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第3話 野宿と飯テロ
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日が暮れた。 街まではまだ距離があるらしい。 仕方なく、街道脇の開けた場所で野宿をすることになった。
焚き火のパチパチという音が響く。 俺は切り株に座り、目の前の男――弟子一号ことガルドを見つめていた。 彼は鼻歌交じりに鍋をかき混ぜている。
「師匠、もうすぐ飯ができますぜ! 俺特製の『男のスタミナ煮込み』です!」
ガルドが自信満々で差し出してきたのは、ドス黒い液体が入った木の器だった。 具材は、謎の干し肉と、道端で摘んだ野草。そして、石のように硬い黒パン。
「……いただきます」
俺は美少女らしく可愛く手を合わせ、恐る恐るスープを口に運んだ。
――ガリッ。
口の中で、砂利を噛んだような音がした。 味は、泥と古新聞を煮詰めたような味がした。
「…………」
俺は無言でスプーンを置いた。 そして、心の底から思った。
(ふざけんな)
これが飯か? 家畜のエサではなく? 前世の勇者時代、戦場でももっとマシなものを食っていたぞ。王宮料理人のフルコースとまでは言わないが、せめて人間の食べ物が食いたい。
「どうです? 冒険者は体が資本ですからね、栄養満点ですよ!」
ガルドがニカッと笑う。悪気はないらしい。それが余計にタチが悪い。 俺は静かに立ち上がった。
「ガルド」 「はい!」 「貸せ」 「へ?」
俺はガルドから鍋とお玉を奪い取った。 そして、まだ残っている干し肉と、カチカチの黒パンを見下ろす。
「いいか、よく見とけ。これが『食事』だ」
俺の目は据わっていたと思う。 働きたくない。面倒なことはしたくない。 だが、不味い飯を食う苦痛は、労働の苦痛を上回る。 食への執着。それだけが、今の俺を突き動かしていた。
俺はスキルウィンドウを脳内で展開する。 勇者時代、あまりに使わなすぎてレベルが上がりまくった悲しきスキル。
【料理:Lv5(MAX)】 【食材鑑定:EX】
発動。
「『水』」
俺が呟くと、指先から純度100%の清浄な水が生成される。 それで干し肉を洗う。表面の酸化した脂と汚れを一瞬で除去。 次に、干し肉を空中に放り投げた。
「『衝撃(インパクト)』」
デコピンの要領で、空気を弾く。 目に見えない衝撃波が干し肉を通り抜ける。 肉の繊維が細胞レベルでほぐれ、カチカチだった肉塊が、最高級の霜降りのような柔らかさに変わる。
「な、なんだ!? 肉が……輝きだした!?」
ガルドが驚愕の声を上げるが無視だ。 次は加熱だ。 焚き火の火力ではムラがある。
「『火球(ファイアボール)』……極小」
俺の掌に、青白く燃える小さな炎が出現した。 温度調節は完璧。遠赤外線効果つきの魔法の炎だ。 鍋の中に水を張り、ほぐした肉と、その辺でむしり取った(鑑定済みの)香草を投入。 さらに、カチカチの黒パンを細かく砕き、鍋に入れる。
グツグツグツ……。
ただ煮込むのではない。 魔力で対流を操作し、旨味成分を強制的に抽出・凝縮させる。 黒パンが溶け出し、とろみがつく。 香草の香りが爆発的に広がり、森の中に「洋食屋」のような匂いが充満した。
所要時間、わずか三分。 完成したのは、黄金色に輝くビーフシチュー(元・泥水スープ)だ。
「く、食え」
俺は器に盛り、ガルドに突き出した。
「こ、これは……なんという香りだ……! ただの干し肉とパンが、宝石のように……」
ガルドは震える手でスプーンを持ち、一口食べた。
カッ!!
ガルドの目が見開かれた。 そして次の瞬間。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
ガルドの全身から、金色のオーラが噴出した。 筋肉がパンプアップし、鎧がミシミシと悲鳴を上げる。
「美味い! 美味すぎる! 口の中で肉が溶ける! パンの甘味がソースと絡み合って、脳髄を直撃しやがる! なんだこれは! 俺はいま、天国にいるのか!?」
ガルドが泣き出した。 大の大人が、シチューを食って号泣している。 まあ、当然だ。 俺の【料理】スキルには、隠し効果として**「HP・MP全回復」「全ステータス上昇(大)」「状態異常治癒」**が付与されている。 いわば「食べるポーション(極上)」だ。
「師匠……! これは魔法ですか!? いや、錬金術ですか!?」 「ただの料理だ。……おかわりはあるぞ」 「一生ついていきますぅぅぅ!!」
ガルドは鍋ごとかき込み始めた。 俺も自分の分をよそい、ふーふーと冷まして口に運ぶ。
「……ん」
悪くない。 材料が粗末なわりには、よくできた。 温かいスープが胃に染み渡る。 これなら、明日も生きていけそうだ。
ふと見ると、ガルドが正座をして俺を拝んでいた。
「悟りました、師匠」 「何をだ」 「料理とは、剣と同じ。素材(相手)を見極め、最適な力(火力)で制する……。今の調理には、剣技の極意が詰まっていました。俺は今まで、ただ剣を振り回していただけだった……!」
また変な解釈をしている。 ただ肉を柔らかくして煮ただけなんだが。
「師匠の料理を食べただけで、レベルが上がった気がします!」 「気がするだけだろ。寝ろ」
実際には本当にレベルが上がっている(経験値獲得量アップの効果もある)のだが、黙っておくことにした。 これ以上崇拝されたら、俺の安眠が妨げられる。
満腹になった俺たちは、焚き火のそばで横になった。 地面は硬い。寝心地は最悪だ。 だが、隣で番犬のように目を光らせているSランク冒険者がいるおかげで、魔物の襲撃を心配する必要はない。
「(明日は絶対に、ふかふかのベッドで寝てやる……)」
固い決意を胸に、俺は美少女の寝息を立て始めた。 ガルドが一晩中、俺の寝顔に向かって合掌していたことは、知らないフリをした。
焚き火のパチパチという音が響く。 俺は切り株に座り、目の前の男――弟子一号ことガルドを見つめていた。 彼は鼻歌交じりに鍋をかき混ぜている。
「師匠、もうすぐ飯ができますぜ! 俺特製の『男のスタミナ煮込み』です!」
ガルドが自信満々で差し出してきたのは、ドス黒い液体が入った木の器だった。 具材は、謎の干し肉と、道端で摘んだ野草。そして、石のように硬い黒パン。
「……いただきます」
俺は美少女らしく可愛く手を合わせ、恐る恐るスープを口に運んだ。
――ガリッ。
口の中で、砂利を噛んだような音がした。 味は、泥と古新聞を煮詰めたような味がした。
「…………」
俺は無言でスプーンを置いた。 そして、心の底から思った。
(ふざけんな)
これが飯か? 家畜のエサではなく? 前世の勇者時代、戦場でももっとマシなものを食っていたぞ。王宮料理人のフルコースとまでは言わないが、せめて人間の食べ物が食いたい。
「どうです? 冒険者は体が資本ですからね、栄養満点ですよ!」
ガルドがニカッと笑う。悪気はないらしい。それが余計にタチが悪い。 俺は静かに立ち上がった。
「ガルド」 「はい!」 「貸せ」 「へ?」
俺はガルドから鍋とお玉を奪い取った。 そして、まだ残っている干し肉と、カチカチの黒パンを見下ろす。
「いいか、よく見とけ。これが『食事』だ」
俺の目は据わっていたと思う。 働きたくない。面倒なことはしたくない。 だが、不味い飯を食う苦痛は、労働の苦痛を上回る。 食への執着。それだけが、今の俺を突き動かしていた。
俺はスキルウィンドウを脳内で展開する。 勇者時代、あまりに使わなすぎてレベルが上がりまくった悲しきスキル。
【料理:Lv5(MAX)】 【食材鑑定:EX】
発動。
「『水』」
俺が呟くと、指先から純度100%の清浄な水が生成される。 それで干し肉を洗う。表面の酸化した脂と汚れを一瞬で除去。 次に、干し肉を空中に放り投げた。
「『衝撃(インパクト)』」
デコピンの要領で、空気を弾く。 目に見えない衝撃波が干し肉を通り抜ける。 肉の繊維が細胞レベルでほぐれ、カチカチだった肉塊が、最高級の霜降りのような柔らかさに変わる。
「な、なんだ!? 肉が……輝きだした!?」
ガルドが驚愕の声を上げるが無視だ。 次は加熱だ。 焚き火の火力ではムラがある。
「『火球(ファイアボール)』……極小」
俺の掌に、青白く燃える小さな炎が出現した。 温度調節は完璧。遠赤外線効果つきの魔法の炎だ。 鍋の中に水を張り、ほぐした肉と、その辺でむしり取った(鑑定済みの)香草を投入。 さらに、カチカチの黒パンを細かく砕き、鍋に入れる。
グツグツグツ……。
ただ煮込むのではない。 魔力で対流を操作し、旨味成分を強制的に抽出・凝縮させる。 黒パンが溶け出し、とろみがつく。 香草の香りが爆発的に広がり、森の中に「洋食屋」のような匂いが充満した。
所要時間、わずか三分。 完成したのは、黄金色に輝くビーフシチュー(元・泥水スープ)だ。
「く、食え」
俺は器に盛り、ガルドに突き出した。
「こ、これは……なんという香りだ……! ただの干し肉とパンが、宝石のように……」
ガルドは震える手でスプーンを持ち、一口食べた。
カッ!!
ガルドの目が見開かれた。 そして次の瞬間。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
ガルドの全身から、金色のオーラが噴出した。 筋肉がパンプアップし、鎧がミシミシと悲鳴を上げる。
「美味い! 美味すぎる! 口の中で肉が溶ける! パンの甘味がソースと絡み合って、脳髄を直撃しやがる! なんだこれは! 俺はいま、天国にいるのか!?」
ガルドが泣き出した。 大の大人が、シチューを食って号泣している。 まあ、当然だ。 俺の【料理】スキルには、隠し効果として**「HP・MP全回復」「全ステータス上昇(大)」「状態異常治癒」**が付与されている。 いわば「食べるポーション(極上)」だ。
「師匠……! これは魔法ですか!? いや、錬金術ですか!?」 「ただの料理だ。……おかわりはあるぞ」 「一生ついていきますぅぅぅ!!」
ガルドは鍋ごとかき込み始めた。 俺も自分の分をよそい、ふーふーと冷まして口に運ぶ。
「……ん」
悪くない。 材料が粗末なわりには、よくできた。 温かいスープが胃に染み渡る。 これなら、明日も生きていけそうだ。
ふと見ると、ガルドが正座をして俺を拝んでいた。
「悟りました、師匠」 「何をだ」 「料理とは、剣と同じ。素材(相手)を見極め、最適な力(火力)で制する……。今の調理には、剣技の極意が詰まっていました。俺は今まで、ただ剣を振り回していただけだった……!」
また変な解釈をしている。 ただ肉を柔らかくして煮ただけなんだが。
「師匠の料理を食べただけで、レベルが上がった気がします!」 「気がするだけだろ。寝ろ」
実際には本当にレベルが上がっている(経験値獲得量アップの効果もある)のだが、黙っておくことにした。 これ以上崇拝されたら、俺の安眠が妨げられる。
満腹になった俺たちは、焚き火のそばで横になった。 地面は硬い。寝心地は最悪だ。 だが、隣で番犬のように目を光らせているSランク冒険者がいるおかげで、魔物の襲撃を心配する必要はない。
「(明日は絶対に、ふかふかのベッドで寝てやる……)」
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