冷徹令嬢(中身42歳)の経営改革 ~企業再建のプロが転生したら、効率重視の行動が「聖女の奇跡」と勘違いされまして~

RIU

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第27話:恋の鞘当てと、公認スポーツ賭博(ブックメーカー)

学園祭での勝利を経て、私はなし崩し的に「生徒会長」の座に就いていた。  生徒会室の椅子(最高級レザーチェアに買い換えた)に座り、私は溜息をつく。

「……業務効率化は進んだが、なぜ私の仕事は減らない?」

 私が導入した「目安箱(という名の業務改善提案書)」には、毎日大量の要望が届く。その大半が『リリエラ様の像を校庭に建てたい』とか『リリエラ様のマヨネーズ講座を開いてほしい』といった、信仰に近いファンレターだ。  シュレッダー(手動)にかけようとした時、扉がノックもなしに開かれた。

「――会いたかったぞ! 我が心の師、マヨネーズの女神よ!」

 入ってきたのは、黒い軍服に身を包んだ、精悍な少年だった。  燃えるような赤髪、猛禽類のような鋭い目つき。背中には巨大な剣を背負っている。  ガルディア帝国の皇太子、ガイウスだ。  今期から交換留学生としてやってきた彼は、私を見るなり、その場に片膝をついて跪いた。

「はるばる来たぞ。父上(皇帝)からも『くれぐれも女神の機嫌を損ねるな。マヨネーズの禁輸だけは避けろ』と厳命されている」

「……ごきげんよう、ガイウス殿下。お父上はお元気で?」 「ああ。貴女がくれたレシピのおかげで、帝国の食卓は革命が起きた。今や国民の幸福度指数は爆上がりだ。……すべて貴女のおかげだ」

 ガイウスは熱っぽい瞳で私を見つめ、私の手を取った。

「リリエラ。帝国に来てくれ。貴女を『皇太子妃』として迎えたい。……いや、なんなら私が皇帝になった暁には、共同経営者(エンプレス)として全権を委ねてもいい!」

 プロポーズというより、ヘッドハンティングだ。  条件は悪くない。帝国の軍事力と資源があれば、私のビジネスはさらに拡大する。  だが、その手が、横から伸びてきた白い手袋によって払いのけられた。

「――そこまでだ、ガイウス皇太子」

 現れたのは、ジークフリート王子だ。  いつもの爽やかな笑顔はない。目が笑っていない。背後に吹雪が見える。

「リリエラ嬢は、我がアグランド王国の宝であり、私の婚約者だ。横取り(M&A)は許さないよ」 「婚約者? はんっ、ただの『予約』だろう?」

 ガイウスが不敵に笑い、立ち上がった。二人のイケメンが火花を散らす。

「予約ならキャンセルすればいい。あるいは……力ずくで奪う(敵対的買収)までだ」 「ほう……野蛮な帝国らしい考えだね。僕だって、彼女のためなら修羅にもなるさ」

 バチバチバチ……!  二人の間に電流が走る。  周囲の女子生徒たちは「きゃあああ! 私のために争わないで状態だわ!」と興奮しているが、当の私(商品)は冷めていた。

(……面倒くさい。ここで決闘なんて始められたら、校舎の修繕費がかさむ)

 私は机をバンッ!と叩いた。

「おやめなさい! 校内での私闘は校則違反です!」

 二人がハッとして私を見る。

「ですがリリエラ! こいつが!」 「そうだ女神よ! 白黒つけさせろ!」 「わかりました。決着なら、来週の『体育祭』でつけなさい」

 私はカレンダーを指差した。

「メインイベントの『騎馬戦』。それぞれのチームを率いて戦いなさい。勝った方の言うことを一つだけ聞いてあげます」

「「本当か!?」」

 二人が食いついた。  私は心の中で、黒い電卓を弾き始めた。  王国のアイドル王子 vs 帝国の武闘派皇太子。  ……これは、金になる。

        ***

 体育祭当日。  会場となった闘技場は、異様な熱気に包まれていた。  観客席は満員御礼。生徒だけでなく、噂を聞きつけた王都の貴族や市民までが押し寄せている。

 そして、会場の一角に設けられた特設テントには、長蛇の列ができていた。  看板にはこうある。

『リリエラ商会直営:公式スポーツ振興くじ(という名の賭博)』

「さあ張った張った! ジークフリート王子の『白薔薇チーム』は倍率一・五倍! ガイウス皇太子の『黒狼チーム』は二・〇倍だよ!」

 売り子が声を張り上げる。  そう、私はこの決闘を興行(イベント)化し、胴元として賭けを開催したのだ。  オッズ計算は完璧だ。どちらが勝っても、私は手数料(テラ銭)で二〇パーセントの利益を得る仕組みになっている。

「リ、リリエラ様……これ、法的に大丈夫なんですか?」 「『スポーツ振興のための寄付金付き投票券』よ。賭博ではないわ」

 私はハンスに売上金を回収させながら、貴賓席で紅茶を飲んだ。  グラウンドでは、両雄が睨み合っている。

 白薔薇チーム(ジークフリート)  構成員:学園の精鋭騎士科生徒。  装備:輝くプレートアーマー。  戦術:正統派の連携と剣技。

 黒狼チーム(ガイウス)  構成員:帝国の留学生と、筋肉自慢の亜人たち。  装備:軽量化された革鎧と、私が警備団に教えた「特殊警棒(トンファ)」。  戦術:力押しとCQC(近接格闘)。

「いざ尋常に……勝負!!」

 審判の合図と共に、砂塵が舞い上がった。  激突。  金属音と怒号が響く。

「リリエラは渡さない! 彼女は僕の光だ!」 「甘いなアグランドの王子! 彼女が必要としているのは、帝国という巨大な市場(マーケット)だ!」

 ジークフリートの剣が閃き、ガイウスの剛腕が唸る。  騎馬の上での一騎打ちは、学生レベルを超えていた。魔法が飛び交い、地面がえぐれる。

 観客は大興奮だ。 「いけーっ! ジークフリート様!」 「潰せガイウス! 俺の小遣いがかかってるんだ!」

 私の元には、次々と追加の賭け金(ベット)が運び込まれてくる。  『どちらが勝つか』だけでなく『決着タイム』『最初に帽子を取られる数』など、細かいプロップベット(サイド賭け)も用意したのが功を奏した。

(……ふふ、争え。もっと熱くなれ。その熱気が私の財布を温める)

 しかし。  試合は予想外の展開を見せた。

 あまりに両者の力が拮抗しすぎたため、制限時間の三十分が近づいても決着がつかないのだ。  両者ともボロボロになりながら、互いのハチマキに手を伸ばす。

「はぁ、はぁ……やるな、王子!」 「君こそ……ただの筋肉だるまじゃなかったのか!」

 二人の間に、奇妙な友情のようなものが芽生え始めている。  いや、困る。  友情はいいが、時間切れ引き分け(ドロー)になった場合、メインの賭けは「払い戻し」になってしまう。それは手数料収入の減少を意味する。

「……ハンス。プランBよ」 「えっ? やるんですか?」 「ええ。顧客満足のためには、明確な結末(オチ)が必要よ」

 私は立ち上がり、拡声魔法を使った。

「――そこまで!!」

 私の声が会場に響く。  動きを止めた二人の間に、私は結界魔法(魔石使用)で守られながら降り立った。

「両者、制限時間により引き分け……と言いたいところですが、これでは観客が納得しません」

 私はニッコリと笑った。

「よって、サドンデスを行います。……私(ターゲット)を最初に捕まえた方の勝ちです」 「「えっ!?」」

「ただし」  私はスカートの裾を少し持ち上げ、準備運動をした。

「私は逃げます。全力で。……捕まえられるものなら、捕まえてみなさい!」

 次の瞬間、私は身体強化魔法(アクセサリーで発動)を使い、弾丸のように走り出した。  七歳の小さな体は、風の抵抗を受けにくく、加速性能が高い。

「ま、待てリリィ!」 「ちょこまかと! 追えぇぇぇ!」

 二つの騎馬が私を追いかける。  だが、私は障害物競走用に設置されたハードルを飛び越え、平均台を駆け抜け、泥沼エリアを華麗なステップで回避した。  前世で培った「逃げ足(納期からの逃走)」のスキルは伊達ではない。

「ははは! 遅い遅い! そんな脚力で私の経営スピードについてこれて?」

 結局。  二人の王子は、私を追いかけ回した挙句、互いの足が絡まって盛大に転倒し、ダブルノックアウトとなった。

 判定:両者失格。  勝者:逃げ切ったリリエラ。

 観客席からは大ブーイング……ではなく、爆笑と拍手が巻き起こった。  「さすがリリエラ様だ!」「誰もあの人には勝てない!」という称賛の声。

 私は息一つ切らさずに宣言した。

「勝者なし! よって、賭け金はすべて『次回のキャリーオーバー』および『生徒会運営費』として没収します!」

「「「ええええええ!?」」」

 阿鼻叫喚の観客たち。  だが、ルールブックの小さな文字には、ちゃんとそう書いてあるのだ。

 グラウンドで大の字に倒れているジークフリートとガイウスが、顔を見合わせて笑い出した。

「……はは、完敗だ。彼女の方が一枚上手だったな」 「ああ……逃げ足まで『女神級』とはな。益々惚れたぞ」

 二人はガッチリと握手を交わした。  どうやら、共通の「勝てない相手」を持ったことで、奇妙な連帯感が生まれたらしい。

 私は金貨の山を前に、満足げに頷いた。  これで今期の生徒会予算は潤沢だ。  次の投資先はどこにしようか。購買部の倉庫拡張か、それとも校舎の断熱リフォームか。

 だが、そんな平和な学園生活の裏で、世界はまたしても不穏な動きを見せ始めていた。  私の「賭博収益」という莫大な金の流れを嗅ぎつけた、「地下組織(闇ギルド)」が接触を図ろうとしていたのだ。
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