の全員は店に張り付いて涎を垂らしていた。
「おい、とりあえず宿に荷物奥から全員戻れ」
見慣れない車という乗り物から飛び出したルリーラ達を街の人は驚きながら見ている。
悪目立ちはしたくないのでみんなが乗った直後に車を発進させ宿街にたどり着く。
「流石甘味の国だな。建物もこうなのか」
ようやくたどり着いた宿街には綺麗にケーキやチョコレートを模した宿屋が並んでいた。
匂いは幾分マシだが、それでも飲食街から流れてくる匂いで辺りは甘ったるい匂いで充満していた。
「クォルテクォルテここケーキの宿にしようよ。生クリーム食べ放題だよ」
「ソウダナ」
もうなんか聞いただけで胃がもたれてくる……、生クリームの食べ放題ってなんだ、どこの言葉だ? 生クリームって何かと一緒に食うからいいんじゃないのか?
「兄さん、こっちのチョコの宿もいいですよ。各部屋にチョコの滝を完備してます」
「へぇー」
チョコの滝ってもはやなんだ? そこで泳ぐのか? それともそれを飲むのか?
「クォルテさんこっちのミルクの館は凄いです! ミルク風呂に色々な動物のミルクが飲み比べできます」
「スゴイナ」
ミルク風呂ってミルクに入るなよ飲めよ。動物のミルクの飲み比べって俺は一種類しかしらないぞ?
「旦那様、気持ちはわかるが、しっかりしてください」
「俺は少し車に居るから適当に決めてくれ」
風邪とは違う嘔吐感に悩まされながら宿を決めるまでの一時間を車内で過ごした。
結局決まったのはアルシェの進めていたミルクの館だった。
宿の中に入ると驚きの白さだった。
壁はミルクが流れている様な凹凸がありロビーの椅子はミルクが入っている瓶を真似ている。そして従業員は漏れなく牛の衣装を着ていた。
辛うじて結局ミルクは牛じゃねえかと突っ込むのを我慢し部屋を取った。
「まあ、そうなるよな。ミルクの館だもんな」
外の光を跳ね返し目が潰れる程に輝く純白の室内。
そのために汚れ一つ無いのは評価できるが、正直もう辛い。甘さが疲れを取ってくれるってのは嘘だな。
疲れの余り俺はベッドにそのまま倒れ込む。
ミルク臭い。いや、腐ってる臭いじゃなくて甘い匂いなのだが今の俺にはどちらにしても辛い。
しかしそうは言っても旅の疲れか、甘さに酔ったのか俺はベッドに体を沈めたまま眠りについた。
「少しスッキリしたな」
大きく体を伸ばし空を見ると精々眠っていたのは一時間程らしい。
そこで違和感に気が付いた。
誰もこの部屋に来ていない?
ドアの前に置いた荷物も崩れていないし、他の荷物も眠る前と変わった様子はない。
いつもなら我先にとルリーラ辺りが飛んでくるはずなのに今日は来ないのか?
あれだけ喜んでたしそのまま外に出て行ったのだろう。それなら久しぶりにゆっくりしようじゃないか。やりたい研究もあるし領域の練習もしたい。
たまにはこんな日もありだな。
そう思いながら久しぶりに自分の為だけに集中した。
†
おかしい。
自分の作業に必死になって気が付いたら日は暮れていた。それなのに誰一人として部屋に来る奴がいない。
今まで散々来るなと言っても来ていたルリーラも、何かに理由を付けてやってきたアルシェも誰も俺の部屋に来ない。
久しぶりに自分の時間が取れて嬉しいがこうなると逆に不安になる。
誰かに攫われた? あの七人を無音で攫って行くのは絶対に不可能だ。ルリーラの五感、アルシェの魔力感知をすり抜けて来れる人間がこの世界にどれだけいるのか。
大丈夫だと思いながら七人が泊っている部屋のドアを叩く。
「おーい、みんないるか?」
声をかけても返事はない。
一言声をかけてから部屋に入ると中には誰もいなかった。
それでも部屋に荒らされた形跡も薬を使った形跡もない。
俺の知らない間に出て行ったのか? いや、俺が寝ている間に外に出て行ったのか。声をかけても俺が気づかなかったってところか。
しかしそれでも誰一人部屋に居ないというのが気になるところだ。
あいつら何か企んでるのか?
一瞬探しに行こうかと考えたが、それは過保護すぎると自制する。
「ご主人そんな所で何してるの?」
「フィルか。いや、お前達の部屋に行ったんだけど誰もいなかったから、探しに行こうかどうしようかと悩んでた」
「つまり寂しかったと」
「違うとは言えないな。案外図星かもしれない」
寂しかったは確かにピッタリな気がするな。
今まで賑やかなのが急に静かになって寂しかったんだな。
「うん。正直なご主人にご褒美としてあたしが一緒に晩御飯を食べてあげよう」
「他の連中はどうしたんだ?」
「女子会。あたしはそれを伝えに来たんだけど、ご主人が寂しそうだから女子会はお休みしようかな」
そう言って思いっきり腕を絡めてくるフィルに連れられ、俺はフィルと二人きりで晩御飯を食べることになった。
「それでお前達は何を企んでるんだ? 俺に声をかけずに外出してるのにそんなこと無いってのは無しだぞ」
一通り食事を終えデザートを食べながら話を聞いた。
フィルなら口を滑らせることはないだろうが、何かしらのヒントくらいはくれると思っていた。
「今回はあたし何も話さないよ、みんなに怒られるし。乙女の秘密ってことで黙認してくれると嬉しいな」
いつものように間延びした話し方だが、口は堅いようで何もヒントさえ教えてくれないらしい。
やっぱり本気で聞きだすならセルクしかないだろうけど、そっちは他の誰かが一緒に居て止められるだろうしな。
「今回は完全に俺がのけ者なのは理解した。だからみんなに伝えてもらいたいんだがいいか?」
「内容によるよ。あたし達が何をしているかわかるようなのは駄目だよ」
「それは諦めたよ。俺から言いたいのは危ないことには首を突っ込むな。それと暗くなる前に連絡しろ」
別に全員で行動しているなら心配はいらないしな。クロアみたいなものに首を突っ込まなければ好きにしていていい。
「うん、伝えておくね。聞き分けの良いご主人にはあたしがこのケーキを食べさせてあげましょう。はい口開けて」
フィルは一口分のケーキを俺の口元に運ぶ。そしてその目からは問答無用拒否権無しと書いてある。
仕方なく口を開けるとにこやかな笑顔でケーキを俺の口に入れる。
「美味いなコレ。なんてケーキだ? フルーツがちょっと酸っぱくて甘いケーキによく合うな」
強めの甘さもこの果物と一緒のおかげかしつこく感じない。これはかなりうまい。食事も油ものだったから酸味が心地いい。
「ご主人って甘いの苦手だった?」
「嫌いじゃないな。普段なら全然平気だが、この国にいる間は甘さ控えめなこういうのが食いたい」
甘味の国に来てから体全部が甘くなった気がしていたが、油ものの強めの味付けと果実の酸味のおかげで甘さを緩和できた気がした。
「じゃあ、交換してあげるよ。そっちのケーキも食べてみたいし」
「いいのかありがとうな」
俺はフィルから交換してもらったケーキを次々と口に運び、ぺろりと全てを食べ終え紅茶で口を整える。
苦みが更に心地いい。ここに居る限り甘さ以外が全て心地よく感じてしまう。
「そんなに見つめてどうしたんだ?」
「今更だけどご主人あたしのフォーク最後まで使ったなって」
そう言ってフィルは俺の使っていたフォークを口に運ぶ。
フォークに残っている生クリームを自分の唇でこそぎ落とす。
俺に見せつけるように艶めかしく行う仕草に俺は意識せずにはいられない。
無意識のうちに食べてたが、手元に残ったフォークに生クリームは残っておらず、俺もフィルと同じように食べていたのだろうか。
だからあんなに見てたのか。
「ご主人ってたまにすごく可愛いよね。関節キスくらいで照れてさ。いつもそれ以上のことしてるのに」
「意識してるのとしてないのじゃ差があるんだからしょうがないだろ」
それにあんな風にされたらどんなやつでも意識するだろう。
「顔真っ赤だね。初々しいね可愛いね」
散々からかわれ二人で店を出る。
「今日は帰ってくるのか?」
「そうだね、そろそろセルクもお眠だろうしあたしがみんなを呼んでくるから、ご主人は先に帰ってて」
フィルが走り出したのを見て俺も自分の部屋に向かう。
知られたくないことをしているみたいだし、折角だからこの機会に色々個人的な買い物をしよう。
†
七人で何かを隠していることは知っているが、いかんせん暇だ。
それなりに広いこの国ならそれこそ実験に必要な物が揃うと思っていたのだが、この国にあるのは菓子を作るのに必要な物だけだった。
申し訳程度の武具、必要最低限の雑貨、実験器具は料理と併用できる物のみで、当然しっかりとした実験は不可能。
できるのは領域の訓練のみだが、流石に疲れてしまった。
一人になって一日で手持ち無沙汰になってしまう。
「暇だな」
この国独特の胸焼けするほどの甘い匂いにも慣れつつあるが、あまり外に出る気にはなれない。
旅に出てから常に誰かと一緒に行動していたし、その前も家族や学友と一緒にいたため、俺は初めて一人で過ごしている。
せめて実験したい。魔力を運用した昇降機とか、機器を動かす魔力の低減化の実験と検証をしたい。
「パパ、入るね」
「セルクか、どうした?」
ノックもなしに部屋のドアを開けてセルクが入ってきた。
今のこの退屈な状況なら厄介事でも大歓迎だ。
「パパと遊びたいから来たの、ミールママと一緒」
「来ちゃいました。兄さんが暇してるだろうと思いまして」
セルクの後ろからミールもどこか落ち着かなそうに入ってきた。
「ミールもか、入れ入れ。実際に暇してたから助かったよ」
問答無用で俺の膝に座るセルクの頭を撫でながら、声をかけるとミールもベッドに腰を下ろした。
そして何かを言うかと思ったが、何も言わずに無言だけが流れていく。
どこかおかしな挙動に何かあるのかと思ったが何もないらしい。
「少し街を散歩するか? 部屋にこもりっきりなのもよくないしな」
「そうですね。行きましょうか」
「やったー、お散歩お散歩」
勢いよく飛び上がったセルクが俺とミールの手を握って外に飛び出す。
街の中はどこを見ても胸焼けしそうなほどに菓子屋が並んでいた。
ケーキにチョコ、パンにアイス。うんざりする光景をセルクは喜んで見ていた。
「パパこれ! これ食べたい!」
「わかったから離れような」
窓ガラスに張り付くセルクを引き離しチョコレート屋に入っていく。
店内はカカオの匂いで満たされていた。
窓ガラスから見えていた巨大な装置からは滝のようにチョコレートが零れ落ち、それを職人が手際よく混ぜ、それが終わると次の人へと連綿と繰り返されている。
「流石だな。全員手際がいい」
「パパセルクあれを直接飲みたい」
「それは人として踏み越えてはいけない一線だぞ」
今までにないほど真剣な顔で馬鹿なことを言ってのけるセルクを窘め列に並ぶ。
「ミールはどれがいい? イチゴとかホワイトとか種類も結構あるぞ」
「わっ……、兄さんが食べたいものでいいです。それを分けてもらえればそれでいいので」
「わかった。それじゃあ、この甘さ控えめのビターにしようかな。フレーバーは最初だしプレーンでいいか」
最初に言おうとした、わっていうのが気になるが、ミールも何か考え事をしているのだろう。
「セルクはね、凄い甘いのがいい。それで甘い匂い!」
それから三十分ほどで店員にたどり着き、チョコの二種類買い店を出た。
もっと時間がかかるかと思っていたが、思いのほか早く買い物を終えることができた。
チョコの味は甘いのが苦手な人向けなのか、苦みが強くカカオの香りが口に広がる一品に仕上がっていた。
セルクにも食べさせてみたが、小さく一口だけ食べ顔をしかめながらいらないと残りを俺に返して来た。
「ミールは何を考えてるんだ? 部屋に来た時から様子が変だぞ?」
「いえ、別に大したことじゃないですから」
「セルク知ってるよ。あのね――」
「セルク、少し黙っててお願いだから!」
俺に隠れてやっている何かについての事か。それなら変に詮索しない方が良さそうだ。
昨日フィルに黙認するって言ってるし、危険なことじゃないなら口を挟む必要もない。
「何か秘密で企んでるやつで悩んでるなら別に何も言わないぞ」
「そうです。それで少し考え事をしていたので」
「それならやっぱり宿に戻るか? そっちの方が考え事には向いてるだろ」
「いえ、大丈夫です。寧ろ散歩していた方が考えがはかどりますから!」
勢いに押し切られる形で散歩を再開することにした。
ミールはどこか行きたいところがあるわけでもなく、行先はほとんどセルクが決めて歩き続けた。
流石に甘いのばかりは俺が持たないので、菓子以外も置いているところにも入ったりした。
「ミール、一度考えるのやめないか? そんな考え事ばかりだと折角の散歩も楽しくないだろ」
「そうですね。折角兄さんといるんですから少しくらい良いですよね」
そんな言葉を交わした俺達の間にセルクが入り手を繋ぐ。
「なんかこういうのいいですね、親子が歩いているみたいで」
「セルクのサイズがもっと小さければな」
セルクが子供と知っていれば確かに家族に見えなくもない。俺が父親、ミールが母親でセルクが子供。だが、傍から見るセルクは完全に大人で、俺達よりも頭一つは大きい。
「仲のいい兄妹ね。お姉さんがニコニコしているからかしら」
そうなると当然俺とミールが年下でセルクがお姉さんに見られるのは当然だ。
「どうやっても私は兄さんの妹にしかなれないんですね……」
その後どこか暗く沈んだミールと夕食を食べそのまま解散した。
†
「お邪魔します」
「オレイカ、いいのかノックもなしに旦那様の部屋に入っても」
「静かにして、王様が起きないようにしてるんだから」
扉の開いた気配で目を覚ました。どうやらサラとオレイカが部屋に入ってきたらしい。
寝ぼけたまま目を開けると日は昇り始めたばかりのようだ。
まだ少し眠いし、もう少し寝ていても文句は言われないだろう。
「このままベッドに潜り込んで、既成事実だと王様が認めればどうなると思う? そう王様は私達との関係を認めざるを得ないんだよ」
「つまり僕達はルリーラ達よりも一歩先に行けるということか。なんという策士」
「いや、そんな上手くいくと思ってんのかお前らは」
まだ眠いがこのまま寝たらどんな噂を作られるか分かったものではないので、仕方なく体を起こす。
そして二人の姿に俺はため息を吐く。
遠くが透けるほどに記事の薄い服、その奥には局部しか隠していない下着。眼福というには攻めすぎた服装だった。
「二人ともその恰好でここに来たのか? 恥ずかしいとかはないのか?」
隣の部屋とは言え、共有スペースである廊下を通らないといけない。それをその恰好でやってくる度胸は認めよう。
「オレイカ、旦那様が引いている気がするのは僕の気のせいか? うわぁ……こいつこの格好でここまで来たのかよ……みたいな顔してるぞ」
「表面上取り繕ってるだけだよ。内心はひゃっほー、俺好みの魅力的な服装だぜ! このまま二人とも頂いちゃうぜ! って思ってるんだよ」
「そうなのか、旦那様!?」
心意を確かめるためにサラが一気に距離を詰めてきた。
服装からくる恥ずかしさに顔を紅潮させているが、恥ずかしいなら着替えてもらいたい。
「正直色気よりも品の無さが目立つからとっとと着替えて来い。寝起きすぐに突っ込ませるな」
絶望の表情を浮かべるサラを見てオレイカは満足そうにしている。
一切近づかないところを見ると、サラにこの格好をさせるために自分も来たのだろう。
そして二人は俺の服を羽織り部屋に戻り、普段着に着替えてから戻ってきた。
「それで、今日は随分早いな。何かをやってるはずだろ? そっちの手伝いはいいのか?」
昨日も昼頃だったし、まだ準備があるんじゃないのか?
「僕達はその、戦力外で……、旦那様を準備しているところに近づかせないために今居ます……」
残念な理由だった。
それにしてもサラとオレイカが戦力外って何をしているんだ? 二人とも手先は器用だし、和を乱すようなことはしないだろう。
「そんなわけで私達は今日王様を接待します。それじゃあ外に行くからお着換えしましょうね。はいばんざいして」
「それは接待じゃなく育児だ自分で着替えられるから」
早くも今日一日で疲れるのを理解した。
接待先に選んでくれたのは大きな公園だった。
なんでも菓子を使った模型を展示しているらしく、公園程の規模で模型を飾るのかと侮っていた。
しかし俺の想像を遥かに超える展示がされていた。
文字通りのお菓子の家、本物そっくりのお菓子の木、飴細工で作られた動物達、公園中が菓子で埋め尽くされていた。
「これは流石に驚いた。こんなのやってたのか」
「僕もこれには驚きました。今まで見てきた大がかりな物は精々パーティー用のケーキだけでしたから」
「もしかしてオレイカも何か展示してたりするのか? 手先も器用だしこういうのは得意な方だろ?」
造形師ではないが、それでも負けないくらいには立派な物が作れるはずだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね、ここに並べるには余りに不格好だから」
「アトゼクスや車を作った人物とは思えませんでした」
サラがそう言ってしまう程の出来だったのか。逆の意味で見てみたい。
「バランスが難しいんだよね。普段中を作ってから外を作ってるから最初に外を考えるのは難しんだよね」
俺から見ればどっちにしても凄いと思うが、職人のオレイカからすれば凄さがわかる分下手の物を出せないと思っているのかもしれない。
「旦那様、造形部門もいいですがこちらの味覚部門も中々面白いですよ」
ここは造形部門らしい。見た目を競う場所だったのか。通りであんな立派な物があるはずだ。
案内されたのは造形部門と比べるとどうしても小さく感じてしまうスペースだった。
小さなテントがいくつも並んでいるだけの華の無い空間。
その一つに入ってみると受付の人がいるだけだった。
「いらっしゃい。ここは七色の味が楽しめるテントだよ。これが皿だからご自由に楽しんで」
受付の女性に貰ったのは皿というよりも絵描きに使うパレットに見える。
小さな枠組みがいくつも並び、それとは別に大きな枠が一つだけある。
何に使うのかわからないまま先に進むとたくさんの試験官が並んでおり、その一つ一つに色とりどりの液体が入っている。
「その中の液体をこの小さな枠の中に入れて、大きい所で混ぜます。そうすることで複数の味を楽しむことができます」
サラから説明されたまま、液体を匙で掬いパレットに乗せていく。
試しに青い液体を単体で舐めると胸焼けしそうに甘かった。
もしかしてこれ全部甘いのか?
不安になりながら黄色の液体の味見もする。
今度は顔が中心に集まるほどに酸っぱい。
その二つを合わせてみると、青の甘味が先に口へ広がるが、すぐに黄色の酸っぱさが甘味を消してくれる。
「どうでしょうか、童心に帰れる場所ではありませんか?」
「そうだな。正直少し馬鹿にしてたかもしれない」
それから食材ごとに美味しくなる味付けや、五味を一度に味わえる飴などを楽しみながら公園を散策して回り、気が付くとすっかり日も落ちていた。
「ありがとうな。正直ここまで楽しいとは思ってなかった」
「それでは最後に夕食を食べてから戻りましょうか」
「それと明日も私達が迎えに行くから部屋に居てね」
部屋にいることを了承し俺達は宿に戻った。
†
翌日、至る所で鳴らされる鐘の音で目が覚めた。
ゴーンゴーンと体に響くほどの轟音に、睡眠不足を訴える体を黙らせた。
「敵襲って雰囲気でもないよな。何の音だ?」
これだけの爆音に宿泊客は誰も文句を言わないらしい。もしかしたらこの音で文句が聞こえないだけかもしれない。
何の合図かはわからないが、確認のため窓の外を見ると国民らしい人達全員が同じ方向に進んで行く。
「あっちは確か、城の方だったよな。国王が退位でもするのか?」
ここの国王は確か三十代だが、不摂生の塊みたいな男だったはずだ。馬車にも乗れず、玉座もベッドのようなサイズでないと座れない肉の塊らしいしな。
だが、退位にしては国民が楽しそうに歩いている。
何があるのか気になりはするが、サラとオレイカがこれから来るし見に行けないか。
「あれ、王様いるなら返事くらいしてよ」
「鐘の音が鳴っていたのだから流石の旦那様も聞こえないだろう」
気が付くと鐘の音は止みサラとオレイカが部屋に入ってきた。
普段着のはずなのに見覚えのない綺麗な服を二人は着ていた。どこか気品のあるドレスのようだが、しっかり普段着で切られるような衣装を二人は着ている。
「それどうしたんだ? 見たことないけどここで買ったのか?」
「買ってません。衣装屋から借りてきた物です。他の人達も似たような服装です。女性はひざ下までのスカート必須、男性は襟付きジャケット必須が決まりですから」
まるで社交界でも開かれそうな話だな。
外を見ても確かに男女で色や形は違うが、サラの言った様な服装をしている。
「これから城に向かうのはわかったが、俺はジャケットなんて持ってきてないぞ」
公の場で切る衣装はほぼ全てアリルドに保管してある。唯一の一張羅も城塞の国で汚れてしまっている。
「そんな王様のために借りてきてるよ。それじゃあ、これに着替えて出発だ!」
言われた通りに着替えたが、二人のように砕けた服ではなく本当に社交界へ向かうようなしっかりとした衣装だった。
研究畑でほぼ根無し草で暮らしているせいか、ここまでかっちりとした服は着なれないため落ち着かない。
「素敵です。旦那様」
「王様カッコいいよ」
「そう言ってもらえたらお世辞でも嬉しいよ」
二人は褒めてくれたがやはり落ち着かない。これから行くところにこれが必要と言うなら着ていくしかない。
そうして二人の案内の元城に向かうことにした。
「ところでサラの刀とオレイカのその帽子は規定違反ではないのか?」
一応服装と合ってはいるが、それでもこういう場でそういうものは大丈夫なのだろうか。
「私のは平気だよ。規定から外れてないし」
「僕のも問題ありません。刃は付いていないので。小道具として問題ありません」
刃が無いなら何で帯刀しているのか疑問は残るが、サラなりのこだわりなのだろう。
「そう言えばたまにいる料理人みたいなのは何だ? ジャケットもスカートも無いようだけど」
実際の料理人なら早く行かないといけないはずだ。もしかして交代要員なんだろうか、大食漢の国王のために交代制もあり得ないことじゃない。
「それはついてからのお楽しみだよ」
そう濁され、混雑するなか目的地まで一時間ほどかかった。
到着したのは城の少し手前の巨大な建造物。何人収容できるのかわからない程の広さの円状の建築物。そしてこれと似た建物に見覚えがある。
「これって闘技場じゃないか?」
火の国で行われた武道大会の闘技場と同じ建物の中に、全員が吸い込まれるように入っていく。
闘技場に服装の規則は必要なのかと、疑問に思いながら持ち物検査をされ客席に向かう。
一対一で戦うはずの中央には大量の調理場が出来上がっていた。
軽く見て二十を超える調理台に、料理人の恰好をした連中が百を超えて待機していた。
「戦いは戦いですが、競うのは武力ではありません。競うのは女子力です!」
段々と見えてきた。どうやらこの大会にルリーラ達が出場しているのだろう。それでこの二人は出場させてもらえなかったのか。
確かに女子力という点だと二人には厳しいだろうな。オレイカの部屋の惨状に武の修行しかしていないサラ。
「王様、その憐れんだ目はやめてくれる? 口にしなくても結構傷つくんだよ」
「それなら他の五人は全員参加したのか?」
「参加したのはルリーラとアルシェ、それにミールの三人。フィルとセルクは先に場所取りしてくれてる」
ルリーラが参加しているのは意外だ。あいつに家事の才能があったとは知らなかった。
ルリーラよりだったらフィルの方が適任の様に見える。
「あの三人はベストメンバーです。食材の良し悪しの判断が得意なルリーラ、どんなものでも完璧に作れるアルシェ、調合などのサポートが得意なミール。何度か試してみてこの三人が一番でした」
俺の知らないところで予想以上に本気でこの大会らしきものに望んでいた。
「この大会は何か商品が出るのか?」
「何もないよ、あるのはリコッタで一番美味しい菓子職人という名誉だけだよ。いつまでも空席確保してると周りの目が痛いんだから早く来てよ」
俺達を見つけてくれたらしいフィルに腕を引かれながら客席に座ると、セルクがすぐに俺の膝に座る。
「パパ遅い。もうすぐ始まっちゃうよ」
確かに開会の宣言は終わっているらしく、それぞれが調理台で準備を始めた。
周りの観客たちがテンション高く見守る中、俺は未だに事態を飲み込めずにいた。
誰か俺に説明をください……。
†
何の説明もないまま延々と大会は盛り上がりを見せている。
何やら知らない材料と知らない食材を混ぜ合わせ、今までにないらしい食品が生まれ、今まで実現できないと言われていたらしい調理方法を使い今までとは比べ物にならない程に精巧に作られるらしい食べ物。
他の観客はそのよくわからない調理に大盛り上がりで熱狂しているが、俺には何一つわからない。更にいえば観客の盛り上がりに付いて行けない。
「ルリーラ達ってどこなんだ? ベルタとプリズマが居るなら目立つはずだけど」
「今は二組目で、ルリーラ達は次の次だね」
何やら対戦表まであるあるらしく、フィルが見せてくれた。
目が痛くなるほどの参加者の中にロックスチームとして参加しているらしい。
その対戦表を見て知ったのはこれは予選らしく、全八回の予選をして決勝に進む八組を厳選、そこで作られた八品を国王が試食して順位を決めるらしい。
よくある大会形式だが、やはり周りとの温度差を感じる……。
火の国や地の国では参加者だったし事前に知っていたから、周りと同じく盛り上がれたが、今回はいきなり連れてこられてどうしたらいいのかわからない。
「ルリーラ達が出るまで席を外してもいいか?」
「ダメだよ。あたしが教えてあげるからちゃんと見てて」
フィルに服を掴まれては逃げられず、俺は会場に目を向けた。
「二組目で注目なのはあのカルトって人。この国でも有名な菓子職人でスポンジを作らせたらリコッタ一って言われてる。今作ってるのもスポンジだね。それに合わせるのは何だと思う?」
「スポンジってケーキだろ? それなら普通に生クリームとかが普通なんじゃないのか?」
「そう思うけど違うの。合わせるのもスポンジ。スポンジだけでケーキを作ろうとしてるんだ」
フィルがいう通り確かに生クリームっぽい食材もない。
そう思った直後にスポンジを鍋にぶち込んだ。
「あいつスポンジを鍋に入れたぞ? あれは何をしてるんだ?」
「色から見るとイチゴのソースかな。もう一個のスポンジの色は真っ白だし、たぶんだけど作るのはイチゴのケーキになるのかな」
真っ白いのが生クリームの代わり、今鍋から取り出したのがイチゴの代わりってことか。
「それだったら普通に美味い生クリームとイチゴで十分じゃないか? わざわざ変わり種で勝負しなくてもいいだろう」
「予選のテーマが意表を突くデザートだからね。全員が変わり種だよ」
「そんなテーマがあるのか」
題目に合ったうえで美味い物を作るのか。なるほど、それなら確かに納得できるな。
全てをスポンジで作っているのなら見た目も全てがしっかりと層に分かれ、滑らかな印象が強いケーキが角ばって見た目も面白くなる。
「カルトは今回の優勝候補だよ。後もう一人面白いのは、あの人」
「うわぁ……」
そこには城が出来ていた。どうやって積んだのか、はたまたどうやって食べるのか見当もつかない。四メートルくらいありそうな城が鎮座していた。
「この国で建築士をしているトット。毎回造形は完璧なんだけど見た目重視で味があんまり美味しくないんだって」
「そこまで造形にこだわりがあると尊敬できるよ」
「ちなみに今の宿の建築士もあの人なんだって」
納得だ。中も外もミルクに対してのこだわりが凄すぎる。
どんな馬鹿かと思っていたがこんなバカだったとは……。
それから何人が説明してもらう頃には俺も周りと同じくらいには楽しめるようになっていた。
「次がルリーラ達の出番か?」
カルトが予選を突破し、三回目はクヤックというチョコ職人が予選突破した。
そして四回戦目はルリーラ達の出番となった。
「あの三人は何を作るんだ?」
「スープを作るんだって。野菜たっぷりのやつ」
「……菓子として美味いのか?」
野菜入りのスープって、菓子じゃないよな。奇をてらいすぎじゃないか?
調理が始まると真っ先にルリーラが動き出す。
あらかじめ決まっていたのか、他の参加者よりも早く食材を手に取り自分の持ち場に戻る。
届けられた食材はアルシェとミールの手で調理されていく。
持ち込まれた素材はどれも菓子作りに必要不可欠な物で、とてもスープが作れそうには見えない。
「不安そうだけど、大丈夫だよ。あたし達が全員味見してるし、アルシェの腕は知ってるでしょ?」
フィルはそう言うが、どんなのが出てくるのか不安だ。
アルシェの手元にあるのはチョコと小麦粉、ミールの手元にはミルクと調味料が少量、ルリーラは食材探しの最中。
ミルクがスープでチョコと小麦粉が具になるのか? 普通にミルクチョコにしかならない気がするんだけど。
「今回要注意なのは誰なんだ?」
まだまだ下処理が続きそうなので、他の優勝候補を見てみることにした。
「一番有名なのは、餡子の鉄人ピピ。餡子と餅を使ったダイフクっていうのが前回の大会では好評だったんだって」
確かに今も餡子を作っている途中らしい、手際よく豆を潰している。
「それにしても大半が異様にデカいな」
変わり種ってことでみんなが最初に目を付けるのは大きさなのだろう。印象に残りやすく、心得があれば作りやすい。ピピもすり鉢を五個も使う大作のようだ。
「アルシェの下処理が終わったみたいだよ」
フィルに言われ、アルシェの手元を見るとそこにはスープの食材が出来上がっていた。
野菜と肉が下処理された状態で調理台の上に置かれていた。
「あれは本物じゃないんだよな?」
「うん。あれも全部お菓子だよ、ここまで揃えば後はもう盛り付けだけだよ」
ミールの方も準備ができているらしく、鍋の中にはミルクが準備されていた。
本当にもう終わりの様で鍋の中に野菜もどきと肉もどきを投入し少し混ぜてから器に乗せた。
「あの器ってもしかしてパンか? それにあのスプーンも食えるのか?」
妙に茶色っぽい器と透明なスプーン。菓子に造詣が深いわけでもないため、それらが何かははっきりとわからないが、普通の食器でないことは見てわかる。
「ご名答、パンの器と飴のスプーン。飴が舌に甘さを与えてくれるから甘さもばっちり。肉と野菜の甘さも飴と微妙に違うから飽きないし、全てが時間経過で溶けたミルクもパンにしみ込んで甘くなるよ」
聞くと完璧なように感じるが、味に関しては審査員がどう感じるかだ。
それから全員の調理が終わり、実食に入る。
審査方法は十人の合計点で競われる。見た目と味がそれぞれ五点満点で計十点。その合計が最も高い組の勝ち。
同点の場合は、味だけの評価が高かった方の勝ちになる。
優勝候補のピピの得点が八十七点。他の連中が七十点台なことを考えるとやはり頭一つ抜きんでているらしい。
そしてルリーラ達の番が回ってくる。
『見た目は完璧なスープだ。見た目の点数は四十三点! 高得点です! さぁ実食をどうぞ』
審査員が口にスプーンを運ぶ、そして更に一口と口に運び、皿とスプーンを一口ずつ食べてから審議に入った。
そうして発表された点数は四十六点。
『四十六点です。見た目の点数四十三点を合わせて八十九点です! 強豪、餡子の鉄人を超える点数を叩きだした!!』
その宣言と共に客席がに一斉に湧き出した。
先の二戦は順当だったらしく、今回が番狂わせらしい。
そしてそのままロックスチームを超える点数が出ることもなく四回戦は終了した。
†
予選の全てが終わり八組の決勝進出者が選ばれた。
決勝のお題は『美味い菓子』ただそれだけらしい。
見た目などももちろん審査対象だが、何よりも味。味が一番美味いものが優勝で、同格だと判断され始めて見た目などの味以外の部分が評価されるらしい。
「美味い菓子って曖昧にも程があるんじゃないのか?」
「理由は技術の粋を集めても枠にとらわれていては真の美味さを表現できないから。ってことらしいよ」
「そういう理由なら仕方ないな」
チョコとかケーキなんてお題では、確かにチョコの中で美味いケーキの中で美味いになってしまうからな。
それは確かにこの国の理念に反するのかもしれない。
「決勝で作る菓子はまた例によって俺には教えてくれないんだろ?」
「固定概念なく三人の調理を見て欲しいかな、それでご主人がどう感じるか私が知りたい」
調理を見たって素人の俺には何もわからないと思う。
研究者の研究を他人が見ても何をやっているのかわからないように、菓子作りを知らない俺が見ても理解はできない。
それでも仲間としてその頑張りだけは見たい。
「型を取り出したってことはケーキってことになるのか? ルリーラが混ぜてるのも生地っぽいし」
「私からは何も言わないよ。ご主人が何を作っているのかを見て欲しいし」
フィルは俺に教えるつもりは一切ないらしい。他の三人も同じらしくただルリーラ達の調理を見つめている。
何を作っているのか、わかるのはルリーラが生地を作っている、ミールは果物を瓶に詰めている、アルシェはチョコを作っている?
三人の作業を見ていてわかるのは、チョコレートのケーキを作っている。それだけだ。しかしそうなるとあの型の存在がわからない。
普通のケーキ作りに使う型とは違うらしく、上部がギザギザの形になっている。あの型で作る物はなんだ?
「ご主人結構本気で考えてるね」
「そりゃあな、フィルがどう感じるか知りたいって言ったんだろ。それはつまりあの菓子は俺のために作られているってことだ。それなら真剣に考えもするさ」
「流石ご主人だね。それじゃあもう邪魔はしないから考えてね」
そうこうしている間にも調理は続いていく。
型に生地を流し入れ、オーブンに入れていく。
やっぱりケーキなのはわかる。しかしあまりに普通でお題に合っているのかの判断ができない。
決勝まで来ておいてお題を無視している? そんなことする理由なんてないよな。
いくら考えてもわからないまま生地が焼けた。
遠目で見てもわかるくらいに黄金色に輝いている生地に周りから感嘆の声が上がる。
そしてあろうことかアルシェはその生地を抉り取り始める。
「あれにも意味はあるってことだよな?」
「秘密だよ」
そう言われる気はしていたが、意味はあるのだろう。
そして開けた穴にミールから受け取った果物を嵌め込んだ。
妙に光沢がある果実を見てあれがシロップ漬けなのだと理解した。
「あれは王冠だよな。それで俺のためか」
俺はアリルド国の国王だ。その俺のために作られたケーキってことなのか。
シロップ漬けも瓶の数は七個。それを王冠に嵌めている。
あのケーキは俺とみんなを模したケーキ。
「あの果物は全員で好きなのを選んだのか?」
「そうだよ。みんなが好きな果物を選んだの。それをアルシェとミールがバランスを取ってくれてあのケーキを作ってくれたんだ」
「なんだか恥ずかしいな。俺のケーキってことか」
七人で何をしているのかと思えば俺のためにケーキを作っていた。嬉しくて口元が緩んでしまう。
口元を隠しながら調理の続きを見ると、果物を嵌め込み終わった後にシロップとチョコを薄く塗ると、光沢の他にうっすらと陰影が浮かび上がる。
「ケーキってあそこまで綺麗に出来上がるんだな」
完成したケーキは試食の台に置かれ、他の参加者が出来上がるのを待っている。
そして全員の調理が終わり、参加者から一言ずつ意気込みが発表されていく。
一人また一人と話が終わりルリーラ達の番になり、アルシェが小型の拡声器を受け取る。
「このケーキは私達の大事な人に送るために作りました。いつも私達の事を考えて守ってくれる親愛なる私達の君主にこのケーキを送ります。名前はクラウン・ディアモナーク。食べていただけますか?」
三人が俺の方に向いてそう口にした。
目頭が熱くなる、悲しくないのに涙があふれてくる。
嬉しくて嬉しくて仕方ないのに、涙が止まらない。
俺はこんなに涙脆かっただろうか……。
「パパ泣いてるけどどうしたの?」
「王様は嬉しいんだって、みんながしてくれたことが嬉しいんだってさ。やったね」
「僕達からのサプライズは受け取ってもらえたようでよかった」
「三人には聞こえないけど私からの贈り物食べてくれるよね?」
そんなことは言葉にするまでもなく決まっている。
「もちろん、食べるに決まってるだろ」
涙に震える声で俺はそう呟いた。
†
大会の結果は残念ながら四位で表彰台に立つことはできず、勝つつもりだった三人は少しだけ不服そうに俺の元に戻ってきた。
「お疲れ、四位でも十分な成果だと思うぞ」
「結果は確かに残念は残念なんですが、正直そこまで気にしては居ないんです」
ミールはそう言っているがそれなら何が不服だったんだろうか。
「あの後大変だったんだよ……。アルシェがクォルテに向かって色々言ったのを勘違いした人が多くて……、告白してくる人がたくさんいたの……」
ベルタを疲労させるほどの人数が押しかけたらしい。
確かにあの言葉は名指ししていないし、自分に向けて言われたと勘違いする人が居てもおかしくはないよな。
「ルリーラちゃんとミールさんが、頑張って断ってくれたのですが、それでも諦めてくれなくて……」
確かにアルシェに断るのは難しいだろうな。基本弱気だし、強く言うのは苦手だろうし。
その代わりに二人がアルシェを守りながら来たからこんなに遅かったわけか。
「それとムカつくのが、告白されるのがアルシェ先輩だけなことです。私もお姉ちゃんも居たのにこっちには一切なし。全員断るつもりですが、誰も来ないのはそれはそれで苛立ちます」
「それは残念だったな」
見た目だけで言えばアルシェが一番モテるのは理解できる。
綺麗だがどこか幼さがあり、スタイル抜群に気弱そうな雰囲気なのに、さっきの様に強い所も見せた。
その上、両サイドには子供の様な二人もいて余計大人の様に見えてしまえば、そりゃあ人気も出るだろう。
「クォルテは今この中だと見た目で一番はアルシェだしなとか思ったでしょ」
「思ってないぞ。みんな可愛いのに不思議なこともあるもんだよな。って思ってた」
「兄さん、それならばなぜ目を反らしているんですか? 本当の事を言っているならしっかり私とお姉ちゃんの目を見て言ってください」
「すまん」
二人の視線に対して俺は素直に謝った。
「本当ですか? 私が一番可愛いと思ってくれていますか?」
「え、まあ、見た目だけなら二人よりも大人っぽいしな」
俺に褒められて余程嬉しかったのか、アルシェはいきなり俺に顔を近づけてきた。
興奮で紅潮したその顔が少し色っぽく感じてしまう。
「帰ったらあのケーキを作りますので是非食べてくださいね。あっ、そう言えば作る食材買い忘れていました。買いに行ってきます」
「アルシェ先輩は兄さんとお姉ちゃんと一緒に帰ってください。食材は私が買ってきますから」
「でもミールさんにお願いするなんて」
すぐに走り出しそうになるアルシェの腕をミールが掴むが、アルシェも買い物は奴隷の仕事と思っているのか食い下がる。
「ミールに任せておけ、アルシェ一人だと今日は買い物できないだろ。また男どもに囲まれたらどうするつもりだ?」
「そうですよね。わかりました」
頭で考えた結果、どこかに売りに出されたのかアルシェは意気消沈し俺の手を握った。
「それじゃあ、俺達は先に帰ってるから買い物は頼んだぞ」
「任されました」
ミールはそのまま喧騒の中に消えて行った。
「私も十分に可愛いと思うんだけどな」
「ルリーラも可愛いから安心しろ。それはそれとして晩ご飯はどうする? その辺で人数分の買って帰るか?」
「大丈夫です。出来合いの物になってしまいますが、準備はしていますので」
全員があのケーキのために準備をしていたなら誰も準備をしている暇はないんじゃないかと思ったがそうではないらしい。
予選と本選に向けたケーキの試作に加えてご飯まで作るとか、俺には到底無理なことだ。
「お腹空いたから早く帰ろう。あんなに美味しそうなお菓子の中に居たのに食べれないとか地獄だったよ」
ルリーラに急かされるように宿に着き、部屋の扉を開ける。
『お誕生日おめでとう』
扉を開けると激しく鳴り響く複数の音が、俺達を迎えた。
色とりどりのテープと紙吹雪が俺に向かって飛んでくる。
「クォルテ誕生日おめでとう」
「クォルテさんおめでとうございます」
どこに隠し持っていたのか、ルリーラとアルシェも俺に向けてパンッとクラッカーを鳴らす。
突然の出来事に俺はただ固まることしかできない。
部屋の中央にはこの日のために準備されていたらしい豪華な食事が並んでいる。
その食事達の中央には本選で作られていたケーキも鎮座している。
「あのケーキは後で作るって言ってなかったか?」
「最初に完成したものはクォルテさんに食べてもらいたかったんです」
「朝は大変だったね。クォルテにバレないようにしながら急いで準備したし」
「兄さん、どうぞ座ってください。今日の主役は兄さんですよ」
ミールに勧められ言われるがまま席に着く。
ルリーラとアルシェが俺を挟むように座り、他の五人も円を描くように座る。
「今日は俺の誕生日だったっけか……」
家を出てから一度も気にしたことのない誕生日。
祝う意味もないし奴隷という生まれのせいで誕生日が無いルリーラに悲しい思いをさせないために誕生日は教えていなかったがどうやらミールが教えていたらしい。
「酷いよね、クォルテ私にも教えてなかったんだよ」
「ルリーラの場合旦那様の誕生日を知っていても祝っていないだろう」
「そうかもしれないけど、おめでとう位は言うよ」
「兄さんは昔から誕生日とか気にしない人でしたからね」
「やっぱりそうなんですね。クォルテさんはそんな感じですし」
「アルシェが自分は王様を知っていますけどって感じになってるね」
「そんなつもりはないですから」
いつになく騒がしい食卓はみんなが笑顔だった。
好き勝手に食べて好き勝手に話し好き勝手に飲む。
そんな楽しい光景が目の前で広がっている。
「クォルテさん。どうぞ、食べてください。私達全員からの感謝を込めて作りました」
クラウン・ディアモナークが俺の前に置かれる。
フォークで押し切り、口に運ぶ。
シロップのしみ込んだ生地はほんのりと甘く、口当たりが軽い。それでいて俺の為なのか甘すぎない。
「美味い。これが四位とかあの王様も見る目が無いよな」
俺の言葉にみんなが笑う。
「今までで一番過酷な国だったな」
それなりに楽しい旅ではあったが、体調を崩したり雷獣に襲われたりと今までで一番疲れた旅でもあった。
「私はもう行きたくない。あの国は地獄だったよ」
ルリーラの言葉にセルクとオレイカ以外が頷いた。
「セルクはまたみんなに会いに行きたい!」
実際に旅をした俺達以外からは不評だったが、セルクがそこまで力強く言い切ったためそれ拒否する言葉はない。
それでもやはり行きたくないな。と全員の顔に出ていた。
それから更に一日経ちようやく甘味の国にたどり着いた。
ここには大きな都市が一つだけあり、その街を細分化しそれぞれの区画によって作られる材料が違う。
小麦粉、砂糖、ミルクなど他国に頼らず自国のみで栽培、加工を行っている。
要するに菓子を作ることしか考えておらず、国を守るのは菓子と金で雇った傭兵のみという異色で異常な国だ。
「甘い匂いがするよ」
「ルリーラちゃん、あのケーキ屋さん美味しそうだよ。見ただけでふわふわなスポンジどうやって作ってるんだろう」
街の中に入るなり車を飛び出し、騒ぎ始めた女性陣に圧倒されてしまうが正直俺は酔っていた。
鼻で呼吸しても甘い、口で呼吸しても甘い。砂糖の匂いで段々と気持ち悪くなってきた。
「旦那様、気持ちはわかります。ここまでだと流石に僕も胸やけがしてきます」
「サラもリコッタに来るのは賛成してただろ」
「ええ……、甘いのは嫌いじゃないですけど、ここまでとは思ってませんでした……」
男と思い込んで生きてきただけあって感性が俺と同じらしいサラもこの臭いにやられているらしい。
そんな俺達に気付くことなく、他の全員は店に張り付いて涎を垂らしていた。
「おい、とりあえず宿に荷物奥から全員戻れ」
見慣れない車という乗り物から飛び出したルリーラ達を街の人は驚きながら見ている。
悪目立ちはしたくないのでみんなが乗った直後に車を発進させ宿街にたどり着く。
「流石甘味の国だな。建物もこうなのか」
ようやくたどり着いた宿街には綺麗にケーキやチョコレートを模した宿屋が並んでいた。
匂いは幾分マシだが、それでも飲食街から流れてくる匂いで辺りは甘ったるい匂いで充満していた。
「クォルテクォルテここケーキの宿にしようよ。生クリーム食べ放題だよ」
「ソウダナ」
もうなんか聞いただけで胃がもたれてくる……、生クリームの食べ放題ってなんだ、どこの言葉だ? 生クリームって何かと一緒に食うからいいんじゃないのか?
「兄さん、こっちのチョコの宿もいいですよ。各部屋にチョコの滝を完備してます」
「へぇー」
チョコの滝ってもはやなんだ? そこで泳ぐのか? それともそれを飲むのか?
「クォルテさんこっちのミルクの館は凄いです! ミルク風呂に色々な動物のミルクが飲み比べできます」
「スゴイナ」
ミルク風呂ってミルクに入るなよ飲めよ。動物のミルクの飲み比べって俺は一種類しかしらないぞ?
「旦那様、気持ちはわかるが、しっかりしてください」
「俺は少し車に居るから適当に決めてくれ」
風邪とは違う嘔吐感に悩まされながら宿を決めるまでの一時間を車内で過ごした。
結局決まったのはアルシェの進めていたミルクの館だった。
宿の中に入ると驚きの白さだった。
壁はミルクが流れている様な凹凸がありロビーの椅子はミルクが入っている瓶を真似ている。そして従業員は漏れなく牛の衣装を着ていた。
辛うじて結局ミルクは牛じゃねえかと突っ込むのを我慢し部屋を取った。
「まあ、そうなるよな。ミルクの館だもんな」
外の光を跳ね返し目が潰れる程に輝く純白の室内。
そのために汚れ一つ無いのは評価できるが、正直もう辛い。甘さが疲れを取ってくれるってのは嘘だな。
疲れの余り俺はベッドにそのまま倒れ込む。
ミルク臭い。いや、腐ってる臭いじゃなくて甘い匂いなのだが今の俺にはどちらにしても辛い。
しかしそうは言っても旅の疲れか、甘さに酔ったのか俺はベッドに体を沈めたまま眠りについた。
「少しスッキリしたな」
大きく体を伸ばし空を見ると精々眠っていたのは一時間程らしい。
そこで違和感に気が付いた。
誰もこの部屋に来ていない?
ドアの前に置いた荷物も崩れていないし、他の荷物も眠る前と変わった様子はない。
いつもなら我先にとルリーラ辺りが飛んでくるはずなのに今日は来ないのか?
あれだけ喜んでたしそのまま外に出て行ったのだろう。それなら久しぶりにゆっくりしようじゃないか。やりたい研究もあるし領域の練習もしたい。
たまにはこんな日もありだな。
そう思いながら久しぶりに自分の為だけに集中した。
†
おかしい。
自分の作業に必死になって気が付いたら日は暮れていた。それなのに誰一人として部屋に来る奴がいない。
今まで散々来るなと言っても来ていたルリーラも、何かに理由を付けてやってきたアルシェも誰も俺の部屋に来ない。
久しぶりに自分の時間が取れて嬉しいがこうなると逆に不安になる。
誰かに攫われた? あの七人を無音で攫って行くのは絶対に不可能だ。ルリーラの五感、アルシェの魔力感知をすり抜けて来れる人間がこの世界にどれだけいるのか。
大丈夫だと思いながら七人が泊っている部屋のドアを叩く。
「おーい、みんないるか?」
声をかけても返事はない。
一言声をかけてから部屋に入ると中には誰もいなかった。
それでも部屋に荒らされた形跡も薬を使った形跡もない。
俺の知らない間に出て行ったのか? いや、俺が寝ている間に外に出て行ったのか。声をかけても俺が気づかなかったってところか。
しかしそれでも誰一人部屋に居ないというのが気になるところだ。
あいつら何か企んでるのか?
一瞬探しに行こうかと考えたが、それは過保護すぎると自制する。
「ご主人そんな所で何してるの?」
「フィルか。いや、お前達の部屋に行ったんだけど誰もいなかったから、探しに行こうかどうしようかと悩んでた」
「つまり寂しかったと」
「違うとは言えないな。案外図星かもしれない」
寂しかったは確かにピッタリな気がするな。
今まで賑やかなのが急に静かになって寂しかったんだな。
「うん。正直なご主人にご褒美としてあたしが一緒に晩御飯を食べてあげよう」
「他の連中はどうしたんだ?」
「女子会。あたしはそれを伝えに来たんだけど、ご主人が寂しそうだから女子会はお休みしようかな」
そう言って思いっきり腕を絡めてくるフィルに連れられ、俺はフィルと二人きりで晩御飯を食べることになった。
「それでお前達は何を企んでるんだ? 俺に声をかけずに外出してるのにそんなこと無いってのは無しだぞ」
一通り食事を終えデザートを食べながら話を聞いた。
フィルなら口を滑らせることはないだろうが、何かしらのヒントくらいはくれると思っていた。
「今回はあたし何も話さないよ、みんなに怒られるし。乙女の秘密ってことで黙認してくれると嬉しいな」
いつものように間延びした話し方だが、口は堅いようで何もヒントさえ教えてくれないらしい。
やっぱり本気で聞きだすならセルクしかないだろうけど、そっちは他の誰かが一緒に居て止められるだろうしな。
「今回は完全に俺がのけ者なのは理解した。だからみんなに伝えてもらいたいんだがいいか?」
「内容によるよ。あたし達が何をしているかわかるようなのは駄目だよ」
「それは諦めたよ。俺から言いたいのは危ないことには首を突っ込むな。それと暗くなる前に連絡しろ」
別に全員で行動しているなら心配はいらないしな。クロアみたいなものに首を突っ込まなければ好きにしていていい。
「うん、伝えておくね。聞き分けの良いご主人にはあたしがこのケーキを食べさせてあげましょう。はい口開けて」
フィルは一口分のケーキを俺の口元に運ぶ。そしてその目からは問答無用拒否権無しと書いてある。
仕方なく口を開けるとにこやかな笑顔でケーキを俺の口に入れる。
「美味いなコレ。なんてケーキだ? フルーツがちょっと酸っぱくて甘いケーキによく合うな」
強めの甘さもこの果物と一緒のおかげかしつこく感じない。これはかなりうまい。食事も油ものだったから酸味が心地いい。
「ご主人って甘いの苦手だった?」
「嫌いじゃないな。普段なら全然平気だが、この国にいる間は甘さ控えめなこういうのが食いたい」
甘味の国に来てから体全部が甘くなった気がしていたが、油ものの強めの味付けと果実の酸味のおかげで甘さを緩和できた気がした。
「じゃあ、交換してあげるよ。そっちのケーキも食べてみたいし」
「いいのかありがとうな」
俺はフィルから交換してもらったケーキを次々と口に運び、ぺろりと全てを食べ終え紅茶で口を整える。
苦みが更に心地いい。ここに居る限り甘さ以外が全て心地よく感じてしまう。
「そんなに見つめてどうしたんだ?」
「今更だけどご主人あたしのフォーク最後まで使ったなって」
そう言ってフィルは俺の使っていたフォークを口に運ぶ。
フォークに残っている生クリームを自分の唇でこそぎ落とす。
俺に見せつけるように艶めかしく行う仕草に俺は意識せずにはいられない。
無意識のうちに食べてたが、手元に残ったフォークに生クリームは残っておらず、俺もフィルと同じように食べていたのだろうか。
だからあんなに見てたのか。
「ご主人ってたまにすごく可愛いよね。関節キスくらいで照れてさ。いつもそれ以上のことしてるのに」
「意識してるのとしてないのじゃ差があるんだからしょうがないだろ」
それにあんな風にされたらどんなやつでも意識するだろう。
「顔真っ赤だね。初々しいね可愛いね」
散々からかわれ二人で店を出る。
「今日は帰ってくるのか?」
「そうだね、そろそろセルクもお眠だろうしあたしがみんなを呼んでくるから、ご主人は先に帰ってて」
フィルが走り出したのを見て俺も自分の部屋に向かう。
知られたくないことをしているみたいだし、折角だからこの機会に色々個人的な買い物をしよう。
†
七人で何かを隠していることは知っているが、いかんせん暇だ。
それなりに広いこの国ならそれこそ実験に必要な物が揃うと思っていたのだが、この国にあるのは菓子を作るのに必要な物だけだった。
申し訳程度の武具、必要最低限の雑貨、実験器具は料理と併用できる物のみで、当然しっかりとした実験は不可能。
できるのは領域の訓練のみだが、流石に疲れてしまった。
一人になって一日で手持ち無沙汰になってしまう。
「暇だな」
この国独特の胸焼けするほどの甘い匂いにも慣れつつあるが、あまり外に出る気にはなれない。
旅に出てから常に誰かと一緒に行動していたし、その前も家族や学友と一緒にいたため、俺は初めて一人で過ごしている。
せめて実験したい。魔力を運用した昇降機とか、機器を動かす魔力の低減化の実験と検証をしたい。
「パパ、入るね」
「セルクか、どうした?」
ノックもなしに部屋のドアを開けてセルクが入ってきた。
今のこの退屈な状況なら厄介事でも大歓迎だ。
「パパと遊びたいから来たの、ミールママと一緒」
「来ちゃいました。兄さんが暇してるだろうと思いまして」
セルクの後ろからミールもどこか落ち着かなそうに入ってきた。
「ミールもか、入れ入れ。実際に暇してたから助かったよ」
問答無用で俺の膝に座るセルクの頭を撫でながら、声をかけるとミールもベッドに腰を下ろした。
そして何かを言うかと思ったが、何も言わずに無言だけが流れていく。
どこかおかしな挙動に何かあるのかと思ったが何もないらしい。
「少し街を散歩するか? 部屋にこもりっきりなのもよくないしな」
「そうですね。行きましょうか」
「やったー、お散歩お散歩」
勢いよく飛び上がったセルクが俺とミールの手を握って外に飛び出す。
街の中はどこを見ても胸焼けしそうなほどに菓子屋が並んでいた。
ケーキにチョコ、パンにアイス。うんざりする光景をセルクは喜んで見ていた。
「パパこれ! これ食べたい!」
「わかったから離れような」
窓ガラスに張り付くセルクを引き離しチョコレート屋に入っていく。
店内はカカオの匂いで満たされていた。
窓ガラスから見えていた巨大な装置からは滝のようにチョコレートが零れ落ち、それを職人が手際よく混ぜ、それが終わると次の人へと連綿と繰り返されている。
「流石だな。全員手際がいい」
「パパセルクあれを直接飲みたい」
「それは人として踏み越えてはいけない一線だぞ」
今までにないほど真剣な顔で馬鹿なことを言ってのけるセルクを窘め列に並ぶ。
「ミールはどれがいい? イチゴとかホワイトとか種類も結構あるぞ」
「わっ……、兄さんが食べたいものでいいです。それを分けてもらえればそれでいいので」
「わかった。それじゃあ、この甘さ控えめのビターにしようかな。フレーバーは最初だしプレーンでいいか」
最初に言おうとした、わっていうのが気になるが、ミールも何か考え事をしているのだろう。
「セルクはね、凄い甘いのがいい。それで甘い匂い!」
それから三十分ほどで店員にたどり着き、チョコの二種類買い店を出た。
もっと時間がかかるかと思っていたが、思いのほか早く買い物を終えることができた。
チョコの味は甘いのが苦手な人向けなのか、苦みが強くカカオの香りが口に広がる一品に仕上がっていた。
セルクにも食べさせてみたが、小さく一口だけ食べ顔をしかめながらいらないと残りを俺に返して来た。
「ミールは何を考えてるんだ? 部屋に来た時から様子が変だぞ?」
「いえ、別に大したことじゃないですから」
「セルク知ってるよ。あのね――」
「セルク、少し黙っててお願いだから!」
俺に隠れてやっている何かについての事か。それなら変に詮索しない方が良さそうだ。
昨日フィルに黙認するって言ってるし、危険なことじゃないなら口を挟む必要もない。
「何か秘密で企んでるやつで悩んでるなら別に何も言わないぞ」
「そうです。それで少し考え事をしていたので」
「それならやっぱり宿に戻るか? そっちの方が考え事には向いてるだろ」
「いえ、大丈夫です。寧ろ散歩していた方が考えがはかどりますから!」
勢いに押し切られる形で散歩を再開することにした。
ミールはどこか行きたいところがあるわけでもなく、行先はほとんどセルクが決めて歩き続けた。
流石に甘いのばかりは俺が持たないので、菓子以外も置いているところにも入ったりした。
「ミール、一度考えるのやめないか? そんな考え事ばかりだと折角の散歩も楽しくないだろ」
「そうですね。折角兄さんといるんですから少しくらい良いですよね」
そんな言葉を交わした俺達の間にセルクが入り手を繋ぐ。
「なんかこういうのいいですね、親子が歩いているみたいで」
「セルクのサイズがもっと小さければな」
セルクが子供と知っていれば確かに家族に見えなくもない。俺が父親、ミールが母親でセルクが子供。だが、傍から見るセルクは完全に大人で、俺達よりも頭一つは大きい。
「仲のいい兄妹ね。お姉さんがニコニコしているからかしら」
そうなると当然俺とミールが年下でセルクがお姉さんに見られるのは当然だ。
「どうやっても私は兄さんの妹にしかなれないんですね……」
その後どこか暗く沈んだミールと夕食を食べそのまま解散した。
†
「お邪魔します」
「オレイカ、いいのかノックもなしに旦那様の部屋に入っても」
「静かにして、王様が起きないようにしてるんだから」
扉の開いた気配で目を覚ました。どうやらサラとオレイカが部屋に入ってきたらしい。
寝ぼけたまま目を開けると日は昇り始めたばかりのようだ。
まだ少し眠いし、もう少し寝ていても文句は言われないだろう。
「このままベッドに潜り込んで、既成事実だと王様が認めればどうなると思う? そう王様は私達との関係を認めざるを得ないんだよ」
「つまり僕達はルリーラ達よりも一歩先に行けるということか。なんという策士」
「いや、そんな上手くいくと思ってんのかお前らは」
まだ眠いがこのまま寝たらどんな噂を作られるか分かったものではないので、仕方なく体を起こす。
そして二人の姿に俺はため息を吐く。
遠くが透けるほどに記事の薄い服、その奥には局部しか隠していない下着。眼福というには攻めすぎた服装だった。
「二人ともその恰好でここに来たのか? 恥ずかしいとかはないのか?」
隣の部屋とは言え、共有スペースである廊下を通らないといけない。それをその恰好でやってくる度胸は認めよう。
「オレイカ、旦那様が引いている気がするのは僕の気のせいか? うわぁ……こいつこの格好でここまで来たのかよ……みたいな顔してるぞ」
「表面上取り繕ってるだけだよ。内心はひゃっほー、俺好みの魅力的な服装だぜ! このまま二人とも頂いちゃうぜ! って思ってるんだよ」
「そうなのか、旦那様!?」
心意を確かめるためにサラが一気に距離を詰めてきた。
服装からくる恥ずかしさに顔を紅潮させているが、恥ずかしいなら着替えてもらいたい。
「正直色気よりも品の無さが目立つからとっとと着替えて来い。寝起きすぐに突っ込ませるな」
絶望の表情を浮かべるサラを見てオレイカは満足そうにしている。
一切近づかないところを見ると、サラにこの格好をさせるために自分も来たのだろう。
そして二人は俺の服を羽織り部屋に戻り、普段着に着替えてから戻ってきた。
「それで、今日は随分早いな。何かをやってるはずだろ? そっちの手伝いはいいのか?」
昨日も昼頃だったし、まだ準備があるんじゃないのか?
「僕達はその、戦力外で……、旦那様を準備しているところに近づかせないために今居ます……」
残念な理由だった。
それにしてもサラとオレイカが戦力外って何をしているんだ? 二人とも手先は器用だし、和を乱すようなことはしないだろう。
「そんなわけで私達は今日王様を接待します。それじゃあ外に行くからお着換えしましょうね。はいばんざいして」
「それは接待じゃなく育児だ自分で着替えられるから」
早くも今日一日で疲れるのを理解した。
接待先に選んでくれたのは大きな公園だった。
なんでも菓子を使った模型を展示しているらしく、公園程の規模で模型を飾るのかと侮っていた。
しかし俺の想像を遥かに超える展示がされていた。
文字通りのお菓子の家、本物そっくりのお菓子の木、飴細工で作られた動物達、公園中が菓子で埋め尽くされていた。
「これは流石に驚いた。こんなのやってたのか」
「僕もこれには驚きました。今まで見てきた大がかりな物は精々パーティー用のケーキだけでしたから」
「もしかしてオレイカも何か展示してたりするのか? 手先も器用だしこういうのは得意な方だろ?」
造形師ではないが、それでも負けないくらいには立派な物が作れるはずだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね、ここに並べるには余りに不格好だから」
「アトゼクスや車を作った人物とは思えませんでした」
サラがそう言ってしまう程の出来だったのか。逆の意味で見てみたい。
「バランスが難しいんだよね。普段中を作ってから外を作ってるから最初に外を考えるのは難しんだよね」
俺から見ればどっちにしても凄いと思うが、職人のオレイカからすれば凄さがわかる分下手の物を出せないと思っているのかもしれない。
「旦那様、造形部門もいいですがこちらの味覚部門も中々面白いですよ」
ここは造形部門らしい。見た目を競う場所だったのか。通りであんな立派な物があるはずだ。
案内されたのは造形部門と比べるとどうしても小さく感じてしまうスペースだった。
小さなテントがいくつも並んでいるだけの華の無い空間。
その一つに入ってみると受付の人がいるだけだった。
「いらっしゃい。ここは七色の味が楽しめるテントだよ。これが皿だからご自由に楽しんで」
受付の女性に貰ったのは皿というよりも絵描きに使うパレットに見える。
小さな枠組みがいくつも並び、それとは別に大きな枠が一つだけある。
何に使うのかわからないまま先に進むとたくさんの試験官が並んでおり、その一つ一つに色とりどりの液体が入っている。
「その中の液体をこの小さな枠の中に入れて、大きい所で混ぜます。そうすることで複数の味を楽しむことができます」
サラから説明されたまま、液体を匙で掬いパレットに乗せていく。
試しに青い液体を単体で舐めると胸焼けしそうに甘かった。
もしかしてこれ全部甘いのか?
不安になりながら黄色の液体の味見もする。
今度は顔が中心に集まるほどに酸っぱい。
その二つを合わせてみると、青の甘味が先に口へ広がるが、すぐに黄色の酸っぱさが甘味を消してくれる。
「どうでしょうか、童心に帰れる場所ではありませんか?」
「そうだな。正直少し馬鹿にしてたかもしれない」
それから食材ごとに美味しくなる味付けや、五味を一度に味わえる飴などを楽しみながら公園を散策して回り、気が付くとすっかり日も落ちていた。
「ありがとうな。正直ここまで楽しいとは思ってなかった」
「それでは最後に夕食を食べてから戻りましょうか」
「それと明日も私達が迎えに行くから部屋に居てね」
部屋にいることを了承し俺達は宿に戻った。
†
翌日、至る所で鳴らされる鐘の音で目が覚めた。
ゴーンゴーンと体に響くほどの轟音に、睡眠不足を訴える体を黙らせた。
「敵襲って雰囲気でもないよな。何の音だ?」
これだけの爆音に宿泊客は誰も文句を言わないらしい。もしかしたらこの音で文句が聞こえないだけかもしれない。
何の合図かはわからないが、確認のため窓の外を見ると国民らしい人達全員が同じ方向に進んで行く。
「あっちは確か、城の方だったよな。国王が退位でもするのか?」
ここの国王は確か三十代だが、不摂生の塊みたいな男だったはずだ。馬車にも乗れず、玉座もベッドのようなサイズでないと座れない肉の塊らしいしな。
だが、退位にしては国民が楽しそうに歩いている。
何があるのか気になりはするが、サラとオレイカがこれから来るし見に行けないか。
「あれ、王様いるなら返事くらいしてよ」
「鐘の音が鳴っていたのだから流石の旦那様も聞こえないだろう」
気が付くと鐘の音は止みサラとオレイカが部屋に入ってきた。
普段着のはずなのに見覚えのない綺麗な服を二人は着ていた。どこか気品のあるドレスのようだが、しっかり普段着で切られるような衣装を二人は着ている。
「それどうしたんだ? 見たことないけどここで買ったのか?」
「買ってません。衣装屋から借りてきた物です。他の人達も似たような服装です。女性はひざ下までのスカート必須、男性は襟付きジャケット必須が決まりですから」
まるで社交界でも開かれそうな話だな。
外を見ても確かに男女で色や形は違うが、サラの言った様な服装をしている。
「これから城に向かうのはわかったが、俺はジャケットなんて持ってきてないぞ」
公の場で切る衣装はほぼ全てアリルドに保管してある。唯一の一張羅も城塞の国で汚れてしまっている。
「そんな王様のために借りてきてるよ。それじゃあ、これに着替えて出発だ!」
言われた通りに着替えたが、二人のように砕けた服ではなく本当に社交界へ向かうようなしっかりとした衣装だった。
研究畑でほぼ根無し草で暮らしているせいか、ここまでかっちりとした服は着なれないため落ち着かない。
「素敵です。旦那様」
「王様カッコいいよ」
「そう言ってもらえたらお世辞でも嬉しいよ」
二人は褒めてくれたがやはり落ち着かない。これから行くところにこれが必要と言うなら着ていくしかない。
そうして二人の案内の元城に向かうことにした。
「ところでサラの刀とオレイカのその帽子は規定違反ではないのか?」
一応服装と合ってはいるが、それでもこういう場でそういうものは大丈夫なのだろうか。
「私のは平気だよ。規定から外れてないし」
「僕のも問題ありません。刃は付いていないので。小道具として問題ありません」
刃が無いなら何で帯刀しているのか疑問は残るが、サラなりのこだわりなのだろう。
「そう言えばたまにいる料理人みたいなのは何だ? ジャケットもスカートも無いようだけど」
実際の料理人なら早く行かないといけないはずだ。もしかして交代要員なんだろうか、大食漢の国王のために交代制もあり得ないことじゃない。
「それはついてからのお楽しみだよ」
そう濁され、混雑するなか目的地まで一時間ほどかかった。
到着したのは城の少し手前の巨大な建造物。何人収容できるのかわからない程の広さの円状の建築物。そしてこれと似た建物に見覚えがある。
「これって闘技場じゃないか?」
火の国で行われた武道大会の闘技場と同じ建物の中に、全員が吸い込まれるように入っていく。
闘技場に服装の規則は必要なのかと、疑問に思いながら持ち物検査をされ客席に向かう。
一対一で戦うはずの中央には大量の調理場が出来上がっていた。
軽く見て二十を超える調理台に、料理人の恰好をした連中が百を超えて待機していた。
「戦いは戦いですが、競うのは武力ではありません。競うのは女子力です!」
段々と見えてきた。どうやらこの大会にルリーラ達が出場しているのだろう。それでこの二人は出場させてもらえなかったのか。
確かに女子力という点だと二人には厳しいだろうな。オレイカの部屋の惨状に武の修行しかしていないサラ。
「王様、その憐れんだ目はやめてくれる? 口にしなくても結構傷つくんだよ」
「それなら他の五人は全員参加したのか?」
「参加したのはルリーラとアルシェ、それにミールの三人。フィルとセルクは先に場所取りしてくれてる」
ルリーラが参加しているのは意外だ。あいつに家事の才能があったとは知らなかった。
ルリーラよりだったらフィルの方が適任の様に見える。
「あの三人はベストメンバーです。食材の良し悪しの判断が得意なルリーラ、どんなものでも完璧に作れるアルシェ、調合などのサポートが得意なミール。何度か試してみてこの三人が一番でした」
俺の知らないところで予想以上に本気でこの大会らしきものに望んでいた。
「この大会は何か商品が出るのか?」
「何もないよ、あるのはリコッタで一番美味しい菓子職人という名誉だけだよ。いつまでも空席確保してると周りの目が痛いんだから早く来てよ」
俺達を見つけてくれたらしいフィルに腕を引かれながら客席に座ると、セルクがすぐに俺の膝に座る。
「パパ遅い。もうすぐ始まっちゃうよ」
確かに開会の宣言は終わっているらしく、それぞれが調理台で準備を始めた。
周りの観客たちがテンション高く見守る中、俺は未だに事態を飲み込めずにいた。
誰か俺に説明をください……。
†
何の説明もないまま延々と大会は盛り上がりを見せている。
何やら知らない材料と知らない食材を混ぜ合わせ、今までにないらしい食品が生まれ、今まで実現できないと言われていたらしい調理方法を使い今までとは比べ物にならない程に精巧に作られるらしい食べ物。
他の観客はそのよくわからない調理に大盛り上がりで熱狂しているが、俺には何一つわからない。更にいえば観客の盛り上がりに付いて行けない。
「ルリーラ達ってどこなんだ? ベルタとプリズマが居るなら目立つはずだけど」
「今は二組目で、ルリーラ達は次の次だね」
何やら対戦表まであるあるらしく、フィルが見せてくれた。
目が痛くなるほどの参加者の中にロックスチームとして参加しているらしい。
その対戦表を見て知ったのはこれは予選らしく、全八回の予選をして決勝に進む八組を厳選、そこで作られた八品を国王が試食して順位を決めるらしい。
よくある大会形式だが、やはり周りとの温度差を感じる……。
火の国や地の国では参加者だったし事前に知っていたから、周りと同じく盛り上がれたが、今回はいきなり連れてこられてどうしたらいいのかわからない。
「ルリーラ達が出るまで席を外してもいいか?」
「ダメだよ。あたしが教えてあげるからちゃんと見てて」
フィルに服を掴まれては逃げられず、俺は会場に目を向けた。
「二組目で注目なのはあのカルトって人。この国でも有名な菓子職人でスポンジを作らせたらリコッタ一って言われてる。今作ってるのもスポンジだね。それに合わせるのは何だと思う?」
「スポンジってケーキだろ? それなら普通に生クリームとかが普通なんじゃないのか?」
「そう思うけど違うの。合わせるのもスポンジ。スポンジだけでケーキを作ろうとしてるんだ」
フィルがいう通り確かに生クリームっぽい食材もない。
そう思った直後にスポンジを鍋にぶち込んだ。
「あいつスポンジを鍋に入れたぞ? あれは何をしてるんだ?」
「色から見るとイチゴのソースかな。もう一個のスポンジの色は真っ白だし、たぶんだけど作るのはイチゴのケーキになるのかな」
真っ白いのが生クリームの代わり、今鍋から取り出したのがイチゴの代わりってことか。
「それだったら普通に美味い生クリームとイチゴで十分じゃないか? わざわざ変わり種で勝負しなくてもいいだろう」
「予選のテーマが意表を突くデザートだからね。全員が変わり種だよ」
「そんなテーマがあるのか」
題目に合ったうえで美味い物を作るのか。なるほど、それなら確かに納得できるな。
全てをスポンジで作っているのなら見た目も全てがしっかりと層に分かれ、滑らかな印象が強いケーキが角ばって見た目も面白くなる。
「カルトは今回の優勝候補だよ。後もう一人面白いのは、あの人」
「うわぁ……」
そこには城が出来ていた。どうやって積んだのか、はたまたどうやって食べるのか見当もつかない。四メートルくらいありそうな城が鎮座していた。
「この国で建築士をしているトット。毎回造形は完璧なんだけど見た目重視で味があんまり美味しくないんだって」
「そこまで造形にこだわりがあると尊敬できるよ」
「ちなみに今の宿の建築士もあの人なんだって」
納得だ。中も外もミルクに対してのこだわりが凄すぎる。
どんな馬鹿かと思っていたがこんなバカだったとは……。
それから何人が説明してもらう頃には俺も周りと同じくらいには楽しめるようになっていた。
「次がルリーラ達の出番か?」
カルトが予選を突破し、三回目はクヤックというチョコ職人が予選突破した。
そして四回戦目はルリーラ達の出番となった。
「あの三人は何を作るんだ?」
「スープを作るんだって。野菜たっぷりのやつ」
「……菓子として美味いのか?」
野菜入りのスープって、菓子じゃないよな。奇をてらいすぎじゃないか?
調理が始まると真っ先にルリーラが動き出す。
あらかじめ決まっていたのか、他の参加者よりも早く食材を手に取り自分の持ち場に戻る。
届けられた食材はアルシェとミールの手で調理されていく。
持ち込まれた素材はどれも菓子作りに必要不可欠な物で、とてもスープが作れそうには見えない。
「不安そうだけど、大丈夫だよ。あたし達が全員味見してるし、アルシェの腕は知ってるでしょ?」
フィルはそう言うが、どんなのが出てくるのか不安だ。
アルシェの手元にあるのはチョコと小麦粉、ミールの手元にはミルクと調味料が少量、ルリーラは食材探しの最中。
ミルクがスープでチョコと小麦粉が具になるのか? 普通にミルクチョコにしかならない気がするんだけど。
「今回要注意なのは誰なんだ?」
まだまだ下処理が続きそうなので、他の優勝候補を見てみることにした。
「一番有名なのは、餡子の鉄人ピピ。餡子と餅を使ったダイフクっていうのが前回の大会では好評だったんだって」
確かに今も餡子を作っている途中らしい、手際よく豆を潰している。
「それにしても大半が異様にデカいな」
変わり種ってことでみんなが最初に目を付けるのは大きさなのだろう。印象に残りやすく、心得があれば作りやすい。ピピもすり鉢を五個も使う大作のようだ。
「アルシェの下処理が終わったみたいだよ」
フィルに言われ、アルシェの手元を見るとそこにはスープの食材が出来上がっていた。
野菜と肉が下処理された状態で調理台の上に置かれていた。
「あれは本物じゃないんだよな?」
「うん。あれも全部お菓子だよ、ここまで揃えば後はもう盛り付けだけだよ」
ミールの方も準備ができているらしく、鍋の中にはミルクが準備されていた。
本当にもう終わりの様で鍋の中に野菜もどきと肉もどきを投入し少し混ぜてから器に乗せた。
「あの器ってもしかしてパンか? それにあのスプーンも食えるのか?」
妙に茶色っぽい器と透明なスプーン。菓子に造詣が深いわけでもないため、それらが何かははっきりとわからないが、普通の食器でないことは見てわかる。
「ご名答、パンの器と飴のスプーン。飴が舌に甘さを与えてくれるから甘さもばっちり。肉と野菜の甘さも飴と微妙に違うから飽きないし、全てが時間経過で溶けたミルクもパンにしみ込んで甘くなるよ」
聞くと完璧なように感じるが、味に関しては審査員がどう感じるかだ。
それから全員の調理が終わり、実食に入る。
審査方法は十人の合計点で競われる。見た目と味がそれぞれ五点満点で計十点。その合計が最も高い組の勝ち。
同点の場合は、味だけの評価が高かった方の勝ちになる。
優勝候補のピピの得点が八十七点。他の連中が七十点台なことを考えるとやはり頭一つ抜きんでているらしい。
そしてルリーラ達の番が回ってくる。
『見た目は完璧なスープだ。見た目の点数は四十三点! 高得点です! さぁ実食をどうぞ』
審査員が口にスプーンを運ぶ、そして更に一口と口に運び、皿とスプーンを一口ずつ食べてから審議に入った。
そうして発表された点数は四十六点。
『四十六点です。見た目の点数四十三点を合わせて八十九点です! 強豪、餡子の鉄人を超える点数を叩きだした!!』
その宣言と共に客席がに一斉に湧き出した。
先の二戦は順当だったらしく、今回が番狂わせらしい。
そしてそのままロックスチームを超える点数が出ることもなく四回戦は終了した。
†
予選の全てが終わり八組の決勝進出者が選ばれた。
決勝のお題は『美味い菓子』ただそれだけらしい。
見た目などももちろん審査対象だが、何よりも味。味が一番美味いものが優勝で、同格だと判断され始めて見た目などの味以外の部分が評価されるらしい。
「美味い菓子って曖昧にも程があるんじゃないのか?」
「理由は技術の粋を集めても枠にとらわれていては真の美味さを表現できないから。ってことらしいよ」
「そういう理由なら仕方ないな」
チョコとかケーキなんてお題では、確かにチョコの中で美味いケーキの中で美味いになってしまうからな。
それは確かにこの国の理念に反するのかもしれない。
「決勝で作る菓子はまた例によって俺には教えてくれないんだろ?」
「固定概念なく三人の調理を見て欲しいかな、それでご主人がどう感じるか私が知りたい」
調理を見たって素人の俺には何もわからないと思う。
研究者の研究を他人が見ても何をやっているのかわからないように、菓子作りを知らない俺が見ても理解はできない。
それでも仲間としてその頑張りだけは見たい。
「型を取り出したってことはケーキってことになるのか? ルリーラが混ぜてるのも生地っぽいし」
「私からは何も言わないよ。ご主人が何を作っているのかを見て欲しいし」
フィルは俺に教えるつもりは一切ないらしい。他の三人も同じらしくただルリーラ達の調理を見つめている。
何を作っているのか、わかるのはルリーラが生地を作っている、ミールは果物を瓶に詰めている、アルシェはチョコを作っている?
三人の作業を見ていてわかるのは、チョコレートのケーキを作っている。それだけだ。しかしそうなるとあの型の存在がわからない。
普通のケーキ作りに使う型とは違うらしく、上部がギザギザの形になっている。あの型で作る物はなんだ?
「ご主人結構本気で考えてるね」
「そりゃあな、フィルがどう感じるか知りたいって言ったんだろ。それはつまりあの菓子は俺のために作られているってことだ。それなら真剣に考えもするさ」
「流石ご主人だね。それじゃあもう邪魔はしないから考えてね」
そうこうしている間にも調理は続いていく。
型に生地を流し入れ、オーブンに入れていく。
やっぱりケーキなのはわかる。しかしあまりに普通でお題に合っているのかの判断ができない。
決勝まで来ておいてお題を無視している? そんなことする理由なんてないよな。
いくら考えてもわからないまま生地が焼けた。
遠目で見てもわかるくらいに黄金色に輝いている生地に周りから感嘆の声が上がる。
そしてあろうことかアルシェはその生地を抉り取り始める。
「あれにも意味はあるってことだよな?」
「秘密だよ」
そう言われる気はしていたが、意味はあるのだろう。
そして開けた穴にミールから受け取った果物を嵌め込んだ。
妙に光沢がある果実を見てあれがシロップ漬けなのだと理解した。
「あれは王冠だよな。それで俺のためか」
俺はアリルド国の国王だ。その俺のために作られたケーキってことなのか。
シロップ漬けも瓶の数は七個。それを王冠に嵌めている。
あのケーキは俺とみんなを模したケーキ。
「あの果物は全員で好きなのを選んだのか?」
「そうだよ。みんなが好きな果物を選んだの。それをアルシェとミールがバランスを取ってくれてあのケーキを作ってくれたんだ」
「なんだか恥ずかしいな。俺のケーキってことか」
七人で何をしているのかと思えば俺のためにケーキを作っていた。嬉しくて口元が緩んでしまう。
口元を隠しながら調理の続きを見ると、果物を嵌め込み終わった後にシロップとチョコを薄く塗ると、光沢の他にうっすらと陰影が浮かび上がる。
「ケーキってあそこまで綺麗に出来上がるんだな」
完成したケーキは試食の台に置かれ、他の参加者が出来上がるのを待っている。
そして全員の調理が終わり、参加者から一言ずつ意気込みが発表されていく。
一人また一人と話が終わりルリーラ達の番になり、アルシェが小型の拡声器を受け取る。
「このケーキは私達の大事な人に送るために作りました。いつも私達の事を考えて守ってくれる親愛なる私達の君主にこのケーキを送ります。名前はクラウン・ディアモナーク。食べていただけますか?」
三人が俺の方に向いてそう口にした。
目頭が熱くなる、悲しくないのに涙があふれてくる。
嬉しくて嬉しくて仕方ないのに、涙が止まらない。
俺はこんなに涙脆かっただろうか……。
「パパ泣いてるけどどうしたの?」
「王様は嬉しいんだって、みんながしてくれたことが嬉しいんだってさ。やったね」
「僕達からのサプライズは受け取ってもらえたようでよかった」
「三人には聞こえないけど私からの贈り物食べてくれるよね?」
そんなことは言葉にするまでもなく決まっている。
「もちろん、食べるに決まってるだろ」
涙に震える声で俺はそう呟いた。
†
大会の結果は残念ながら四位で表彰台に立つことはできず、勝つつもりだった三人は少しだけ不服そうに俺の元に戻ってきた。
「お疲れ、四位でも十分な成果だと思うぞ」
「結果は確かに残念は残念なんですが、正直そこまで気にしては居ないんです」
ミールはそう言っているがそれなら何が不服だったんだろうか。
「あの後大変だったんだよ……。アルシェがクォルテに向かって色々言ったのを勘違いした人が多くて……、告白してくる人がたくさんいたの……」
ベルタを疲労させるほどの人数が押しかけたらしい。
確かにあの言葉は名指ししていないし、自分に向けて言われたと勘違いする人が居てもおかしくはないよな。
「ルリーラちゃんとミールさんが、頑張って断ってくれたのですが、それでも諦めてくれなくて……」
確かにアルシェに断るのは難しいだろうな。基本弱気だし、強く言うのは苦手だろうし。
その代わりに二人がアルシェを守りながら来たからこんなに遅かったわけか。
「それとムカつくのが、告白されるのがアルシェ先輩だけなことです。私もお姉ちゃんも居たのにこっちには一切なし。全員断るつもりですが、誰も来ないのはそれはそれで苛立ちます」
「それは残念だったな」
見た目だけで言えばアルシェが一番モテるのは理解できる。
綺麗だがどこか幼さがあり、スタイル抜群に気弱そうな雰囲気なのに、さっきの様に強い所も見せた。
その上、両サイドには子供の様な二人もいて余計大人の様に見えてしまえば、そりゃあ人気も出るだろう。
「クォルテは今この中だと見た目で一番はアルシェだしなとか思ったでしょ」
「思ってないぞ。みんな可愛いのに不思議なこともあるもんだよな。って思ってた」
「兄さん、それならばなぜ目を反らしているんですか? 本当の事を言っているならしっかり私とお姉ちゃんの目を見て言ってください」
「すまん」
二人の視線に対して俺は素直に謝った。
「本当ですか? 私が一番可愛いと思ってくれていますか?」
「え、まあ、見た目だけなら二人よりも大人っぽいしな」
俺に褒められて余程嬉しかったのか、アルシェはいきなり俺に顔を近づけてきた。
興奮で紅潮したその顔が少し色っぽく感じてしまう。
「帰ったらあのケーキを作りますので是非食べてくださいね。あっ、そう言えば作る食材買い忘れていました。買いに行ってきます」
「アルシェ先輩は兄さんとお姉ちゃんと一緒に帰ってください。食材は私が買ってきますから」
「でもミールさんにお願いするなんて」
すぐに走り出しそうになるアルシェの腕をミールが掴むが、アルシェも買い物は奴隷の仕事と思っているのか食い下がる。
「ミールに任せておけ、アルシェ一人だと今日は買い物できないだろ。また男どもに囲まれたらどうするつもりだ?」
「そうですよね。わかりました」
頭で考えた結果、どこかに売りに出されたのかアルシェは意気消沈し俺の手を握った。
「それじゃあ、俺達は先に帰ってるから買い物は頼んだぞ」
「任されました」
ミールはそのまま喧騒の中に消えて行った。
「私も十分に可愛いと思うんだけどな」
「ルリーラも可愛いから安心しろ。それはそれとして晩ご飯はどうする? その辺で人数分の買って帰るか?」
「大丈夫です。出来合いの物になってしまいますが、準備はしていますので」
全員があのケーキのために準備をしていたなら誰も準備をしている暇はないんじゃないかと思ったがそうではないらしい。
予選と本選に向けたケーキの試作に加えてご飯まで作るとか、俺には到底無理なことだ。
「お腹空いたから早く帰ろう。あんなに美味しそうなお菓子の中に居たのに食べれないとか地獄だったよ」
ルリーラに急かされるように宿に着き、部屋の扉を開ける。
『お誕生日おめでとう』
扉を開けると激しく鳴り響く複数の音が、俺達を迎えた。
色とりどりのテープと紙吹雪が俺に向かって飛んでくる。
「クォルテ誕生日おめでとう」
「クォルテさんおめでとうございます」
どこに隠し持っていたのか、ルリーラとアルシェも俺に向けてパンッとクラッカーを鳴らす。
突然の出来事に俺はただ固まることしかできない。
部屋の中央にはこの日のために準備されていたらしい豪華な食事が並んでいる。
その食事達の中央には本選で作られていたケーキも鎮座している。
「あのケーキは後で作るって言ってなかったか?」
「最初に完成したものはクォルテさんに食べてもらいたかったんです」
「朝は大変だったね。クォルテにバレないようにしながら急いで準備したし」
「兄さん、どうぞ座ってください。今日の主役は兄さんですよ」
ミールに勧められ言われるがまま席に着く。
ルリーラとアルシェが俺を挟むように座り、他の五人も円を描くように座る。
「今日は俺の誕生日だったっけか……」
家を出てから一度も気にしたことのない誕生日。
祝う意味もないし奴隷という生まれのせいで誕生日が無いルリーラに悲しい思いをさせないために誕生日は教えていなかったがどうやらミールが教えていたらしい。
「酷いよね、クォルテ私にも教えてなかったんだよ」
「ルリーラの場合旦那様の誕生日を知っていても祝っていないだろう」
「そうかもしれないけど、おめでとう位は言うよ」
「兄さんは昔から誕生日とか気にしない人でしたからね」
「やっぱりそうなんですね。クォルテさんはそんな感じですし」
「アルシェが自分は王様を知っていますけどって感じになってるね」
「そんなつもりはないですから」
いつになく騒がしい食卓はみんなが笑顔だった。
好き勝手に食べて好き勝手に話し好き勝手に飲む。
そんな楽しい光景が目の前で広がっている。
「クォルテさん。どうぞ、食べてください。私達全員からの感謝を込めて作りました」
クラウン・ディアモナークが俺の前に置かれる。
フォークで押し切り、口に運ぶ。
シロップのしみ込んだ生地はほんのりと甘く、口当たりが軽い。それでいて俺の為なのか甘すぎない。
「美味い。これが四位とかあの王様も見る目が無いよな」
俺の言葉にみんなが笑う。
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